少年兵殺し
■title:繊三号にて
■from:星屑隊隊長
繊三号の外縁部が見えてきた。
あと少し。あと少しで母艦との合流地点に到達する。
『ダスト2、合流します』
フェルグス特行兵と共に、敵を引きつけていたダスト2も合流してきた。
後は――。
「ロッカ特行兵。フェルグス特行兵。殿を任せる。敵を足止めしろ」
『了解!』
『任された! アルとヴィオラ姉、ちゃんと守ってくれよ!』
巫術師2人と別れ、海へと飛び出す。
「総員。着水のショックに備えろ」
念のため警告しつつ、繊三号に残って敵を押しとどめている特行兵2人の身体を支える。大きく揺れたが、無事に着水。
星屑隊の機兵が水上をホバー移動し、先回りしていた母艦に到達。
『隊長ー! ご無事ですか!?』
「全員無事だ。繊三号から離脱するぞ」
1人忘れてしまったが、離脱する。貴い犠牲だった。さらば技術少尉。
一般人に紛れ込んでくれれば殺されないはずだ。健闘を祈る。
『着艦完了。さあ、皆下りてください』
我々を運んでいたダスト4のみが船に乗り込み、格納庫内で跪く。
急ぎ、機兵から下り、各員に持ち場に走るよう告げる。
「第8はここで待機。すまんがお前達を医務室に運んでる暇はない」
「わかりました……!」
まだ魂の戻ってきていない特行兵2人の身体を抱え、格納庫の端に移動させる。
繊三号から十分な距離を取るまで、修羅場は続く。
敵側に巫術師がいる以上、状況次第では機兵対応班の機兵に憑依させなければならない。介抱している暇もない。
「ヴァイオレット特行兵、念のため、船のヤドリギも起動しておけ」
1人護衛をつけ、ヤドリギに走らせる。
着艦していたダスト4が再び出撃し、船外で戦闘中のダスト1、ダスト2、ダスト3の応援に回っていく。
『繊三号の流体装甲が起動しています! 砲塔展開中!!』
「妨害しろ」
こちらに向いた砲塔を展開中のところに射撃させ、妨害させる。
だが、数が多い。全ては止めきれない。
繊三号から飛んできた砲弾が船に命中し、凄まじい轟音が鳴り響く。
『み、みんな大丈夫!?』
「よく防いだ。グローニャ特行兵」
こちらの船にも混沌機関は搭載されている。
船も流体装甲は使用可能だ。
「グローニャ特行兵。指定した地点以外の防御だけ固めておけ」
『ぜ、全部に装甲張らなくていいの!?』
「装甲を展開しすぎると船の速度が落ちる。最低限でいい」
機関関係と指揮所、格納庫を守ればいい。
多少、船に穴が空いたところで流体装甲で誤魔化せる。
後で航行不能になろうと、敵を振り切った後なら一向に構わん。多少の被弾は覚悟し、防御を集中している区画に人を集めて人員も守る。
「繊三号は……まだ完全に落ちていない。全力砲撃が出来ていない」
繊三号は基地として脆弱で、動かすのに大量の混沌が必要という弱点がある。
だが、固定砲台と化した繊三号は大きな脅威になる。
基地の流体装甲で多数の砲塔を展開されると、地形が変わるレベルの砲撃が行える。敵も繊三号を掌握しきれていない様子のため、今はまだマシだが――。
「離脱に時間をかけていたら、敵が全力砲撃態勢に入る。そうなったらこの船では持ちこたえられない。防御を薄くしてでも、逃走を急げ」
『わかった!』
ただ、全力砲撃が出来ていなくても、十分な脅威だ。
射程外まで逃げ切れるかどうか……。
『隊長! 陸地に機兵が! 数は少ないですが――』
「敵の新手か?」
『いえ、時雨隊です! 通信、繋ぎます!』
『やあ、ネジ中尉。生きてるか?』
第十三次殲滅作戦の現場指揮官を務める予定だった時雨隊の長。
ドライバ大尉からの通信。
どうやら自ら機兵を駆り、部下を引き連れてやってきて、陸地側から砲撃支援を開始してくれたようだ。これで敵の攻撃も、少しはマシになる。
何とか――繊三号の全力砲撃前に――離脱できるかもしれん。
■title:繊三号近郊の陸地にて
■from:時雨隊隊長・ドライバ大尉
繊三号に移動中――どうにも基地の様子がおかしいと気づき――機兵対応班だけ連れて偵察しに来た甲斐があった。
