未来:彷徨う救世主
■title:とある世界にて
■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.2.0
「――起床。魂の定着を確認」
覚醒。転生。
新たな身体を――男の身体を――掌握する。
違和感。男の身体を使う事に微かな違和感を覚える。本来の「私」は女だったのかもしれない。それを確かめる術はもう存在しないが――。
「記憶の大部分に欠落。精神異常。軽微と判断。行動に支障無し」
私は真白の魔神だと定義する。
記憶参照。敗北。前回の私は交国首都で何者かに敗れた。
相手に関する記憶が失われている。だが、重要なものは残っている。
「<交国計画>、再生産可能」
作成方法及び根幹技術は概ね理解。<太母>から複写した記憶を利用可能。
<交国計画>に関する記憶は完璧ではない。しかし、今の私で埋め合わせ可能な問題と判断。確信。新規計画による多次元世界の白紙化、可能。
「100年あれば、前回と同等のものを再構築可――――」
衝撃。
浮遊感。
我が身が運搬車に跳ね飛ばされ、倉庫の壁に叩きつけられた。
全身に致命的なダメージ。
「ただだだちに、十分なてててててて手当をうううう受ける必要が――」
不可能と判断。
何故なら、私を跳ね飛ばした運搬車が戻って来て私を確実に殺――――。
■title:とある世界にて
■from:殺し屋・日下部三多
「メリィクリスマス。……ちゃんと死んだか?」
跳ね飛ばした後、再度轢いた相手の身体を確認する。
死亡確認。よかった。
どこの誰だか知らんが、とりあえず依頼は果たした。
トラックに遺体を積み込み、現場の証拠は自分で隠滅。死体はトラックごと隠蔽屋に渡しておく。
「お仕事完了っと……。さて、報酬は――」
携帯端末を使い、口座を確認しようとした瞬間、通知が来た。
予定通りの報酬が振り込まれた。……まるで僕の行動が見張られていたようなタイミングの良さに気味悪さを感じ、辺りを見回す。
誰かが見張っている様子はない。仕事に取りかかる1週間前から尾行や監視を警戒していたが……誰にも見られている様子はない。
ただ、こうやって報酬が振り込まれたという事は、依頼主が達成を認めてくれた――と思っていいんだろう。本当に気味の悪い殺人依頼だったが、難易度のわりに高額の報酬が支払われた事は喜んでおこう。
問題は「依頼主は誰か?」という事だ。
先日、僕に直接依頼が届いた。
それ自体が珍しい事であり、組合を通さない闇営業をやるつもりは無かったけど……依頼主の手紙の内容は無視し難いものだった。
謎の依頼主は、僕がとある組織に在籍していた過去を知っている。マーレハイトでの一件に乗じ、自分の死を偽装して足抜けした事も知っている。
人類文明どころか、プレーローマ相手にも偽装がバレていない自信があったから気ままに暮らしていたけど……あの手紙は久しぶりに冷や汗を出させてくれた。
お前が生きている事実を公表するぞ――とは書かれていなかったし、脅迫するつもりもありませんと書かれていた。けど、苦労して表舞台とくだらん慈善活動から逃れたのに「真実を知る者」がいるのは不都合だ。
止むなく、謎の依頼主の仕事を受ける事にした。
とりあえず言いなりになっておけば、向こうが尻尾を出す事もあるだろうと期待し、依頼通りに仕事をこなした。
依頼内容は簡単。所定の日時、所定の場所にいた人間を1人殺すだけ。大した相手ではなかったから仕事は直ぐに片付いた。簡単すぎたぐらいだ。
「……ここまで簡単なら暗殺対象を生け捕りにして、何か知っていないか吐かせるべきだったかな……」
そういう事はしないでくださいね、なんて事も書かれていたからやらなかったけど……あそこまで手こずらない相手なら、ひとまず生け捕りでも良かったかもな。
謎の依頼主は、何故あの男を殺せと言って来たんだろうか……?
日時と場所の指定はあったものの、人物に関する指定はなかった。日時と場所さえ守ってくれれば、誰を殺しても良いような素振りを感じる依頼だった。
まるで未来を見通して、標的が必ずその場所に来るのがわかっているような依頼だった。
「…………」
今のところ、報酬が振り込まれた以外に依頼主からの接触はない。
この仕事は本当にこれで終わりなのか?
向こうの動きを見たいから、あえて仕事を受けたんだが失敗だったかもしれない。……これ以上、後手に回るのは避けたいな。
とりあえずしばらくは今の立場で過ごしつつ、夜逃げの準備をしておこう。
苦労して表舞台から姿を消して、どこにでもいる普通の殺し屋のフリをしていたのがパァだ。闇商事から奪った資金も次で使い切りかねないな……。
「まあいい。いっそのこと、パ~っと使っちゃおう」
また別の世界に渡り、そこで新しい身分を手に入れよう。
喫茶店を開いて、そこで弟子でも育てようか。
育てた後は――――。
■title:また別の世界にて
■from:ver.18.0.1
「ここはどこ? あたしはだぁれ?」
道の真ん中で呟く。
何も思い出せない。自分が誰で、何をしていたのかも覚えていない。
思い出せないけど――。
「う~ん…………? ま、いっか!」
そのうち思い出すでしょ。
そのうち新しい想い出でいっぱいになるでしょ。
とりあえず、進もう。
「この道を進んでいれば、いつかどこかに辿り着く」
そんな当たり前のことはわかる。
だからあたしは、大丈夫。
何が待っているかわからないワクワクを胸に歩いて行こう。
新しい本のページをめくるように、新鮮な気持ちを胸に――。




