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泪ちゃんのことなんて親も愛してくれない

 DVDの四枚目を観ていたとき、母が帰って来た。スーパーのレジ袋をがさがさいわせてリビングに入ってくると、

「ちょっと、暗いじゃない。居るなら言ってよ」

「電気つければ」

 邪魔しないでよ。つっけんどんに応える。

「ふうん…」

 興味無さそうに呟く。それから、照明を付けて買ったものを冷蔵庫にしまいながら、

「凛花もう帰ってる?」

「学校サボってカラオケ行った」

「あら、青春ねぇ」

と夢みるように言い、

「あんたもそれくらいしてくれば?アイドルもいいけどほどほどにして友だちとも遊びなさいよ」

 信仰にほどほどなんて無いし、友だちとか鬱陶しい。なんて言葉は飲み込む。

「私ライブ観てるんだけど」

「ああ、はいはい。うるさくした私が悪かったわよ」

 そう言って母は台所で野菜か何かを洗い始めた。自分でうるさくて悪かったなどと言ってから間髪入れず騒がしく水音をたてて、この人バカなんじゃないかと思う。

 

 これ見よがしに迷惑そうな顔をしてリビングを出ていく。階段を登って自室に向かう。自室と言っても凛花と共同の部屋だから家では「子ども部屋」と呼ばれている。凛花は「ママあたしもう子どもじゃないのよ」なんて言うけれど、お前は子どもだっ、と思う。


 二人分の机と布団がある部屋は、もともとは広かったはずなのだけれど、神のための祭壇や、凛花の持ち物で足の踏み場も無い。


 布団に寝転び、スマートフォンで神の公式ファンクラブのぺージを見るともなしに眺める。気が晴れない。


 母は凛花に甘い。若かった自分をまだ幼くてかわいい凛花に重ねているから。だから公然のずる休みも肯定するし、その分私のことはどうでもいいらしい。喰い物を与えて、生活費を持って、学校に行かせるという作業をしているだけだ。


 お前が何もしなくても親はそんな生活をさせてくれているんだ、そんなに愛されているというのに、そのざまはなんだ。もっと親に感謝しろ。世界にはお前なんかより辛い暮らしをしている子どもが大勢いる。だからお前は辛がるな。頭の中でそんな言葉が聞こえる。違う。そんな一般論を聞きたいんじゃない、理解出来ない、理解しない奴らが悪いんだ。


 はっ。ありがたいファンクラブのコンテンツを楽しめないとは何たること。信心深い信徒に許されることではない。気を取り直してスマートフォンの画面に集中する。あっ、新しいグッズ出るの!?なになに、あー!トートバッグだ!アーティスティックなデザイン!!最近グッズ多いねっもうすぐ結成記念日だもんねっ!値段も他にすることがない私には手が十分届く額だ。まあ、届かなくってもなんとしても買うけど。


 すると、

「な、なみちゃん!おりて来なさーい!夕飯!」

 未だにこの名前で呼ぶことに抵抗がある母は、泪じゃなくてなみちゃんと呼ぶし、なみちゃん、と言う声が少しぎこちない。昼食も食べずにライブ映像を観ていたせいもあり、お腹は減った。ぐうぅ、となさけない音がする。

 やむなし。仕方なくのっそりと起き上がり、一階のリビングに降りてゆく。

泪ちゃんは愛されてないと思いますか?

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