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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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「忘れてた」



■title:繊三号にて

■from:狙撃手のレンズ


 頭上でけたたましい跳弾音が響き渡る。


 オレ達の身体を抉るはずだった散弾は、「盾」に当たった。


 オレ達の頭上に形成された流体装甲の盾に阻まれ、整備工場の外に向けて跳んでいった。ギリッギリのタイミングだった。


 何とか助かったが、まだ敵機兵が……!


『にゃあああああああんっ!!』


 散弾をブッ放した機兵が、別の機兵の体当たりを受けて吹っ飛ぶ。


 体当たりを仕掛けた機兵は、整備工場内から出てきた。


 見覚えのある機兵。いや、そりゃ当たり前だ。


 オレの機兵だ!


「なっ……!?」


 なぜか勝手に動き出し、流体装甲を展開してオレ達を散弾から守り、さらには敵機兵へ攻撃を仕掛けてくれた。……つーか、いまの声、聞き覚えあるぞ。


『レンズちゃんっ! ラートちゃんっ! だいじょーぶ!?』


「その声、まさかチビ助(グローニャ)か!? なんでここに――」


「前を見ろ! グローニャ!」


『わっ……!』


 体当たりで吹き飛んだ敵が体勢を立て直し、斧を生成して斬りかかってきた。


 チビ助が操るオレの機兵はそれを盾で受け、機兵の外部スピーカーを使って「2人共、逃げて!」と叫んできた。


「ラート!」


「わかってる……!」


 ラートを自分の機兵に走らせる。


 その次の瞬間、チビ助が敵の攻撃に押され、尻餅をついてきた。


 それを避けつつ、「防御に専念しろ! 攻撃は考えなくていい!」と言っておく。そうこうしているうちに――。


『グローニャから離れろ!』


 ラートが自分の機兵を駆り、敵機兵を蹴り飛ばした。


 そして大楯を生成しながら敵の射撃を防ぎ、体当たりでさらに吹っ飛ばした。最後に大楯をブン投げて、大楯を受け損なった敵機兵を海に落とした。


 とりあえず、手近の敵は対処した。


 倒せてはいないが、直ぐには上がってこれないだろう。


 ……つーか、いまの機兵、どう見ても繊三号守備隊の機兵だったよな……?


『レンズちゃん! そこ危ないから乗って!』


 チビ助が機兵の手を伸ばし、オレを操縦席に導いてくれた。


 操縦席内にチビ助の姿はない。


 当たり前だ。さっきまでオレが乗ってたんだ。という事は……こいつ、どっかのタイミングから機兵に憑依してたって事か?


