療養の日々と決断と2
私の言葉に、ゲイルは絶句している。そうだよね。うん、婚約者にいきなりそんなこと言われたら『嫌われた?』って思うよね。
「ミ、ミハナ、それは、どういうこと?俺のことが、嫌いになった?」
予想通りの反応だ。
「ううん、違うの。あなたとの未来のために、私は旅に出たいんです。私があなたを嫌いになったことなんて一度もない」
私はゲイルの手を握りながらきっぱりと言う。すると、彼の顔がくしゃっと歪んだ。
「じゃあ、なんで?なんで俺から離れようとするの?俺を弱くしたのはミハナだよ……。俺はミハナがいないと生きていけない弱い男なんだよ……」
「私がいないと生きていけないなんて大袈裟。あなたは強いでしょう?なんなら2回目のキスも奪ってよ、旅の途中で他の男に取られないように」
彼があまりにも悲しげに言うので微笑みながら冗談を言う。でもゲイルは真剣な顔で考え込んだ。
「………」
「ゲイル?冗談よ?ねえ、ゲイル……!?」
次の瞬間、私はゲイルに唇を奪われていた。まずい、このままだと窒息する。そう思った私はゲイルから直に酸素を取り込む。ようやく唇が離れた時には、私もゲイルも息は荒く喉はヒューヒューと音を立て、汗をかいていた。
「あなたの言う通りにしたよ。もうこれで……ミハナを失わなくて……済むでしょ……?」
「冗談だったのに。まあ、そんなことを言っても半分私の責任です。でも、酸素不足で死ぬところでしたよ。私一応王女ですよ?それに、他の方に言い寄られても切り捨てますよ」
ゲイルは私の叔父である「黒虎団長」ことターサムレル近衛騎士団長には勝てないが、国内の騎士は全員倒せる周辺諸国にまで名を轟かせる剣の天才だ。そこで付いた二つ名が「銀豹隊長」。そんな人の婚約者を奪おうとする人間などいないだろう。
「もし奪われそうになった時には頼りにしてますよ、銀豹隊長!」
「あなたまでその呼び方を……どうせなら銀豹将軍……いやいっそのこと大将軍が良いのだが」
「だったら、私の護衛に縛られずにたくさん経験を積まないと。そのうち叔父上を越えられるかも。改めて言います。銀豹大将軍、頼りにしています!」
「……はい、一の姫殿下」
ゲイルのなにかを堪えた笑顔、目の毒過ぎでは?私はそんなことを考えたが、そんなやり取りの後、レイランーー水の馬を私はそう名付けたーーの爪や職員さんにあげる猫のための飾りを作った。別れる時、ゲイルは寂しそうな顔をした。
「本当に、旅に出るの?」
「ええ。これは、この世界と……私たちの未来のために必要なのです」
私がそう言うと、彼は苦しげな笑顔で「うん」と頷く。
「護衛も辞めろと?」
彼の言葉に、今度は私が小さく頷く。少し話し合った結果、ゲイルは私の護衛を辞めることになった。旅に連れていって彼の未来を潰すわけにもいかないし、旅に出るのは私にとっては決定事項。準備の間は女子寮ではなく王宮で過ごすことになるだろう。旅の間や準備の間の護衛が他の人間になることが、ゲイルに悲しいらしい。婚約者なのだから一生離れているという訳じゃないのに。
「大丈夫。私はそのくらいであなたから離れたりしない」
私がそう言うと、ゲイルはしばらく考え込んだ後にもう一度頷いて、
「仰せのままに、一の姫殿下。これからは、この言葉づかいをさせてください。いつボロが出てしまって自分の想いに蓋をしてまで手に入れようとしている銀獅子大将軍への道が閉ざされるか分かりませんので」
と、言葉づかいを一家臣の王女へのものへと変えた。それが新鮮だったし、寂しくもあって、複雑な気持ちになった。
○○○
いたたっ!もうちょっと丁寧に運転してくれないかなあ。私は心の中で馬車の御者に悪態をつく。今はあの大怪我から二週間目の朝。私は学園の女子寮から王宮への馬車に揺られていた。幸いにも怪我の治りは早く、お父様に旅に出る準備の間王宮で過ごしたいという手紙を書いたら、驚きはされたものの快く承知してくれたため、今に至る。どうでも良いことだが、今日の私の服装は水色の長袖のワンピースだ。腕の裾の辺りはドレスの裾のように広がり、スカートの裾には花の模様があしらわれている。腰はベルトで絞められ、上半身の中央にはリボンと編み込みが施されている。お気に入りなので汚さないようにしないと、と考えていると、馬車の小窓から白亜の宮殿ーーラルク王国の王宮が見えてきた。
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