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小さな小さな嵐

 ミハナが小さくガッツポーズをしている頃。王家の住まう宮殿では、ミハナの父母が子供たちに準備を急がせていた。ミハナの母・リンネは元々多産な家系で、ミハナを含めた子供たち11人の母である。そして、国王であるローサムは今日、緊急の話があるという口実でミハナに会いに行くことを決めた張本人だ。口実というのも、この強面のローサム王は、長女のミハナにものすごい数の注意をしているのだ。一番下の末っ子・キーサムからすぐ下のラアナの面倒まで見てくれるし、平民にも優しいという理想の聖女像とは違い、侍女には反抗するわ、二ヶ月に一度の父母や弟妹との面会の時に欲しいものをねだり、駄目だと言ったらすぐに癇癪を起こす。今回も、食べ物が不味いと言って食器を突き飛ばして割るという奇行をやらかしたので、説教に行かねばならない、ということである。

「リンネ、どうしてミハナはそなたに似なかったのであろう。外見こそは似ているが、内面が悪すぎる…」

「あらま、あの子もいずれ分かるときが来ますよ。気長に待ちましょ」

リンネは毎回、ローサムがミハナを叱るとミハナを庇うため、ミハナが悪く育っているのはリンネのせいであるとも言える。だが、ローサムがリンネにそんなことを言ったことは一度もなかった。優しい妻は自身のことを責めるようになってしまうからだ。そういうローサム王の思考はともかく、子供たちの準備が終わったので、皆で馬車に乗り込み、ミハナの住まう聖女の宮に向かった。


 「聖女さま、お着替えの時間でございます。今日はお父様やお母様や弟さまがたに妹さまがたがいらっしゃいますよ」

「はーい」

私はえっほえっほと大きなベッドを降り、扉を開けようとしたが、同じく扉を開けようとした侍女にぶつかってしまった。

「きゃあ!」

倒れた私は慌てた顔の侍女に手を取られ、起き上がった。

「ご、ごめんなさい。声がしたからあなたがそこにいるのは分かっていたのに…私の不注意だったわ」

私は当然のことを行ったつもりだったが、侍女は目を見開いた。

「せ、聖女さま、どうなさったのですか?医者を呼んだ方がよろしいでしょうか」

と、青ざめた顔で言った。あっ!そういえばここは「ラルク王国王女は、姉に立ち向かう!」の世界。一応、私、ミハナは素行が悪い聖女という設定だ。考え直してみればほとんど毎月、国王と王妃は私の注意に来ていた。なるほど、今日も注意に来たのか。私はひとり納得しながら着替え出す。自分で着替えているだけなのに侍女はもっと青い顔になる。

「せ、聖女さま!着替えは私がお手伝いしますので、どうかそのままお待ちを~!」

ああ、もうっ!また「ラルク王国王女は、姉に立ち向かう!」の世界だったこと忘れてた…。困る!そう思っていると、服から記憶みたいなものが能に入り込んできた…ような気がした。それは、現代で言うと銀髪に藍色の目のイケメンの小学6年みたいな男子が私の手を引いて泉のほとりに駆けていくというシチュエーションだった。今の、何?しかもイケメン小6には見覚えがある気がする。私は侍女に着替えさせてもらいながら不思議なことを考えていた。そして、着替えた後に侍女の顔を見ながら、

「そういえば、あなたの名前は何ていうの?」

原作ではミハナは侍女の名前もろくに覚えていなかった。これは訊いても問題ないはず!訊いてみると侍女はパアッと顔を明るくし、答えた。

「わ、私はルーリンと申します」

「ルーリン、これからよろしくね」

「は、はい…!」

「それと、お父様方がいらっしゃりますが、ゲイル・リンルー様が聖女さまと遊びたいと申されています」

ゲイル・リンルー。原作の記憶をもってしても思い出せない人物。あっ!いいこと思いついた!

「ねえねえ。ゲイルさまにお父様達との面会に出席してもらうのはどうかしら」

そうすれば、どんな顔立ちなのか分かるはず!

「まあ、聖女さま!今まではゲイル様がいくら出席したいと言っても断り続けていたのに、とうとう出席させてあげるのですね!」

「ええ、そのためにも早くゲイル様を呼んできてちょうだい」

「え、でもお化粧はどうなさるのです?」

「化粧はいらないわ」

ついさっき鏡にちょっと触ってみたけど、その時にかなりべっとり化粧をしていて、私はせっかくきれいなのにそれがいかされていなかったもの。化粧なんてしない方がきれいなのよねえ。そう考えていると、扉がノックされた。そして、少し低い声変わり直前といった感じの声が聞こえた。