「お前、何でオレの機兵に憑依してる。整備工場(ここ)に来てたのか? 身体はどこにある? さっさと避難しろ!」


『お、お船の方にあるよぅ』


「は? 船に乗ってんのか!」


『そうそう。だから逃げなくてダイジョーブ』


「誰の許可で機兵に憑依してる。コイツはお前の私物じゃ――」


 再び爆発音が響く。


 今度は2連続。


 ここ以外でも戦闘が発生している。


 陸地での戦闘なら問題ないが、どう見ても繊三号で戦闘が起きている。


 今まで、無敵の海上要塞だった繊三号が――。


「――とにかく船に戻れ!」


『わ、わかったぁ! 急いで機兵で戻――』


「違う! 憑依を解いて、医務室に走れ!」


 この状況はマズい。


 おそらくチビ助は、鎮痛剤を打ってない。


 つーことは、前に巫術師(スアルタウ)を偵察に連れて行った時みたいに――。


『な、なんでっ? ここ、安全――――ぎゃぅッ?!!』


「チビ助!!」


 機兵が突如、力を無くした。


 多分、チビ助の憑依が剥がれた。


 急ぎ、オレの操作に切り替え、何とか転倒は免れたが――。


「こちらダスト2! 誰か、格納庫に急いでくれ! チビ助――グローニャが倒れているはずだ!! 直ぐにキャスター先生も向かわせてくれ!!」


 おそらく、繊三号のどこかで死人が出た。


 それを感じ取ったチビ助の脳にダメージが入った。


 ……急に憑依が剥がれたって事は、相当のダメージが入ったはず。


 最悪、即死――。


「っ……! ラート! 他のガキ共にも連絡を取れ! 鎮痛剤打たせろ!」


『いま連絡中だ! レンズは隊長に連絡してくれ!!』


 死人が出たって事は、これは訓練じゃねえ。


 特定の馬鹿がカッとなって起こした事件じゃねえ。


 繊三号全体で戦闘が発生しているなら、計画的な蜂起だ。


「隊長。繊三号内で戦闘発生中です。オレの機兵に憑依していた巫術師が、巫術で死を感じ取りました! こいつは実戦です!!」


 そう報告していると、さらに敵がやってきた。


 繊三号守備隊の機兵だが、オレ達への敵意を隠さず接近してくる。


「ダスト3! 新手だ! 応戦しつつ移動するぞ!」


『了解! おい! アンタらも待避してくれ!』


 整備兵に警告しつつ、整備工場から距離を取る。


 取ったが、敵はオレ達に食いつかず、整備工場の方に取り付いた。


 奴ら、整備工場にある機兵を押さえようとしてんのか……!?




■title:繊三号にて

■from:星屑隊隊長


 基地司令のところに向かうのを中断し、隊員達に指示を伝える。


 巫術師が死を感じ取ったという事は、単なる模擬戦とは考えにくい。


 基地内にいる者達は、まだそう遠くに行っていないはず。


 それがこちらに来るのを待ちつつ、母艦に連絡を取る。


「キャスター軍医少尉。グローニャ特別行動兵の容態は? ……生きているんだな? なら、巫術で船を出させろ。危険? この状況から脱するのが優先だ」


 いま、母艦には船を動かせるだけの人員がいない。


 だが、巫術師なら1人でも動かせる。


 繊三号が「計画的な襲撃」をされているのであれば、船着き場も危険だ。


 合流予定地点を伝え、航行を開始させる。


「ダスト1。貴様は機兵内で待機しつつ、船の指揮と護衛を頼む」


『了解!』


「ダスト4、繊三号に上がってこい。星屑隊以外の全ての機兵を警戒しろ」


『了解』


 幸いと言うべきか、副長とパイプはまだ船内にいた。


 ダスト2とダスト3も機兵と共にいる。星屑隊の戦力は十分使えるが――。


「隊長! なにが起きてるんすか!?」


「な、なんかスアルタウ達が急に苦しみだして……!」


 第8の護衛としてつけていた隊員達が、ぐったりとした子供達を背負って走ってきた。他の隊員もやってきた。これで全員揃ったな。


 ヴァイオレット特別行動兵に巫術師達の容態を問う。


 念のため携帯していた鎮痛剤を打ったそうだが、鎮痛剤を打つ前に死を感じ取ってしまったらしい。だが、こちらの巫術師達も死んではいない。


 フェルグス特別行動兵と、ロッカ特別行動兵の意識はハッキリしている。ただ、自力で移動するのは難しい状態だ。移動は隊員らに背負わせて行わせる。


 スアルタウ特別行動兵は……息はしているが、朦朧としている。


 船にいるグローニャ特別行動兵も脳にダメージを受けている様子だが、第8の全員にも協力してもらわねば。最悪、巫術師以外も全員死亡する。


「い、いったい、何が起こってるんですか!? ここって海上都市ですよね……!? タルタリカは攻めてこれないんじゃ――」


「暴れているのは機兵だ。今のところはな」


 とにかく移動を開始する。


 船との邂逅地点に急ぐ。


 基地内の戦闘音が収まってきているが、蜂起した者達が鎮圧されている様子はない。逆に基地の守備隊が制圧されつつある。


 しかも、守備隊の機兵に制圧されつつある。


 シンプルに考えるなら「守備隊が反乱を起こした」となる。


 考え難いが……実際、暴れているのは繊三号守備隊の機兵だ。


 守備隊を計画的に動かせるとしたら、繊三号の基地司令。


 基地司令は、ネウロン旅団長の久常中佐と折り合いが悪い人物だったが――。


「――――」


 基地司令主導の反乱の可能性は、おそらくない(・・)


