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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.3章:夢破れし者達
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過去:双星



■title:

■from:【詐欺師】


予言の書(これ)に、未来が書かれている……?」


 【先生】が渡してくれた謎の紙。それには未来が書かれているという。


 兄さんと内容を照らし合わせてみると、書かれている内容が違うようだった。


 兄さんは「これを頼りに、より良い未来を掴んでいけばいいんだな」と喜んでいた。「これがあれば、もうあんな化け物に食われなくて済む」と喜んでいた。


 けど、僕は素直に喜べなかった。


 未来と呼べるほどのものが書かれている書物。


 しかも、内容は皆それぞれ異なる。


 という事は――――。




■title:

■from:【占星術師】


「なっ、なッ!! なんで同胞同士で殺し合っているんだ!?」


「兄さん、逃げよう。僕らも危ない」


「いや、止めないと――」


「もう止まらないよ! 【先生】の狙いは、これだったんだ……!」


 弟に手を引かれ、ワケも分からないうちに逃げる。


 何故、同胞同士で殺し合っているんだ。何で止めないんだ。


予言の書(アレ)は、僕らを争わせるための起爆剤なんだ!」


 弟はそう言った。意味がわからない。


 予言の書には未来が記されている。


 未来に起こる可能性が高い事が記されている。


 アレを参考にしたら、俺達は皆、幸せになれる。……そう思っていた。


「予言の書の内容が個々人で異なるって事は、他の人が持っているものを奪えば……さらに多くの可能性(みらい)を知れるんだ」


「つまり、どういう事だよ……」


「自分の分だけじゃ満足できない人が、ああやって……他の人のを奪おうとしているんだ。アレにはそれだけの魅力があるから――」


 馬鹿げている!


 せっかく助かった同胞同士で殺し合い、奪い合うなんて馬鹿げている。


 このままだと俺も弟も危うい。


 なんとか……コイツを守ってやらないと――。




■title:

■from:【詐欺師】


 予言の書は完璧ではない。


 アレに記されているのは未来ではなく、並行多次元世界の歴史だ。


 条件が揃えば同じ歴史が繰り返される。


 同じ条件が揃った状態で始まった戦争なら、どっちが勝つか予想しやすくなる。……勝ち馬に乗れば大儲けする事も可能になる。


 予言の書を効果的に使うとなると、「条件を揃える」という下準備が必要になる。下準備さえ整えてしまえば、後は自分達が動かずとも大勝できる。


 だから一部のプレイヤーは、<秩序の神>を擁立した。


 自分達が持っている<予言の書>に記されている歴史を勝手になぞってくれるほど強力な神を……<源の魔神(アイオーン)>を擁立した。


 源の魔神は人類の敵だけど、多次元世界を支配できるほど強力な存在だ。他のプレイヤーの妨害によって排除される事もそうそうない。


 彼らは……<観測肯定派>は強力な魔神によって、新たな秩序(ニュー・オーダー)を構築した。源の魔神を暴れさせておき、その裏で利益を吸い上げる寄生虫として生きている。


 それを良しとせず、源の魔神に挑むプレイヤーもいた。けど、勝てなかった。源の魔神にも勝てるだけの力があったはずなのに、最終的に敗北していた。……源の魔神には何か隠された能力があるんじゃないのか……?


 ともかく、観測肯定派は実質的に世界を牛耳り始めた。


 源の魔神を上手く使い、間接的に世界を掌握した。


 今の多次元世界だと、僕と兄さんが持っている予言の書は上手く機能しない。僕らが持っている予言の書に記されている可能性は、今の多次元世界からかけ離れたものになってしまっている。


 このまま隠れて暮らしていても、いずれ源の魔神にやられる可能性が――。




■title:

■from:【占星術師】


「我ら兄弟を……観測肯定派の末席に、お加えください……」


 秩序の神を擁立した観測肯定派には勝てない。


 源の魔神・アイオーンは…………強すぎる。


 このままだと弟も俺も殺されてしまう。


 観測肯定派に入れてもらわないと、せっかく掴んだ新たな人生を失ってしまう。……コイツらに頭を下げても、何とか生き延びなければ。


 生きていれば、いつかきっと機会が巡ってくるはずだ。


 俺達が持っている予言の書も、いつかきっと――。


「承認する」


「承認しよう」


「どちらでも構わん」


「…………。【後援者】、お前はどう思う?」


「其奴の意見を聞くまでもない。賛成多数だ」


「【占星術師】、【詐欺師】。我らは貴様らを歓迎しよう」


「では早速、お前達に仕事を与える」




■title:

■from:【詐欺師】


「兄さん……! しっかりして、兄さんっ!」


 常人ならとっくに死んでいる状態の兄さんに呼びかける。


 兄さんは呻き声1つ出さず、「大丈夫だ」「気にするな」と返してきた。


 それどころか、笑顔で「兄貴は弟を守るのが仕事なんだ」と言ってきた。


 観測肯定派の軍門に下って以降、僕らは――いや、兄さんは酷使され続けている。観測肯定派のおこぼれに与らないと生きていけない状態で、無茶な仕事を頻繁に振られ、兄さんは何度も死にかけている。


