新暦200~212年頃
流民の未来を危惧しているのは、ロミオだけではありませんでした。
多次元世界の底にある<根の国>という世界を統治している魔神、<守要の魔神>は多次元世界全体の状況を案じていました。
人類『うおー!! 内ゲバ内ゲバ内ゲバ虐殺虐殺虐殺侵略侵略侵略ウンチウンチウンチ!』
守要の魔神「…………」(頭を抱える)
守要の魔神「人間同士で争ってる場合じゃねえだろ……。アイオーンは確かに殺したけど、ヤバい魔神は他にもいるし! プレーローマもいるんだから人類で団結しろよ~……!」
守要の魔神は「根の国が平和でも、他が争ってばかりだと真の平和とは言えない」と考え、根の国の統治と並行して多次元世界全体に干渉したがっていました。
実力はあるものの、根の国を離れるわけにもいかない身なので、彼の魔神は「界外の協力者が必要」と考えていました。界外にいる数少ない知人を頼ったり、探査機を派遣したりして、少しずつ根の国の外にも手を広げていきました。
守要の魔神「人手がまったく足りねえ~! 根の国だけでも苦労してんのに」
守要の魔神「当事者達を支援していくしかねえな。物資関係ならこっちで作って融通できる」
守要の魔神「人類連盟は信用しづらいなー……。それ以外の勢力で、それなりの規模を持っているところを支援するとなると――」
守要の魔神「流民。そしてカヴンか」
守要の魔神「犯罪組織の支援は気が向かないが、大半の人間は好き好んで犯罪に手を染めてるわけじゃないだろ。十分な支援を与えれば、更生できるはずだ……」
当時はまだ人を信じていた魔神は、カヴンを支援し始めました。
困窮している流民達の衣食と方舟の問題を解決するため、<海獣>という生体兵器の提供を開始しました。虐げられている流民を救い、そこからさらに別の弱者を救っていけば、戦乱絶えない多次元世界の状況を変えられると信じていました。
流民「海獣の血肉で食料問題が大分解決した~!」
流民「なんか鱗が生えてきた。力も満ちてきた! 守要の魔神、これは……!?」
守要の魔神『なにそれ。知らん。怖っ……』
ちょっとどころか大分ミスがあったのか、海獣の血肉を摂取していると<深人化>する事がわかりました。守要の魔神も悪気はなかったので「マジでゴメン。出来るだけ早く原因究明して対応します」と言っていたのですが、諸々トラブルがあってこの問題は解消されませんでした。
深人化は流民排斥をさらに進めてしまいましたが、流民達を混沌の海での暮らしに適応させていきました。混沌の海は危険な場所ですが、それでも「海獣がいれば混沌の海だけでもそれなりに暮らしていける」という状態にはなりました。
守要の魔神『出来れば犯罪からも足を洗ってほしいんだけど』
幻夢教の幹部「ええ、ええ。それはもちろん、直ぐ改善しますよ!」(ニコニコ)
守要の魔神『…………』
幻夢教の幹部「よしよし、親切な馬鹿のおかげで戦力増強できた」
幻夢教の幹部「これより、偽りの神を打倒する!」
信者「えっ、どういう事ですか……?」
幻夢教の幹部「いまの夢葬の魔神は本物ではない。偽者だ!」
信仰が薄れ、衰退していく一方の幻夢教は行動を起こしました。
今の夢葬の魔神は偽者。本物の地位を奪った紛い物。
2代目・夢葬の魔神「う~ん、事実」
幻夢教の教えが廃れつつあるのは、今いる偽者の所為。
2代目・夢葬の魔神「事実! かしこい!」
夢葬の魔神の使徒・マーリン「いやどっちにしろ廃れますよ。ここの教義じゃ」
だから偽者を倒し、真の神と信仰を取り戻そう――と蜂起したのです。
結果、幻夢教は――カヴン旧派は壊滅的打撃を受ける事となりました。
幻夢教の幹部「うおおおお死ねッ! 偽りの神!」
2代目・夢葬の魔神「私は許しましょう」
2代目・夢葬の魔神「でも、そっちの子達は許さないと思う……」
デカローグ首領「あなた達は大首領を裏切るわけだ」
デカローグ首領「裏切り者は粛清しないと」
夢葬の魔神を狙った旧派は、デカローグ・ファミリーを中心とした新派のカヴン構成員達によって瞬く間に殲滅されていきました。
デカローグの首領は行動を起こした旧派に「組織の裏切り者」というレッテルを張り、さらに的確な戦力配置で旧派の出鼻を挫いていきました。
旧派内も一枚岩ではなく、今の夢葬の魔神が「偽者」という事を知らない派閥もありました。デカローグ首領は行動を起こしていない旧派の人間に対し、「一部の信者が神への不敬を働いていますよ」と言い、旧派内での争いも煽りました。
幻夢教の幹部「な、なんでここまで簡単に殲滅されて……」
幻夢教の幹部「貴様、まさか最初からこうなる事がわかって……」
幻夢教の幹部「いや、まさか、我々に行動を起こさせて大義名分を――」
デカローグ首領「見えないものを見過ぎて、お疲れのようだ」
デカローグ首領「そういう時の対処法は1つ」
幻夢教の幹部「や、やめろ……!」
デカローグ首領「良き夢を」
旧派は壊滅的打撃を受け、新派が勝利しました。
後に<大粛清>と呼ばれるこの事件において、もっとも活躍したデカローグ・ファミリーは旧派の遺産を接収しつつ、カヴンの実権を握っていきました。
元々衰退する一方だった旧派は――全員が死んだわけではありませんが――大粛清によって一気に衰退。「信仰組織」だったとは思えないほど、カヴンは変わっていきました。




