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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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智の厄災



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


「何が気になるんだい?」


「混沌機関の作り方は、外に出て行かないよう、厳しく管理してるんですよね? 皆さんの話だと、交国以外でも混沌機関が作られているように聞こえて――」


「良いところに気づいたね」


 整備長さんは子供のようにニヤリと笑い、「そもそも、混沌機関は人類が開発したものじゃないんだよ」と言った。


「では、元々の開発者は誰かわかるかい?」


「ええっと……プレーローマですか?」


「正解だ」


 混沌機関は人類の敵(プレーローマ)の発明だった。


 それを人類も使っているのは「便利」だから。


「人類はプレーローマに抗うために、鹵獲したプレーローマの兵器から混沌機関を抜き出した。一部の技術者がそれの解析して、真似て作れるようになったのさ。簡単なことでは無かったらしいけどね」


 誰でも出来ることじゃなかった。


 具体的に「誰が」解析したのかはわかっていない。1000年よりずっと昔の話で、とても重要な技術だから……技術者を守るためにも明かされてないらしい。


 1000年前の人なら、もう死んでそうだけど……。


「人類側で最初に使い出したのは、人類連盟だったらしい。人類側だと人類連盟だけが握っていた技術だったが……色々とゴタゴタがあったようでね」


「そこで混沌機関の作り方が、色んなところに散らばっていった……?」


「そう言われている」


 ともかく、そこで複数の国が「混沌機関製造技術」を持つようになった。


 それを手にした国は、その技術がこれ以上、世界に散らばらないようにした。


 技術者さん達を閉じ込めて、混沌機関を作らせて、それを売ったり自国で使った。混沌機関の力で国を強くしていった。


「そうして強くなっていった国が、人類側の『強国』さ。交国は一般的な強国とはちょっと違うけどね……」


「混沌機関が国を強く、大きくしたんですね」


「そう言っても過言じゃない。それだけ凄いものなのさ」


 混沌機関の始まりはプレーローマ。


 プレーローマ製の混沌機関を分析し、人類側でも作られ始めた。


 大昔より広まったけど、それでも一部の国が自分達だけで技術を使ってる。


 お金を出せば混沌機関は買えるけど……足下を見られる。


 混沌機関を作れる国は売ったお金で国が豊かになった。さらに混沌機関そのものの武力(ちから)によって強くなっていった。


 そういう国が「エラく」なっていったのが、今の多次元世界(せかい)


 それだけスゴい技術なら、隠したくもなるよね……。


 でも、それって良いことなのかな……?


 プレーローマが「人類の敵」なら、それと戦うための技術は自分達だけで使わずに、色んな人に広めてあげるべきなんじゃ……。


「ただ、混沌機関はブラックボックスでねぇ」


「ぶらっく……?」


「作り方はわかるけど、仕組みはちゃんと理解できてないんだよ」


「えぇっ……? 仕組みがわからないのに、作れるんですかぁ……?」


「スアルタウ。お前さん、この字は書けるかい?」


 整備長さんは紙にスラスラ……っと文字らしきものを書いた。


 その紙を渡してきた。


 これ、ネウロンや交国で使われてる<和語>じゃない。


 何て意味の文字かわからないけど――。


「文字の意味はわからないけど……書き写すことなら、出来ます」


「それと同じさ。意味はわからなくても、見本があれば真似はできる」


「なるほど……。ボクらが巫術を使えても、『その術式がどうやって使えているかわからない』のと同じ感じ……?」


「ああ、それとも似てるねぇ」


 原理はわからない。


 けど、実際に使える。


 混沌機関なら、過去の混沌機関をモデルに同じものを作ればいい。仕組みはわかっていなくても、同じものを作れば同じ働きをしてくれる……って事なんだ。


「でも、そんないい加減でいいんですか……? 仕組みがちゃんとわかってないと、大変な事故とか起きたりするんじゃ……?」


「たまに暴走事故とかあるけど、それがもたらす被害や恐怖より、『便利』の一言が凌駕しちまうのさ」


 整備長さんは苦笑し、「開発元のプレーローマですら、ちゃんと理解出来ているか怪しいみたいだよ」と教えてくれた。


「混沌機関どころか、<混沌>すらよくわからない事も多いからね。混沌は知的生命体の感情から生じたものだと言われているが、なんでそんなものが流体装甲を形作れたり、大きな方舟(ふね)を飛ばせるのかもキチンと理解できてない」


