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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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おチビの反乱



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


「むぷぅ……!」


「グローニャちゃん、機嫌なおして~……」


「やだっ。レンズおじちゃん、キライっ!」


 またヤなことした!


 あのおじちゃん、キライキライキライっ!


 さっき廊下ですれ違った時、ヤなこと言った!


「レンズ軍曹さんと仲良くするの大変なのはわかるけど……殴りかかったりするのはダメだよ~……。ちゃんとゴメンナサイしにいこ? ねっ?」


「ぷんっ! グローニャ、悪くないもん」


 さっき廊下ですれ違った時、ヤなこと言われたから攻撃しにいっただけだもん。


 すれ違った時、『おっと、いたのかチビ助』『チビすぎてわからなかった』って……グローニャのことバカにしてきたんだもん! あのおじちゃん!


「グローニャが先に悪口言われたの~……!」


「それは……確かによくないね」


 ヴィオラ姉が頭ナデナデしてくれた。


 ヴィオラ姉のナデナデ、だいすき!


「レンズ軍曹さんには、後でお姉ちゃんの方から言っておくから。そういうこと言うのやめてください、って……」


「それはダメ」


「何で?」


「む……。ダメったらダメ! これはグローニャの『けんか』なのっ!」


 ヴィオラ姉がお話に行くの、絶対にダメ。


 前の部隊……明星隊の時みたいになる。


 ヴィオラ姉、グローニャ達が明星隊にイジめられてるから……子供達をイジメるのやめてください、って明星隊のタイチョーに言いにいった。


 けど、お話ちゃんと聞いてもらえなくて、後で明星隊の人にイジメられてた。頭をつかまれて、壁にガンッ! ってぶつけられてた。


 タンコブできてたし、すごく痛かったと思う。ヴィオラ姉はいつも通り笑って、「なんでもないよ~」って言ってたけど……あれ、ぜったいガマンしてた。


 レンズおじちゃんもヤなヤツだから、ヴィオラ姉をイジめるかも……。


 そん時はラートちゃんに言いつけちゃうけど、ヴィオラ姉がケガするのやだもん。だから、これはグローニャだけのけんかにするの!


「むー……。グローニャ、ポンポンいたくなってきたから、おトイレ行く!」


「あっ、じゃあいっしょに行こっか?」


「いいっ! グローニャ、ひとりで行けるもんっ!」


「あっ! グローニャちゃん……」


 トトト、と走ってヴィオラ姉から逃げる。


 ヴィオラ姉だいすき! 大好きだけど、お説教はキラ~イ!


「待って~! グローニャちゃん~……!」


「ぬぬっ! なかなかやるねぇ……!」


「今日から町に行けるんだよ~……!? 一緒に行かないの~!?」


「今日はいかにゃい! お説教もヤダ!」


 ヴィオラ姉、まだ追いかけてくる。


 空いてる部屋で隠れようと思って飛び込んだら、星屑隊のオークさん達がいた。「きょとん」としてるから、指を立てて「しー!」って言って黙ってもらう。


 ヴィオラ姉は通り過ぎて行った。うまくいった!


「どうしたグローニャ」


「かくれんぼしてるのか?」


「んっ。そういう感じ。またねっ!」


「おおっ、気をつけてな~」


「前見ろ、前。転ぶぞ?」


 星屑隊のオークさん達にバイバイして、テクテク歩いていく。


 ラートちゃんと遊ぼっかな?


 ラートちゃん、まあまあすき! やさしいし!


 でも、レンズおじちゃんはキラ~イ! やさしくないし!


「レンズおじちゃんクソオーク♪ くそくそくそくそクソオーク♪」


 さっきレンズおじちゃんとすれ違った時、歌ってた歌をまた歌う。


 いい感じの歌♪ 今度また祝勝(しゅくしょー)会する時、歌っちゃお♪


「でも、そしたら……レンズおじちゃん、また怒るかなぁ……?」


 怒られるの、きらい。


 レンズおじちゃん、すれ違っただけでも舌打ちするし~……。


 コワイのキライ!


 キライだからやっつけるのだ。


 グローニャ、「天才」っぽいから、機兵でもっと強くなる。皆が「レンズおじちゃんなんていらな~い」って言うまで、強くなっちゃう。


 そしたらレンズおじちゃんバイバイだから、もうヤなこともされない。


 ヴィオラ姉も守れる。けんかしなくてよくなるから、もうお説教もされない。


「どれぐらいで、おじちゃんより強くなれるのかな~?」


 明日には勝てる? それか一週間ぐらい?


