表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
92/875

【スアルタウの死】



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:贋作英雄


『――――』


 機兵の手が降ってくる。


 この軌道。


 この視点。


 既視感が意識を締め付けてくる。


 ダスト3の一撃により、スアルタウ特別行動兵は死ぬ。


 圧死する。


 スアルタウ自身が回避を(・・・)考えていない(・・・・・・)


 この少年は壊れている。


 生き残ってしまったがゆえに、壊れてしまっている。


 死んでもラート軍曹を助けようとしている。


 それが少年の選んだ運命(ハッピーエンド)


 回避不能の絶望(バッドエンド)


『ハッ――――』


 だが今回(いま)は、私がいる(・・・・)


 私は運命(キサマ)を否定する!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『――飛べ(・・)! 兄弟(・・)ッ!!』


「――はいっ!」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狙撃手のレンズ


「ぐ、ぅぅ…………」


 上手く息が出来ん。吐く。


 ダスト3に助け出されて、甲板に投げ出されて……それから……。


「――――」


 ダスト3が、振り上げた手を振り下ろすのが見えた。


 その手の向かう先には、ガキ共が使っていた流体甲冑があった。


 それが機兵の手に潰され、黒い流体が辺りに飛び散る。


 ガキが1人死んだ。


 そう、思ったが――。


「無茶しやがる……!」


 潰される直前、ガキが――スアルタウが前に飛んでいた。


 流体甲冑は叩き潰された。


 だが、あのガキ、流体甲冑から自分を射出(・・)させた。


 巫術で流体を操り、咄嗟に自分を打ち出しやがった!


 それでギリギリ、敵の攻撃を回避した……!


「わっ! うッ……?!」


 打ち出されたスアルタウが、甲板の上を水切り石のように転がる。


 大怪我しそうな勢いでダスト3の足下に飛び込み、脚部に小さな手を当てた。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 痛い。


 でも、届いた。


 触ることさえ、出来れば……!


「出てって!!」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:使徒・■■■■■■


 オークに渡していた操縦権を取り戻す。


 くだらん遊びを入れた所為で、敵を殺し損ねた。


 いや、敵が一枚上手だったのか?


『――――』


 機兵の下方に魂が飛んでいくのが見えた。


 その魂が、この機兵に触れ、巫術を行使してくる。


 私から機兵を奪い返そうとしているようだが――。


『……弱いな』


 力が足りていない。


 悪くはないが、巫術師としてまだまだ未熟。


『――――』


 自分で機兵を動かし、少年に向け、機兵の手を伸ばす。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


「うぅぅぅ~……!!」


 巫術、がんばって、使ってるのに……!


 ぜ、全然効かない……! すごい力で、押し返される!!


「う、わっ……!?」


 機兵の手が伸びてくる。


 今度こそ潰される。……そう思ったけど。


「…………?」


 機兵の手が、ボクに届く直前でピタリと止まった。


 ラートさんが操縦権を奪い返し、止めてくれた?


 いや、違う。まだ敵の魂が見える。


「アル!!」


 にいちゃんの声。


 後ろから聞こえた。


「そのまま――押さえてろッ!!」


 遠くから聞こえる。


 でも、すごく、心強い声だった。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狂犬・フェルグス


 先に行っちまったアルを追う。


 予想通り、無茶やったみたいだ。


 後で叱ってやらねえと。


 けど、その前に、やる事がある。


「オレ達の船から――」


 敵がこっちに銃向けてくる。


 ビビるなビビるなビビるな……!


 攻撃手段なら、こっちにもある!


「出てけッ!!」


 借りた携帯端末をブン投げる。


 指が端末から離れる瞬間、端末に魂を移す。


 上手くいくかわからない。


 けど、これしかねえ。


『ッ…………!』


 上手くいった。投げた携帯端末に魂を移せた!


 あとは――。


『クソ巫術師(ドルイド)がぁッ!!』


 携帯端末が機兵に当たった瞬間、憑依を仕掛ける。


 アルとオレ様。


 マクロイヒ兄弟による同時憑依攻撃。


 これでも――。


『追い出せねえのかよッ……!?』


 敵の巫術(ちから)の方が、メチャクチャ強え……!!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:水が怖いロッカ


『グローニャ!!』


『わかってるっ!』


 船の流体装甲を鞭にして動かし、敵が操る機兵を無理矢理止める。


 その隙に、グローニャの魂が宿っている機械の破片を敵に叩き込む。


 オレも続く。憑依を仕掛ける。


 4人がかりなら、さすがに……!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


「っ…………!」


 操縦席にかかっていた圧が消える。


 急ぎ、操縦を取り戻し、アルに向けて倒れ込もうとしていた機兵を止める。


「アル!! 大丈夫か!?」


『だ……だいじょうぶですっ! 今ので、敵の魂、帰っていきました!』


 帰っていっただけ。


 敵の本体は、まだ倒せてない。


『ラートさん! 近くの海から何か来ます!』


「なッ……!?」


 水を掻き分け、水中から新手がやってくる。


 タルタリカだ。


 こいつら、海なんて泳げねえはずなのに……今は泳いでやがる!


