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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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最後の命令



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


「改めて、ネウロン旅団本部からの命令を伝える」


 他の隊員と一緒に会議室に集まり、隊長の言葉を待つ。


「星屑隊は他部隊と連携し、繊三号を強襲。繊三号を占領したネウロン解放戦線を撃滅せよ――との事だ」


「…………」


「その際、繊三号にいると思しきネウロン解放戦線の中心人物……フォーク中尉を捕縛する。抵抗が激しい場合、殺害しても構わん」


 隊長の読みだと、フォーク中尉は正体不明の敵に脅されているだけ。


 だが、旅団本部はそう考えていない。


 ネウロン解放戦線を単なる反乱軍だと考えている。


 それにしたって……と思っちまうが、まあ、仕方ないか……。


 俺達は軍人だ。軍人が上の命令を無視していたら、組織が成り立たなくなる。


 組織が成り立たなくなったら、一般人を守れなくなる。世界も人類も守れなくなる。そいつは駄目だ。絶対に駄目だ。


 家族を守るためには命令を守らなきゃ。


 けど――。


「…………」


 チラリ、と横目でヴィオラ達を見る。


 ヴィオラやアル、そしてロッカの表情は少し青ざめているように見えた。


 フェルグスは腕組みして、いつも通りエラそうにしている。グローニャはシャチのぬいぐるみを抱っこしたまま、「ぽかん」としている。わかってないんだろう。


 こいつらを今回の戦いに巻き込むのは、嫌だなぁ……。


 相手に巫術師がいる以上、第8の皆も無関係じゃいられないかもだが……それでも、今回の作戦には参加させたくないな……。


「命令に背き、作戦参加を拒む者はネウロン解放戦線の『味方』と見なされる。それはつまり交国に対する裏切りだ。厳しく処罰されると思ってくれ」


 隊員らが「はい」「了解」と、まばらに返答した。


 皆の士気は、正直高くない。


 久常中佐の判断を疑っている。今回の繊三号攻撃作戦を「やめるべき」と言っていたウチの隊長の意見を、上が無視した事を不満に思っている。


 それでも隊長が参加する以上、俺達も付き従う。


 星屑隊はそれでいいんだが――。


「……んっ? あれっ!? た、隊長……!」


「どうした。ラート軍曹」


「作戦参加部隊のリスト……! 内容は間違いないんですか!?」


 会議室のディスプレイに表示された参加部隊のリストを指さし、言う。


 隊長はいつもの無表情のまま、「間違いない。上にも確認した」と言った。


「軍曹~……。参加部隊が少ないのは今更の話でしょ」


「艦艇6、部隊も6だけって少ないですけどねぇ……」


「そこじゃねーよ! 第8の名前が載ってない!」


 俺がそう言うと、気づいていなかった隊員達がざわめく。


 隊長や副長達は知っていたらしく、特に表情を動かしていない。


「これつまり、今回の作戦に第8巫術師実験部隊は不参加って事ですよね!?」


「そうだ」


 第8は星屑隊と行動を共にしているが、一応、別部隊だ。


 隊長の指揮下に入っていたが、第8はあくまで独立した部隊だ。


「子供達もヴィオラも、不参加でいいんだ……!」


「そうだ。ただ、久常中佐としては『星屑隊が参加する以上、第8も当然参加するもの』と思っていたのだろう。第8が不参加では納得すまい」


「――――」


「リストに名前は無いが、第8にも作戦に参加してもらう」


 子供達を巻き込まずに済む。


 そう期待して立ち上がり、声を出していたが……隊長の言葉を聞いて座る。


 苦しい状況の中で見つけた、唯一の希望だったのに――。


「ただ、第8の配置は変更となった」


「え……?」


「本作戦より、第8は時雨隊に移る。……という事で久常中佐の了解も取れた」


 話がわからず、困惑する。


 何で星屑隊じゃなくて、時雨隊と一緒に戦うんだ……?