ただ、何が起こっているかいまいち理解できん。
友軍が友軍に向け、攻撃しているようにしか見えん。
反乱でも起きたのか? このタイミングで……? そんな馬鹿な。
「ネジ中尉。簡潔に情報をくれ」
『繊三号は敵の手で陥落します。敵は交国軍の兵器を使用中』
「奪還は不可能か?」
『はい』
「よし、じゃあ退くか。出来るだけ援護する!」
繊三号に向け、さらに砲撃を重ねる。
撤退中の星屑隊の母艦への射線上からズレ、敵の砲撃をこちらにも散らす。
単なる砲撃なら丘に隠れながら砲撃していれば、大した被害にはならん。
ただ、こっちの攻撃も致命打にはなるまい。
繊三号のような移動式海上基地は、通常の陸上基地より脆い。浮島本体に攻撃を受ければ、流体装甲による応急処置程度しか出来ん。
陸上基地なら滑走路等に大穴が空いたところで、盛り土と舗装で修復可能だが、繊三号のような基地はその手が使えない。ゆえに脆い。
だが……数機の機兵の砲撃で落とせるほど脆くはない。
「殲滅作戦だけでも面倒なのに、面倒ごとを増やしおって……」
いや、そもそも殲滅作戦が出来る状況じゃないか。
とりあえず、この場を凌ごう。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:星屑隊隊長
敵の砲撃が星屑隊と時雨隊に向かい、バラける。
これなら何とか待避できそうだが――。
「整備長。ドローンは出せるか?」
「出せるっちゃ出せるけど、撃ち落とされるかもよ?」
「構わん。船の離脱が最優先だ」
敵は手当たり次第に攻撃してきている。
繊三号上空を飛ぶドローンに食いつき、さらに砲撃がバラけるなら好都合だ。
「可能な限り、情報を収集しながら逃げたい。オペレーターも指揮所に到達する頃合いだ。彼らにドローンを使わせて――」
「ぼ、ボクが行きますっ!」
格納庫の端で休んでいたスアルタウ特行兵が、ヨタヨタと近づいてくる。
顔色は良くない。だが、自立できる程度までは回復している。
「ボクがドローンを飛ばして、巫術も使って偵察してきますっ!」
「わかった。行け。バレット一等兵、彼を頼む」
「わ、わかりました! スアルタウ、俺に掴まってくれ」
バレット一等兵がスアルタウ特行兵を抱き上げ、ドローンに向けて走る。
巫術の眼によって、何かわかればいいが――。
「――ダスト2。貴様は甲板に上がれ」
船外で応戦中のレンズ軍曹に向け、命令を飛ばす。
『いま、オレが乗ったら船足が――』
「貴様の射撃精度を上げたい。移動は船に任せて、敵の妨害に集中してくれ」
『なるほど了解! 上がります!』
機兵の重みで船足が少し鈍るが、仕方ない。
レンズ軍曹の狙撃能力ならお釣りが来る。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:甘えんぼうのグローニャ
『み、みんな、おかえり~……』
指揮所に走って入ってきた皆に「おかえりなさい」を言う。
グローニャ、もうヘロヘロだけど……もうちょっとがんばらなきゃ~……。
「グローニャ、操縦代わる。船はそのままで操縦権を渡してくれ」
『うん……』
「よしよしよし、よく頑張った! 後は休んでてくれ!」
『うぅ……。ごめぇん……』
「謝るな! お前が頭痛に耐えながら踏ん張ったから、今なんとかなってんだ!」
「後は我々に任せろ」
『うん……。うん。みんな、がんばって~……』
自分の身体に戻る。
あたまいたすぎて、うまく、身体が動かない……。
「せ、せんせぇ……。みず……」
傍にいてくれたキャスター先生にお願いする。
自分で動けないから、先生の手で水を飲ませてもらう。
「ちょっとだけ、やすむ……。寝そうになったら、おこして……」
みんな、まだ戦ってる。
ちょっと休んだら……グローニャも、戦わなきゃ……。
■title:繊三号にて
■from:狂犬・フェルグス
星屑隊の船が離れていく。
けど、まだ逃げ切れてない。
オレ達が繊三号で敵を引きつけて、踏ん張らないと……!