 わかんにゃい! まあ、グローニャならできるっしょ!


 グローニャ、天才らしいし……♪


 でも、強くなる以外にも、やっつけたいな~。


「……レンズおじちゃんが、この子みたいだったらカワイイのに~……」


 ラートちゃんにもらったぬいぐるみを見る。


 この子はカワイイし、おいしそう♪ グローニャよりチビ!


 グローニャが「ギュッ♪」ってしても、反撃してこない。


 この子はカワイイし、良い子なのだ。


「レンズおじちゃん、この子ぐらい小さかったらな~」


 そしたらぜんぜんこわくない。


 何か言ってきても、「ギュッ♪」でだまらせちゃう♪


 あっ、そうだ……!


「機兵に乗っちゃえばいいんだ! んで、レンズおじちゃんを機兵のお手々でギュ~♪ しちゃえば、おじちゃんも『まいりました~!』って言うかも……!」


 あとでやりにいこ!


 今は皆、忙しそうにバタバタしてて、格納庫も人いるし……。


「後でコッソリ、機兵に憑依しちゃお」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「あっ! グローニャちゃん、やっと見つけた~……!」


 上陸前で忙しい中、やっとグローニャちゃんを見つけた。


 どこかで拗ねていると思っていたら、しれっとした顔で船室にいた。


 オマケに「グローニャ、ねんねする! おやすみ~」なんて言い出した。


「繊三号に上陸できるのに、いいの……?」


「それは明日する。今日はもうネムネムネムリ~ン」


「えぇ~……」


 まだ夕飯も食べてないし、お風呂も入ってないのに。


 風邪とか引いている様子はない。むしろ元気そうだけど――。


「おーい、ヴァイオレット~。どこだ~?」


「なんか荷物あるなら持つよー」


「あっ……! すみません! いま行きます!」


 上陸に付き合ってくれる星屑隊の隊員さん達が来てくれたので、グローニャちゃんに「何かあったらキャスター先生のところに行ってね」と言っておく。


 部屋を出て、隊員さん達に謝る。


「すみません~……! 時間を割いていただいてるのに、お待たせして」


「いいって。オレらもフェルグス達と遊ぶ約束してたし」


「そうそう。だから別にいいんだよ」


 星屑隊の隊員さん達が気さくに笑ってくれている。


 最初は「怖い」と思っていたけど、ここはやっぱり明星隊とは違うなぁ……。


「技術少尉の護衛はいらないのか? 『一緒に行きますか?』って誘ったら、睨まれちまったんだけど」


「あ~……。あの人はいつもああですから……」


 技術少尉は交国人だし、多分、大丈夫でしょう。


 一緒に歩かれても正直、気まずいし~……。


「気にしないでいいなら、いっか」


「あのねーちゃん、直ぐキレるからなぁ……」


「あはは……」


「そういえば、グローニャは?」


「グローニャちゃんは、ちょっと寝たいみたいで……」


 ホントに寝たいのかなぁ……?


