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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.1章:天獄の住人達
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交国の罪



■title:交国首都<白元>にて

■from:丘崎新陰流開祖・丘崎獅真


 今回の事件、始まりは<太母>と呼ばれていた真白の魔神だ。


 奴は<大ブロセリアンド>というオーク国家を吸収しつつ、交国という国を作った。自分は裏方に回り、表向きの国家運営は玉帝(リンゴ)に任せた。


 太母の想定では交国という新国家を大きくしつつ、その裏では<交国計画>の準備を進めるというものだったんだろう。


 <交国計画>は支配下においた知的生命体の数が少ないと、真価を発揮できない。十分に準備が整った後に使わないと、交国計画による多次元世界制圧より先に別勢力による対策で詰みかねない。


 だから裏でコソコソ準備を進めていたんだろうが、そこを丘崎獅真(オレ)が襲撃した。建国間もない交国は俺によって大打撃を受け、太母も死んだ。


 当時の俺は交国計画のことなんて知らなかったから、太母(ましろ)と他に怪しい遺産(もの)を潰しておけばいいだろう――と甘く見た。


 玉帝も殺さず、見逃しちまった。


 結果、太母の計画を引き継いだ玉帝は交国を巨大軍事国家に成長させ、交国の力を使って多次元世界中に交国計画の網を張り巡らせた。


 ただ、それだけでは交国計画は成立しない。


 肝心要の太母が死んでいるから、交国計画はまともに使えなかった。


 交国計画を使う事によって踏み倒す気満々だった負債も――交国の改造オークや異世界侵略問題も――ずっと解決できずにいた。


 そうこうしているうちに様々な問題が爆発し、交国はある程度は弱体化。さらには交国の実権を――密かに――玉帝以外が握る事態にも発展していたようだ。


 だが、玉帝はあと少しで大逆転できるとこまで踏ん張った。


 特佐長官の宗像灰がヴァイオレットを――真白の魔神の完全複製体の器になる存在を――確保し、太母を復活させようとした。


 結局は今代の真白に交国計画を掻っ攫われ、多くの世界を巻き込む大事件に発展しちまった。まあ、太母が交国計画を使っても大事件になるんだが――。


「さすがに、どこの国も事件の全容は把握してねえか」


現交国政府(ウチ)ですら把握しているとは言いがたいですからね」


 事件について触れている報道を見つつ、交国の炎寂特佐と言葉を交わす。


 交国計画の事は、玉帝や宗像灰といった一部の奴らしか把握していなかった。


 交国の実権を握っていたらしい<黒水守一派>ですら、名前程度しか掴めていなかったそうだ。交国が築き上げた全てを利用する計画だから、交国計画の正体はずっと目の前にあったとも言えるが……馬鹿デカすぎて全体像が把握できていなかったんだ。


 裏で交国計画の準備を進めていた交国の人間は、ほぼ全員死んだ。おかげで現交国政府ですら実態を把握しきれていない。


 交国ですらそれなんだから、他国はもっとワケわかんねえ事態になっている。


 幸い、事件規模と比較すると死人は少ない。


 主に死人が出たのはプレーローマの支配地域や、侵攻中の地域。あとは人類連盟や常任理事国の重要施設がいくつか襲われた程度だ。


 ただ、それでも100万以上の人間が死んだと言われている。


 あくまで「数多の世界を巻き込んだわりには」死人の数が少ないだけで、被害はとてつもないものだ。天使の死者数も含むと死者数が倍増するかもしれんが、奴らは勘定に入れなくていいだろ。死んでも生き返る奴らも大勢いるし。


 今代の真白が死んだ事で、事件そのものは一応解決した。


 しかし、事件の影響は色濃く残っている。


 人類連盟にしろ各国政府にしろ、「自分達が何に操られ、何に襲われたのかもまったく把握できていない」という状態だ。


 多次元世界各地で全身麻痺や短期間の記憶喪失、あるいは不随意運動の症状を訴える奴らが偶然(・・)同時に現れました――と片付けられる話じゃない。


 異常は明らかで、前代未聞の規模の事件を全て「偶然」で片付けるのは無理だ。無理だが……何が起きたのか把握するのは困難だった。


 そんな中、交国政府がある発表をした。


 今回の事件は「真白の魔神が起こした事件」と発表した。


 現交国政府は……黒水守一派は黙りを決め込まない事にしたらしい。


 ただ、何もかも真っ正直に発表するわけではない。


「主犯は真白の魔神。ただし、真白の魔神に操られた(・・・・)玉帝も事件に関与していた、か……。まあ嘘とも言い切れねえな」


 事件の中心にいたのは魔神。


 歴史の表舞台から葬られてきた「真白の魔神」の名を出したところで、簡単には理解してもらえない。だが、真白の存在を――自分達の都合よく――消してきた奴らにとっては馴染みのある名だ。


 それに、真白の魔神は確かに存在する。


 その存在を丁寧に説明していけば、今回のような事件をやらかす存在だと多くの人間が理解するだろう。……今までの功罪全てをひっくるめて評価し、もはや救世主からかけ離れた存在として断じられるだろうが、そこは仕方ない。


