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2.死を生む

 死神のスマホに通知が来る。殺すべき相手、死ぬべき人間の名前がそこに映る。その人間がどこにいるのか、それを見て死神は殺しへ向かう。その足には迷いもなくまっすぐに現場に向かう。人目につかない場所を選びサイドバックの中に隠された特殊なナイフに手をかける。派手に振りかざすこともなく相手に一歩近づく。相手は死神の顔も見る間もなく倒れる。急所に刺されたナイフから全身に毒がまわる。それゆえに不老不死の人間すらも死ぬ。「法こそ正義…」それだけ口ずさみ後を去る。死ぬことも知らぬまま死ぬ。この世界の人間とは不思議な存在である。それは人間と言い切れるのか。死を知り、死を生む死神も人間と言えるのか。


 死神の生みの親は政府である。幼い頃に引き取り死神のための教育を授ける。神による教育機関では今日も政府の人間が、かつての死神により授業という名の洗脳が始まる。「人を殺すことに躊躇するな。生存税を払わない奴らに生きる権利はない。法を守らなかったものには死あるのみ。殺しをしない俺らにも死あるのみだ。殺せない俺らにも価値がない。人には生きる価値が必要なんだ。だから人を殺せ。」その口調に迷いはない。彼も洗脳された人間の一人である。そんな彼の言葉に疑いもない死神たち。その中には先ほどの彼もいる。「法こそ正義。生存税こそ人間のすべて。殺しこそ死神の価値。一同復唱。」教官による洗脳に続き死神たちも「法こそ正義。生存税こそ人間のすべて。殺しこそ死神の価値。」その中の一人が口パクをしながら「(殺しなんて当たり前のこと。そんなことにわざわざ躊躇はしない。生きるために殺すしかないから。)」と考えていた。


 教室の後ろのほうから一人の生徒が教官のほうへ向かう。そして生徒が「教官、どうしたら手元を狂わずに刺すことができますか?」と問う。少しの間が開いて教室は一瞬の間だけ静まった。「手元が狂う?なぜ」やはりそう答える。殺しを迷う心は彼らには存在しない。「その人の人生をこの手で終わらせるからです。」彼の言葉には迷いがあった。人間らしい言葉であったといえる。しかし教官は「答えになっていないな…終わらせるからなんだ?それが死神の仕事、生きる価値だ。それがわかっているなら迷うことはないはずだ。」もちろんこの生徒だってこの回答をわかっている。おそらくこの場で殺しに迷いの二文字を持っているのは彼だけ。それでもその迷いを克服し洗脳に染まるため、生きていくためにでた質問だった。そんな質問をする彼の後ろから沈黙の教室の中歩いてきて「手元が狂うのはお前が下手だからだろ、言い訳をするな。」そういった彼の目は教官の疑問の目を超え殺しに迷いを持つ彼を完全に否定しさげすむような目であった。沈黙の教室はさらに深い沈黙へと変わった。教官は「まあそう言うな。お前と違ってこいつは死神になるのが遅かったんだ。数をこなせば失敗することはない、いずれお前もあいつのようになれる。」とフォローする。そして口パクをしていた生徒のほうへ視線を向け「まあそう言うな。お前と違ってこいつは死神になるのが遅かったんだ。数をこなせば失敗することはない、いずれお前もあいつのようになれる。」と言った。


 その彼こそ死神の中の死神。殺しを躊躇しないどころか急所を外さず瞬殺、現場に血もほとんど残さない神童。さげすんでいたあの生徒の目は憎しみの目に変わっていた。彼もまた才能のある死神ではある。殺しの技術、精神力は同等であろう。しかし持って生まれたものが違うのだった。


 神童、またの名をよだかは席を立って教室を出ようとする。その後彼のスマホから通知の音がした。よだかはその通知を見ることなく現場へ向かう。その間もめていた教室での言葉を思い出す。そして次に昔彼に向けた教官の言葉を思い出す。「お前は天才だ。お前が聞こえる”死の宣告”は殺すべき相手がわかる。これは”死神”としては誇るべき才能だ。そしてお前の殺しの力も人よりも優れている。お前は殺すために生きているんだ。それがお前の価値だ。お前には期待している。」彼には通知などいらないのだ。”死の宣告”は死神として恵まれすぎた才能。通知よりも早く殺すべき相手に向かい誰よりも静かに殺す。今日もそれを淡々と繰り返す。


 よだかの日常はモノクロである。人を殺し、今日を生きていく。殺すことで稼いだ金は帰り道のゲーセンで溶かす。しかしその顔には笑みどころか人間らしい感情はない。殺すときも遊ぶ時も基本無表情。生きている実感もなく日々が過ぎていくだけ。彼は目の前のクレーンのアームでお菓子の箱が引っかかっているのを横目に「殺しに才能なんか必要ないだろ。」とつぶやいた。


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