 まあ、本人が船室に残りたいようだったし……。


「あ、すみません、もうちょっとだけ待っていただいて大丈夫ですか?」


「いいよいいよ、そんな急がなくて」


「すみません……。ちょっと、ヤドリギのスイッチ切ってきます!」


 いま使う予定ないし、使えないようにしておかないと。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


「…………」


 ヴィオラ姉、皆と出かけたみたい。


 よしよし……今のうちにイタズラしちゃお……♪


 格納庫にダッシュだ! ぶ~ん♪




■title:繊三号・船着場にて

■from:死にたがりのラート


「すまねえ、ヴィオラと子供達の護衛、よろしくな」


「へい、任せてくださいよ軍曹」


「軍曹が殲滅作戦で留守中もいっぱい遊んでやりますよ。俺らは繊三号で休暇でしょうから、その間は暇だし」


「あれ? 隊長は待機組は毎日訓練させるって言ってたような……」


「「うげぇぇぇぇ……!」」


 俺はまだ仕事が残っているから、ヴィオラと子供達を他の隊員に任せる。


 子供達といっても、フェルグスとアルとロッカだけ。今日のところはグローニャは上陸せず、船で待機しているらしい。


「さて、俺は整備工場に――おっ、レンズだ」


 皆を見送った後、格納庫に向かっているとレンズと出くわした。


 目的地同じなんだから、一緒に行こうぜ~と行ったが、嫌そうな顔された。


「来んな。連れション野郎。一緒に行くとか恥ずかしい」


「お前と連れション行ったことあるだろ。<怪人・赤ビキニ>上映会した時――」


「うるっせえッ! 殺すぞッ!」


 軽く雑談をしつつ、機兵に乗り込む。


 殲滅作戦前に、機兵を繊三号の整備工場に預け、見てもらわないと。


 バレットが俺の機兵のフレームが心配って言ってたから……最悪、フレーム交換かねぇ。機兵交換まではやりたくないなぁ。


「整備工場、混雑してるかなぁ?」


『そりゃそうだろ。殲滅作戦に参加する部隊が集ってきてるし。まあ、まだ半数程度が来てるだけっぽいが……。ダスト2、出るぞー』


「ダスト3も続きま~す」


 レンズと通信を繋げつつ、船から下りる。


 繊三号内の機兵用通路を進み、繊三号の上層へと上っていく。


「殲滅作戦、どれぐらいの期間になるかなぁ」


『一ヶ月で済めばいいな、って感じだろ。一週間じゃ終わらんな。絶対』


「……殲滅作戦といえばさぁ、その間は第8の皆とも離ればなれになるわけじゃん? 離ればなれになる前に改めて親睦会を――」


 通信を切られた。


 めげずに通信を繋ごうとしたが、応答してくれねえ。


「レンズ~~~! お前もそろそろグローニャと仲良く――」


『スピーカー使って話しかけてくんな……!』


「おっ。通信、繋げてくれたか」


 大声で話して周りに聞かれるのは嫌らしい。


 まあ、2人きりで話したい話題だから通信繋げてくれるのは助かる。


「レンズ。頼むからもうちょっとグローニャに優しくしてくれよ~」


『それはオレの仕事じゃねえ』


「殲滅作戦は俺達だけで出撃だけど、それが終わったらまた第8の子達と組む事になるんだ。仲良くしておいた方が得だぞ!」


『ガキ相手に媚びる方が損だ』


「別に媚びろって言ってるわけじゃねえよ~……」


 どう説得したらいいか困り、ついつい手が動く。


 俺の動きに連動した機兵が頭部をガシガシと撫でちまった。やばやば、関節部に圧かけてたら怒られちまう。


「グローニャを信じて、導いてやってくれ。あの子にはお前の力が必要だし……お前はあの子の先生になれる存在なんだ」


『やだよ、面倒くせえ』


「レンズ……。隊長にも頼まれてるだろ~……?」


『信頼関係なんて築けるもんかよ。向こうは特別行動兵。こっちは交国の正規兵。オレ達とアイツらは立場が違うんだ』


「似たようなこと言ってたヤツがいたけど、そいつは仲良くできてるよ」


 バレットを思い浮かべつつ、そう告げる。


 バレットはネウロン人を遠ざけていたけど、今は違う。


 トイドローンを作ってくれて、船室にこもりがちだったロッカの面倒も見てくれている。アイツの方から子供達に歩み寄ってくれている。


 特別行動兵とか、交国軍人とか、そんなのは関係ねえんだ。


「確かに立場は少し違う。けど、俺達は同じ人間だ。仲良くなれるよ」


『人間同士が無条件に仲良くなれるなら、喧嘩も戦争も起きねえよ』


「うーん……」


『オレが機兵の操作を譲ってやってんのは、隊長の命令だからだ。隊長への信頼を担保に貸してやってるだけだ』


 先を歩いていたレンズの機兵が立ち止まり、振り返る。


 機兵の手指を動かし、それを俺の機兵に向けて突きつけてきた。


『オレは絶対、あのガキを認めねえ』


「…………」


『あのガキも、オレのことなんか信じるわけねえさ』


「そんな事ねえよ」


『ケッ。……まあ、お前や副長が言うように、喧嘩ばっかしてたら作戦行動に差し支えがあるのはわかる。殲滅作戦で頭冷やしてきたら……もっと事務的に対応できるように努力するよ……』


「事務的な対応とか、そんなんじゃ戦友になれねえ」


『そもそも、仲良くする気がねえんだよ!』


 レンズ機が「わかってねえな」と言いたげに両手を広げる。


 そして再び前を向き、整備工場に向けて歩き出した。


『仲良くなって、オレに何の得がある。オレ自身の利益は?』


「うーん……。褒めてもらえる!」


『は? どういう意味だ?』


「グローニャはさぁ、あのシャチのぬいぐるみ、スゲー気に入ってんだよ」


 作ったの誰かも知りたがっていた。


 だから――。


「お前がぬいぐるみ作ったって知れば、褒めてもらえるんじゃね?」


 あのぬいぐるみは売り物になる作品だ。


 グローニャも、レンズのことを絶対に認めてくれる。


 ぬいぐるみの作者を明かせば、2人はきっと仲良くなれる。




■title:繊三号にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


『お前がぬいぐるみ作ったって知れば、褒めてもらえるんじゃね?』


 えっ?