『ロッカ! まだ行けるよな!?』
『キツイ! 機兵の乗り換えしたいんだけど……!!』
さっきまでガンガン斬りかかってきた奴らが、射撃に集中し始めた。
あの野郎共、こっちの憑依を警戒してやがる。
……警戒しないといけないって事は、向こうの巫術はオレ達より弱いって事だ。オレ達の憑依を強引に押しのけるだけの力は無いザコって事だ。
ザコだけど、さすがに……数が多い!!
『うわっ!?』
『ロッカ!? くそっ……!!』
敵機兵の砲撃をモロに食らったロッカが倒れ、そこにザコ共が群がってくる。
ほどほどに近づいて、トドメの攻撃をバンバン撃ってきている。
ロッカが「すまん、先に戻る!」と言った次の瞬間、耐えきれなくなった機兵が爆発した。これで1対いっぱいだ。余計にキツくなったが――。
『フェルグス特行兵。もう少し耐えてくれ。スアルタウ特行兵のドローンが飛ぶ』
『…………! わかった!』
あちこちから撃ってくるザコ共の攻撃を防ぐために、盾を作って無理矢理耐える。巫術で流体装甲を操作し、関節を無理矢理守る。
亀みたいに縮こまるしかなくなるけど、まだ引きつけてやる……!
『余所見すんな! ボケッ!!』
船から飛び立ったドローンに向け、銃を向けたボケ機兵に向けて盾を投げる。
ドローンを――アルを撃とうとしているボケ共に攻撃する。
アルが大空に飛び上がっていく。よし、あれぐらいの高さまで飛べれば――。
『ぐッ……!!』
敵の砲弾が何発も突き刺さる。
オレの意志に反して、機兵が膝を折る。
くそっ……。ここらが限界か……。
『テメエら、どこの巫術師だ!!』
スピーカーを使って叫ぶ。
敵の攻撃の所為で雑音だらけだったが、何とか声を発せた。
敵の返事はない。
敵機兵は、巫術師が操っているはずだ。
いったい、どこの奴らだ。……他の実験部隊か?
『今度会ったら、タダじゃ――――』
返答代わりの砲撃がバンバン飛んでくる。
機兵を捨て、身体に戻る。
「っ…………」
「よくやった、フェルグス特行兵」
格納庫の床に寝かされた自分の身体に戻る。
身体が重い。頭もくらくらする。
「まだ行けるか?」
「ら、楽勝だっつーの……!」
「立てるか?」
隊長に言われ、身体を動かそうとした。
ダメだ。まだ、動けねえ。
くそ……! 敵が好き勝手暴れ出して、誰か殺した所為で……まだ、頭が割れるように痛い。手足も言うこと聞かねえ。
「ロッカ特行兵と休んでいろ」
「す、直ぐ、復活してやっから……」
少しだけ休ませてもらう。
どこかから戻ってきたヴィオラ姉が、「フェルグス君! ロッカ君!」と叫びながら駆け寄ってきた。くそー……情けない姿、見られちまった。
「大丈夫!? 頭痛は――」
「……全然大丈夫だけど、鎮痛剤足してくれ。ヴィオラ姉……」
「ダメに決まってるでしょ……! 1本だけでも危ないのに!」
まだアルが戦ってんのに……!
くそ。くそっ、くそっ……!
少しだけ休んだら、もう1回……。
もう1回、憑依して戦ってやる……!
