【スアルタウの死】
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:贋作英雄
『――――』
機兵の手が降ってくる。
この軌道。
この視点。
既視感が意識を締め付けてくる。
ダスト3の一撃により、スアルタウ特別行動兵は死ぬ。
圧死する。
スアルタウ自身が回避を考えていない。
この少年は壊れている。
生き残ってしまったがゆえに、壊れてしまっている。
死んでもラート軍曹を助けようとしている。
それが少年の選んだ運命。
回避不能の絶望。
『ハッ――――』
だが今回は、私がいる。
私は運命を否定する!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
『――飛べ! 兄弟ッ!!』
「――はいっ!」
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:狙撃手のレンズ
「ぐ、ぅぅ…………」
上手く息が出来ん。吐く。
ダスト3に助け出されて、甲板に投げ出されて……それから……。
「――――」
ダスト3が、振り上げた手を振り下ろすのが見えた。
その手の向かう先には、ガキ共が使っていた流体甲冑があった。
それが機兵の手に潰され、黒い流体が辺りに飛び散る。
ガキが1人死んだ。
そう、思ったが――。
「無茶しやがる……!」
潰される直前、ガキが――スアルタウが前に飛んでいた。
流体甲冑は叩き潰された。
だが、あのガキ、流体甲冑から自分を射出させた。
巫術で流体を操り、咄嗟に自分を打ち出しやがった!
それでギリギリ、敵の攻撃を回避した……!
「わっ! うッ……?!」
打ち出されたスアルタウが、甲板の上を水切り石のように転がる。
大怪我しそうな勢いでダスト3の足下に飛び込み、脚部に小さな手を当てた。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
痛い。
でも、届いた。
触ることさえ、出来れば……!
「出てって!!」
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:使徒・■■■■■■
オークに渡していた操縦権を取り戻す。
くだらん遊びを入れた所為で、敵を殺し損ねた。
いや、敵が一枚上手だったのか?
『――――』
機兵の下方に魂が飛んでいくのが見えた。
その魂が、この機兵に触れ、巫術を行使してくる。
私から機兵を奪い返そうとしているようだが――。
『……弱いな』
力が足りていない。
悪くはないが、巫術師としてまだまだ未熟。
『――――』
自分で機兵を動かし、少年に向け、機兵の手を伸ばす。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
「うぅぅぅ~……!!」
巫術、がんばって、使ってるのに……!
ぜ、全然効かない……! すごい力で、押し返される!!
「う、わっ……!?」
機兵の手が伸びてくる。
今度こそ潰される。……そう思ったけど。
「…………?」
機兵の手が、ボクに届く直前でピタリと止まった。
ラートさんが操縦権を奪い返し、止めてくれた?
いや、違う。まだ敵の魂が見える。
「アル!!」
にいちゃんの声。
後ろから聞こえた。
「そのまま――押さえてろッ!!」
遠くから聞こえる。
でも、すごく、心強い声だった。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:狂犬・フェルグス
先に行っちまったアルを追う。
予想通り、無茶やったみたいだ。
後で叱ってやらねえと。
けど、その前に、やる事がある。
「オレ達の船から――」
敵がこっちに銃向けてくる。
ビビるなビビるなビビるな……!
攻撃手段なら、こっちにもある!
「出てけッ!!」
借りた携帯端末をブン投げる。
指が端末から離れる瞬間、端末に魂を移す。
上手くいくかわからない。
けど、これしかねえ。
『ッ…………!』
上手くいった。投げた携帯端末に魂を移せた!
あとは――。
『クソ巫術師がぁッ!!』
携帯端末が機兵に当たった瞬間、憑依を仕掛ける。
アルとオレ様。
マクロイヒ兄弟による同時憑依攻撃。
これでも――。
『追い出せねえのかよッ……!?』
敵の巫術の方が、メチャクチャ強え……!!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:水が怖いロッカ
『グローニャ!!』
『わかってるっ!』
船の流体装甲を鞭にして動かし、敵が操る機兵を無理矢理止める。
その隙に、グローニャの魂が宿っている機械の破片を敵に叩き込む。
オレも続く。憑依を仕掛ける。
4人がかりなら、さすがに……!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
「っ…………!」
操縦席にかかっていた圧が消える。
急ぎ、操縦を取り戻し、アルに向けて倒れ込もうとしていた機兵を止める。
「アル!! 大丈夫か!?」
『だ……だいじょうぶですっ! 今ので、敵の魂、帰っていきました!』
帰っていっただけ。
敵の本体は、まだ倒せてない。
『ラートさん! 近くの海から何か来ます!』
「なッ……!?」
水を掻き分け、水中から新手がやってくる。
タルタリカだ。
こいつら、海なんて泳げねえはずなのに……今は泳いでやがる!