 どゆこと……?




■title:繊三号にて

■from:狙撃手のレンズ


「てめえ、まさか、あのガキにぬいぐるみの件――」


 馬鹿が機兵の身振りも交え、通信で「言ってない言ってない!」と返してきた。


 言ってないならいいんだよ。


 言ってたらテメエを後ろから撃ちたくなっちまう。


 ……ハァ、こんな事で気を揉まないといけないなら、あんなクソガキのためにぬいぐるみを作ってやるんじゃなかった……。


「マジで言うなよ。馬鹿にされるのがオチだ」


『何でだよ! お前のぬいぐるみ、マジでスゴいのに!』


 ラートは……まあ、こういう事で世辞を言うヤツじゃない。


 けど、世の中の奴らが全員、コイツみたいな馬鹿じゃない。


『お前のぬいぐるみ作りの腕は、お前の射撃能力に匹敵する才能だ。いや、腕とか関係ねえ。お前が本気でやってる事をバカにするのがおかしい』


「オレは別に本気じゃ――」


 否定しようとしたが、一度言葉を飲み込む。


 否定してもいい。してもいいんだが……。


「……まあ、ぬいぐるみに関しても本気なのは事実だ。任務をおろそかにしてるつもりもないが……アレ作るのも、オレにとっちゃ大事だから……」


『妹ちゃん達が喜んでくれるから?』


「ん……。まあ、そういうこった」


 最初は妹達のためだった。


 単に買い与えてやるより、手作りならもっと喜んでくれるかも……って思いつきから始めた事だった。


 けど、今はオレ自身のためにも作ってる。


 アレコレ悩んだり、妹達の喜ぶ顔を想像しながら作るのは楽しいからな。……周りの雑音はウザいが、周りにバレないようやればいい話だ。


「オレは本気で作ってる。でも、それをバカにする馬鹿もいるんだよ」


『そんなわけ――』


「実際にいたから、オレはネウロンにトバされたんだよ」


 星屑隊に来る前、オレは<銀星連隊>に所属していた。


 銀星連隊は交国軍の精鋭機兵部隊の1つ。そこに抜擢されただけで、オレは「今まで頑張ってきた甲斐があった!」と大喜び出来た。


 実際に配属された後は、少しだけガッカリした。


 あそこには優秀な機兵乗りが多かったが、人間としては……尊敬できない奴らも多かった。


 でも、機兵乗りとして優秀な人は確かにいた。あそこで学ばせてもらった事は、今でもオレの中で確かに息づいている。


「オレが何でネウロンにトバされたか、お前知ってるか?」


『いや……』


「想像はつくだろ。……オレは前の部隊で、暴行事件を起こしたんだ」


 銀星連隊での日々は、悪くはなかった。


 毎日しごかれたり、アゴで使われながらもついていき、技を盗んでいった。先輩機兵乗りに模擬戦で勝つ事もあった。それで腹いせに制裁される事もあった。


 そんな制裁なら、屁でもねえ。


 オレはオークだ。痛みなんて感じねえ。


 狙撃に差し支えないよう、手と腕と目だけ守れればやっていける。


 悪い奴らばかりじゃない。まともな人もいた。自分の腕前に絶対の自信があるからこそ、我が強い人も多かったが……確かに実力者集団だった。


 今でも「戻りたい」と思えるほど、総合的には悪くない場所だった。


「オレは数人の骨をへし折っちまったのさ。銀星連隊の活動に少し支障が出るほど、怪我人を出しちまったんだよ」


『何されたんだ。お前がそこまでするなんて、何か理由があったんだろ?』


「……妹達のために作ったぬいぐるみを、汚された。バカにされた」


 皆に見つからないよう、こっそり作っていたぬいぐるみを見つけられた。