「丘崎様にも事前に説明した通りの内容で、発表させていただきました」


「まあ、お前らがどういう筋書きを書こうとどうでもいい。今回の事件は……俺の落ち度でもあるからな。その辺、俺に口出しする権利はねえよ」


 落ち度だからこそ、後処理の手伝いをする。


 真白の存在を証明する手伝いもするつもりだ。


 その辺をちゃんとやっておかないと、今度は真白の存在がワケのわからん陰謀論に使われるからな。……いや、その手の話はどう頑張っても生えてくるか。


 諸悪の根源を倒したところで、事件が起きた事実は消えない。


 生きている奴らで頑張って、地道に後処理していくしかねえ。


「けど……良かったのか? リンゴが……玉帝が死んだ事実を発表して」


「事件への関与を発表した以上、影武者を立てるのも困難ですから」


 現交国政府は玉帝の死を発表した。


 それはそれで、現交国政府にとっても都合の悪い話だと思うが――。


「嘘はいつかバレる、と若い子に諭されまして」


「ふむ……」


「全て真っ正直に話したわけではありませんが……交国が被害者ぶるのは無理があります。認めるべきところは認めるべきかと」


「だが追及されるだろ。今回の事件は全部交国(おまえら)の所為だ、って」


 玉帝は真白の魔神に操られていた、という言い訳にも限度がある。


 事件解決のために――真白の魔神を倒すためにコイツらが動いたのは事実だが、被害を受けた連中にとっては「知った事か」って話だろう。


 感情的な問題以前に、理屈で交国を弱体化させたがっている奴らは大勢いる。人類文明側にも交国が目障りでたまらない奴らは大勢いる。


 事件に関与していた事を発表した以上、そいつらが交国を叩く絶好のネタになるだろう。黒水守一派もそれはわかっているはずだが――。


「これほどの規模の事件の賠償は、さすがに交国でも難しいだろ」


「何とかしてみせます。そもそも、他国も交国計画に関わっているようですからね」


 交国以外の国も交国計画の普及に一役買っていた。


 もちろん、それらは理解してやっていた事じゃない。


 だが、その手の関与も責任を問われかねないものだ。


 黒水守一派はその証拠を何とか掴んだようだ。それを交渉材料として「あまり交国を責めすぎていると、そっちもやることやってたのを公にしますよ」と言うつもりらしい。


 その辺の交渉を上手く出来るかは、現交国政府の手腕にかかっている。しくじると国が傾きかねない難しい交渉になりそうだが、炎寂の目つきには自信がうかがえる。仲間を信頼しているんだろう。


「あと、例の<知恵の果実>の痕跡もほぼ消されているようなので……。他所が交国の責任を追及するのもかなり難しいと思います」


「真白の仕業だろうな。おそらく」


 人々を交国計画の制御下に置くための改造。


 それを担っていたのが<知恵の果実>ってもんらしいが、それが見つからないらしい。普及させるための施設は真白が破壊したようだ。


 多分、今代の真白が死ぬ間際に消したんだろう。


 分析されて対策を打たれないように。


 そして、自分で独占するために。


「人体に刻まれた術式は完全には消えてないはずだ。消えていたとしても、別の影響が出るかもなぁ……」


「別の影響とは?」


「異能に目覚める奴が出るかも、って話だ」


 交国計画という大規模術式と繋がった事で、異能に目覚める奴が出るかもしれん。規模は違うが、過去に似たような経緯で力に目覚めた奴がいた。


 あまりにも規模が大きすぎる事件だから、後々そういう覚醒者(イレギュラー)が出てくるかもしれねえぜ――と言うと、炎寂は「考えたくない可能性ですね」と言って肩をすくめた。


 ただ、注視しておくべき可能性だと思うがね。


「交国計画絡みでも、もう実例あるだろ」


「と、言いますと……?」


「ネウロンのタルタリカだよ」


 世界(ネウロン)を滅ぼした大量の怪物達。


 多次元世界全体を見ればごく一部の変化かもしれんが、世界が丸々1つ滅ぶってのは無視できない変化だ。


「ネウロンにも<統制機関>はあった。タルタリカなんてものが現れたのはその影響かもしれん。交国計画にも<統制機関>が組み込まれていた以上、似たような異変は既にどこかで起こってるかもしれんぞ」


