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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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作戦の要



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


 今回の「繊三号奪還作戦」に参加するのは、星屑隊含めて6部隊のみ。


 時雨隊は実質不参加。機兵部隊は出すが、揚陸艦は「<雪の眼>史書官の護衛」の名目で攻撃には参加しない。


 揚陸艦5隻、機兵24機で繊三号に挑む必要がある。


 対するネウロン解放戦線側は「繊三号」「多数のタルタリカ」「鹵獲した機兵」「鹵獲した船舶」を使ってくる。


「鹵獲された機兵の中には、まだ見つかっていなかった明星隊の機兵も確認された。おそらく、タルタリカに襲われ、巫術で機兵だけ奪われたのだろう」


 巫術の眼でそれを見たスアルタウ曰く、明星隊の機兵には1つ分の魂しか見えなかったらしい。操縦者はとっくに殺されちまったんだろう。


「オレ達が繊三号から逃げる時、多少は敵機兵を破壊できましたが……」


「それでも敵機兵の方が多い。ただ、真っ向勝負となると機兵戦に持ち込むことすら難しいだろう」


「繊三号の流体装甲で、多数の砲塔が展開すると火力負けしますね」


 繊三号から逃げる時は、敵も繊三号を完全掌握できていないようだった。


 けど、さすがにもう掌握しきっているだろう。


 背嚢型のタルタリカの存在もある。


 脅迫により、敵側についてしまった交国軍人が繊三号の防衛設備操作を担えばいい。敵はそれで迎撃態勢を整えられる。


 こちらの接近を気取ると、数分で無数の砲塔が展開。


 砲撃が雨のように降り注いでくるだろう。


 こっちの船にも流体装甲があるとはいえ、装甲の修復速度以上にダメージを負ってしまえば、さすがに沈む。


 繊三号には、それが出来るだけの火力がある。


「敵とやり合うためには、まず、繊三号を黙らせる必要がある」


「その役目を第8が担うんですね」


 やる気満々のフェルグス達に視線を送る。


「巫術師が小型のドローンで繊三号に接近。基地の設備を憑依で乗っ取る」


 それならいける。


 そう思ったが、隊長とヴィオラに否定された。


「敵はこちらより手練れの巫術師がいる。直ぐに乗っ取り返される」


「それに、繊三号全体を巫術でコントロールするのは無理だと思います……。人工物だから憑依可能ですけど、巨大すぎて4人で分担しても掌握は無理です」


 憑依で掌握するなら、船程度が限界。


 1万人以上収容できる巨大な浮島全体を、巫術で完全掌握するのは不可能。


「だから、このような手を使う」


 隊長はそう言い、新しい作戦について説明してくれた。


 巫術師と交国軍人による合同作戦。


 要となるのは巫術師だが――その作戦、1人の負担が大きすぎる。


「――これによって繊三号を黙らせる。ただ、他の敵の対処が必要だ」


 隊長はそう言い、フェルグスに視線を送った。


「フェルグス特別行動兵。貴様が敵に奪われた船舶を倒せ。出来るな?」


「わかった! でも、オレの巫術でそんなこと……出来るのか?」


 元気よく返事したフェルグスだったが、直ぐに首をかしげた。


 傍にいたヴィオラが「技術的には可能だよ」と言った。


 かなり無茶な方法に聞こえるが、まあ出来ない事もないんだろう。


 ただ――。


「隊長。オレはこの作戦に反対します」


 手を上げ、抗議する。


「副長。貴様は私に『覚悟を決めろ』と言っただろう」


「言いましたけど……! さすがにこれは、隊長の負担がデカすぎますよ!」


 作戦の要となるのは巫術師。


 けど、一番負担がデカいのは隊長だ。


 目的を達成しても、この作戦じゃ隊長の命が――。


「1人でやるつもりですか!? せめてオレも連れて――」


「オレもお供します」


