侍女頭の驚きと決意
今回ルーリン視点です。本文が短くなっております。
わたしのご主人様は可憐な美貌に反して、とてもわがままな方だった。同時に、すぐに癇癪を起こす。そんなご主人様のことを、わたしたち侍女は、とてもではないがお慕いすることはできなかった。聞くところによれば、彼女のすぐ下の妹君である第二王女・ラアナ殿下は侍女にも平民にも下のご兄弟にも優しく接するらしい。そんな話を聞く度に、聖女の宮の侍女たちはうちの姫様とは大違い、と不満を漏らすのが日常になっていた。あの日までは。
『ご、ごめんなさい。声がしたからあなたがそこにいるのは分かっていたのに…私の不注意だったわ』
ご主人様ーー聖女様の言葉は、あり得ないものだった。その後に続いた言葉もあり得ないもの。
『そういえば、あなたの名前は何ていうの?』
中身だけ、他の人間と入れ替わっているのかというほどの変わりように、聖女の宮の侍女たち全員が言葉を失った。その数年後、聖女様は婚約者のゲイル様と同じミスティ学園に入学した。もうほとんど聖女の宮に帰ってくることはないんだなあ、と侍女たちみんなで寂しがっていたら、聖女様が学園で大怪我をされて傷物として聖女から外されることが分かった。もちろんみんな慌てて心配をした。かつて不満を漏らしていたわたしたちをここまで変えるほど、あの日以来の聖女様は素晴らしい方だった。そして、姫様となられた聖女様は旅に出る予定らしい。その準備の際に王宮で待機するというのだから、わたしたち聖女の宮の侍女が行きたがらないわけがなく、大声で言い争いをしていたところ、侍女に異動の指示を与えに来た王宮の執事・ハント様が全員を王宮に迎え入れる、と仰ってくださったため、障害事件は避けられた。そしてわたしは侍女頭に任命され、今に至る訳だが……。
わたしは目の前の光景に目を見張る。姫様が両手を半円を描くように広げていくと、それに沿って草魔法を表す部屋ほどもある緑色の巨大な魔方陣が展開されていくのだ。姫様の瞳は青紫色に変化していく。わたしは思わず「ほう……」という感嘆の声をあげる。姫様の額に汗が浮かぶのを見て、後で拭いて差し上げなきゃ、と侍女の精神が思ってしまう。そんなことを考えているうちに、目の前は森になっていく。草木が芽吹き、花が咲き乱れる。最後に姫様の普段の瞳と同じ色の花が咲くと、姫様の瞳の色は紫色に戻った。もともと優秀な方だというのは知っていたが、魔法の腕前がこれほどまでのものだとは思っていなかっただけに、驚きが募る。それに、さっきの瞳の色の変化……あれは、まだ誰も使ったことのない魔法を作り出す際になる現象だ。姫様はそれほどまでにすごい人間なのだと、わたしは実感したが、それを国にーー彼女の父上に、知られたら姫様の旅に出たいという意思をねじ曲げてまで国に城に留め置かれ、外に出してもらえないだろう。ものすごく、価値のある方だから。だから……何としても、このことは隠し通そうと決意した。
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