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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
番外編:カヴン今昔
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新暦400~600年頃



ロミオ「……時化が収まらんな」


ロミオ「根の国からの連絡はまだ無いのか?」


八舟連合構成員「はい。やっぱり、何かあったんでしょうか……?」


ロミオ「多分な。まあ、こっちはやれる事やっていくしかねえ」


 カヴンと根の国の取引はそれなりに順調でしたが、その取引は急に途切れました。


 始めは根の国周辺の海域がいつも以上に荒れやすくなるだけで、それもいつか収まると思われていました。しかし「根の国との連絡が取れなくなる」という事態となりました。


 実は根の国で政変が起きたのです。根の国を治めていた守要の魔神は身内に裏切られ、根の国は裏切り者達に分割統治される事となりました。


 これに伴ってしばらくの間、カヴン側と根の国の取引も途切れる事となりました。海獣を作成するプラントが根の国の外にも作られていたため、カヴンの海獣調達に致命的な問題が発生せずに済みましたが――。


ロミオ「悪いな。お前らの仕事が減っちまった」


八舟連合構成員「ちと苦しくなりましたが、皆を餓えさせるほどではないですよ」


 根の国の取引がしばらく途切れた事で、八舟連合の仕事も減りました。


 ただ、彼らの仕事はそれ以外にもあります。ロレンスの後ろ盾のおかげで深海圏のサルベージ事業やその他の事業も安定していたため、致命的な問題にはならずに済みました。


 さすがに楽な生活ではないため、ロミオは「こちらからも根の国に働きかける」と決めました。具体的には「守要の魔神救出」も考えていました。


ロミオ「あの人には恩義がある。それに、深人化や流民が暮らす土地問題を解決するためにもあの人の力は必要不可欠だ」


 ロミオはロレンスの戦力を結集してでも守要の魔神を救出するつもりでした。ただ、この試みはまったく上手くいきませんでした。


 根の国周辺が以前以上に荒れ狂い続けており、さらには根の国側が近づく事すら拒んでくるので救出作戦の実行すら出来なかったのです。


 ロミオを止むなく、本来の稼業に――海賊稼業に集中し始めました。


 神器使いのロミオを中心としたロレンスは海賊組織として、多次元世界の混沌の海で影響力を強めていきました。単に船を襲うだけではなく、傘下の海賊組織も増やしていきました。


 人類文明圏の海賊達を束ねたロミオは、その力を背景に陸の国家と交渉し始めました。


ロミオ「金や物資をくれ。上納の見返りとして、ロレンスは航海の安全を保証する」


ロミオ「単にオレ達が襲わないだけじゃない。ウチ以外の組織がアンタらの航海を邪魔するなら、ロレンスの総力をかけて対応する」


官僚「ふ、ふざけるな! 犯罪者と取引など……!」


ロミオ「そうか。じゃあ、『交渉』を続けていくしかないな」


 混沌の海で長年生き、戦い続けてきたロレンスの海賊達は厄介な相手でした。


 壊滅させようにも混沌の海の闇に潜み、ろくに居場所がわからない。逆にロレンス側は次々と船を鹵獲し、海賊行為を成功させていきました。


 輸送船に多数の護衛を張り付けておけば、さすがに海賊達も手出しが出来ません。しかし護衛をつけるための多大なコストが陸の国家に牙を剥いてきました。


 ロレンス側の執拗な襲撃と妨害により、多くの国家が根を上げていきました。「上納した方がコスト的にマシ」という判断から、多くの国家がロレンスとの裏取引関係を構築していきました。


 この裏取引関係はロレンスを潤わせるだけではなく、甘い蜜を吸いたい海賊達をさらに集め、組織をより強大にする事に繋がりました。


デカローグ首領「さすがだね、ロミオ」


ロミオ「いやぁ、兄貴の寿命事業ほどじゃねえよ」


ロミオ「それにオレは、兄貴に教わった事を実践してるだけさ」


ロミオ「殺し合いは禍根が残る。感情的な問題は予想外の事故を生みかねない」


ロミオ「金で解決する取引関係の方が、その手の事故は起きづらい。こっちは犯罪組織だから、向こうも納得はいってねえだろうけどな」


ロミオ「けど、この関係を足がかりに向こうにも利があると納得させてみるよ。オレ達を単なる海賊ではなく、傭兵業者のように……合法の組織として認識させてみせるさ」


 大組織の長として仕事をこなしているロミオを見て、兄貴分のデカローグ首領は「キミは見込み通りの男だ」と褒め称えました。


 ただ、ロミオは少し悲しそうにしていました。


ロミオ「でも寂しいよ。ロレンスが大きくなるほど、兄貴と会いづらくなってるしよぉ」


デカローグ首領「お互い、立場があるからね」


 同じカヴン所属の組織とはいえ、デカローグとロレンスは別組織。


 同じ大首領直参幹部なので、そういう意味では対等な立場。しかし両組織の構成員達は「ウチの方が上」「ウチの首領の方がスゴくてエラい」などという考えを捨てきれませんでした。