「俺も!」


 他の隊員らも声を上げたが、隊長は首を横に振った。


「敵方には巫術師がいる。大人数で動いていると、巫術観測で見つかりやすい。それに、貴様らが私についてくるのは不可能だ」


「でも、隊長……!」


「副長。船は貴様に任せる。貴様らも自分の持ち場を守れ」


「…………」


「仮に私がしくじった場合、当初予定していた砲撃作戦に切り替えろ。第一段階の時点なら、私1人の犠牲で済むからな」


 本来、オレ達は時雨隊と第8抜きで砲撃作戦を行う予定だった。


 繊一号に向けて移動している繊三号を多方面から奇襲して砲撃。


 繊三号を航行不能に追い込む作戦だった


 この方法ならまだ久常中佐に言い訳できる。


 繊三号は移動式の海上基地だ。


 それが1つの弱点となっている。


 巨大な人工物ゆえに、砲撃を加えていけば破損していく。破損しても流体装甲で補修できるが、それに頼っていると混沌を過剰に消費してしまう。


 繊三号は移動のために混沌(エネルギー)が必要なため、ダメージを与えて混沌の消費を増やしてしまえば航行不能に追い込むのも不可能ではない。


 ただ、これは一般人に大きな犠牲が出る可能性がある。


 だからフェルグス達は反対するだろうし……数で劣っているオレ達が砲撃戦で勝てる可能性も低い。ゲリラ的に動いても、数で押し負ける可能性も高い。


 犠牲は多く出ましたが、出来るだけ頑張りましたよ――という言い訳作りの作戦だ。敵の巫術師の動き次第では、各個撃破され、壊滅しかねない愚策だ。


 それを使わないで済むよう、隊長は別の作戦も用意していた。


 けど……これは本当に、隊長の負担がデカすぎる……。


「まあまあ、隊長を信じてやりな」


 そう言ったのは整備長だった。


 会議室隅の椅子に腰掛けたまま、茶をすすりながら話を聞いていたようだ。


「この船で一番強いのは隊長だ。アンタらがついていっても足手まといだよ」


「でも、さすがに無茶ですよ。隊長1人で――」


「信じてやんな。そいつは元特殊部隊隊員だよ」


「――そうなんですか?」


 問うと、隊長は「部隊名はさすがに明かせんがな」と暗に認めた。


 隊長ぐらいの腕っ節なら特殊上がりでもおかしくない。


 そもそも、オレが隊長と出会った時の事も……。


 ……いや、それでも、1人でやるのは無茶だ。


「そうだ……海門(ゲート)! 海門使って、混沌の海から奇襲するのは!?」


 隊長を1人で行かせないために提案する。


 苦し紛れの献策は、あっさり否定された。


「界外からの奇襲は方舟の協力が不可欠だ。だが、界外から海門を開いて奇襲するのはリスクが高い。久常中佐はそのような作戦には協力しない」


「繊三号にも海門の発生装置があります! それを使って招き入れれば――」


「敵の巫術師に方舟を奪われ、いよいよ手がつけられなくなるかもしれんな」


「あ~……!」


 そうだ、巫術師。巫術師が厄介なんだ。


 上は巫術の厄介さを正しく認識していないようだが、それ以前にもう及び腰になっている。久常中佐達には頼れない。


 本国からの増援さえ来てくれればいいが、増援は間に合わない。増援を待っていたら久常中佐に難癖つけられ、反乱軍扱いされる。


「この作戦を成功に導くためには、各員の奮闘が必須だ」


 隊長はそう言いつつ、言葉を続けた。


「そして、貴様らが私を信じるのも必須となる。……まずは私を信じろ」


 隊長の手が、オレの肩に置かれる。


 任せたぞ、と言うように。


「あ~……もう~……! わかりましたよ! 上官命令ですもんね。従います」


「すまんな」


「その代わり、絶対に生きて帰ってきてくださいね!?」


「約束は出来ん」


「約束してくださいよ~……!」


 いつも通りの無表情を浮かべている隊長の両肩を掴み、軽く揺する。


 マジで死なないでくれ。


 オレは、まだアンタへの恩返しが出来てないんだ。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:星屑隊隊長