 連隊に、オレの荷物をわざわざ漁るアホがいたんだ。


 そいつは皆の前で「レンズがこんなもの作ってた!」と見せびらかし、オレを笑いものにした。それだけなら、まだ耐えられた。


 ぬいぐるみ作りを笑われたのは初めてじゃない。


 ただ、あのクソ野郎はやっちゃいけねえ事をした。オレが「返してくれ」と手を伸ばすと、水たまりにぬいぐるみを投げ入れた。そんで踏みにじった。


 オレは手を出した。


 クソ野郎は鼻の骨を折って一撃でノックアウトしてやったが、そいつとつるんでいたヤツら相手には手こずった。結局、オレは袋だたきにされて負けた。


 病院のベッドで、オレは銀星連隊から追い出された事を知った。


『それ……お前は何も悪くねえだろ!』


「オレは挑発に乗っちまったし、騒動を大きくして部隊の活動に支障を出した。誰かしら裁かないと示しがつかなかったんだ。……まあ、当然の処分さ」


 軍規は絶対。


 その場その場で誤魔化していたら、軍規という鎖が弱くなる。


 軍規が骨抜きになったら、軍隊は弱くなる。


 連隊の活動に支障が出るほど怪我人が出たから、オレ含めて2名が銀星連隊から追い出された。有り難い事に、オレを弁護してくれた先輩もいたんだけどな。


 家族には申し訳ない事をした。


 銀星連隊に配属になったこと、スゲー褒めてくれたのに……バカ息子のオレがカッとなって起こした事件で全部台無しになった。


 家族にとっても周りに誇れる事だったのに……。妹達は学校で友達に自慢して、「すごいすごい!」と言ってもらえたらしいのに……。


 本当に悪いと思ってる。


 カッとなったら全部台無しにするダメ兄貴で……。


「オレも全部納得してるわけじゃねえが……ああいう事は二度と御免なんだよ」


『…………』


「オレが耐えればいいのはわかる。家族のためにも我慢するべきだったのは確かだ。でも……何もかも耐えられるほど、オレは強くねえんだよ」


 余計なことも我慢したくない。


 我慢出来たとしても、傷つくんだ。


 自分が必死に……時間かけて作った作品を、あんな一瞬で……あんな何の苦労もなしに虚仮にされて、我慢できるほどオレは優しくないんだ。


「自己防衛ぐらいさせてくれよ。強面のオレが、せっせとぬいぐるみ作ってる姿が笑えるのはまあわかるよ。でも、オレは笑われて気分よくなれる人間じゃねえんだよ」


 オレはオレで、ぬいぐるみ作りにも誇りを持っている。


 けど、他人にそれを理解してもらえると、期待なんかしない。


 期待して……裏切られた時が怖いんだ。


『グローニャは……絶対、バカにしないよ』


「そうかもしれない。けど、あのチビ助が口を滑らせて、他の隊員が聞いたらどうなる? 他の隊のヤツにも伝わったら?」


 バカにされるリスクに怯えるより、1人でチマチマやる方が気が楽なんだ。


 オレには妹達がいる。


 妹達が喜んでくれたら、それで十分なんだ。


 家族以外の他人に期待するのは疲れる。


「耐えきれなくなって、また騒動を起こしたら……次はもう刑務所行きかもな。さすがにそれはマズいから、自己防衛してんだよ」


 ぬいぐるみ作りしてること、知られたくねえのはそういう理由だ。


 ラートとバレットとパイプは……まあ、ギリギリ許せる。


 3人共、オレの事を笑ったりしなかったしな……。


「リスクを負うのはオレなんだ。テメーがぬいぐるみ作りの件を暴露しても、テメーは何のリスクもない。親切心でやってるつもりだろうが、オレにとってはガチで迷惑だから絶対にバラすなよ」


