悲劇
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ミハナが、倒れていた?初めは、何かの冗談だと思った。でも、部屋に来た男に連れられて女子寮に入った時、騒々しさに何かあったのだと、悟った。
「……何があったのですか?」
俺はこの間かなりやり合った寮母の方を向く。この間の元気な表情とは違い、沈んだ表情をしている。
「光の森、ご存知ですね?」
知っている。使者らしき男が、ミハナと令嬢が倒れていたと言っていた。そこで、一体何があったのか。
「何があったのですか?」
「倒れていた令嬢ーージェニファー嬢が、森の泉に顔を洗いに行ったそうです。それに聖女様も着いて行かれて。そこで、白狼の魔獣に襲われて。聖女様は、背中にお怪我を……」
「どれほどの怪我ですか?ミハナはどこに」
俺は思わず質問攻めにしてしまう。だが、今は冷静ではいられない。いられるわけがない。あんなに大切に、守ってきたのに、傷付けてしまった。寮母にミハナの居場所を訊き、医務室に行くと、苦しげな声が聞こえてくる。慌ててその場に行くと、制服の背中を開かれて治療されているミハナの姿があった。肩から脇腹にかけて大きな引き裂かれたような傷跡がある。
「氷を作って!雪魔法を使える者はいないの!?」
「俺が!」
治療をしている女性の治療士の声に、俺は手を挙げて駆け寄っていく。
「どのくらいの大きさの物を作れば!?」
「拳一つ分くらい。急いで!」
俺はできる限りの速さでで拳大の氷を作り、治療士に渡す。
「ミハナ!大丈夫だ、助かるから。俺がいるから。大好きだ」
励ます言葉をかけると、ミハナがうっすらと目を開けて微笑む。
「わた、しも、愛、して、る」
そして、腕を俺に伸ばしてくる。その手に俺は擦り寄った。猫みたいでみっともないが、今は少しでもミハナが生きているということを認めたくて、何度も擦り寄った。
〇〇〇
痛みが弱くなった頃には、翌日の夜明けになっていた。首を左右に回すと、左にはベッドに寝かされたジェニファー、右には私のベッドに突っ伏して眠るゲイルがいた。
(そっか。昨日、治療中に励ましてくれてたんだった。ありがたいなあ)
私はそっと、指で彼の頬を撫でる。すると、ゲイルのまぶたがピクッと動き、目が開く。
「おはようございます、ゲイル。昨日はありがとうございました」
そう言って微笑むと、ゲイルの目が見開かれた。
「ミ、ハナ……?大丈夫なのか?何があったんだ?いや、その前に、体は大丈夫なのか?」
「ふふっ、私がそんなにやわに見えますか?」
「ああ、見える。自分の背がどうなっているのか分かっているのか?」
そうだった。私の背中、どうなっているのかしら。何か色々治療されていたのは知っていたけど。
「どうなっているのです?」
「こんなことを言うのは酷だけど。右肩から左の脇腹まで大きな、長い傷痕ができている。その傷がある限り、聖女の位は得られないだろう」
「そう……分かりました、大丈夫です」
嘘。本当は大丈夫じゃない。聖女でいるのに疲れはしていたけど、辞めたいとは思ってない。これじゃ、原作から道が外れてる。ということは、次女であるラアナが聖女になるの?三代目の聖女が言うように、私を上回る聖女に?これは、聖女でいるのが疲れたと言った私への罰?
「そんな顔しないで。俺はミハナにそんな顔をして欲しくて言った訳じゃない。不謹慎だけど、俺は喜んでる。聖女じゃなくなったら、俺との婚約が破棄されることはないだろうから」
「そう、そうですよね。私たちは一緒になれるんですものね」
私は半分自分に言い聞かせるようにそう言う。そして、起き上がろうとしたが。
「っ、うう、痛あぁっ!」
背中の激痛にベッドに倒れ込んだ。ベッドに倒れた時の衝撃もかなり痛かった。
「大丈夫か?治療士に言われていたんだが、起きたらできるだけ世話をしてやれ、って」
「お願いします、ゲイル」
私は若干諦めにも似た声を出したのだった。なお、傷物でも十分な器量良しだと巷や社交界で噂されるのはまた別のお話。
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