「アル! フェルグス! 船の中に戻れ!」


 咆哮を上げ、船に迫ってくるタルタリカに向けて撃ちまくる。


 船の機関はまだ止まってる。


 まだ、危機を脱したわけじゃない!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:水が怖いロッカ


 ここは海じゃない、ここは海じゃない! 怖くない怖くない……!


 必死に念じつつ、魂を船に戻す。


『機関はオレが動かす! 他のこと頼む!!』


 星屑隊の隊員に頼みつつ、混沌機関に憑依する。


 機関を強制停止させられてるけど、壊されたわけじゃない。


 まだ動く。


 まだ、助かる!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狂犬・フェルグス


「アル! お前、ムチャして――」


 自分の身体に戻り、アルのところに走ろうとした。


 けど、船が大きく揺れて転ぶ。


「なっ――――」


 新手。


 機兵みたいにデカいタルタリカが、船に体当たり仕掛けてきた。


「わぁっ?!」


「アル!!」


 アルはオレ以上に勢いよく吹っ飛び、そのまま海に――。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狙撃手のレンズ


「あっ――――ぶねえッ!!」


 飛び込み、海に落ちようとしていた巫術師(スアルタウ)の手を掴む。


 ギリギリのところで手が届いた。


 まだ身体が上手く動かねえが、コイツを船内に連れて逃げねえと……!


「っ……。一度、逃げるぞ!」


「は、はいっ……」


 スアルタウの手を引き、船内に向かう。


 途中、スアルタウの兄貴と合流し、何とか、船の中へ――。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


『ダスト1、ダスト3、ダスト4。まだ行けるな?』


『もちろん!』


「はい!」


『大丈夫です……!』


 レンズの機兵は俺が操縦席を潰しちまったが、オレ達はまだ戦える。


 ホバーで水上を走行しつつ、群がってくるタルタリカ共を殺していく。


 動き出した船のために、逃走経路を切り拓く。


「――――」


 アルが海に落ちかけていたが、レンズが助けてくれた。


 レンズはアルとフェルグスを連れ、船内に避難していく。


 敵はまだいるが、何とか……。何とか逃げよう。


「何者なんだ、アイツ……!」


 俺達の機兵を乗っ取り、アルを殺そうとしたクソ野郎。


 あの技は、明らかに巫術だった。憑依で機兵を奪ってきた。


 けど……気のせいか?


「アイツ、アルを潰そうとした時……」


 明らかに止まった。


 アルが機兵の足下まで辿り着いた時、敵は機兵の手を伸ばした。


 それでアルを潰そうとしていると思ったが……潰さなかった。止まっていた。


 あそこで止まってくれないと、アルは本当に死んでいたかもしれない。


 流体甲冑から出てきたのが「子供」だったから……それに気づいて手を止めたのか? もしくは同類だと……巫術師だと気づいて、躊躇った……?


『ラート! ボサっとしてんじゃねえ! 左舷の敵を止めろ!!』


「りょ……了解!」


 考えるのは後だ。


 今は、ここを切り抜けねえと。




■title:繊三号にて

■from:使徒・■■■■■■


『…………ふむ』


 自分の手を眺める。


 先ほど、あの巫術師を殺すつもりだった。


 機銃による攻撃失敗。オークに任せた叩き潰しも失敗。


 その後、自力で潰そうとしたが……。


『躊躇った? 私が?』


 ……巫術師の子供相手だからか?


 やはり、私は鈍っているのか。……まだ本調子ではないようだ。


 ネウロン人の子供を殺そうとしたのは、初めての事ではない。


 以前は本気で殺しにかかった。奴が邪魔しなければ、何人も殺していた。


『……このままだと離脱されるな』


 先程の部隊が、繊三号の射程圏外に逃げていく。


 あの部隊。大きな脅威にはならないが、他より厄介な相手だ。


 交国軍のくせに、巫術師達と手を取り合っている。


 まだ(つたな)い連携だったが、巫術への対抗手段が無い者達より厄介だ。


 いま追って、確実に息の根を止めておくべきか否か。


『――――』


 わからない。


 判断ができない。


 私には困難だ。


 また(・・)、誤りを重ねるかもしれない。


『――当初の目的を果たす』


 仮に再び相まみえる機会があるなら、その時に倒せばいい。


 ただの巫術師風情では、私には勝てない。


『もういい。追わなくていい。……繊三号(ここ)の掌握を急げ』


 タルタリカ達に指示を飛ばす。


 繊三号の掌握を優先しよう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