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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.1章:天獄の住人達
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プレーローマにて



■title:<武司天>直轄領にて

■from:<武司天>ミカエル


「ミカエル様。<癒司天>ラファエル様から催促が――」


「いま忙しいって返しとけ。今日はこれから来客が来るしな」


 久しぶりに本土に帰ってくると、部下に聞きたくない言葉を言われた。


 例の事件以降、毎日のようにラフィから連絡が来ててウンザリしてるんだ。


 今日ぐらい話さずに済むよう誤魔化しておいてくれ……と頼みつつ歩いていると、建物の入口が騒がしくなった。


 金髪灰眼の女が、引き連れている護衛に守衛を押しのけさせつつ、こっちに歩いてくる。俺に鋭い視線を向けながらツカツカと歩いてくる。


 男子便所にさりげなく逃げ込もうとしたが、護衛が通せんぼしてきた。観念し、金髪灰眼の女と向き直る。


ラファエル(ラフィ)……。俺と話すためだけに乗り込んで来たのか?」


「あなたが<三大天>としての責務を放り出しているからですよ。私の通信を2日に渡って無視し、私の使者も撒いて逃げているから仕方なく足を運んだのです」


「お前は俺の彼女か? 嫁か? 束縛が激しいし息が煙草臭え。<天泉>での件は俺も反省した!! 詫びにお前らの軍団の代わりに戦ってやったし、ここしばらく一切休まずに事後処理に奔走してたんだ。お前の縄張りの奪還も含めてな! それなのにお前はいつまで経っても終わった事をグチグチグチグチと――」


 三大天としての責務を放り出してる? 逆だろ! 仕事してたから1ヶ月寝ずに戦ってたんだよ!! ここ帰ってくる途中にようやく仮眠取れたとはいえ、もう1ヶ月以上菓子作り出来てねえから苛ついてんだよ……!!


 さすがにカッとなって喧嘩腰になってしまった。


 ラフィとの口論は不毛にも程があるので「はいはいはい、俺が悪うございました」と認めてやると、ラフィはさらに苛立ち始めた。面倒くせえ奴!!!


 これ以上の口論は明らかに無駄で、三大天としての体面にも関わるからせめて場所を移そうとしていると……また建物の入口が騒がしくなった。


 ただ、今度はちゃんとした客人だ。


 天使の天敵が不機嫌そうなツラでやってきただけで――。


「ミカエル、どういう事ですか? 何故、丘崎獅真がここにいるのですか……!」


「ええっと……。ちょっとな? 頼み事してたからよ……。ほれ、例の件」


 確実に揉める相手を引き合わせちまった。


 シシンもシシンで空気読んでその辺に隠れてろよ……!


 ラフィ達が臨戦態勢を整える中、空気を読む気のないシシンは「お前らのところの天使(タカサゴ)、確かに届けたぞ」と言って帰って行こうとした。


 その首根っこを掴み、「待て待て」と止める。頼み事しておいてろくにもてなさずに帰したら、それも三大天としての体面に関わるだろうが。


 キレてる癒司天(ラフィ)と不機嫌なシシンをお手玉するように持て余していると、救世主がやってきた! 最悪の状況に最高の切り札がやってきた。


「おいラフィ!! サリエル帰ってきたぞ、サリエル!!」


「そんな子供だましが通用すると? あの子が簡単に帰って来るわけがないでしょう……! 便りすらろくに寄越してくれないのに、帰省すら――――サリエル!? 貴方いつの間に帰ってきたの!!?」


 <雪の眼>の史書官を連れ、テクテクとやってきたサリエルにラフィがそそくさと近づいていく。史書官を押しのけ、大好きな弟の無事を確かめ始めた。


 しめしめと思いつつ、シシンと<犬除>の生き残りの子を連れて一時逃げようとすると、ラフィが鋭い声で呼んできた。


「ちょっとミカエル、逃げるつもり!? 私が何のために――」


「ところでラファエル。エデンを使う事にしたのはお前の意志か?」


「…………いいえ? 下の者が勝手にやった事よ」


「…………。そうか。そうだよなぁ? それならいいんだ」


 ラフィの肩に手を置いて微笑みかけ、「お互いに色々と話し合いたい事があるが、他に急ぎ対応するべき事案が山ほどあるだろう?」となだめ、話し合い(それ)はまたの機会にしようと告げる。