 副長が懸念を抱く理由もわかる。


 常識的に考えて、私がしくじる可能性は高い。


 ただ、私が何とかするしかない。どんな手を使ってでも血路を開かねば、無謀な砲撃作戦を行うしかなくなる。


 そうなった場合は当初の保険を――雪の眼に第8を預ける手を使うが、使わずに済む事を祈ろう。これは好機でもある。


 ヴァイオレット特別行動兵の正体を突き止める好機でもある。


 当初考えていた作戦とは異なる展開になるだろうが、他部隊の了解は取れるだろう。色々とリスクがある作戦だが――。


「本作戦の要は巫術師だ。第8巫術師実験部隊。貴様らを酷使する事になる」


 私の役目は、勝つための状況作りだ。


 敵が巫術を使ってくる以上、巫術師に頼り、勝ってもらう必要がある。


「貴様らの身体は船で保護するが、船も作戦区域の真っ只中に入る。鎮痛剤を使ってもらうぞ。そうしないと貴様らも死んでしまう」


「まあ、そこは仕方ねえよな」


 フェルグス特別行動兵が腕組みしつつ、頷いた。


「ヴァイオレット特別行動兵。作戦が第四段階に進んだ時、あるいは必要に応じて巫術師の身体に鎮痛剤を投与してくれ」


「はい……」


 ヴァイオレット特別行動兵は表情を強ばらせているが、大勝負に挑む以上、こうせざるを得ないのは理解しているようだ。


 ただ、頷いた後に言葉を投げかけてきた。


「でも隊長、羊飼いに勝てそうですか?」


「羊飼い……? ああ、例の異形の機兵か」


 繊三号に現れた異形の機兵。


 角を持つ山羊のような頭部の機兵。奴は化け羊(タルタリカ)を従えていたため、第8では奴の事を「羊飼い」と呼び始めたようだ。


「良い呼称だ。以降、あの機兵とその操縦者は『羊飼い』と呼称する」


 おそらく、羊飼いが一番の強敵だ。


 遠隔憑依という反則技を使える技術。


 第8の巫術師が束になってかかって、やっと追い出せた巫術。


 ひょっとすると、舞鶴を落としたのは羊飼いかもしれない。


 タルタリカを従えていた事から、奴が今回の騒動の中心にいるのは間違いないだろう。奴さえ倒せば、繊三号以外のタルタリカも統率を失う可能性はある。


「羊飼いに勝てるか否かは、機兵対応班と巫術師にかかっている」


 絶対に勝てるとは言い切れない相手だ。


 それでも、使える手段は全て使って立ち向かうしかない。


「奴は強敵だ。しかし、敵も巫術師なら、肉体に縛られているはずだ」


「本体さえ潰せば殺せる」


 言いたい事を言ってくれたレンズ軍曹に対し、「そうだ」と肯定を返す。


「奴が魂を飛び回らせ、どれだけ兵器を強奪しようが、本体さえ潰せば殺せるはずだ。羊飼いと遭遇したら、奴の本体を狙え。必ず殺せ」


 羊飼いが乗っていた機兵は、どこの機兵かわからん。


 元になったのは交国軍の<逆鱗>の可能性もある。


 流体装甲を巫術で変形させ、機兵の形を自分好みのモノにしているのだろう。


「敵の遠隔憑依対策は、ヴァイオレット特別行動兵が用意した避雷針とヤドリギを使う。奴と遭遇する前から各所に避雷針を設置しろ」


「他の部隊には――」


「避雷針のデータは既に渡している。作戦が始まった後、海上および陸上に出来るだけ設置するよう頼んでいる」


 星屑隊は巫術師で守れるが、他部隊まで巫術師で守り切るのは難しい。


 それなりの犠牲は出るだろう。


 さらにこちらの機兵を奪われる可能性もある。


 だが、繊三号を押さえてしまえば……勝ち目はあるはずだ。


「対策できるのは遠隔憑依だけだ。直接接触による憑依は完全には防ぎきれない」


「けど、皆の巫術なら対抗できるはず。10秒……いえ、一瞬でも抵抗してくれたら、他の皆が羊飼いを攻撃してくれるから……」


 一瞬で奪われなければ、やりようはある。


 敵の方が格上の術師だろうと、手はある。


「私も、貴様らのために死力を尽くし、必要な状況を整える」


 敵が舞鶴を落とした攻撃方法は未だ不明。


 ……ヴァイオレット特別行動兵も、そこまでは知らないようだ。


 いや、「思い出していない」と言うべきか。


「状況が整ったら、それぞれの持ち場で最善を尽くせ。いいな?」


 隊員らが大声で返答してきた。


 第8も、それに倣って声を上げた。


 苦しい状況だが、やるしかない。


 戦わなければ旅団本部(みかた)に責められ、「反乱軍の一員」という烙印を押されかねない以上、戦って勝つしかない。


「…………」


 私も、手段を選んでいられない。




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