「…………」


「とにかく色々大変だと思うが……頑張ってくれ」


 事後処理は、まだまだ始まったばかり。


 交国にとっては、史上最大の危機かもしれん。


 最悪、最後の危機になるだろう。


 交国を表向きまとめ上げていた国家元首の玉帝も死んだんだ。


 玉帝無しで国をまとめ上げるのは苦労するだろう。黒水守一派はかなり根回しを終えていたようだが、それでもまだ玉帝の力に頼りたかったはずだ。


 数年後には「交国」なんて国はなくなっている可能性すらあるが――。


「俺も、手伝える範囲で手伝うよ」


「期待させてくださいね。いっそのこと、ご家族共々交国で暮らしませんか?」


「そこまでそっちを信頼できねえし、信頼できてもやらねえよ」


 しばらく交国の使いっ走りをやるよ、程度の話だ。


 そっちが「私達は真白の魔神の被害者だから~」と言って、無茶やるようなら手伝わないつもりだったが……そうはならんらしい。


 <光圀>から弟子の1人、2人、呼んでもいいかもな。


 自分自身の尻拭いのためにも交国の立て直しを手伝おう。……本来はもっと前からキチンと交国やリンゴに向き合うべきだったんだろうが――。


「ただ、こっちは片付けておきたい別件もある。そっちの許可は下りたか?」


「交国からの出国許可ですね」


「ああ。そろそろ出かけていいんだろ? 用事終わらせたら戻ってくるからさ」


 真白と対面し、事件の真っ只中で戦っていた俺は交国政府にそれとなく足止めされていた。交国政府は交国政府で、出国した俺がペラペラとあることないこと喋るか不安なんだろう。


 交国の責任について公に報道され始めた以上、俺が一時的に出国する許可が下りていいはずだ。強行突破ぐらい出来るが――。


「……どうしても彼女(・・)を送っていくおつもりですか?」


「そういう約束だからな。全員を送り届ける事は出来ないが」


 こっちも通すべき仁義がある。


 通す相手は人間じゃねえけど。




■title:交国首都<白元>にて

■from:丘崎新陰流開祖・丘崎獅真


「おい、小娘(タカサゴ)。出国許可が出たから明日出発するぞ」


 炎寂との話を終え、小娘の部屋を――天使の部屋を訪問する。


 小娘は――プレーローマの工作部隊<犬除>唯一の生き残りは――部屋の隅っこに蹲っていた。交国政府に捕まってここに軟禁されてから、ずっとこの調子だ。


 フェルグスの坊主は前々から知り合いだったらしく、食事すらろくに取らない小娘を心配してちょくちょく様子を見に来ているが……坊主相手にもろくに喋らん。


 人類は全員敵。


 天使と人類は相容れないし、話し合う事も出来ない。


 そういう考えを抱きしめて、口を閉ざしているんだろう。……1人だけになってもまだ仲間の生存を信じ、助けるためにノコノコ戻ってくるような純真な奴だから、1人だけ生き残っちまった状況から余計に塞ぎ込んでいるんだろう。


 ただ、交国政府から出国許可が――放免の許可が下りた事を伝えると、さすがに口を開いてくれた。といっても、出てきたのはつれない台詞だったが。


「……私は子供ではありません。自分1人で帰れます」


「そうはいかねえ。俺はミカエルの旦那にお前らを生かして逃がすよう、頼まれてんだ。……まあ、お前しか帰せそうにないが」


「あなたなんかと馴れ合うつもりはありません」


「安心しろ、俺もねえよ。お前のために言ってんじゃなくて、今回の事件解決のために俺を見逃してくれたミカエルの旦那への義理でやってるだけだ」


 お前1人を帰したら、どこで死ぬかわからん。


 交国政府としては、出来れば天使(おまえ)を生かして帰したくない。出来れば殺しておきたいはずだ。事故に見せかけて殺されるかもしれん。


 もっとろくでもない話になるかもしれん。現交国政府の奴らは別に聖人ってわけじゃねえ。俺が護衛してやらんと、お前は二度と故郷の土を踏む事はないだろう。


「お前の命なんて正直どうでもいいが、ミカエルの旦那に貸しがあるんだから仕方ねえだろ。嫌と言っても縛って荷物扱いで連れ帰るからな?」


「…………」


 暗い表情の小娘に「とにかく明日出発だ」と伝え、部屋を出る。


 出た後、面倒くささからため息をついていると、別の小娘が話しかけてきた。


 見た目だけ小娘で、中身は多分俺より年上だろうが――。


「獅真様~。聞きましたよ、明日交国を発つそうですね」


「そうだよ史書官(ラプラス)。やっとお前の質問攻めから解放される」


 死司天を護衛として伴い、やってきた史書官に笑顔を向けてやる。


 すると史書官は微笑み返しつつ、「もちろん私達も着いていきますよ」なんて言ってきやがった。冗談だろ?


「私達も出国許可が出たのですよ」


「お前らの場合、前々から『さっさと出て行け』って言われてただろ……!?」


「同じ便でプレーローマに向かうので、道中も色んなお話を聞かせてくださいね。真白の魔神の話とか、真白の魔神の話とか――」


「やだよ! お前らと別便にしてくれって抗議してくる!!」


 炎寂を追っかけて、そう抗議したが「駄目です」と言われた。


 交国もそうホイホイとプレーローマ行きの方舟を用意する余裕はないらしい。雪の眼の史書官が邪魔だからついでにお守りをお願いしますね、と言われた。


「手伝える範囲で手伝ってくださるんですよね?」


「ふっ……ふざけんなっ! 方舟ぐらい何とかしろ! ケチ!!!」


「獅真様~、仲良くしましょうよ。ねぇ?」


「鬱陶しい!! おい、死司天!! お前このガキ何とかしろ!!」


「今のワタシの仕事は護衛であって、子守りではない」


「役立たず!!!」





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