『……悪い。俺の考えが足りてなかった……』


「テメーに悪気がねえのもわかってる。気にすんな」


 機兵の右腕との接続を一時解除し、生身の右手で頭をボリボリと掻く。


「この話題、オレが嫌いなの理解したろ? もう言ってくれるな」


『うん。ごめん、レンズ』


 シュンとした声が返ってきた。調子が狂う。


 ちょっと強く言いすぎたかな~……。


 あぁ、どうしてオレはこう……対人能力ゴミなんだろう。


「…………」


『…………』


「チビ助の件は……オレの方もガキっぽい対応してるのは、自覚あるよ……」


 整備工場に向かいつつ、話を続ける。


 オレは大人だけど、対応はガキってのは……自覚ある。


 カッとなって、ガキ相手に怒鳴ったり、嫌みを言ってるのもわかる。


 あのガキがうるさいし、ワガママって言うのは……単なる言い訳って事もわかってる。ちゃんとした大人なら、オレみたいな事は言わないはずだ。


「もうちょっと……気遣えるよう、頑張るよ」


『レンズ……』


「オレ自身のためにな! 星屑隊を追い出されたら、行き場ねえしよ!」


 オレだって隊長みたいになりたい。何があっても動じない男になりたい。


 副長みたいにヘラヘラ笑ってるのは性に合わないが、副長は副長でスゲー人だ。あの人は大らかさと厳しさをキチンと使い分けているからな。


 オレはあの人達みたいに、大人になれてない。


 法的に大人ってだけで、中身はイキがってるガキだ。


 ダサいって自覚もある。


 ガキ相手に、大人げないことしてるからな。


 オレはいつか……隊長達みたいな「立派な大人」になれるのかねぇ……?


 ……なれねえかもな。




■title:繊三号にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


『…………』




■title:繊三号にて

■from:死にたがりのラート


 整備工場に機兵を運び入れ、整備士と少し話をする。


 バレットが先に話を通してくれていたようで、諸々スムーズに進んだ。


 他の部隊も機兵を持ち込んでいるから、順番待ちになるが……殲滅作戦までには整備も間に合うだろう。


 俺と同じく、繊三号の整備士と話をしていたレンズも整備工場での話が済んだらしい。近づいていくと、「オレの機兵も順番待ちだ」と言われた。


「まあ、ラートの機兵よりずっと丁寧に扱ってるから、オレの機兵はまだまだ大丈夫だと思うけどな」


「でも、俺が前衛にいるからこそ、丁寧に扱えるんだろ?」


「ふん。まあ否定はしねえよ」


 レンズは微笑し、整備工場の外に視線を送った。


「副長とパイプ、まだ来ねえのかな?」


「2人共、忙しそうにしてたからなぁ」


「代わり移動させとくか。ラート、お前どうせ暇だろ? 手伝えよ」


「俺は俺で隊長に仕事を仰せつかって――」


 鈍い爆発音が響く。


 そこまで遠くないようだが……。


「戦闘か? 海辺にタルタリカが来てんのかね?」


「いや、違う。これ……基地内の音だぞ……!?


「――みたいだな」


 レンズと共に、整備工場の外に走る。


 繊三号内に火の手が上がっている。


 それと、戦闘の音が聞こえる。


 けど、タルタリカの咆哮は聞こえない。


 ここは海上だ。タルタリカがいないのは当然だが――。


「この音、機兵同士で撃ち合ってねえか……!?」


「まさか、どっかのバカが反乱を起こして――」


 何か(・・)が降ってきた。


 その何かが着地した衝撃で転び、風圧で吹き飛ばされる。


 俺達の目の前に、全長10メートルの巨人が現れた。


 機兵だ。


 他国やプレーローマの機兵じゃねえ。


「おい! 待っ――」


 交国主力機兵<逆鱗>が、俺達に向け、散弾銃をブッ放した。






【TIPS:怪人・赤ビキニ】

■概要

 交国のホラーアニメ作品。アニメーターの搾取をしていない<フェアトレードアニメ>が生まれた最初期に作られた作品。


 フェアトレードアニメのはずが、実際はアニメーターの搾取が行われていたことで一時は炎上した。だが現在でも根強いファンがいる。


 紙袋を被った艶めかしい肢体の赤ビキニ女が次々と少年少女を襲っていく作品で、ホラー要素よりおバカエロ要素の強さから「皆であーだこーだと雑談しながら見るのにちょうどいい作品」と言われている。



■元ネタ

 実は、怪人・赤ビキニは交国政府で生まれたものである。


 交国政府内の会議参加者が、退屈な会議を誤魔化すために手元の紙に紙袋を被った水着姿の女を落書きし、それが政府外に流出。


 後に<怪人・赤ビキニ>を作成する監督がゴミ処分場でこの落書きを見つけ、怪人・赤ビキニを思いついた――といった背景がある。


 後々、怪人・赤ビキニが世に出た際、そのビジュアルがかつて自分の描いた落書きにそっくりな事に気づいた玉帝はダラダラと冷や汗を流し、何とか理由をこじつけ、怪人・赤ビキニを放映禁止しようとした。


 その動きに気づいた<雪の眼>の史書官が交国政府を調査し始めたため、玉帝は自分の落書きが元ネタになってしまった可能性がバレない事を祈りつつ、政府内の書類管理をさらに厳重にした。


 何とか公にはバレなかったが、雪の眼の資料には「怪人・赤ビキニは交国政府で生まれた」という説が添えられている。





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