 死にかけるたびに改造手術を施され、兄さんの身体はどんどん別物になっていった。でも、それでも……兄さんは兄さんのままだった。


「俺のことより、楽しい話をしよう」


 兄さんはボロボロになっても笑い、僕を気遣ってくれた。


「お前は、何かやりたい事ないのか?」


 未来の話をしようと言って来た。


 未来にはきっと、希望が待っていると言って――。


「生きていれば必ず、明日が来る。明日は……今日より良い日になるはずだ」


 兄さんはそう信じていた。


 予言の書に書かれていたわけではない。僕らの予言の書は、観測肯定派上層部が持っているものと違って頼りにならないものだった。


 それでも兄さんは可能性を信じていた。


 明日は今日より良くなる。……僕と違って、そう信じていた。


「お前もやりたい事ぐらいあるだろ。明日への希望を持っているだろう?」


「…………」


 僕には何もない。


 けど、そう言えば兄さんが絶望してしまう気がした。


 兄さんが大事にしているものを、踏みにじってしまう気がした。


「何かを…………。そう、何かを残したい」


 僕は苦し紛れにそう言った。


 兄さんは僕の言葉を笑いもせず、穏やかな声色でさらに問いかけてきた。


「何かって?」


「……絵本とか」


「おぉっ……! お前、創作の趣味があったのか!」


 そんなもの無い。


 無いけど、無いとは言えない。


「誰かの心に残る物語を、作りたい。子供だましの幻かもしれないけど――」


「良い夢じゃないか!」


 兄さんはそう言い、僕の頭を撫でようとしてくれた。


 けど、自分の手が原形を留めていない事に気づいたらしく、手を引っ込めようとした。僕がその手をそっと握ると、「お前の手が汚れる」なんて言われたけど離したくなかった。


 明日への希望なんてない。


 けど、それでも、目の前の希望は大事にしたい。


 兄さんは僕の夢についてさらに聞きたがったけど、僕はボロが出るのが怖くて誤魔化した。今は安静にしておいてと言って医務室を出る事にした。


 出たところで、医務室に向かっているプレイヤーを見つけた。


 【占星術師(にいさん)】に仕事を持って来たんだ。


 また、兄さんが危ない目に――。


「ぼ…………僕がやります。兄さんの代わりに」


 兄さんがあそこまでボロボロになっているのは、僕の所為だ。


 弟の僕が頼りないから、僕の分まで無理している。




■title:

■from:【占星術師】


「なんで……なんでこんな事をした!? 何で勝手をした!!」


 弟が1人で観測肯定派の任務をこなしにいき、重傷を負って帰ってきた。


 弟が使えるのは直接戦闘向きの異能じゃない。後方支援向きの異能だから、前線に出さないようにしてきた。戦うのは俺の役目だった。


 それなのに1人で勝手に任務をこなそうとしていた。そして……五体不満足の状態で帰ってきた。死んでいてもおかしくなかった。


 何でそんな事をしたか問うと、弟は視線を逸らしながら口を開いた。


「……僕も力が欲しいんだ。自分だけで戦える強さが欲しかったんだ」


「お前……」


「強い兄さんには理解できないかもしれないけど、僕は……力が欲しかったんだ」


 何でそんなこと言うんだ。


 力が欲しいのは事実かもしれない。


 けど、本当の動機は……俺を心配したからだろ?


 俺が頼りないから、無茶をしたんだろ。


 俺が、もっと強ければ……弟をしっかり守れるのに……。


 俺が弱いから、コイツを傷つけてしまった。


 情けない。


 なんで、俺はこんなに……弱いんだ。


 もっと、力が欲しい。


 力があれば、きっと――。




■title:

■from:【詐欺師】


「どんな形でもいい。新たな秩序の神を殺してほしいんだ」


「それは……僕らに観測肯定派(なかま)を裏切れという事ですか?」


 薄い笑みを浮かべた【絵師】にそう返すと、彼女は表情を変えずに「キミらにとって観測肯定派は『仲間』じゃないでしょ」と返してきた。


 観測肯定派は秩序の神を……源の魔神を制御できなくなった。


 だから、本来は敵である【絵師】達と共謀して源の魔神を始末した。


 その後、新たな秩序の神(メフィストフェレス)を作った。……【絵師】はそれを殺せと言って来た。


「アレは殺しても死なないはずだ」


 兄さんがそう言うと、【絵師】は「観測肯定派の計算を崩してくれればそれでいい」と言ってきた。新たな秩序の神が蘇っても、それは問題ないと言った。


「誰かに殺させてもいいし、キミ達自身が殺してもいい。とにかく新しい秩序の神を……真白の魔神を一度殺してくれれば、報酬として予言の書を譲るよ。所有者不在の予言の書をね」


 その提案を受け入れた場合、僕らは観測肯定派に弓を引く事になる。


 多次元世界を裏から操っている彼らと敵対する事になる。


 源の魔神が死んで以降、観測肯定派は弱体化している。でも、それでも大きな力を持っている。彼らは裏切り者を許さないだろう。


 観測否定派の【絵師】はまったく信用できない。こいつは敵だ。


 けど、兄さんは――。


「【絵師】の提案に乗ろう」


「冷静になって、兄さん。僕らは……【絵師】の首を持って行くべきだよ」


 【絵師】は観測否定派の首魁だ。


 源の魔神を処分するために一時的に手を結んだ事はあるけど、観測肯定派と相容れない敵だ。……【絵師】の首を持っていけば、上の人達も僕らを評価してくれるかもしれない。


 だから彼女を殺すべきだ。


 そう提案したけど――。



「奴の首を取れると思うか? 俺達の目の前に現れたのが本体のわけないだろ。それに……仮にそれが出来たとしても、上の奴らが俺達を認めてくれると思うか? 俺達を散々酷使してきた奴らが……!」


 兄さんも【絵師】を全面的に信じているわけではない。


 けど、観測肯定派の事も信じていない。


「観測肯定派を出し抜かない限り、俺達に明日は来ない!」


「兄さん……」


「俺を信じてくれ。……俺は必ず、お前を救ってみせる」


 兄さんの事は信じている。


 でも、どう足掻いたところで、僕らは――。




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