 隊長は「第8について説明する前に、時雨隊について説明しておこう」と言い、作戦区域となる場所の地図を表示した。


「我々は他の部隊と共に、移動中の繊三号に接近。攻撃を仕掛ける。だが、時雨隊は機兵部隊のみを出撃させ、我々の後方で待機。後方を警戒する」


「へっ……?」


「第8も後方警戒に参加。つまり……時雨隊本隊と第8は実質、不参加だ」


 作戦に参加するが、繊三号への攻撃には参加しないらしい。


 今回の作戦、参加予定は――第8を含めなければ――6部隊だった。


 ただでさえ戦力が足りないのに、何で時雨隊は実質不参加なんだ……?


「我々が失敗した場合、時雨隊はただちに撤退する」


「第8はともかく、時雨隊は何で……」


「時雨隊には『雪の眼の史書官(ラプラス)護衛』という任務がある」


 どうやらドライバ大尉が悪知恵を働かせ、「時雨隊(ウチ)が作戦参加すると、史書官殿が危険に晒されますよ」と久常中佐に吹き込んだらしい。


 雪の眼は交国外部の組織。


 一応、客人だ。


 久常中佐も「それはマズい。外交問題になって、自分が責任を問われてしまう」と考えたようだ。だから時雨隊は「護衛」が優先となった。


 時雨隊も機兵は出すが、船は安全圏で待機。


 後方警戒という名目で動き、危うくなったら逃げる。


 それに子供達も便乗させてもらえるなら、悪くねえ!


 隊長の話を聞いたウチの隊員達は呆れ顔を浮かべ、「ドライバ大尉、セコくないですか!?」と言っているが……俺は別にこれでいい!


 いいんだが――。


「隊長。久常中佐が、時雨隊の任務を護衛優先にしたのはわかりました。けど……第8が時雨隊の船に移る件は納得してもらえたんですか……?」


「そこは話がついている」


 隊長はそこで一度、言葉を区切った。


 会議室に集まった皆の顔を見渡した後、言葉を続けた。


「実は……雪の眼の史書官殿と交渉をした」


「あの……自称美少女と?」


「ああ。私の判断だ。責めるなら私を責めろ。……私は今回の作戦に第8巫術師実験部隊を巻き込むのは不適切だと感じた」


 だから、第8も「史書官の護衛」という名目で逃がす。


 史書官も巫術師に興味があるから、「第8の配置換えは、私から久常中佐に口添えしておきましょう」と言ってくれたらしい。


 厄介な奴だと思ったが、ここでヴィオラも子供達も助けてくれるとは……! さすがの久常中佐でも「客人」である雪の眼はぞんざいに扱えないらしい。


「隊長……! 隊長も、子供達のことを案じてくれてたんですねっ!」


「……そういうわけではない」


 隊長は少し眉間にしわを寄せつつ、否定してきたが……俺にはわかる!


