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4.死に苦しむ

 よだかは今までのように死の宣告が聞こえるほうへ向かって人を殺す。自分が殺した相手の顔を見て「法こそ正義、人を殺すのは正しい」また人を殺して「法こそ正義…人を殺すのは…正しい…はず」さらに人を殺して「法こそ正義…人を殺すのは…正しい…そうなのか?なにが正しいのか…」「なんで俺が苦しいんだ。殺しているのは俺のほうなのに。何も失っていないのに。何も間違ったことはしていない。殺せと政府がいうのだ。それを殺して俺はこうして明日を生きているんだ。」


 そんな迷いの中でよだかは数々の言葉を思い出す「よだかお前には才能がある。」「殺しこそ死神の価値」、「裏切者には死あるのみ」「法こそ正義」、「よだか、お前はいいよな…死の苦しみを知らなくて…」そうしてその場に立ち尽くしていると遠くから死の宣告が聞こえてきた。「俺はどうすればいいのか…どうしたいのか…」よだかは無意識のままふらふらと歩き、相手のもとへ寄って行った。もちろんそんな状態で急所にさせるわけもなく、相手はその場に倒れもがいていた。「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…苦しい…誰か助けて…」「ならなんで…なんで税金を払わなかったんだよ。それさえあれば生きていけただろ。なんそうやって死んでいくんだよ。なんなんだよ。」「なんで、なんで…いや…だよ…」そういって相手は苦しみのままよだかを恨むように見上げ死んでいった。「なんでそんな表情するんだよ…悪いのはお前らだろ。税金を払わずに、殺しをせずに…するべきことをせずに生きていけると思うなよ。できなかったことを俺のせいにするな。なんで…なんでだよ。なんなんだよ。俺の何が悪い。何も間違ったことはしていない。だれか教えてくれよ。俺は正しいだろ。人を殺すしかないんだよ。俺には…」


 殺したはずなのに死の宣告はなりやまない。また近くに殺すべき相手がいる。「そうだよ、おれは殺すしかない、この音がそういっている。天が殺せと言っているんだよ。人を殺すために生きているんだよ。間違っていない。俺が正しい。そうだよ、そうに違いない。何一つ間違っていない。」鳴りやまない死の宣告が聞こえるほうへ向かう…。「どいつもこいつも決まりを守らない…そして死んでいく…人間はばからしいな…そんなやつらなら死んで当然だよな。それなのにあいつらはなにが苦しい。」よだかは相手にナイフを向ける。しかし相手はそれに気づき「なんだ、お前、やめろ、誰か…」そういって必死に逃げていった。


「やっぱり死にたくないのか…ならなんで…人を殺して生きていくってなんなんだ。俺は正しいのか、法こそ正しいのか。死神ってなんなんだよ。どうするのが正しいんだよ。生きたいってなんなんだよ。死にたくないってなんなんだよ。」相手はもう見えないところまで逃げたらしい。しかしよだかには死の宣告が目の前から聞こえ続けていた。「なんでやまないんだよ。殺す必要なんてあるのかよ。殺しは正しいのかよ。俺にどうしろっていうんだよ。」ついには耳をふさいだがそれでも死の宣告は鳴りやまない。「…何が殺しの才能だよ…。この音楽が鳴るのは殺すべき相手からじゃないのか。これから死ぬ人間から。」「今の今までたくさんの人を殺してきた。俺の手で死んできた。次は…」スマホの通知を見たよだかは「次は俺か…」ナイフを自分に向け、突き刺す。ほかの死神が来る前に自分の手で…こんなときに死を恐れたのかナイフの刺し方を誤ったため。すぐには死なない。


 薄れていく意識の中で教室で聞こえてた声が聞こえた。「法こそ正義。裏切り者には死あるのみ。任務を失敗とはお前も情けない。何が天才だ。」そう言った目の前の被害者に向かって「そうか、お前もこの痛みを知らないのか…いや、俺らは何も知らなかったんだな…」すると彼は「なんでそんなに苦しそうなんだよ…じゃあなんで殺しをしなかったんだよ」と言う。よだかは自分の死を目の前に口にした。「自分でもわからないなんで殺さなかったのか。何に迷っていたのか。でもはっきりわかったことがある。」

「痛い…でもこれが生きること…」


「(不思議と苦しみはなかった。いや苦しい。痛い痛い痛い痛い痛い痛い…自分の血が熱い。全身の鼓動がうるさい。死の宣告なんてものは鼓動のせいで聞こえなくなっていた。目の前がだんだんとぼやけて暗くなっていく。でも不思議と怖くはなかった…死ぬ直前、その死ぬ痛みから生きていることを生まれて初めて実感した。生きていたいとも思えた。でもこのまま死にたいとも思えた。いずれにしろ俺は死ぬだろう。いやもう死んでいるのかもしれない。これから死ぬという感覚は俺にとって解放感や満足感を与えるものであった。死んで初めて生きることの尊さを理解した。生きていくことは美しい。俺らは法の下に生きていたために”生きている”ということを忘れていた。この世界の人々はみな忘れているのかもしれない、生きていることの美しさを。死ぬからこそ生きている実感がある。終わりがあるからこそ、その人生は光る。政府に支配されて生きていることを忘れて。この世界の人間はみな化け物だ。人間なんかじゃない。痛みも苦しみも持ち合わせていない。遠い過去に忘れてしまった。不老不死の引き換えに人間は人間という存在を忘れた。)」




「「次の人生は人間として生きていきたい…」」




最終話です。ここまで読んでいただきありがとうございました。この作品は大学の映像研究会で初めて書いた映画の脚本をより詳しく小説にしたものです。最後のよだかのセリフは死ぬ苦しみと生きる苦しみからの解放の二つが組み合わさっていることを表現したものです。映画のほうでは、暗転してエンドロール中によだかの役者がナレーションをするというこだわりポイントがありました。死んで初めて生きていることが分かる。そんな物語のタイトルとして「死にいきる」と付けました。これから出す作品もよろしくお願いします。

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