 基地司令が部下達を使って反乱を起こしたら、もっとスムーズに事が運ぶ。


 反乱を起こすタイミングがおかしい。


 反乱を起こす側なら「いつ反乱を開始するか」の主導権を握っている。反乱に抵抗する我々のような存在が自由に動けないタイミングを狙ってくるはずだ。


 こちらは後手に回っているが、まだ抵抗可能。逃走も可能。


 ゆえにこれは基地司令によるものではない。


 連絡は取れないが……おそらく向こうも被害者だ。


 となると、一体誰が……?


「隊長。下層への出入り口が、防火壁で塞がれています」


 繊三号は巨大な浮島であり、本来なら地下通路が豊富にある。


 地下を通れば、機兵との戦闘は避けられるはずだったが――。


「巫術師。憑依でここの防火壁を開けるか?」


「出来る、けど……」


 フェルグス特別行動兵が口元を拭いつつ、「やめた方がいい」と言った。


「理由は?」


「何か暴れてる。これ……人間の動きじゃねえ。ここ以外の地下にも何かいる」


 単なる機兵蜂起ではないらしい。


 人間の動きじゃない、というのは気になるが――。


「では、地上ルートで退避しよう」


「しゅ、守備隊を助けねえのか……?」


「我々が戦闘に加わったところで、もう逆転の目はない」


 ダスト2からの報告で、敵が待機中の機兵を押さえ始めた事もわかっている。


 繊三号には他の部隊も集っていたが、運良く機兵の傍にいた我々以外は、殆どが機兵を確保できなかったらしい。初動で遅れを取った以上、無理はしたくない。


 戦闘でアレを失うのも惜しい。


「隊長、守備隊の機兵以外も暴れ始めてます。ダスト2と3が追い回されてるっぽいっすけど……殲滅作戦のために集った機兵乗りが結託してるって事ですか!?」


「可能性はある。だが、議論は生き残った後にしよう」


 基地司令部も既に押さえられたか、最悪、死亡しているな。


 応戦している守備隊も大混乱に陥っている。


 敵の正体、目的も不明。


 今は逃げるしかない。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


 守備隊の機兵がこちらに射撃してくる。


 守備隊だけではなく、別部隊の機兵も参加してくる。


 都市内で暴れ出したバカ一味が、整備工場にあった機兵を奪って動かしているんだろう。奪われる前に壊すべきか迷っているうちに、どんどん敵が増えていく。


 整備工場だけではなく、都市の殆どを機兵で制圧されてるって事は……まともな交国軍人も次々と殺されていってるんだろう。


「クソッ……! 後手後手だな」


 暴れ始めた馬鹿共相手に応戦していた機兵は、もう俺とレンズだけになった。副長とパイプも無事らしいが、こっちの戦闘に参加できる余裕もない。


 数で圧倒されているが、幸い――。


『テメエら! その射撃はなんだ!? 下手くそ!!』


 数を頼みに弾幕を展開してくる敵機兵の群れに対し、ダスト2が発砲する。


 放たれた弾丸が敵機兵の銃器を破壊していく。


 さらに、追撃として飛んだ弾丸が敵機兵の間接部に致命打を与えた。


 機兵の流体装甲は堅牢で、再生能力もある。撃ち合いで致命打を与えるのは難しいが、間接部に弾が当たれば話は別だ。


 間接のフレームが破壊されれば、流体装甲展開機能が健在だろうと、骨抜きになる。自重を支えきれなくなり、その場に転倒する。


 対して、敵の射撃はこちらの間接部を狙えていない。