 隊長は、今までも何だかんだで子供達を救ってくれた! 技術少尉の横暴を止めてくれたし、キャスター先生の頼みを聞いて第8のための補給もしてくれた。


 厳しい人に見えるけど、やっぱ隊長って優しいな……。


「ラート軍曹はともかく……。他の者達は私に文句の1つでも言ったらどうだ」


「第8だけ逃がす事について?」


 隊長が無言で頷く。


 そんな隊長に対し、皆が言葉を投げかけ始めた。


「いや、オレも隊長の判断を支持しますよ」


「もちろん私も――」


「まあ、今回ばかりはなぁ~……。ガチの戦争ですから……」


「特行兵とはいえ、ガキを巻き込んで良い話じゃないでしょ」


 他の隊員も、第8を逃がす件を好意的に受け止めてくれている。


 皆も、交国軍人としての誇りがある。


 子供達が特別行動兵でも、守るべき対象という意識があるんだ。


 ドライバ大尉に対してはともかく……第8の配置換えに関しては文句1つ言わない皆の言葉を聞きつつ、隊長は目をつむっていた。


 目をつむったまま、「皆、スマン」と呟いた。


 皆は笑って「気にしないでくださいよ」「良い判断です」と言ってくれた。


 けど――。


「ぼ、ボクら、いらない子なんですか……!?」


 アルが立ち上がり、そう言った。


 不安げな表情で、皆を見渡してそう言った。


「アル、そういうわけじゃ――」


「ボクも戦います! ボクも、星屑隊の皆さんの役に立てます!」


「お前達の力は、あの史書官用に取っておきな? あと自分用に」


 アルをなだめ、席に座らせる。


 ずっと雪の眼の護衛でいられるとは限らないが……しばらくは大丈夫だろう。あの史書官を信用していいかは少し疑問だが、今回の作戦に参加させるよりマシだ。


 久常中佐も時雨隊も、この子達をイジメたり出来ないはずだ。


 史書官の傍にいる限りは――。


「コイツは正規兵(おれら)の戦争だ」


「ガキは引っ込んでな!」


 そう言う隊員(みんな)の視線も、どこか温かい。


 でも、でもっ……と言って涙ぐむアルの頭を撫でてくれる奴もいた。


「皆さんだけで、どうやって――」


「ヴィオラ」


 アルに続いて声を上げようとしていたヴィオラの腕を掴み、座らせる。


 お前が言いたい事もわかる。


 敵は強い。


 巫術師の加勢がなければ、俺達は繊三号から逃げ切れず死んでいただろう。


 ただ――。


「優先順位を間違えるな。俺の言いたいこと……わかってくれるよな?」


「…………」


 ヴィオラは悔しげに、あるいは申し訳なさそうに押し黙った。


 それでいい。隊長が上手く交渉してくれたんだ。隊長の案に乗るのが一番だ。


 ヴィオラはわかってくれたが――。


「敵は……巫術を使ってきました! ラートさん達だけじゃ……!」


 アルは黙らなかった。


 俺にすがりつき、涙目で語りかけてきた。


「敵の巫術で機兵も船も乗っ取られたら、ラートさん、どう戦うんですか!?」


「生身でやり合うさ。俺は機兵乗りだが、歩兵として戦うための訓練もしてきた」


「そんなのじゃ勝てっこない……! ボクらと一緒に逃げ――」


「信じてくれ。アル」


 信じるのは難しいかもしれない。


 俺達は侵略者だ。ネウロンにやってきた侵略者だ。


 同時に、交国軍人でもある。


 軍人である以上、軍人としての責務も果たさなきゃならねえ。


 戦って死ねって命令されたら従う義務がある。敵に背を向け、退くことは許されない。命令を出した上官が誰だろうと、上官である以上は従わなきゃダメだ。


 ……なんて、隊長達の指示をよく破る俺が言っても説得力ねえか!


「大丈夫だから。信じてくれ」


「うぅ……!」


 本当に大丈夫なんだ。


 俺達が死んだところで、家族は――遺族は国が養ってくれる。


 だから、俺達は安心して死地に赴ける。


 俺達は幸せ者だ。


「大丈夫だから」


 本当は、お前らのこともっと見守っていたかった。


 お前らが無事に生きていけるよう、守ってやりたかった。


 ヴィオラとの約束、ちゃんと果たしたかったなぁ……。


「俺達は……交国軍人だ! ガキの頃から訓練の日々を送ってきた! オマケに俺達はオークなんだ! 痛みを知らない無敵の軍人なんだぜっ!」


「やだ、やだっ……!」


「今回の敵も蹴散らしてきてやる! 終わったら……皆で迎えに行くから!」


 フェルグスに言われた。


 出来もしねえ約束すんなって。


 アイツの言う通りだと思う。けど、今回は……今回は許してくれ。


 これが最後だからさ。


「泣くな」


 ボロボロ泣き始めたアルを抱きしめ、背中をポンポンと叩く。


 黙って俺達を見ていた隊長に視線を向け、頷く。


 話を進めてもらう。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:星屑隊隊長


「……第8巫術師実験部隊」


 第8だけではなく、星屑隊隊員の視線も受けつつ、告げる。


「私からの最後の命令だ」


 これが最善だ。


「荷造りをして、時雨隊の船に行け」


 出来れば雪の眼に頼りたくなかった。


 奴らは、気づいてはいけない事に気づく可能性がある。


 だが、それでも……今は奴らを頼る以外に道は――――。


「…………ふざけんなよ」


 声が聞こえた。


 星屑隊の隊員ではない。


 ウチの隊員達は、どこか安堵した表情をしていた。


 第8が戦場を離れると聞き、嬉しそうにしていた。


 だが、いま声を上げた彼は、眉間にシワを寄せていた。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狂犬・フェルグス


「ふざけたこと、言ってんじゃねえ。


 オレ様は、この船に残って戦うからなっ!」





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