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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.4章:遠い昔、俺達は名誉オークだった【王国歴513年】
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未来:根の国



□title:楽獄都市・ヴァルポリチェッラにて

□from:弟が大好きだったフェルグス


 根の国。


 多次元世界の底に在り、多次元世界を支える根っこの世界。


 そこは人工的に造られた死後の世界であり、死者の魂が流れ着く場所らしい。


 アルが……俺の弟が辿り着いているかもしれない世界。


 長い長い月日を乗り越え、俺はようやく根の国に辿り着いた。


 根の国にはアル以外にも、死に別れた皆がいるかもしれない。


 だからずっと前から根の国(ここ)に来たかったんだけど……根の国への渡航は簡単な話ではなかった。


 根の国は長年に渡って<腫蝿の魔神>という魔神に支配されていた。彼の魔神は通常の航路を使って根の国に来る者達を拒んでいた。


 密かに根の国に渡ろうとしても、根の国近海は荒れやすく、近づく事すら困難だった。単に荒れやすい以外にも様々な困難が待ち受けている場所だった。


 幸い、10年ほど前に<腫蝿の魔神>が倒れ、根の国の情勢はようやく落ち着いたらしい。根の国の住人達も異世界の渡航者を受け入れるようになり、俺も根の国に渡れるようになった。


 俺自身が色んな事件に巻き込まれた影響で、根の国に来るのが遅れてしまったけど……ようやくここに辿り着いた。


 俺はアルや皆との再会に胸を躍らせ、根の国の土を踏んだ。


 根の国最大の国家である<バッカス王国>に足を踏み入れて――。


「弁護士!! 弁護士を呼んでくれ!! 俺は無実だ!!!」


 監獄に入れられた。


 冤罪で――いや、冤罪ではないかもしれないが、誤解があるんだ!!


 鉄格子を掴んで叫んだものの、看守は知らんぷり。というか看守の姿を見かけない。シンと静まり返った監獄に、俺1人だけしかいないみたいだ。


 実際はそんな事はない。


 何かいる。


 俺の叫び声は一切反響せず、監獄の暗闇に吸い込まれている。……何かが監獄のあちこちで蠢き、俺の叫び声を吸っているみたいだ。


 何かがいるのは確かなんだけど……。


「やっと根の国に辿り着いたのに、こんなところで終わってたまるか」


 爪で虹式煌剣(カラドボルグ)するしかない。コソコソと鉄格子を爪で突き、こっそり破壊しようとしていると――天井から何かが降ってきた。


 黒い何かが大量に降ってきて、鉄格子をすり抜けて俺を襲ってきた。粘液(スライム)だ! 粘液が襲ってきた!!


「やめろ! デカくないか!? 方舟よりデカ――がぼぼぼぼ!!」


 黙れと言わんばかりに口内に入ってきた粘液の海で溺れる。


 俺は弟達を探しに来ただけなのに、酷い扱いを受けている!!


 根の国は「恐ろしいところ」だと聞いていた。


 プレーローマの大艦隊ですら何度も壊滅に追い込まれたとか、根の国を侵略しようとしていた人類連盟の軍隊が根の国に辿り着く事すらできず壊滅したとか、根の国の支配者だった腫蝿の魔神は大虐殺を行っていたと聞いていた。


 他にも「全裸で戦っているケダモノの集団がいる」とか「そこら中で乱交している」とか「王族は婦女子の胸が大好きな色狂い」だとか、「自爆特攻が当たり前に行われている」とか……色んな恐ろしい噂を聞いていた。


 噂はあくまで噂。軍事力に関する話はある程度は真実を含んでいるんだろうけど、全てが真実とは思えない。嘘や誇張も含まれているんだろう。


 けど、火の無いところに煙は立たないとも言う。


 恐ろしい噂が立つ場所だからこそ、恐ろしい扱いをされてもおかしくない。


 実際、いま粘液に拷問されている!!


 それに、俺はここに……根の国の<バッカス王国>に来てから、いくつもの恐ろしい光景を実際に見て――。


「……何をしているの、貴方は……」


 牢屋の中で巨大粘液と格闘していると、牢屋の外から声をかけられた。


 粘液の中から見ると、魔女の衣装とビジネススーツを掛け合わせたような服装の女の子がこちらを見つめていた。腰に手を当て、ジト目で俺を見ている。


「綺麗なお嬢さん、こんなところに来ちゃ駄目だ。ここは人間の身体が大好きな嫌らしい粘液がいるからね。早く逃げて!!」


「貴方がうるさいから看守が黙らせに来たのよ、アーロイ……」


「あーろい? 俺の名前はフェルグスですよ。まあ、『スアルタウ』と名乗る事が多いですけど――」


「ええ、ええ。そうね。そのようね。アーロイというのは<黒水>で使っていた偽名なんだっけ?」


 遠い昔の記憶が蘇る。


 俺はアーロイという偽名を使っていた事がある。


 そして、目の前の女の子の目つきにも覚えがある。


 昔より大人びたものになっているけど――。


「まさか、桃華お嬢様(・・・・・)ですか!?」


 黒水の名も聞いてわかった。


 ずっと昔、守れなかった女の子。


 その面影を残す子が微笑み、「思い出してくれた?」と言った。









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