属性と不安
こうして、初日が終わり、二日目。私はジェニファーと一緒に登校中。そこに男子寮からやって来たゲイルさまと合流し、私が昨日の入学式の時の学園長の発言をゲイルさまに伝える。それに対して反対の熱弁をかましていたのは私かと思いきや、意外にもジェニファーとゲイルさまである。
「ミハ…アメリアの身分を明かすようなことをするなんて、いくら学園長でも許せないよ!」
「ええ、リンルー公さまの言う通りですわ!」
ゲイルさまは藍色の瞳を炎のように燃やし、ジェニファーは元から炎のように赤い瞳を爛々と燃やしている。
「え、ええ、そうね……?」
私は二人の気迫に押され、しどろもどろになって答える。
「アメリア、なんで当事者の君は気にしないんだ?自分のことを毎日探されるんだぞ?」
「え……別にみんな私のことを探すなんてことはしないと思いますよ?そんなことしてたら、時間の無駄です」
私は当たり前のことを言っただけのはずなのに、二人は微妙に顔を強ばらせ、ため息をつく。そして、こそこそと話し始めた。
「やっぱり、アメリアには自覚がない……リウレイ嬢、アメリアの周囲に警戒してくれ」
「はい、リンルー公さま!友達として、わたしが誠心誠意お守りいたしますわ!」
完全に仲間外れになって寂しくなった私は、どうにか会話に入っていきたい。
「あの…二人は何を話しているのですか?」
「「何でもない!」」
ハモってる。ハモるってことは、仲が良いってこと。ジェニファーが、ちょっとだけずるくなった。ううん、ジェニファーはいい友達。私にとってもゲイルさまにとっても。とにかく、これだけは今日中に訊かないと。
「ゲイルさま……あの、ゲイルさまに対して呼び捨てって、しちゃだめ、です…か……?」
言っているうちに、怖くなってきた私は、うつむいてミスティ学園のきれいに掃除された床を見る。すると。
「はあ……」
というゲイルさまのため息が聞こえる。そしてゲイルさまがいきなり私を抱き上げ、優しく微笑んでくれる。
「いいよ、もちろん。逆に、いつ言い出してくれるのか不安だったんだからね」
「そ、そうだったんですか?あ、ありがとう!……ゲイル…」
私はにこっと、私にできる最大限の笑みを返す。すると、私の腰にあったはずのゲイルの腕がなくなる感覚がした。
「えっ!?きゃっ!!」
「ア、アメリア!?」
宙から落ちる時、虚空に入ったかのような感覚になった。ジェニファーが私の仮名を慌てて叫ぶのが聞こえる。私が覚悟を決めて落ちようとした時。私の背中の下を、爽やかな風が吹き抜けた。すると、今まさに落ちる寸前だった私の体は、足からゆっくりと地面に落ちていく……いや、置かれていく。何が起きたのか分からずぼーっとしている私を、ゲイルが抱きしめた。
「アメリア、ごめん…!俺、アメリアが呼び捨てとかしてくれたことが嬉しすぎて……いくら嬉しくても、その嬉しいことをしてくれる人に怪我させちゃったら、意味ないよな……」
「ゲ、ゲイル、私は大丈夫だから、今、何が起きたのか教えて下さい」
「ああ、今のは俺の風魔法だ。知っていると思うが、13歳になったらみんな、魔法に目覚める。魔法のなかには属性があって、火、水、風、草、光、闇、月光、土、雲、という、11種類の属性がある。人それぞれ持っている属性も数も違うんだけど、今のところ一番希少で強力なのが月光属性と光属性、闇属性だ。希少と言っても、闇属性だけはまずい。闇属性の人間に近寄った瞬間、体が腐る。その後に待っていることは……分かるな?」
ゲイルの言葉を聞いて、私は体中が冷えていくのを感じる。ゲイルは青くなった私の顔を見て、属性の個数の話に移ってくれた。
「一人が持てる属性の個数は今のところは現国王・ローサムレン陛下が叩き出した最高記録の3つだ。ちなみに俺は2つでさっき発動させた風属性と雪属性だ」
「「そうなんですね!」」
ジェニファーと声が重なる。どうやらジェニファーも聞いていたらしい。
「私たちは何属性になるんだろう!」
ジェニファーのそんな声を聞いた時、心に不安がはしった。なんだろう、この嫌な予感は。ううん、きっと勘違いだ。そう思った私は、不安を振り払い、校舎に入っていった。
その時私は、忘れていた。自分が現聖女で、不安などの嫌な予感は、歴代の聖女たちからの警告のお告げだということを……。
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