「ミハナ、国王陛下との面会に出席させてくれるのかい?」

「ええ、ゲイルさま。それより、早く部屋に入ってきて、お顔を見せて下さいな」

「ごめん。入るよ」

部屋に入ってきたゲイルの顔を見た私は、思わず目を見開いた。それは、服から能に入り込んできた記憶に写っていたイケメンの小6だった。

「ゲイルさま。おいくつになりましたの?」

「ミハナ、忘れたの?12歳、だよ。一応言うと、君の遊び相手兼幼なじみ兼護衛だよ」

「そうでしたわね。ありがとうございます」

私は微笑みながらゲイルさまの情報を記憶する。あ、今思い出した!ゲイルさまは、原作ではちょくちょくミハナの後ろで姿だけ写されていた美男子だ。どうりで名前が分からなかったわけだ。それに、私の手を引いて泉のほとりに駆けていくというシチュエーションは、幼なじみや遊び相手だったら納得がいく…って割りきっていいの!?ゲイルさま、意外とモテそうだけどぉ!?私の手、引いてたけどぉ!?ちょっと前まではゲイルさまのこと普通に見てたけど、いきなり自分の頬が赤くなったのを感じた。原作では知らない人だから、余計に恥ずかしく感じてしまう。

「ミハナ?どうしたの?」

「な、なんでもございません、ゲイルさま。少し乙女心がときめいただけで」

「せ、聖女さま!お父様方がいらっしゃっていますわよ」

ぼうっとしていたミハナはルーリンの声にはっと我に帰る。

「そ、そうね。ゲイルさま、参りましょう」

私はついさっきまで手を繋ぐのがああとかどうとか言っていたにも関わらず、遊び相手兼幼なじみ兼護衛の手を自ら引き、家族が待つ聖女の宮の広間に入る。一応は王女の礼儀として、家族の一人一人に挨拶をしていく。母のリンネの前を通った時、ミハナは手を取られた。

「ミハナ、頑張ってね」

母の口から発せられた言葉に、胸があたたかくなるのを感じる。そうだ。原作でも、母だけはミハナにあたたかく接してくれた。この世界でもそうなのだろう。

「ありがとうございます、お母様」

優しく頷く母にミハナも頷いて見せる。最後に父・ローサムの前を通る。

「ミハナ、言い逃れなどしないこと、信じておるぞ。正直言って、お前は王家の…いや、ラルク王国の恥だ」

「はい、もちろんでございます。私は変わることにしましたので」

私はお父様の目をしっかり見て言ったが、ふんっ、と鼻であしらわれた。そしてすぐ隣に座っていたラアナの頭を撫でる。ちなみに、ラアナは華やかな金髪に水色の瞳だ。これまた美人な娘だが、顔の作りはややきついため、可憐な私の容貌には敵わないと思う。私がそう考えていたとき、隣で空気と化していたゲイルさまが小さな声で、

「ミ、ミハナ、僕って、いる意味ある…?」

と言ってきたので、遊び相手兼幼なじみ兼護衛との仲の良さを家族に見せつけるように、

「大丈夫です。ゲイルさまがいらっしゃるだけで緊張が解れます」

と耳打ちした。いろいろな人にされているだろうに、初めて女子(おなご)に耳打ちされたかのように顔を真っ赤にした。

「…?ゲイルさま?」

「な、なんでもない。ありがと」

「いえ」

「ところで、ミハナ。そこにいる男子(おのこ)はなんだ?さっきから王族に対して敬語も使わずに」

「あら、お父様。私てっきり、ゲイルさまはお父様がお選びになった遊び相手兼幼なじみ兼護衛だと思っておりました」

「なんだ、ゲイルか。それと、ゲイルは遊び相手兼幼なじみ兼護衛兼婚約者だぞ」

「へっ?」

私は思わず変な声を上げてしまい、慌てて口を抑えた。

「へ、はい。私ったら、言い忘れておりました。ゲイルさま、申し訳ございませんね」

「うん、別にいいよ」

きょとんと首を傾げながら許してくれるゲイルさま。ちょっとかわいい。ああ、そんなこと考えてる場合じゃない!前世の私には、夫や婚約者はおろか、恋人さえもいなかった。それなのに、生まれ変わったらいきなり婚約者がいるとか、倒れてもおかしくない出来事だ。だったら、原作のミハナとは違って、聖女として孤独に過ごすのではなく、皆に慕われる、歴史に残る聖女になって見せる。それで、幸せになるんだ。

 ひそかにそんな決意をした私は、私の素行の悪さに叱責しようとしたお父様の言葉を手で制する。そして、原作のミハナがしたこともない、するはずのない行動をした。今まで関わったことのないであろう弟妹のもとへ行き、すぐ下の妹・ラアナの手を取った。

「あ、姉上さま?」

「ラアナ、今まで関わってこないでごめんなさいね。今度からは、好きなときに聖女の宮に来てもいいわ。あ、あなたが嫌でなかったらだけど」

ミハナが低姿勢で言うと、ラアナは目を輝かせた。

「はい、ぜひ!」

こうしてラアナと打ち解けたミハナは次々に弟妹の手を取って言葉を贈っていった。そして、現代で言う3時になった頃には、ミハナの周りは弟妹たちの声で賑やかになっていた。そして、その弟妹の声の中になんと、ローサムの声も混じっていた。何を言っているのかといえば、

「ミハナはすごいな」

とミハナを絶賛していた。何を絶賛しているのかといえば、ミハナが前世で学んだ折り紙の折り方を教えたり、豆知識を言ったりしているのだ。こうして、ミハナの周りにはささやかな賑やかさができてきていた。だが、もっと大きな嵐が起こることは、この時点ではミハナしか知らない。

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