■title:繊三号上空にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
『町が……』
機兵が暴れ回ったことで、ムチャクチャになってる。
そこら中で火事が起きていて、そこら中で逃げ回っている魂が見える。
繊三号の地下でも何かが暴れてる。
魂だけでも、人間の動きじゃないってわかる。
……アレ、見たことある。まさか、地下に……。
『――――』
地下だけじゃない。
海の中もおかしい……!
『隊長さん! 海の中に何かいます! それもたくさん……!!』
『魚ではないのか?』
『違います! 魚なら、爆発の音にビックリして逃げてるはず……!』
それなのに、いま海の中にいる「変な魂」は逃げていない。
けど、その場にジッとしているわけでもない。
ズラズラと列を作って、繊三号の下側に向かっている。
普通の生き物が、あんな動きを……軍隊みたいな動きをするはずがない!
その列をよく見ると、列の先頭が繊三号各地に走っていくところだった。
繊三号に上陸した列の先頭が見えた。アレは――。
『タルタリカです! タルタリカが、軍隊みたいに動いてます!』
あそこまでしっかり列を作っているの、初めて見た。
今まではもっと、ケモノっぽい動きだったのに……!
いや、動きよりもっとおかしい事がある。
『海中にいるのも、多分、タルタリカです! タルタリカが水を克服してる!!』
『――――』
『それと、繊三号の反対側からも何か上陸してきて――』
海から何かが上がってくる。
それはタルタリカじゃなかった。
けど、見覚えのある「兵器」だった。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:星屑隊隊長
スアルタウ特行兵のドローンが捉えた映像を拡大する。
反対側の海から、「交国軍の兵器」が繊三号に上陸してくる。
あれは――。
『交国軍の機兵です! それに、あれ……アレって……!!』
「――行方不明だった明星隊の機兵か」
機兵の流体装甲に刻まれた刻印が、資料で見た明星隊のモノと同じだ。
ニイヤドから逃げて以降、行方不明だった明星隊の機兵がいる。
それだけではなく、他にも交国軍の機兵が上陸してくる。
だが、基地で暴れていた機兵も、タルタリカも、それに注意を払わない。
仲間のように受け入れている。
『もう一機上がってきます! アレも交国軍の――』
ドローンの映像が一瞬、乱れた。
あれは……私の知る交国軍の機兵ではない。
おそらく、機兵ではあるのだろう。
だが、異形の機兵だった。
汚らしい外套を着込み、長い杖らしきものを握っている。
顔は羊……いや、角を有する山羊のように見える。
機兵なのに、魔物が融合した機兵に見えた。
その機兵に対し、他の機兵は取り巻きのように付き従っている。
繊三号の地表部に出てきたタルタリカ達も、山羊頭の機兵に傅いている。
それが魔物の王――魔王であるかのように。
「ァ……ア……」
「――――」
横に視線を向ける。
そこに寝かされていたスアルタウ特行兵が、上体を起こしている。
偵察に出たドローンに憑依していたはずだが――。
「スアルタウ特行兵?」
「ぁ、ぅ……! ご、ごめんなさいっ……! 怖くて、憑依、解いちゃって……」
怖い?
戦闘は今に始まった事でもないのに、恐怖した?
巫術師として、何か、本能的な恐怖を抱いたのか?
ネウロン人が雷を怖がるように――。
「ご、ごめんなさい! ぼく、直ぐに……!」
「気にするな。操作はオペレーターが引き継いで――」
端末の画面が真っ暗になった。
ドローンのカメラが、何も映さなくなった。
そうなる一瞬前。
山羊頭の機兵が、こちらを見たような――。
「――ドローンはどうなっている? 撃墜されたのか?」
『いえ、健在です! 健在なんですが……こちらの操作を受け付けません!!』
■title:繊三号にて
■from:使徒・■■■■■■
『――――』
あの飛行物体に魂が見えた気がしたが、勘違いか?
