第一王女の母
私は今、不思議な景色を見ている。目の前に大きな透明なシャボン玉みたいなものがあって、その中に風が包む大輪の花があった。私がそれを触ろうとすると、シャボン玉は私を拒絶するように弾いて……。
「ミハナ」
私は穏やかな女性の声で目が覚めた。それは昨日、私が救った大切な人の声。
「お、かあさま……!」
私が驚きながらも甘えるように抱き着くと、彼女は私を抱き締め返してくれる。でも、その行為に今までなかった違和感を感じ、私は考え込んだ。そうだ、お母様は、片腕を失ったんだ。
「お母様、あの、腕、大丈夫ですか?」
私が顔を上げて尋ねると、お母様は朗らかな笑みを浮かべた。
「ええ、大丈夫よ。あなたのお陰。ローサムはあまり役に立っていなかったみたいね、ふふっ」
こんな軽口、長年連れ添ったお母様だからこそ言えるんだろうな。だって、軽口の内容国王を侮辱する内容だもん。
「でも、私がもっと賢ければ、私が倒れてお母様の治療をできないなどということにはならないはずです」
私はずっと思っていたことを口にした。聞いた人は私が自虐ではなく謙遜していると思うだろう。でも、実際は自虐だ。私の技術が足りないばかりに、お母様の身を危険に晒したのだから。
「いいえ、そんなことは無いわ。あなたがいたから、わたしは左腕を失うだけで済んだのよ。下手をすれば、わたしが失うのは片腕だけに留まらなかったかもしれないのよ」
その言葉に、私はハッとする。そうだ。私が魔法を使わなければ、今こうしてお母様と話すことができなかったかもしれないのだ。
「私は……、誇っても良いのですか?未熟な魔法をお母様に使ってしまったことを……」
「ええ、もちろん。他の人が何と言おうが、そのことはわたしが保証するわ」
私はお母様の無くなった腕を見る。そして、口を開く。
「では、お母様のことを救ったご褒美に、何があったのかを教えてもらってもよろしいでしょうか?」
我ながらなんと無欲なお願いだと思った。でも、訊かずにはいられない。そう思いながらお母様の方を見ると、彼女は優しい瞳で頷いてくれた。
○○○
わたしとローサムは、少し遅れて部屋を出てしまってね。だから、急いでいたの。でも、途中で……3階で、わたしの左腕目掛けて大きな剣が飛んできて、わたしの左腕を切り落としたの。ローサムがいたのになぜ?って思うでしょう。でもね、彼がわたしを庇えないくらいの速さだった。それに彼はキーサムを抱いていたから、咄嗟に我が子を守ったのよ。わたしでも同じことをするわ。それでね、わたしはローサムに横抱きにされて、あの部屋にーー大広間に入ったわ。そこで、気を失ったの。それで、治療されている途中でわたしは目を覚ました。そこで、あなたがわたしに血を与えていると知って、驚いてもう一度気絶してしまったのよね。我ながら情けないわ。それで、起きたら病室のベッドに運ばれてて、隣であなたが眠ってた。何かにうなされていたから、起こしたの。
〇〇〇
「そうだったのですね。犯人はまだ分からないのですか?」
「ええ、残念ながら。あなたたちも気をつけるのよ」
急に厳しい表情になったお母様に、私はあの時を思い出して身震いした。光の森の魔獣たちに襲われて、背中に一生消えない傷を負ったこと。
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