3.死を知る
先ほど質問をしていた弱弱しい彼にも通知が来た。溜息をつきながらもスマホの画面を見て「人を殺して、何が正義だ…でも生きるために…」足取りは重いが現場に向かっていった。彼は死神になったのが周りに比べ遅かった。つまり親を死神に殺されるのが遅かった。それゆえに記憶に鮮明に残っているのだ。死神のよって父親を目の前で失ったことを。彼の父親は金持ちとは言えないまでも決して生存税が払えないほどの貧乏ではなかった。そもそも警官であったためどちらかというと政府側の人間ともいえた。それなのになぜ殺されたのか彼は当時理解できなかった。でも実際自らの手で殺しを重ねた彼には正義の父親が殺された理由がわかってきた。父親は己の正義を貫き立派な警官であった。どんな人間にも親切に対応し、町の人からも信頼されていた。隠し事はきらいでまっすぐな人間であった。父親の口癖は「人の役に立て、そして命を大切にして精一杯に生きろ」であった。幼いころからこの言葉を聞かされ、彼もまたそんな父親のことを尊敬していた。でもそれゆえに彼の父親は追い求めてしまった。政府によって人が消されていること。そして死神という存在に。その正義感から見ないふりもできず深いところまで足を踏み入れてしまった。政府はもちろんこのことを一般市民にはしられてはならない。だからこそ隠ぺいのために殺した。当時一番のエリートであった男に一人の警官の殺しを依頼した。
死神の殺しのルールとして「目撃者は必ずその場で殺す」というものがある。そもそもエリートならば目撃者を存在させることもしないのだが、このときは殺す相手が警官であったため手間がかかったことが原因で無関係の人間も殺すことになり、組織の中でも問題になった。もちろんエリートであった彼は責任をとる形となったのだが、その才能ゆえに教育現場に配置転換となった。それ以来、現場には出ずに教鞭をとり続けている。
未成年である子供は死神として洗脳するために政府によって引き取られる。これも一種のルールであり、今回の騒動でも適応された。しかし警官の息子は大きくなった騒動によって父親が殺される現場を実は見てしまっていた。政府はそんなこととは知らずに彼を死神として育てた。彼はもちろん父親の仇である死神になるための教育には洗脳されることなく、死神としての任務の傍ら、常に父親の死を思い出し苦しんでいた。でももしも目撃したことを教官や政府に知られたら自分も同じように殺されることも分かっている。だからこそ、トラウマを抱えながらも人を殺していた。
現場についた彼は殺す相手を見た。目に映ったものは親子の姿であった。よみがえるトラウマ。父親の言葉「人の役に立て、そして命を大切にして精一杯に生きろ」を思い出す。「自分にはできない…」手を握りしめ、現場から逃げ出した。
よだかが遠くから聞こえる死の宣告に気づくと、彼のスマホに一件の通知が来た。身に覚えのある名前をそこに見た。「この名前は…あいつ…」目の前の死神から聞こえる死の宣告に殺す相手が間違いではないことを悟った。「なんで…」普段無感情のよだかもさすがに動揺があった。「よ…だ…か...!来ないでほしかった。放っておいてほしかった。ただ生きていられれば良かった。」そんな彼の言葉によだかは「法こそ正義!裏切り者には死あるのみ、殺しの失敗とは死神として情けない。」と言い切る。「お前に何が分かる!いや、わからないよな…ずっと殺すことが正しいと信じ続けたお前には。躊躇もなく人を殺して!この化け物どもが…俺は普通の人間だ。殺すのは苦しいんだ。死ぬのは苦しいんだ。人との別れは悲しいんだ。それを法のためとはいえ…政府に騙され続けて、お前だって政府のせいで…」よだかには彼の言っているこの言葉は理解できなかった。何が理由かはわからないが殺すことができなかった死神は死ぬほかないという教えを守るため、彼に向って「お前の言いたいことがわからない。お前には死んでもらう…任務だから」すると彼は「任務任務って。死神にはそれしかないのか。自由に生きていくこともゆるされない。よだか、お前はいいよな…死の苦しみを知らなくて…俺は昔から…」といって震える手で自分にナイフを突き刺した。しかし急所を外してしまった彼は死にきれずにその場でもがいて「痛い、つらい、でもやっと…」「よだか、最後に楽にしてくれ」とよだかに向かって言った。「なんでそんなに苦しそうなんだよ…じゃあなんで殺さなかった。」声を荒げながらももがく彼にナイフを突き刺し「人を殺すことは正しい、法こそ正義…正しいはずなんだ…。」と自分に言い聞かせた。