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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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雷従抜刀



■title:繊一号にて

■from:ネウロン旅団長・久常竹


 ネウロンは不良品ばかりだ。


 役に立たない兵士。


 愚鈍なネウロン人。


 奴らは簡単な命令を果たせないどころか、ついには反乱まで起こしてきた。


 一部の馬鹿が「これは単なる反乱ではありません」などと言っているが、これはただの反乱だ。調子に乗った馬鹿共が各地で暴れているだけだ。


 単なる反乱だが、これは……非常にマズい。


 馬鹿共の反乱で旅団長(ボク)の評価が落ちて、上から懐疑的な目で見られているのに……反乱まで起こされたとなると、ボクの立場がない!


「まだだ……まだ何とかなる……! <星の涙>を使って反乱軍の中枢を消し飛ばし、彼我の実力差を馬鹿共にも理解させてやれば、まだ降伏を促せる……!」


 どいつもこいつも馬鹿揃いだが、恐怖を与えてやれば理解するはずだ。


 どっちが強いのか。


 誰が偉いのか。


「馬鹿共を降伏させて、反乱を1日で終わらせる……! そうすればまだ、不穏分子をあぶり出した功績でボクも……! ボクのシナリオは完璧なんだ……!」


「中佐。通信が入っています」


「反乱軍が降伏してきたんだな!?」


 まだ星の涙は撃っていないが、シナリオ通りに事が進んでいる。


 そう思い、思わず笑顔になってしまったが……どうやら違うらしい。


「い、いえ……。我が方の部隊から、<星の涙>による繊三号攻撃は取りやめるよう、進言が届いておりまして……」


「解放戦線側の裏切り者が、情報を寄越してきたわけでもないのだな?」


「はっ……。例の星屑隊の隊長も、再び連絡を寄越してきて――」


「星屑隊だとぉ……!」


 机を殴る。血管が切れそうなほど、フツフツと怒りが湧いてくる。


 星屑隊は裏切り者だ。


 奴らには第8の悪行を暴くように申し付けていたのに、何の証拠も掴めなかった無能。ただ漫然と行動を共にしているだけで、何もしていない。


 その上、奴らは繊三号から生還した。


 誰がどう見ても怪しい!


 繊三号には特に敵の戦力が集中していたはずなのに……!


 星屑隊は特別行動兵と手を組み、よくわからん情報を流してきている。私に欺瞞情報を渡し、反乱軍を優位に立たせようとしている……ように見える!


 ひとまず繊一号に撤退させてほしい、とも言ってきた。


 どう見ても怪しい!


 私のところまでやってきて、繊一号で騒乱を起こす目的なんだろう!


 反乱軍と敵対しているフリをしておいて、繊一号に乗り込んでくるのが目的に違いない。奴らが生き残っているのは、既に裏切っているからだ!


「クソッ! 星屑隊め……どれだけ私を虚仮にすれば気が済む……!」


「ちゅ、中佐……?」


「馬鹿共の話など聞きたくない!」


「ですが、星の涙はさすがに……。繊三号の住民の安否も、繊三号基地司令の安否も不明なので……攻撃は、さすがに思いとどまった方が……」


「――――」


 馬鹿な報告をしてきた下等生物(オーク)の頬を叩く。


「貴様! さては反乱軍だな!?」


「はっ……? えっ……?」


「貴様は反乱軍への攻撃を止めようとしている! 利敵行為だ!」


「ち、違います! 中佐の虐殺行為を止めようと――」


「誰か! 誰かコイツを連れて行けぇ!!」


 銃を抜き放ち、新たな裏切り者に突きつけつつ叫ぶ。


「待って! 待ってください中佐! 全ての交国軍人が敵に回ったわけではありません! 私は、あなたの味方――」


「うるさい!!」


 警備の者達が走ってきて、裏切り者を連行していく。裏切り者は見苦しく弁解しているが、聞く必要はない。どう見ても怪しい行動をしていたからな!


「繊三号には我々の同胞が……多数の交国軍人が捕らえられているのかもしれないのですよ!? 繊三号の性質を考えると、まだ生存者がいる可能性は十分――」


 同胞?


