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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.1章:天獄の住人達
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彼らの爪痕


■title:<プレーローマ・人類絶滅派>の管理領にて

■from:プレーローマ工作部隊の生き残り・タカサゴ


 当初、上から与えられていた「玉帝暗殺任務」は失敗した。


 玉帝は死んだものの、犬除(わたしたち)がやったわけではない。


 元々、私達をよく思っていない上司がいたうえに、陣営が大打撃を受けた事もあって――その腹いせに――私達には厳しい処罰が下りかねない状態だった。


 ただ、<武司天>が口出ししてくれたおかげで何とか無事。……人類絶滅派なんかの庇護下に置かれるのは不服だけど、処刑されるよりはマシだ。


 私は生き残ってしまった。


 独り、おめおめと逃げ帰って来てしまった。


 死に損なった以上、泥水をすすってでも生きていくしかない。


 生きていれば……いつかきっと機会が巡ってくるはずだ。


 いまは出来ることをやろう。


 まずは外出許可を得る。


 武司天につけられた監視から、外出の許可を取り付ける。


 監視がつかず離れずの距離でついてくるけど、仕方がない。後ろ暗いことをするわけではないし、多少の鬱陶しさは我慢するべきだろう。


 連絡船を使い、武司天の直轄領から別の世界に向かう。……そこも人類絶滅派が牛耳っている欺瞞に満ちた場所だけど、そこに行くしかない。


 そこに部隊の皆の家族が……あるいは関係者がいると確認が取れた。


 本来は皆、別の場所に住んでいたけど……武司天の計らいで引っ越してきたらしい。犬除の関係者は――希望者を除き――人類絶滅派が管理している世界に引っ越している。


 死に損なった者の責務として、部隊の皆(みんな)の家族に訃報を伝えに行く。私だけ生き残ってしまった事を責められるだろうけど、それは当然の罰だ。


 皆が最期まで……立派に……戦った事を、伝えないと……。


 それが、遺族への慰めになると思ったけど――。


「やめとくれ……! あんな馬鹿息子の話なんて、聞きたくもない!」


「兄さんの所為で、僕らは人類絶滅派なんかに頼らなきゃいけなくなったんだ。アイツが……もっと、しっかり働いていれば……」


「遺品!? やめてよ、そんなゴミを押しつけるなんて……!!」


「帰ってくれ!! アイツの知り合いなんざ、会いたくもない!!」


「…………」


 どこに行っても歓迎はされなかった。


 歓迎されないのは予想していた。……ここまでとは思わなかったけど。


 離れたところにいた監視が――気まずそうな表情を浮かべつつ――近づいてきて、「遺族への戦死報告は既に終わっている」と言ってきた。


「その……人類絶滅派管理領(こっち)に引っ越してきて間もない者達が多いし、キミが無理して報告に行く必要はないよ。遺品の件は、こっちでやってもいい」


「…………」


「ここで切り上げて、ジェラートでも食べに行こう。美味しい店を知って――」


「結構です」


 衣服についた泥水を可能な限りハンカチで拭い、次の目的地に向かう。


 部隊の全員が、家族に会いたがっていたわけではない。不仲だと公言していた者もいた。ただ、中には家族の写真を大事に持ち歩いていた者もいた。


 交国の人間に頭を下げてでも、可能な限り遺品を持って帰ったものの……その殆どが行き場をなくしているみたいだ。


「……あなた達も、私と一緒というわけですね」


 遺品相手に語りかける。


 語りかけておいて、感傷に浸っている自分にうんざりする。


 母さんが今の私を見たら、「そんな無駄な事するなんて疲れてるのよ。あったかくしてさっさと寝なさい」と助言してくれただろう。


 そもそも、部隊関係者への報告なんて私に行かせなかっただろう。遺品の回収は……どうだろう? それも「無駄なこと」と言われたかもしれない。


 でも、これは自分で始めた事だ。最後まで続けよう。


 改めて覚悟を決め、遺族や関係者のところを回る。全員が一箇所に住んでいるわけではないから数日がかりになってしまったけど、時間はある。武司天にも「しばらくは仕事を振らんぞ」と言われているんだから、こっちに集中しよう。


「副長のところが……最後ですね」


 副長の関係者のところは、あまり行きたくなかったから後回しにしていた。いっそのこと最初に行けば良かったと後悔しつつ、最後の目的地に向かう。


 ヨモギ副長の本名は、アルヴィエルと言う。両親はもう他界している。その両親の負債により、副長はずっと不遇な立場に置かれていたらしい。


 部隊ではよく笑っているムードメーカーだった。ラフマ隊長が基本、他者に無関心だから副長が部隊員の仲を取り持つためによく奔走していた。


 非情になりきれない天使で、そこが欠点だったと思う。けど、厳しい判断が出来るラフマ隊長がいるから大きな欠点にはならなかった。……隊長と副長はお互いの欠点を補い合う良い関係を築けていたと思う。


 ただ、副長は時折、虚ろな表情をしている事があった。


 多分、純粋に疲れていたんだと思う。


 両親の負債の影響で。


 副長はそれを「負債」とは思わなかったかもしれない。でも……疲れ切っていたのは確かだと思う。明るく見えるのも、その殆どが空元気だったんだろう。


 でも、良い天使だった。


 部隊の空気を損なわないよう、空元気でも頑張っていた。他者との交流が苦手な私相手にも親身に接してくれていた。父が…………いや、兄がいたとしたら、ヨモギ副長のような存在がいいと思っていた。


 副長にはラフマ隊長の次にお世話になったし、本来は一番に副長の関係者のところに向かうべきだ。遺族はいなくても、関係者がいるのは確かだったんだから。


 ただ、その関係者が天使ではないから、あまり行きたくなかった。


 その関係者のところに……人間の病室に向かう。


 そこには痩せ細った老婆の姿があった。


「モチさんですね?」


 清潔なベッドの上で、窓の外をボンヤリと見ていた人間に呼びかける。


 副長が命懸けで守ろうとしていた人間(ペット)


 副長の、唯一のよりどころだった人に会いに来たけど――。


「あらぁ…………どなたかしら……?」


「…………」


 相当高齢なのか、頭に問題があるようだ。


 モチという人間は、焦点の合っていない目で私を見てきた。


 虫みたいだな――という感想が、私の脳裏を過った。






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