新暦100~200年頃
本来、カヴンは<幻夢教>の信仰組織でした。1人のプレイヤーが源の魔神やプレーローマに対抗するため、夢葬の魔神を祭り上げて作った集団でした。
源の魔神への抵抗組織としてはそれなりに力を持っている部類でしたが、プレーローマ本土への襲撃作戦が失敗し、幻夢教は主戦力を喪失。幻夢教を支配しているプレイヤーも2代目・夢葬の魔神にやられたので統率者すら失いました。
信仰そのものは残っているので、残った信者達は何とか幻夢教を立て直そうとしました。しかし、幻夢教の信仰は廃れつつありました。というのも――。
信者「我らが神、夢葬の魔神は未だ健在! それどころかお目覚めになられた!」
信者「神よ! 我らをお導きください!!」
夢葬の魔神「あ、私、子供達と遊ぶ用事あるから。そういうのは私抜きでやってね」
2代目・夢葬の魔神は組織運営に興味がありませんでした。
<府月>というインフラを提供したものの、先代のように力を与えてくれない。先代は先代で意図的に力を与えてくれたというより、プレイヤーがその力を抽出して無理やり信者に与えていた状態でしたが、ともかくあまり頼りになりませんでした。
夢葬の魔神が2代目になった事すら公になっていないため、子供と遊んでばかりの威厳のない神を見て信者達は失望せずにはいられませんでした。
信者「何とか信者を増やさないと……!」
信者「流民だ! 流民共を信仰戦士にしてしまえばいい」
幻夢教の復興を諦め切れない者達は、行き場のない流民達に目をつけました。
元々、排斥された流民達は幻夢教の信者に仕立てやすい存在でした。ただ、昔と違って流民の信者化は上手くいかなくなっていました。
信者達がどれだけそれっぽい信仰を説いても、肝心の神が夢の中で遊んでばかりなので「神のわりに随分とフレンドリー」と舐められがちでした。
流民「あんなののどこが神だよ(笑)」
流民「でも、この府月ってネットワークは便利だな……」
神として信仰心を集めずとも、府月が便利な事は流民達に広まっていきました。
幻夢教の信者達が流民を集めずとも、「非信者のカヴン構成員流民」が仲間達を集め、カヴンには流民達が身を寄せる組織になっていきました。
流民達の置かれた状況が苦しいうえに、カヴンもそこまで力は持っていなかったため、彼らは犯罪に手を染めざるを得ませんでした。
流民「所詮、土地を持たない流れ者組織だからな……」
流民「人が増えたところで、稼ぐべき食い扶持が増えるだけというか」
流民「数を集めれば何とかなる! 流民が一大勢力になれば陸の奴らに勝てるさ!」
数が増えたところで、十分な食料と兵器を持つ陸の勢力にはなかなか勝てません。最盛期の幻夢教なら<聖人>という異能持ちがいたので天使相手にすら戦えていましたが……。
正面切って陸の勢力とやり合えない以上、流民達はやはり犯罪行為に頼らざるを得ません。ただ、犯罪をすればするほど、海と陸の確執は深まっていきました。
源の魔神の死後、群雄割拠となっていた多次元世界も段々と勢力図が定まりつつありました。支配が確固たるものに近づくほど、弱い流民が入り込む隙間は無くなっていきました。
流民自体は増え続ける一方ですが、カヴンはますます苦しい状況に追い込まれていきました。
そんな状況を変えようと、カヴン内で<新派>という勢力が動いていました。
その中の1人は後に「伯鯨」あるいは「大海賊」と呼ばれる流民でした。
ロミオ「陸の奴らもムカツクが、幻夢教のクソ坊主共もムカつくぜ!」
??「ロミオ。キミが所属するロレンスも幻夢教の一翼を担っているんだよ?」
ロミオ「い、いや、オレは別に神サマ信仰してねえもんっ!」
ロミオ「オレはロレンス首領に付き従ってんだ」
頭角を現しつつあるものの、当時はまだ「ロレンスの構成員」に過ぎなかったロミオ。彼は幻夢教関連の組織である<ロレンス>に所属しつつも、幻夢教を嫌っていました。
ロミオ「幻夢教のクソ坊主共の所為で、流民が苦しんでるのは兄貴も知ってるだろ?」
ロミオ「奴ら、連れてきた流民をクスリとか使って洗脳して狂信者にさせて、自爆特攻とかもさせてるだろ。神がそれを望んでるとか言って、私欲のために皆を騙してやがる」
??「そうだね。彼らもそれぐら困窮してるんだろうね」
ロミオ「このまま放っておいても、幻夢教はいつか廃れる。クソ坊主共もそのうち死ぬ」
ロミオ「けど、放っておいていいのか……? オレ達、<新派>が何とかしなきゃだろ」
当時、カヴン内には<旧派>と<新派>という派閥が生まれていました。
旧派は幻夢教関係者。古くからカヴンをまとめてきたものの、統率者であるプレイヤーを失い、夢葬の魔神が遊びほうけているので力を失いつつある派閥でした。
旧派が衰退していても、大きくなり続けるカヴンの中では「夢葬の魔神への信仰」ではなく「流民同士の助け合い」を目的とする新派が台頭しつつありました。
夢葬の魔神への信仰は廃れる一方ですが、府月というインフラを頼りにする流民は増加傾向。行き場のない流民達は信仰ではなく互助を目的に集いつつありました。
ただ、衰退しつつある旧派もカヴン内ではそれなりの力を持っているため、新興の新派も簡単には抗えない状態でした。旧派同士の結びつきで戦力を確保し、新派組織に服従を求め、それが断られるなら抗争を吹っかける状態が続いていました。
ロミオは「流民同士で争って何になる」とウンザリしつつ、彼なりの正義感に燃えて「旧派を何とかしなきゃならねえ」と鼻息を荒くしていました。
??「具体的には、どうやって何とかするんだい?」
ロミオ「旧派のクソ坊主共を皆殺しにする」
??「旧派と新派の全面戦争をすると?」
ロミオ「そう!!」
??「いまの新派では負けるかもね」
??「旧派も無傷では済まないだろうけど、結果喜ぶのは陸の人間達だ。カヴンが内輪揉めで崩壊した場合、彼らは労せず『邪魔な犯罪者』を消せるからね」
ロミオ「オレとアニキが戦えば勝てるって!!」
??「僕とキミが戦っている間、誰が非戦闘員を守るんだい?」
ロミオ「う…………」
??「衰退しつつあるとはいえ、旧派にも<聖人>や<聖女>といった戦力がいる。僕らは彼らとやり合えるけど、非戦闘員を狙われたら面倒だ。キミなんて、流民の子が人質に取られたら戦えなくなるだろう?」
ロミオ「そ、それは……」
ロミオ「でも、どうすりゃいいんだよぅ……! ただでさえ敵が多いのに、カヴン内の問題すら黙って見てるしかねえのか!? 兄貴には何か考えがあるのか!?」
デカローグ首領「一応ね。けどこれは、キミ達の協力が必要不可欠だ」
デカローグ首領「皆のために、協力してくれるかな?」
カヴン内で旧派と新派が小競り合いを繰り返す中。
後にカヴン屈指の犯罪組織に成長する<デカローグ・ファミリー>の長は、弟分のロミオと共に密かに動きつつありました。現状を変え、カヴンの実権を握るために――。