「アル! フェルグス! 船の中に戻れ!」
咆哮を上げ、船に迫ってくるタルタリカに向けて撃ちまくる。
船の機関はまだ止まってる。
まだ、危機を脱したわけじゃない!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:水が怖いロッカ
ここは海じゃない、ここは海じゃない! 怖くない怖くない……!
必死に念じつつ、魂を船に戻す。
『機関はオレが動かす! 他のこと頼む!!』
星屑隊の隊員に頼みつつ、混沌機関に憑依する。
機関を強制停止させられてるけど、壊されたわけじゃない。
まだ動く。
まだ、助かる!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:狂犬・フェルグス
「アル! お前、ムチャして――」
自分の身体に戻り、アルのところに走ろうとした。
けど、船が大きく揺れて転ぶ。
「なっ――――」
新手。
機兵みたいにデカいタルタリカが、船に体当たり仕掛けてきた。
「わぁっ?!」
「アル!!」
アルはオレ以上に勢いよく吹っ飛び、そのまま海に――。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:狙撃手のレンズ
「あっ――――ぶねえッ!!」
飛び込み、海に落ちようとしていた巫術師の手を掴む。
ギリギリのところで手が届いた。
まだ身体が上手く動かねえが、コイツを船内に連れて逃げねえと……!
「っ……。一度、逃げるぞ!」
「は、はいっ……」
スアルタウの手を引き、船内に向かう。
途中、スアルタウの兄貴と合流し、何とか、船の中へ――。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
『ダスト1、ダスト3、ダスト4。まだ行けるな?』
『もちろん!』
「はい!」
『大丈夫です……!』
レンズの機兵は俺が操縦席を潰しちまったが、オレ達はまだ戦える。
ホバーで水上を走行しつつ、群がってくるタルタリカ共を殺していく。
動き出した船のために、逃走経路を切り拓く。
「――――」
アルが海に落ちかけていたが、レンズが助けてくれた。
レンズはアルとフェルグスを連れ、船内に避難していく。
敵はまだいるが、何とか……。何とか逃げよう。
「何者なんだ、アイツ……!」
俺達の機兵を乗っ取り、アルを殺そうとしたクソ野郎。
あの技は、明らかに巫術だった。憑依で機兵を奪ってきた。
けど……気のせいか?
「アイツ、アルを潰そうとした時……」
明らかに止まった。
アルが機兵の足下まで辿り着いた時、敵は機兵の手を伸ばした。
それでアルを潰そうとしていると思ったが……潰さなかった。止まっていた。
あそこで止まってくれないと、アルは本当に死んでいたかもしれない。
流体甲冑から出てきたのが「子供」だったから……それに気づいて手を止めたのか? もしくは同類だと……巫術師だと気づいて、躊躇った……?
『ラート! ボサっとしてんじゃねえ! 左舷の敵を止めろ!!』
「りょ……了解!」
考えるのは後だ。
今は、ここを切り抜けねえと。
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
『…………ふむ』
自分の手を眺める。
先ほど、あの巫術師を殺すつもりだった。
機銃による攻撃失敗。オークに任せた叩き潰しも失敗。
その後、自力で潰そうとしたが……。
『躊躇った? 私が?』
……巫術師の子供相手だからか?
やはり、私は鈍っているのか。……まだ本調子ではないようだ。
ネウロン人の子供を殺そうとしたのは、初めての事ではない。
以前は本気で殺しにかかった。奴が邪魔しなければ、何人も殺していた。
『……このままだと離脱されるな』
先程の部隊が、繊三号の射程圏外に逃げていく。
あの部隊。大きな脅威にはならないが、他より厄介な相手だ。
交国軍のくせに、巫術師達と手を取り合っている。
まだ拙い連携だったが、巫術への対抗手段が無い者達より厄介だ。
いま追って、確実に息の根を止めておくべきか否か。
『――――』
わからない。
判断ができない。
私には困難だ。
また、誤りを重ねるかもしれない。
『――当初の目的を果たす』
仮に再び相まみえる機会があるなら、その時に倒せばいい。
ただの巫術師風情では、私には勝てない。
『もういい。追わなくていい。……繊三号の掌握を急げ』
タルタリカ達に指示を飛ばす。
繊三号の掌握を優先しよう。