 そもそも動き回る重装甲の間接部に弾丸をねじ込むのが至難の業で、レンズの射撃能力の高さあっての戦果だが――。


「確かに、敵の射撃は下手っぴだな……!」


『チビ助以外の巫術師と同程度だ! いや、もっと悪いか!?』


 レンズの言う通り、フェルグス達と同程度の射撃能力だ。


 機兵を動かせている以上、完全な素人ではない。


 だが、射撃能力は素人並みだ。


 ……なんかおかしいな。


 繊三号の守備隊は、ケナフの守備隊よりずっと練度が高いはずだ。ネウロン旅団上層部と折り合いが悪いとは聞くが、それなりの戦力が配備されていたはず。


 後退しつつ、大楯を展開し、ダスト2が射撃に専念できるよう守る。


 守りつつ、俺も射撃して敵機兵の武器を破壊する。


『いいぞ、ラート』


 ダスト2が今度は立て続けに2機の脚部間接を破壊し、機動力を大きく削いだ。


 あくまで間接を破壊しているだけ。敵の数が多いから、近接戦でトドメを刺しに行く余裕がない。だが、このまま敵を削っていけば――。


「おっと……!」


 側方から射撃。


 繊三号の別区画で戦っていた機兵が2機、こっちに走ってくる。


 キリがない……!


『ダスト3! ここはオレが押さえる! テメエは隊長達を助けに行け!』


「でも――」


『オレの方が先任軍曹だ! 指示を聞きやがれ!!』


「わかった! でも無理すんなよ!」


 側方から接近してくる機兵2機に向け、大楯を構えて突撃する。


 敵が発砲してくるが、大楯で間接部だけは守る。


 他は壊れた端から直せばいい。


 体当たりで1機跳ね飛ばし、移動中に生成していた斧を使ってもう一機の片足を切り取る。体勢が崩れたところにもう一撃、斧を叩き込んで行動不能に追い込む。


 跳ね飛ばした機兵が両手に大砲を生成し、ブッ放そうとしてきたが――。


「狙撃注意だ」


 ダスト2の放った弾丸が、「カコンッ!」と音を響かせ、大砲に命中した。


 誘爆によって大爆発が発生する。


 これでも大破には追い込めていないだろう。機兵は頑丈だ。


 でも、戦闘能力は十分に削げた。


 今のうちに隊長達のところに走り、皆を連れて何とか離脱しようとしたが――。


「くそっ……! しつけえなぁ!!」


 さらに現れた新手の機兵2機から、射撃が飛んでくる。


 その射撃もへっぽこ射撃だったが、そいつらは銃を捨てて近づいてきた。


 両手に長い爪を生成し、接近戦を挑んできた。


銃身形成(バレルロード)散弾装填(スキャッター)!」


 爪の攻撃を回避しつつ、カメラ狙いで散弾を撃ちまくる。


 敵機兵1機の頭部装甲がボロクズのように剥がれ、内部まで破壊が及ぶ。メインカメラは潰した。これでもう接近戦はろくに――。


「うおっ!?」


 敵機兵が曲芸じみた動きをしてきた。


 頭部を破壊した機兵が片手を伸ばし、その爪で相方の爪に絡めて掴み、味方を武器のように振るってきた。


 掴まれた機兵もそれに応じ、空中で上手く身をよじってきた。


 フレームへの一撃は避けたが、せっかく生成した散弾銃を破壊された。


 武器は再生成できるが、新しい武器を生成する暇が無い! 2機の機兵が入れ替わり立ち替わり斬りかかってくる……!


 頭部を破壊したはずの機兵も、さっきまでと大差ない動きをしている。2機共、俺に冷や汗をかかせるだけの近接戦闘能力を持っている。


 射撃は下手くそなのに、近接戦闘は得意なのか……!?


