凛花の言い分 そのに
今回も凛華目線で書かれています。
泪の平手を受けた瞬間、
(あ…これ腫れるかも)
と思うや否や凛花の中に怒りが充満した。
凛花は体勢を整え、泪の鳩尾を殴る。言葉にならない声が泪の喉から漏れる。体格差はあっても日頃の運動量が違う。
うずくまる姉の髪を引っ張る。負けじと妹に掴みかかろうとする。二人のキャットバトルの音を聞きつけて凛花の両親がやって来る。取っ組み合いは続く。
泪の爪が凛華の首に食い込んで、泪の黒い髪がブチブチっと鳴ったところで、戦闘中の姉妹は両親に引き剥がされる。
泪を凛華はから離そうとした父は、怒りのおさまらない泪のヒジを受けてあっけにとられた顔をした。
(馬鹿……)
あんなことをしたらこのあとの家族会議で立場が悪くなるに決まっている。
凛華を掴んだ母が叫ぶ。
「あっ!凛華の顔が腫れてる」
父もびっくりしてこちらを見る。
「桃乃っ」
泪は答えない。
久しぶりに姉の本名を聞いた凛華はびくっとした。
(そりゃあ、これから叱ってやろうってときにあんなふざけた名前で呼ぶはずないよねえ)
と、妙に納得すると、また父が
「不貞腐れるんじゃないっ、桃乃っ」
とあの名前を呼ぶ。
場が沈黙に包まれる。
母が、仕切り直すように
「とりあえず、手当てしてから話しましょうよ」
と言った。
気まずい雰囲気の四人はぞろぞろと階段を下りる。
母に保冷剤を渡される。父は上座に座って、泪は膝を抱えている。
最初に口火を切ったのは父だった。
「どうしてあんなことになったんだ」
「お姉ちゃんがいきなりビンタした」
あえて「お姉ちゃん」と呼ぶ。そっちのほうが哀れっぽいからだ。
「違うっ、凛華が…わ、私の神を貶めることを言った」
「貶めるって、桃乃。そんなことで妹を殴るのか?もう高校せ…」
泪が遮って叫ぶ。
「そんなことじゃないっ許されないことだっ!」
そして泪はひっく、としゃっくりあげてぼろぼろと泣き出した。
真っ赤な顔を歪めて泣く姉はとても十六歳とは思えないほど幼稚で、醜かった。
(やだ、みっともない、無理。)
咄嗟に思う。
父は大きくため息を吐いて、何も言わない。今度は母が凛華に尋ねる。
「何を言ったの」
「後ろにお姉ちゃんがいるって気づかなくて、独り言のつもりで、『気持ち悪い』って言ったの」
保冷剤で頬をおさえながら言う。たちまち矛先が泪に向く。
「暴力は駄目でしょう?」
厳しい声だ。言い返すのは得策ではないと凛華は思ったが、泪はお構いなしに自分で自分の首を締める。
「凛華も、殴った。髪も、抜かれた。」
「じゃあ、凛華は黙ってあんたに殴られ続ければよかったの?」
泪は泣きながらこくっ、と頷いた。
(うわあ、馬鹿だなあ…反省の色も見せないなんて)
「あんまりふざけたこと言ってるんじゃないのよ!凛華は顔、ぶたれて。跡が残ったらどうするつもりだったのよっ」
母の気迫に泪は怯えるが、それでもまだ言い返す。
「残んないもん」
「もう良い!」
父が怒鳴る。
「部屋に戻りなさい」
泪は泣き止まないまま、すっくと立ち上がり、階段を駆け上がる。
泪ちゃんは要領が悪いです。
凛華は要領が良いです。
※作者はもうすぐ定期試験があるので、少しの間、投稿頻度が落ちるかもしれません。ごめんなさい。