不甲斐ない。私は、まだ寝ぼけているのか。
『少しずつ、慣らしていくか……』
手始めに、この飛行物体を使おう。
この水上都市から逃げている船。
アレは先日、ケナフで我々の邪魔をしてきた部隊だな。
先日の返礼をさせてもらおう。
■title:繊三号近海にて
■from:死にたがりのラート
『機兵対応班。ドローンを撃ち落とせ!』
「――――」
隊長からの命令。
あのドローンは、ウチのドローンだ。
いま、スアルタウが憑依していたはずだが――。
「着艦するには、その速度は速すぎねえか……!?」
『あのドローンは敵だ。敵に乗っ取られている!』
言われた通りに銃を向ける。
ドローンが上空から高速で飛び込んでくる。まるで、誘導弾みたいに。
迎撃のために撃ったが、こちらの射線などお見通しかのように回避しやがった。
このままじゃ船にドローンが突っ込む――。
「おっ……! さすが、ダスト2!」
甲板に上がっていたレンズが、見事、一撃で仕留めた。
船に激突しようとしていたドローンが、弾丸で粉みじんになって降ってくる。
あの程度の破片なら、船も機兵も大したダメージは負わない。
そう、思ったのに――――。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:星屑隊隊長
「機関停止! 混沌機関が強制停止しました……!?」
「――――」
憑依だ。
敵巫術師が、ドローンも船も憑依で奪ってきた。
空を飛んでいたドローンが、どうやって強奪されたかはわからない。
だが、今のはわかる。
敵は爆散したドローンの破片経由で、船に接触してきた。
遠隔憑依。
基地で戦闘が始まる前に、グローニャ特行兵が機兵に憑依出来ていたのは……敵のヤドリギの影響か! 敵もあのアンテナを持っているのか? 何故?
いや、それを考えるのは後でいい。
「艦が乗っ取られた! 巫術師! 憑依で取り戻せ!!」
「やってる! けど……!!」
フェルグス特行兵が動いている。
魂の動きで、いち早く異常に気づいたらしい。
床に手をつき、巫術を行使しているようだが――。
「弾かれる! さっきの機兵共の比じゃねえッ!! 敵の魂を追い出せねえ!」
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:狂犬・フェルグス
憑依しようとしても、力業で押し返される。
船を取り返せない……!?
オレ1人じゃ無理――――。
「アル! ロッカ! 手ぇ、貸してくれッ!!」
「「――――」」
アルとロッカも床を叩く。
巫術を叩き込む。
3人がかりなら――。
「よしっ! 取った!!」
ロッカの身体から力が抜けていくのが見えた。
ロッカの魂が船に憑依した。
これで、船を取り返して――。
「――違う!」
アルが甲板の方を見て、叫んだ。
甲板上には機兵1機。
魂も1人分しか無いはずだった。
魂が、いつの間にか2人分見えている。
「追い出したんじゃない! 自分で出ていったんだっ!」
「なっ……!?」
「甲板にいるレンズさんが危ない!!」
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:狙撃手のレンズ
「――――」
足下が崩れる感触がした。
これは、前に味わった事がある。
模擬戦で、巫術師とラートと戦った時と同じ感触。
巫術で機兵を奪われる感触。
「ッ……?!! ぐぉッ……!!」
操縦室の壁が、一気に押し迫ってきた。
操縦が効かねえどころか、これ、潰され――――。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
「レンズ!!」
通信機越しにアルの叫び声を聞き、船の甲板に飛び上がる。
ダスト2の流体装甲が、沸騰するみたいにゴボゴボと蠢いている。
憑依でダスト2を操作し、レンズを流体装甲で殺すつもりだ!
こっちの流体装甲も変形させる。
右手を鉤爪形態にし、操縦席に叩き込む。
「間に合えッ……!!」
操縦席からレンズを抉り出す。
流体装甲を変形させていた事で、装甲が緩んでいたのが幸いした。
レンズ、骨折ぐらいしてるかもだが、何とか無事を祈るしか――。
「あ――――やべ」
機兵が言う事を聞かなくなった。
俺の操作を全く受け付けん。
やべえ、今度は俺か!?