「くっ……! テメエら、何者だ!!」


 なんだコイツら。


 ホントに、交国軍人か……!?


『ダスト3! そっちにさらに新手!! 隊長達を守れ!!』


「ぐっ……!!」


 3機目――いや、4機目の機兵!


 新手が隊長達の方に迫りつつある。


 爪野郎共を牽制しつつ、止めに走る。攻撃し、注意を引く。


 機兵の足下に隊長達が見えたが、何とか潰さずに済んだ。


 済んだんだが……!


「新手も、射撃下手クソで近接戦闘得意の変態野郎か……!」


 4機同時に相手にするのは、さすがにキツいなぁ……!




■title:繊三号にて

■from:星屑隊隊長


『隊長! すみません! 出来れば待避を……!』


 機兵4機を相手取っているダスト3からそう促されたが、待避は難しい。


 船との合流地点の進路が機兵同士の戦闘で塞がれている。


 ダスト3もそれがわかっているから敵を引きつけ、距離を取ろうとしているが……こちらに遠慮して全力を出せていない。


 戻って経路を変える時間は、おそらくない。


 地下通路を通る手もあるが、フェルグス特行兵の発言が気になる。地下で何かが暴れているなら、この場より危険になる恐れもある。


『待避無理なら少々お待ちを!』


「ダスト4がこちらに向かっている。何とか耐えろ」


『了解!』


「おい、隊長! お、オレは戦えるぞっ!」


 弱っているフェルグス特行兵が声をかけてくる。


「オレも、いけます……!」


 ロッカ特行兵もそう言ってきた。2人共、顔色が悪い。


 鎮痛剤のおかげで、実際戦うことも出来るだろうが……今は流体甲冑も無い。


 敵機兵を乗っ取れば、巫術師も戦力になるのだが――。


「ヴァイオレット特行兵。ヤドリギは――」


「ご、ごめんなさい、船のはスイッチ切ってるので使えません……!」


 切るよう命じたのは私だ。


 繊三号に停泊中、巫術師が何らかの「イタズラ」をするのを警戒し、使えないようにしておけと命じたのは私だ。……判断を誤ったな。


「繊三号に上陸する前に、ヤドリギのスイッチを切ったので――」


『いや、使えるはずだ!』


 ダスト3が敵機兵の攻撃を回避しつつ、こちらの会話に割り込んできた。


 通信機越しにこちらの話を聞いていたようだ。


『ついさっき、ダスト2の機兵にグローニャが憑依していた! グローニャの本体は船にあるのに遠隔憑依出来たって事は――』


「今も憑依可能か」


 ヴァイオレット特行兵が、虚偽の報告を上げたわけでは無いだろう。


 ヤドリギが無しで今も遠隔憑依出来るのか、その理由はわからん。


 わからんが、遠隔憑依可能なら使わない手はない。


「では、敵機兵を乗っ取る。2人共、隊員の携帯端末に憑依しろ」


 携帯端末を2つ調達し、それを2人に差し出す。


 これなら「目」となるカメラと、「耳」となる通信機能もついている。


 これを使って、敵機兵を奪う。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


『ダスト3。機兵3機を足止めしろ』


「りょ、了解! えっ、3機だけ!?」


『残り1機はこちらで対応する』


 フェルグス達の力を借りれるなら、敵を減らしつつ、こちらの戦力を増やせる。


 模擬戦でやったように、巫術で機兵を強奪(ジャック)できる。


 けど、どうやってアイツらと機兵を接触させる気だ。


「――――」


 隊長が通路に走り出してきた。


 生身で、機兵の前に躍り出てきた。


 そんなの、いくら何でも無謀――。




■title:繊三号にて

■from:星屑隊隊長


 機兵1機がこちらに気づいた。


 脚部に歩兵用の機銃を生成し、掃射しようとしている。


 阿呆が。


 足を止めたな。




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


「…………!?」


 隊長が機銃を掃射されても、全く構わず前進した。


 だが、当たってない。


 ……弾丸が飛ぶ死線(ルート)を正確に見極め、するりと潜った……!?




