当たり前のこと やりたかったこと 守りたかったもの
■title:交国首都<白元>にて
■from:ヴァイオレット
「ふぇ、フェルグス君、大丈夫なの……!?」
全身を流体甲冑で包んだフェルグス君に助け起こされる。
頷いたフェルグス君が私を背に庇い、剣に手をかけた。
「――――」
機兵が――いや、バフォメットさんがこちらに這い寄ってくる。
真白の魔神は倒した。フェルグス君が倒してくれた。……バフォメットさんが真白の魔神に逆らってくれなかったら、勝てなかったかもしれない。
私を庇ってくれているフェルグス君の腕を押さえ、「大丈夫」と言う代わりに頷く。多分、バフォメットさんは私達の敵じゃない。
お礼を言うために歩み寄ると――。
『す…………スミ、レ……』
「…………」
バフォメットさんが私に対し、そう言って来た。
バフォメットさんはもう敵じゃない。
けど、錯乱している様子だった。
■title:交国首都<白元>にて
■from:ただの父親
『スミレ……』
自分の内側にいた「悪しき者」は倒した。
悪しき者の魂は、消えた。
甲冑の戦士が、悪しき者を倒してくれたようだった。
その戦士が「スミレ」を守るように立っている。
お前、まさか、ヴィンスキーか?
そうか。やはり、お前は見込みがあると、思って――。
ああ、今はそれより……。
『スミ、れ……。無事、だった……カ……?』
「――――」
私の、大事な子。
大事な娘。
…………なぜ、大事だった?
なぜ、守った?
わからない。
思い出せない。
思い出せないが……重要ではない。
きっと、娘だからだ。
私の、大事な……大事な一人娘。
親が我が子を守るのに、理由など、いらん。
■title:交国首都<白元>にて
■from:ヴァイオレット
『スミ、れ……。無事、だった……カ……?』
「――――」
バフォメットさんは錯乱している。
私を、自分の娘だと勘違いして――。
■title:交国首都<白元>にて
■from:ただの父親
「――大丈夫だよ。私は、全然……大丈夫」
『ソう、か』
そうか。
良かった。
「貴方が…………お父さんが、守ってくれたから……大丈夫だよ」
『…………そうか』
「ありがとう。お父さん」
礼を言われる事ではない。
当たり前の事をしただけだ。
良かった。
今度こそ、守れて良かった。
■title:交国首都<白元>にて
■from:死にたがりのスアルタウ
『…………』
半壊した機兵を何とか動かし、ヴィオラ姉さんのところへ向かう。
静かだ。
ついさっきまで激しい戦闘の音が鳴り響いていたのに、何の音も聞こえない。
辺りは、しんと静まり返っている。
交国計画の兵器群は完全に動きを止めている。
真白の魔神の魂も、エレインの一刀で消えた。
その傍にいた魂がまた1つ、消えていくのが観えた。
お礼を言う暇もなかったけど――。
『……後で言えるか』
死後の世界があれば、また会えるだろう。
僕も、同じ場所に行くんだから。




