泪ちゃんのことなんて誰も愛してくれない
鴇重荒野です。初投稿です。
尾崎泪は本名じゃないです。
春。高校二年生。
ああ、また無為に年を取ってしまった、と尾崎泪は机から顔を上げる。そんな私は、女で、尾崎家の娘で、妹の姉であり、十六歳。子どもとおとなの狭間で浮かんでいる。
いまは、教室の机で、重たい前髪と分厚い眼鏡に隔たれた空間に居る、クラスメイトなる同世代の人間たちを眺めてる。
「なあなあ、B組の▲▲さんめっちゃ可愛いらしいぞ!」
「マジかよっ見に行こうぜ」
「てかあいつめっちゃウザくね?また同クラなのダル」
「わかるww嫌われてるって自覚しろ」
「まじでそれなw」
「えー、v系好きなん?今度ライブ一緒行こ」
「おーい皆さ、午前授業だしこの後カラオケで親睦会しねえ?」
ざわざわざわざわざわざわ…………
周りの声が頭に響く。ハイテンションな時特有の大きすぎる声量と話題の低俗さに辟易する。うるさいうるさい、ともう一度机に突っ伏して、考える。新年度が始まるとクラス替えがあって教室全体がはしゃいだ空気に包まれる。きっと去年の仲間との再会を喜んだり、新しいグループに落ち着くことに皆が躍起になっているからだ。そんな彼らと同じ空間にいても、去年の仲間なんてもともと居なかったし、ましてや新しい友達なんていくら新年度ドリームに浮かれている連中であれど、できないことは小学校を卒業する前からようくわかっていた。
教室の喧噪に耐えられなくなり、私は耳に耳栓をねじ込み、文庫本をめくり始めた。本の世界にぐいぐい引き込まれて行ってしばらくすると、ボサボサの姫カットで顔を隠したいかにも一軍(笑)の人間に嘲笑されていそうな女子生徒が近づいてきた。
しばらく無視を決め込んで本を読み続けていると、向こうはこちらの様子を窺いながら、
(え、気づいてないのかな?)
みたいな表情でクネクネと自信なさげな動きをすると、諦めてどこかに行った。
こういう連中も慣れている。うちの学校はそこまで頭が良くないので、本を読んでいる生徒は稀だ。そんな学校なのでガリ勉扱いされたり、ああいう奴らから妙な仲間意識を持たれたりする。奴らはクラス替えの度に教室に一人か二人いて、恥ずかしそうにさっきみたいなクネクネした動きをしている。
教室に新しい担任教師がやってきて、簡単な自己紹介とプリント類の配布をした。それから、私たちはほこりの匂いがする体育館へ行って校長先生やその他えらい先生たちの訓辞めいた話をきいて、そのまま解散した。これでは何のために眠いのにわざわざ電車に乗って学校に来たのかわからない。誰が得するわけでもないじゃないか。
まあ、それでも午前授業はよいことだ。
時刻は午前十時。当然クラスの親睦会なんか出ないし、午後は丸ごと空いている。最高。まっすぐ帰ろう、誰にも会わなくて良い。誰にも邪魔されない。
泪はひねくれものなので、口調が乱暴です。