■title:繊三号にて

■from:星屑隊隊長


 機銃の死角に入る。


 敵機兵が片足を上げ、踏みつけを行ってきた。


 飛んで踏みつけと地面の震動を回避したが、風圧で少し飛ばされる。


 だが、携帯端末は脚部に投げた。届いた。


「やれ。フェルグス特行兵」




■title:繊三号にて

■from:狂犬・フェルグス


『あいよっ……!!』


 憑依中の携帯端末から、敵機兵を奪いにかかる。


 いつもの憑依と同じだ。これで直ぐに――。


『…………!?』


 いつもと違う感触がした。


 なにか(・・・)に押し返される感触がする。


 侵入しようとしているのに、何かに押し返されて――。


『どけよッ……!!』


 ワケわかんねー感触を、力業で押しのける。


 そしたら消えた。憑依をゴリ押しできた。


『盗ったぞ、隊長ッ!』


『もう1機だ。ダスト3を援護しろ』


 クソオークが相手している機兵のうち1機に掴みかかる。


 機兵から機兵への憑依。……オレだって、これぐらい……!


『くっ……!!』


 まただ。また押し返される……!


 オレ様の巫術(ちから)の方が強え。このまま押し切れるけど――。


『やべっ……!』


 別の機兵が斬りかかってくる。


 けど、クソオークがその機兵を背中から蹴りつけ、止めてくれた。


『フェルグス! 頼む!!』


『わかってるよっ……!!』


 ギュッと押し返してくる感触を、もう1回、力業で押し出す。


 何かが「ポンッ!」と機兵から出て行く感触がした。


 これで2機奪った。2機、倒した!


 先に奪った方は、オレの巫術で支配できないけど――。


『よくやった。フェルグス特別行動兵』


 機兵同士で揉み合っていた足下に、涼しい顔してやってきた隊長の姿があった。


 もう1個の携帯端末を、さっきまでオレが憑依していた機兵に押しつけた。


 携帯端末(それ)に憑依していたロッカの魂が、さっきの機兵に移ってくる。


 これで4対1が、1対3になった!


『よっしゃ! あと1機ブッ倒して――』


 ブッ倒す必要はなかった。


 クソオークの機兵が、敵の攻撃をかわしつつ背後に回り込み、流体装甲で編んだナイフを背中に叩き込んだ。


 相手の混沌機関をブッ刺したのか、そこから血のように流体が飛び出ていく。機兵を動かす混沌(エネルギー)が出て行った事で敵が弱り、倒れていった。


『おいっ! クソオーク! オレ様の見せ場を奪ってんじゃねーよ!』


『見せ場ならまだあるよ! それより隊長! ご無事ですか!?』


『問題ない』


 隊長はオレの足下に立ちつつ、いつも通りの無表情でそう言った。


 流体甲冑とか無しで、生身で機兵に向かっていくとか……この人、結構イカれてんのかな? 敵の弾とかフツーに避けてたし……。


 いや、それは別にいい。


 良くないのは、さっき機兵乗っ取った時の感触だ。


 あの変な感触に押し返されて、憑依に手こずった。


 オレ、まさか、憑依が下手くそになってる……?