 さて、ラフィの接待はサリエルに押しつけておこう。奔放だからそのうちフラッと出かけてしまうだろうが、数日はラフィの機嫌も良くなるだろう。


 サリエルを連れて足早に去って行くラフィを軽く見送った後、改めてシシン達に声をかける。


「世話になったなシシン! それとタカサゴ、よく生還した!!」


 1人と1体の肩をベシベシ叩き、無事を喜ぶ。


 シシンは「全員連れ帰ることは出来なかった」と言ったが、それは仕方ないだろう。シシンが不義理を働いたわけでもないから、咎めるつもりはない。


「いまここで殺し合いになっても文句は言えねえ」


「そんなことしねえよ! とにかく、お前は最善を尽くしてくれた」


 最善を尽くしたのはシシンだけじゃない。


 タカサゴも厳しい状況の中、よく頑張ったと褒める。


「本来、タカサゴ(おまえ)と<犬除(けんじょ)>は癒司天派閥所属だ。しかし今回の任務を最後に、武司天(ウチ)で引き取る事になった」


 犬除唯一の生き残りであるタカサゴだけではなく、犬除の関係者も希望する者はウチの領地に移って貰う事になった。


 元々、犬除は実質的な懲罰部隊だった。


 何度も死地に追いやられ、今回は「交国での工作」だけではなく「玉帝暗殺」という無茶な任務まで任されていた。


 結果的に玉帝は死んだが、犬除がやったわけじゃない。……今回の事件でラフィの陣営が大打撃を受けたから、「犬除(おまえたち)が上手くやっていれば、こんな大損害は受けなかった」と腹いせをされかねない状況だった。


 ラフィは末端の工作員にネチネチ嫌がらせをするほど暇じゃねえが、部下共が嫌がらせをするのを止めるほど暇でもない。


 俺の考えでシシンを派遣した責任もあるし、人類絶滅派(ウチ)で引き取るよ――とラフィと交渉は済ませてある。無駄に天使(なかま)同士で恨みつらみを貯め込むより、思い切って配置を変えた方が効率的だ。


 タカサゴもラフィの派閥に残るつもりはないらしく、俺の誘いに乗ってくれた。良かった。前途有望な若者を大人のくだらん諍いで潰さずに済みそうだ。


「当面の住居として、近くのホテルを取ってある。今日はそこに行って休め」


「ミカエル様。私は休んでいる場合ではないんです。仲間の家族にお詫びを――」


「タカサゴ――いや、リリリエル。勘違いするな」


 表情を強張らせながら逆らってきた小娘を見下ろしつつ、言葉を続ける。


「これは配慮ではなく、命令だ。ウチに来る以上は俺の指示に従ってもらう。命令に不服があるなら意見しても構わんが、俺を納得させられる理由がないなら従え」


「わ…………私は、独りだけ生き残ってしまいました。仲間の家族に、申し訳ないからこそ急いで謝罪と報告に――」


「意見を却下する。いまは休め。それと……お前が生き残った事は責められるべき話じゃない。お前が生き残ったのはお前自身と、お前の仲間達が努力したからだ。恥じるな。誇れ」


 とりあえず今日は休め、とタカサゴを追い出す。


 不服そうではあるが、俺に対する恐怖の方が勝っているようだ。まあ、後は護衛と監視のためにつけている部下に任せておこう。


「さて、じゃあシシン。頼み事を聞いてくれた礼も兼ねて肉でも食いにいくか!」


「いや、直ぐに帰るよ。アンタと呑気に食事してるほど暇じゃねえんだ」


「ハハッ! 俺の誘いを断るのか? 殺されてぇのか!!?」


 嫌がるシシンの首根っこを掴み、引きずって食事に向かう。


 今後の話もあるから、2、3日はこっちに逗留していけ!







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