第一王女の弟君
私が魔法を使い終えた時、ドアがノックされるのが聞こえた。ルーリンが怪訝な顔をする。
「なんでしょうか。確認して参ります」
「ええ、お願い」
彼女の言葉に頷くと、ルーリンが急ぎ足でドアに向かう。外のシクセルと何か話しているのが見えたが、何を話しているのかまでは分からない。ルーリンは少し話した後、こちらに戻ってきた。
「なんだった?」
「王太子・ロイサム殿下のようです。どうなさいますか?お通ししますか?」
「なぜ今頃になってあの子が私に会いに来るのかしら?」
私は不思議になって首を傾げる。その行為にルーリンがはうっと胸の辺りを押さえたのが気になるが、今は独白に集中だ。ロイサムは前述の通り、我がラルク王国の王太子である。そして、弟妹の中でまだ喋れなかったキーサムを除いて一番交流が少なかった人物だ。つまり、何の用か分からない。
「まあ良いわ。通して。わざわざ2階から来たんだもの、何か用があるのでしょう」
疑問を持ちながらも私は是と言う。第一、弟の面会を拒否したとなれば悪役に逆戻りかもしれない。実は第一王女暴走は私にかかるストレスにも左右されたりする。変な噂を立てられたら私のメンタルがやられるかもしれない。そうなればかなり大きな旗が立つ。それは防ぎたいところなので。今回はロイサムを通しちゃおうと思いまーす!
「一姉様、失礼します。王宮にお越しと聞き、居てもたってもいられず訪ねてきてしまいました」
私の部屋に入る一歩前で止まっているのはお父様譲りの黒髪に深い青色の瞳のイケメンな我が弟・ロイサムだ。その笑みは普通に見れば優しい笑みなのに、なぜか狂気じみたものを感じてしまう。彼がカツ、と10歳の割に優雅な仕草で足を踏み出すと、ほう、と目を見張った。
「これは全て、一姉様が一人でお作りに?」
「ええ。先程作ってみたの」
私はにこりと微笑むが、引きつっている気がする。私って、王女にしては感情を隠すのが下手なのかもしれないと、今更気付く。
「荷ほどきはお済みですか?よろしければお手伝いいたしますが」
にっこりと、愛想の良い笑顔を浮かべるロイサムに、サムソンがウウ、と唸るのが聞こえた。
「駄目よ、サムソン。この子は私の弟なのよ」
私が振り返り、窘めるように微笑むと、サムソンの耳と尻尾がしゅんと垂れるのが見える。何なんですか、うちの子。国宝級ーーいや、世界級の可愛さだな!
「一姉様、何ですか、その魔獣は。一姉様を襲ったのはオオカミの魔獣でしょう?」
は?ナニイッテンダコイツ。サムソンは私が作った魔獣だ。今は自由に動かせているとはいえ、やろうと思えば行動を制御できる。それに、私を襲ったのはオオカミの魔獣とはいえこの子とは関係ない。
「それが何?この子は決して暴走なんてしない。私を襲った魔獣とは関係ない」
私がロイサムの目をじっと見て言うと、弟はふんと私を一瞥する。なんだコイツ。クソムカツクンデスガ。ちょっと魔法で攻撃して良いかな?まだ魔法を習得していない実の弟に意地悪するな?聞こえない。私は彼に気付かれないように彼の頭の上に巨大な魔方陣を広げ、人間が三人以上入れる巨大な水泡を作り出す。そしてそれを思いっきり弾けさせた。びしゃんという大きな音がし、ロイサムは頭から水を被っている。この部家がただの部屋ならちょっと躊躇うけど、ここ私が作った森の中だし。水やりができて一石二鳥だし。
「一姉様の魔法の技術舐めてました。こんな無様な姿なので用件はまた後日お伝えします」
そう言って頭を下げたロイサムの青い瞳には私に対する敵意しかない。胡散臭い笑みを浮かべるのも辞めて殊勝な態度で結構結構。苦しゅうない。王太子を敵に回したことに不安がないわけではないが、私の両親は愚王や愚王妃ではない、しっかりと正しい判断ができる人たちだ。ロイサムが何か吹聴しても、私の言い分も聞いてくれるだろう。
「姫様、ロイサム殿下は、弟君……で間違いございませんよね?」
ルーリンがやや強張った表情でロイサムが出ていったドアを見る。なお、私は満足により満面の笑みだ。ルーリンにとっては気まずい沈黙の中、サムソンの満足げな鳴き声だけが響いた。
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