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


 フェルグスとロッカが機兵を奪い、一気に戦力アップ。


 けど、隊長はブレずに逃亡する道を選ぶようだった。


『おっ! 次の敵が来たぞ!』


「違う違う! アレは敵じゃねえっつーの!」


『ダスト4です。すみません、遅れました』


 何発か撃たれたのか、傷を負ったダスト4が俺達のとこまで来てくれた。


 損傷しているが、外側の流体装甲だけだ。直ぐに補修し、無傷の状態に戻った。


『ダスト4、歩兵運搬兵装展開。我々を船まで運んでくれ』


『了解』


 隊長の指示を聞いたダスト4が跪き、背部に大きな背嚢を生成する。


 随伴歩兵を運搬するための装備だ。乗り心地は悪いが、これで皆を安全に運べる。ダスト4は対機兵戦が困難になるが――。


『ダスト3、ロッカ特行兵。ダスト4を守れ』


「『了解』」


 俺達がカバーに入ればいいだけだ。


 隊長やヴィオラ達が乗り込んでいくのも、しっかり守る。


『隊長! オレは!? フェルグス様もいるんだけど!!』


『操縦席に誰かがいるな? 流体装甲で無理矢理排出しろ』


『おう! オラッ! 出て行けボケ!!』


『ロッカ特行兵。貴様も操縦者を出せ』


『了解』


 フェルグス達が巫術で流体装甲を動かし、操縦席から「ぺいっ!」と操縦者を出した。操縦者は悲鳴を上げながら地面に激突し、ウチの隊員に取り押さえられた。


 隊長はその操縦者もダスト4の運搬兵装に乗せるよう手振りで命令しつつ、フェルグスに対してさらに指示を飛ばした。


『フェルグス特行兵。ダスト2の援護に回れ。ここに残って敵を足止めしろ』


『うぇっ!? オレ様、置いてかれるわけ!?』


『貴様の本体はダスト4で運搬する。我々が逃げ切れば、貴様も無事だ』


『そういやそうだった!』


 隊長に「その機兵は使い潰して構わん」と言われたフェルグスが、嬉しそうな声を上げつつ、繊三号を走り始めた。


 敵を引きつけてくれているレンズの方も大変そうだが、フェルグスが前衛として入れば何とか凌げるだろう。


『では逃げるぞ。海上で隕鉄(フネ)と落ち合い、繊三号から離脱する』


 既に船着き場から出ている母艦に向け、逃走を開始する。


 繊三号の混乱はまだ続いている。


 暴れ始めた機兵に対し、抵抗できているのはもう俺達だけだ。


 敵は俺達を逃がすまいと追ってきている。


 敵はまだ尽きない。


 尽きないどころか……なんか、増えてないかぁ……?




■title:繊三号にて

■from:星屑隊隊長


「ぎゃッ!」


「ひぃッ……!!」


 フェルグス特行兵と、ロッカ特行兵が強奪した機兵から出てきた操縦者に向け、ナイフを突きつける。


 交国軍人のようだが、オークではない。


 つまり痛覚がある。尋問しやすくて助かる相手だ。


「貴様ら、所属は? なぜ我々を襲った!」


「違う!! 俺達じゃない!!」


「繊三号守備隊です!! おっ、オレ達も何がなんだかわからなくて……!!」


 何を言っている、コイツらは。


「……機兵の制御が急に効かなくなったのか?」


「そうだよ! いや、そうですよっ!!」


「全然、言うこと聞かなくなって――。なぜか仲間を襲いだして――」


 まさか、事実か?


 であれば、これは単なる蜂起や反乱ではない。


「――フェルグス特行兵。先ほど、機兵を強奪するのに手こずったか?」


『げっ……! いま説教されんの!?』


「単なる質問だ。答えろ」


『手こずった。言い訳に聞こえるかもだけど、なんか、押し返される感触がしたんだよ! いつもならすんなり憑依できるのに……!』


「そうか。次の質問だ。周囲の機兵の中に、魂が2つ見えないか?」


『見えるよ! 2人乗りで戦ってんだろ!? ……って、違うか、コレ』


 そう、違う。


 交国主力機兵<逆鱗>は1人の機兵乗りで動かせる。


 複座式ではない。本来、2人で乗る必要はない。


 先ほど、フェルグス特行兵が奪った機兵にも操縦者は1人ずつだった。


『まさか、オレら戦ってんの巫術師(ドルイド)か!?』


「その可能性が高い」


 そう答えつつ、全員に対して告げる。


「敵は巫術(イド)によって遠隔憑依を行い、機兵を強奪している。巫術師以外は敵との接近戦を避けろ。一瞬でコントロールを奪われるぞ」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