 誰が同胞だ。


 玉帝の息子(わたし)と、消耗品(おまえら)を一緒にするな。


「――何を見ている、貴様ら」


 裏切り者が連行されていった後、部下達が一斉にこちらを見てきた。


 ……こいつらは本当に、私の部下なのか?


 ネウロンの交国保護都市の多くが、敵の手に落ちた。


 それもほんの数時間の間に!


 これはどう考えてもおかしい。内部に多数の裏切り者がいない限り、これほど鮮やかに都市が陥落するなんておかしい。……守備隊は何をやっていたのだ!


「貴様ら……! 貴様らも裏切り者なのか!?」


 敵の言う事が確かなら、裏切り者はまだいるはずだ。


 繊一号内部にも、さっきみたいに裏切り者が入り込んでいるかもしれない。


 裏切り者がいないと、ここまで都市が陥落するはずがない!


「貴様らの主は、ボクだぞっ! ネウロン解放戦線とかいう馬鹿集団についたところで未来は無い! 反乱軍如きが交国軍相手に勝てるわけないからな!?」


 増援を送ってもらえば、反乱軍は簡単に制圧できるだろう。


 だが、それはマズい。


 ネウロン旅団長のボクが、自力で反乱事件を収められなかった事になる。


 そ、そうなると……玉帝(おかあさま)も失望してしまう……!


 ボクの責任問題にされてしまう!


 ボクは優秀なのに! 銀兄さんよりも! 素子よりも……!


 それなのにそれなのに、ボクだけアップルパイが(・・・・・・・)食べられないなんて……! 早く! 早く最前線に戻って活躍しなきゃなのに!!


「…………!」


 部下達がボクから視線をそらしていく。


 恐れている。そうだ、ボクを恐れろ!


 ボクは、ネウロン旅団長なんだぞ! 貴様らの上官なんだ!


 裏切り者は、必ずいる。いつでも銃を撃てるようにしておかないと……!


「っ……!」


 だっ、誰が敵かわからないんだ……! 信用できるのは、自分しかいない。


 こ、こんな時、兄さんが……銀兄さんがいてくれればぁ……!!


「繊三号は、見せしめだ! 必要な犠牲なんだ……!」


 これは戦争だ。


 戦争には犠牲がつきものなんだ。


「ちまちまと反乱を鎮圧していたら、時間がかかる! 最初から全力を出し、我々の力を見せつける! 繊三号が消し飛べば、反乱軍も瓦解する! 我々には絶対に勝てないと理解し、降伏してくるに違いない!」


 これが多分一番早い。


 一番犠牲が少なく済むし、反乱を即日収めた功績も評価されるはずだ!


 くそっ……! くそッ!! ニイヤドの件からずっと良いことなど1つもない!


 奴らだ……。


 第8という疫病神が現れてから、ボクの評価が……!


「おい! まだ<舞鶴>の準備は出来ていないのか!?」


 ネウロン旅団が保有する数少ない方舟の名を呼ぶ。


 今回の攻撃のために宇宙(そら)に上がらせたが――。


「舞鶴、配置についています! 星の涙の準備も完了済。いつでも……撃てます」


「そういう重要なことはさっさと言え!! おい! 映像を映せ!」


 ディスプレイに舞鶴の外部カメラと、偵察衛星から送られてくる映像を表示。


 偵察衛星は繊三号を捉えている。


 捉えているが――。


「おい! 雲が邪魔だぞ!?」


「も、申し訳ありません……! 雨期なもので……」


「クソッ……。まあいい」


 繊三号の全体が見えていないが、着弾の衝撃ぐらいはわかるだろう。


 後で馬鹿共にも見せてやろう。


 まだ潜伏している裏切り者達にも、ボクの力を見せつけてやる!