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:肉嫌いのチェーン
『ラートさんの機兵がっ!!』
「めんどくせえ事を……!」
スアルタウの悲鳴のような警告を聞きつつ、ダスト3に続いて甲板に上がる。
ナイフを生成したダスト3が、それを自分の操縦席にぶっさそうとしていたので撃って強引に止める。何とかギリギリ、ナイフは折った。
けど、どうする?
どうやって止めるよ!?
敵に回った巫術師って、ここまで手強いのか……!?
『副長さんっ! あぶない!!』
「ぐっ……!!」
斬りかかってきたダスト3の攻撃を、苦し紛れに左腕で止める。
流体装甲で無理矢理受けたが――。
『副長! 駄目です! 操縦席から逃げ――』
「悪い。一手遅かったぁ……」
今度はオレの機兵が奪われた。
コイツ、振り下ろした刃越しに、こっちの機兵に移ってきたな。
こんなの防御無視攻撃じゃねーか……!!
「テメエら! オレごと撃て!!」
『し、しかし……!』
オレの機兵の銃を使い、敵が発砲する。
こちらに銃を向けたものの、躊躇っていたダスト4に命中した。
弾倉への誘爆が発生し、ダスト4が爆炎に包まれる。
ひょっとして、オレ達、もう詰んで――。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
助けなきゃ。
「――アル!?」
助けなきゃ。
「ばか! 待て……!!」
ラートさんを、助けなきゃ!!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
副長のおかげで何とか死なずに済んだが、今度は副長が……!
「クソ!! テメエ、何者だ!? どこの巫術師――」
カンッ、と音を響かせ、機兵の脚部に短剣が突き刺さった。
敵が投げてきた。突き刺さった。
普通なら、こんなの致命傷じゃない。
だが、相手は普通じゃない。巫術を使っている。
「っ……!!?」
刺さった短剣越しに、俺の機兵が乗っ取られ――。
『ラートさんっ!』
アルの声が聞こえた。
甲板に、黒い大狼が飛び出してきた。
アルが流体甲冑を着込んで、甲板に出てきて――。
『ラートさんを返せっ! 返せーーーーっ!!』
「アル!」
大狼が飛び込んでくる。
俺の機兵が機銃を生成した。
銃口は当然、大狼に向いている……!
「やめろッ!! 撃つなぁーーーーッ!!」
機銃から銃弾が放たれる。
弾は――何とかアルに当たらなかった。
何故かあらぬ方向へ飛んで行った。
俺が操縦権取り戻そうと、暴れている影響か?
「クソがッ! 俺の機兵から出て行きやがれ!!」
出来る事をやる。
暴れる。
暴れて、少しでも敵の操作を邪魔してやらぁ!!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:使徒・■■■■■■
操縦席でオークが無駄な足掻きをしている。
そうか。
そんなに操縦をしたいなら――。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
『ラートさんっ! いま助けるからっ!』
あらぬ方向に機銃が撃たれる中、アルがこっちに突っ込んでくる。
機兵が手を振り上げた。
マズい。
機兵の手でアルを迎撃するつもりか。
アルは流体甲冑を纏っているとはいえ、機兵の手が直撃したら――。
「あ、アルっ! 来るな!!」
暴れつつ、叫ぶ。
止めないと。
機兵の手か、アルを――。
「っ…………!?」
機兵の手が振り下ろされる。
その瞬間、操縦権が戻った。
「――――」
不意に操作が戻ってきた。
だが、反応できない。
もう、止められな――――。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:使徒・■■■■■■
憑依したまま、権限を一時、オークに戻してやる。
戻してやったが、機兵は止まらない。
オークが暴れる動きに連動し、その手は勢いよく下に――。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
『わああああぁぁ~~~~っ!!』
「やめろぉーーーーーーーッ!!」
機兵の手が振り下ろされる。
手の先にあった大狼が、弾けた。
黒い流体を飛び散らせ、弾けた。
機兵の手が、アルを叩き潰した。
俺が、潰した。
 