『こちらダスト4。隊長達との合流に成功。いま、船に向かっています!』


「よくやった! そのままこっちに来い!」


 星屑隊も第8も、今のところは死傷者無し。


 繊三号から砲撃される可能性を考えると、十分に距離が取れるまで安心できねえが……この調子なら逃げ切れるはず……。


「グローニャ。まだいけるな? もう少し頑張ってくれ」


『うぇ~……あたまがくらくらするぅ~…………』


「うんうん、つらいよな! けど、今はお前が頼りなんだ!」


 隊長達が戻ってきたら、通常通りに船を動かせる。


 それまではグローニャの巫術に頼らねえと……。


「……しかし、どういう事だ?」


 こんなのは(・・・・・)聞いてねえぞ。


 誰だ? 繊三号で暴れてんのは。




■title:繊三号にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「っ…………」


「ヴァイオレット、大丈夫か?」


「コレ乗り心地最悪だから、あんま口開くなよ。舌を噛――ギィッ!!」


「このバカみたいに舌を噛むから、口開くんじゃねギィッ!!」


「は、はいっ……」


 機兵で戦ってくれているロッカ君とフェルグス君の口に、ハンカチを丸めて入れておく。星屑隊の隊員さん達が身を持って危険を知らせてくれたから、この子達の舌もしっかり守らないと……。


 何がどうなっているんだろう。


 ここは海上都市で、安全だったはずじゃ……。


 交国軍に何が起きて――。


「…………あっ!!」


「あ、こら、喋るなって言っギィッ!!」


「ど、どなたか、技術少尉を見てませんか!?」


『…………』


 皆が一斉に顔を見合わせた。


 繊三号に上陸した星屑隊の隊員さんは、全員ここにいる。


 私達と行動を共にしてくれていた。


 けど、技術少尉は1人でさっさと上陸していて――。


「そういや、いねえな?」


「お前、ヒス女がどこいるか知ってる?」


「知るわけねえだろ。オレの彼女じゃねえし」


「まあ、その辺で元気にしてるだろ!」


繊三号(ここ)、いま戦闘中ですよ!!?」


 星屑隊の人達は、笑って「まあいいじゃん」と言いだした。


 いいわけないでしょ!


 技術少尉は私達の…………仲間らしい行動は特にしてないし、むしろいつもイジワルしてきてたし……私に雑用いっぱい押しつけてきてたけど……!


 悪い人では…………いや、悪い人の記憶しかないけど!


「た、隊長さんっ!」


「…………」


「技術少尉と、連絡取れなかったんですか!?」


 この中で一番まともな人に助けを求める。


 求めたけど、隊長さんはポカンと口を開いたまま、「忘れてた」と呟いた。




■title:繊三号にて

■from:技術少尉


「助手ーーーー! クソガキ共ーーーー! クソオーク共ーーーー!」


 ああああああああアイツら、どこいったのーーーー!?


 なんか、おかしい。


 何で繊三号で戦闘が起こって――。


「ギャア! ばけもの!! こっ、こっち来るなーーーーッ!!」


 逃げる。


 繊三号の地下通路を、必死で逃げる。


 なんで、なんでっ!? 何であのバケモノがここにいるの!?


 アタシは技術少尉よ! 第8巫術師実験部隊で一番エラいの!


 あの船で、2番目にエラいのよ!!


 アタシが置いて行かれるはずがない。


 絶対、皆、あそこで待ってる。


「船着き場!! 船着き場に辿り着けば~~~~っ!!」


 アタシの勝ちよッ!!




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