 組織としてはロレンスの方が古い歴史を持ちますが、先に大組織になったのはデカローグでした。デカローグ構成員の中にはそれを誇りに思い――あるいは固執し、「デカローグの方が上。ロレンスの方が下」と主張してはばからない者達もいました。


 ロレンス構成員達にとって、そんな考えは面白くありません。彼らにもロレンスとしての矜持があるため、両組織の末端構成員が揉めるのは珍しくなくなっていました。


ロミオ「新派の流民同士で争うなんてバカらしい」


 ロミオは常々そう思っていました。


 年々増えていくロレンスとデカローグの末端が小競り合いをする件もウンザリしていました。


 デカローグ首領と連携して構成員らにケジメを取らせても、一時的に小競り合いが収まるだけ。根本的な解決は出来ていません。


ロミオ「いっそのこと、ウチがホントにデカローグの傘下組織になればいいだろ」


デカローグ首領「本気で言ってるのかい?」


ロミオ「兄貴が『別の可能性の模索』ってのを諦めて、オレを部下にしてくれりゃあいいんだよ。陸の裏社会を牛耳るデカローグと、海のロレンスが組めば無敵だぜ!」


 ロミオは「人連の常任理事国すら、楽に転がせるようになる」と言って笑いましたが、デカローグ首領が笑っていないので「冗談だよ」と訂正しました。


ロミオ「まぁ…………ロレンスを傘下に入れるのは、今更難しいってわかってるよ。オレはよくても下の奴らがキレるだろうし」


デカローグ首領「地道に対処していくしかないさ。他の問題と同じくようにね」


ロミオ「でも、兄貴と飲みたい時、コソコソしてなきゃいけないのは……やっぱ、嫌だなぁ」


デカローグ首領「会うこと自体は難しくない。なにせ、府月があるからね」


ロミオ「でもやっぱ寂しい。寂しさに慣れていく事もない」


ロミオ「頼りになる部下は増えていくが、家族は……すっかり減っちまったな」


デカローグ首領「そうだね」


デカローグ首領「昔と比べれば、豊かにはなったね」


ロミオ「ああ……」


ロミオ「兄貴、ロレンスの方舟の暖房が壊れた時のこと、覚えてるか?」


デカローグ首領「あの時は、皆で寄り添って暖を取ったね。吹雪に襲われたペンギンのように」


ロミオ「そうそう! オヤジと兄貴はずっと外側に陣取って、オレらが凍えずに済むようにしてくれてさぁ! あの頃は今より大変だったけど、兄貴達のおかげで幸せだったよ」


ロミオ「だから……昔に戻りたいと思う時もあるんだ」


ロミオ「おかしいよな! 昔の方が、ずっと状況は悪かったのに……」


デカローグ首領「わかるよ。キミの気持ちはよくわかる」


デカローグ首領「時計の針が進み続けるのが、今の世の理だ」


デカローグ首領「それを変えたければ、まずは世界を変えなきゃね」


 昔と比べれば色んなものが変わってしまいました。


 ロミオは時代の荒波に弄ばれながらも、組織の舵取りを続けました。それが流民全体の状況を変えると信じ、戦い続けてきました。


 守要の魔神という希望が離れていっても、全ての希望が潰えたわけではない。何より自分には「兄貴」がいる。頼りになる仲間達もいる。


ロミオ「いつかきっと、この状況は変わる」


 彼はそう信じていました。


 信じたいと思っていました。


 組織の長として戦い続けているうちに、根の国の鎖国が一部解除。カヴンと根の国の取引が再開しました。ただ、根の国は未だに守要の魔神を裏切った者達が支配しており――ロミオにとってそれは気分の悪いものでした。


 しかし、彼は組織の利益の方を優先し、恩義のある守要の魔神を事実上見捨てました。




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