凛花の言い分 そのいち
今回は凛華目線でお送りします。
凛花は、皆と食べてきたからいらなーい、と言って食卓につかなかった。半分本当で半分嘘みたいなものだ。ファストフード店に居座ってポテトとシェイクを頼んだくらいでろくに食事はしていない。中途半端な空腹を抱えたままメイクを落とし、シャワーを浴びる。桃乃改め泪という姉と顔を合わせることはなるべく避けたかったからだ。
凛花から見ると泪は、今日は特に機嫌が悪かった。始業式早々クラスに馴染めなかったとか、理由は大体想像がつくのだけれど、本人は気づいていない。
元来、泪は凛花にとって不器用なりに良い姉だったが、それはずいぶん前のことだった。姉が自分を、世界を遠巻きにするようになった理由は未だに謎だが、これ以上姉を軽蔑したくなかった凛花はその理由についてあまり考えないようにしている。
泪は自分から凛華に話しかけることはほぼなく、父や母と話すときも渋々最低限の言葉を交わす程度で、そんな姉を見ると凛華は時々不安になった。姉が孤立して、泪の世界に飲み込まれてそこから戻って来られなくなったら、そんな姉を受け入れる自信がなかった。
そんな幼い姉にどう接すれば良いかわからないがために、凛華は泪を刺激する。それに対して泪は怒る。泪が怒ると凛華は姉の「普通の思春期の姉」らしさを感じて少し安心する。
凛花は髪を乾かしながら小さい頃を思い出す。桃乃は凛花より年上なので、ずっと賢く、大人で、小さい凛華のことなどお見通しで凛花よりも一枚も二枚も上手なのだと思っていた。しかし、今の泪は幼稚で、誰より愛されたいのに人を自分の物差しでしか見ることができない子どもだった。保育園児の凛華に、小学生の桃乃は眩しいくらい大人びて見えたのに。
凛華は姉という存在を全うしない現在の泪に苛立っている。自分が姉より可愛がられることは、自分が正しく、姉が間違っていることの証明だと凛花は思う。
凛花が「子ども部屋」に入ると、姉の祭壇が真っ先に目につく。祭壇と言っても姉の推しのアイドルのグッズだの写真だのが祭壇を模した趣味の悪い台にごちゃごちゃと並べられているだけだが。
凛花は、嫌な顔をして、
「気持ち悪い」
と呟く。
後ろから声が聞こえた。
「いま、なんて言った?」
泪だった。怒りに目を見開き、真っ青な顔色でわなないている。しまった、と凛花は思う。
姉をいくら怒らせようと凛華は、推し、いや姉に言わせると「神」のことだけは触れないようにしていた。何をするかわからないから………と考える暇もなく、泪は凛花にばちーんと平手打ちを食らわせた。
暴力姉。