「艦長に繋げ!」


 舞鶴の艦長に連絡し、告げる。


「砲撃開始! 繊三号を消し飛ばせッ!!」




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


『――阿呆が』


 ネウロン旅団本部の放送を見終え、端末を消す。


 足下で交国軍の軍人が――確かフォークとかいう名前のヤツが――喚いている。


「ほ、<星の涙>は無理だ! 迎撃など出来ない!」


『単なる運動弾爆撃だろう?』


「それが驚異なんだ! せ、せめてここから逃げないと……!」


 タルタリカを呼び、鬱陶しい軍人にけしかける。


『しばらく、それと遊んでいろ』


 軍人の悲鳴とタルタリカの鳴き声を聞きつつ、海上都市の端に向かう。


 今から繊三号(ここ)が狙われる。


 敵の攻撃は「流体装甲を高空から撃ち落とす」というシンプルなものだが、繊三号を破壊するには十分なものだろう。


 迎撃は困難。繊三号を移動させて回避するのは不可能ではないが、この巨体をいつまでも移動させ続けるのは難しい。


 混沌機関への混沌充填作業をしつつ、停泊したところを狙われる。繊三号は所詮、巨大な浮島……いや、巨大なハリボテだ。


 運動弾爆撃に晒されれば、ひとたまりも無い。


 つまり、砲撃前に殺せばいい。


 それだけの話だ。


『あそこか……。進路そのまま』


 やや狙いにくい位置だが、不可能ではない。


 宇宙(そこ)も、私の間合いだ。


『――――』


 流体を用い、手中に使い慣れた野太刀を生成する。


 使い慣れているとはいえ、振るうのは久しぶりだ。


 それに……私はもう、神器(・・)を使うことは出来ん。


 ただ、ある程度の代わりとなる武器の用意は可能だ。


『……我は武士なり。侍る者なり』


 野太刀を構える。


『我は光なり。闇夜切り裂く灯火なり』


 術式を行使し、混沌を練り上げる。


『我は守護者(つるぎ)なり。後来切り拓く者なり』


 祝詞を唱える。


 言祝ぐ相手はいないが――。


『我は破壊者(いかずち)なり。災禍斬り伏せる者なり』


 敵はいる。


 奴らのための(かしり)が必要だ。


『罪人よ、音に聞け――――我は神鳴(かみなり)


 目標捕捉。


燼器解放(・・・・)


 振るい、断つ。


 断ったが――――。


『……余計なものまで斬ったな。シシンのように、上手くはやれんか……』




■title:繊一号にて

■from:ネウロン旅団長・久常竹


「んっ……? おいッ! 映像が乱れたぞ! どうなってる!!」


「現在確認中です……!」


 砲撃開始直前。


 舞鶴から送られてくる映像が乱れた。


 偵察衛星も、何も映さなくなった。


 通信途絶? そんな馬鹿な! どこかの馬鹿がミスしただけだ!


「チッ……! 舞鶴の艦長に繋げ! 直接、問いただしてやる!!」


「そっ、それが……舞鶴への通信が一切繋がりません!」


「――――裏切りか」


 それ以外、考えられない。


 マズい。


 舞鶴の裏切りは、ボクのシナリオにはない。


 反乱軍が方舟を手に入れたとなると、事情が変わってくる。


 繊一号に対し、星の涙が降ってきたら――。


「中佐! 観測所から連絡が――」


「観測所? 今、連絡を取るべきは舞鶴で――」


「舞鶴、轟沈(・・)! バラバラになった船体と流体装甲が、地表に向けて落下してきています! 繊三号に対してではなく、別の場所に落ちる可能性が……!」


「……………………?」


 裏切りじゃなくて、轟沈?


 何を言っているんだ、コイツら。


 敵の攻撃が、舞鶴に届くはずがない。


 反乱軍風情に、宇宙からの攻撃に対抗する手段が……あるはずが……。


「観測所の映像を出します!」


「…………はぁ…………?」


 舞鶴だったもの(・・・・・)が降ってくる。


 ネウロン旅団の攻撃の要。


 ボクの方舟。


 ボクの計画(シナリオ)の要が、お空から降ってきている。


 なんで?


 どうして?


 敵は……一体、なにを……やって……。


「…………おい、反乱軍から『降伏します』って連絡は……?」


「そんなもの、届いているはず無いでしょう!?」


 どうしよう。


 ボクのシナリオと違う。


 どうしようどうしようどうしようどうしよう……!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


「……さっきの、なんだ……」


 空が一瞬、光ったように感じた。


 遅れて空を見上げると、空がブッた斬られていた。


 鈍色の雲が、縦一閃に切り裂かれていた。





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