 わかってないのに、いっぱい使われている。


 それってちょっと怖い。


 ボク達の巫術も、似たような怖さはあるけど……。


「とにかく、そんなワケわかんない代物を、ちょちょいと直せちまうヴァイオレットは……正直、異常だよ」


「ヴィオラ姉ちゃんは怖い人じゃないですよっ……!?」


「あたしゃ、ちょっと怖いねぇ~。それで遠ざけたり、嫌がらせしたりはしないけど、『アンタは一体、何者だい?』と思う時はあるよ。興味もあるけどね」


 ヴィオラ姉ちゃんが何者か。


 それは本人もわからない。


 だって記憶喪失だから……。


 記憶を取り戻せたらいいな、と思う。


 ……けど、思い出さない方が幸せな事もあると思う。


「あの子、混沌機関どころか機兵のシステムすらイジってみせたからね……。それもテキトーにイジったわけじゃない。的確な改造をしていた」


「ヤドリギなんてモノを作ったのもスゴいっスよね。ヴィオラは賢いヤツです」


 誇らしそうに鼻をこすっているラートさんを、整備長さんが呆れ顔で見てる。


「そういや、あの子、医術の心得もあるんじゃなかったかい?」


「さあ……どうだったかな」


 整備長さんに質問された隊長さんは、どうでも良さそうにそう答えた。


 でも、その質問の答えなら、ボク知ってる。


「ヴィオラ姉ちゃん、お医者さんみたいに手術も出来ますよ」


「えっ、本当かい?」


 頷き、少し昔のことを答える。


 収容所にいた時、銃で撃たれて大怪我したネウロン人が運ばれてきた。


 交国の人達は……手当してくれなかった。


 撃ったのは交国の人だったんだろうけど……。多分、ネウロン人に近づきたくなかったんだと思う。急にタルタリカになったらどうしよう、とか怖がって。


 怪我した人の家族らしき人達が「助けてください!」と頼んでも、交国の人達は「近づくな」「いま忙しいんだ」と言って助けてくれなかった。


 でもその時、ヴィオラ姉ちゃんが――。


『道具だけ貸してください。私が手術します』


 交国の人に頭を下げて、道具を借りて手術をしていた。


 にいちゃんは「危ない」って言ってたけど、ヴィオラ姉ちゃんは「助けないと」と言って、ボクらには「キミ達は出来るだけ遠くにいて」と言った。


『死なせるのは可哀想だし、キミ達も危ない。助けなきゃ……!』


 巫術師は死を感じ取ると、酷い頭痛がする。


 姉ちゃんは怪我した人だけじゃなくて、ボクらの心配もしてくれていた。


 にいちゃんはボクを他のネウロンの人に預けて、ヴィオラ姉ちゃんの手術を手伝っていた。照明とか道具を持って、手伝っていたみたい。


 そして、ヴィオラ姉ちゃんは怪我した人を見事に助けた。


 手術もスゴかったし……途中から来てくれたお医者さんも、「私が出来るのは経過観察ぐらいだ」と言って認めてくれたぐらいだったんだって。


 ボクらも頭痛で気絶したりせずに済んだ。


 ヴィオラ姉ちゃんはホントにスゴい人なんだ。


「技術少尉の助手にされたのは、その腕も込みの事だって……」


「機械と人体、さらには術式にもある程度の見識を持っている。口だけじゃなくて実際にやってのける……。いや、ホント何者なんだい、あの子は……」


「交国でもそれだけの人材って、なかなかいないっスよねぇ」


「そうだね。<玉帝の子供達>ぐらいじゃないかい? 中には久常中佐みたいな無能もいるが、あの一族は――」


 整備長さんがそう言うと、隊長さんが咳払いをした。


 それで視線を集め、口を開いた。


「確かな事が1つある。……ヴァイオレット特別行動兵がいないところで、彼女の過去についてアレコレと憶測を話すのは、失礼という事だ」


「あっ……。そ、それは確かにそうっスね」


 ラートさんは申し訳なさそうに同意したけど、整備長さんは「でも、大事なことだろう」と言って言葉を続けた。


「もし、あの子がプレーローマのスパイだったらどうするんだい? フツーじゃ有り得ない知識を網羅してんだからさ」


「スパイなら三流だ。目立つ行動を取り過ぎている」


「記憶喪失だから、無自覚にアレコレやってるんじゃないのかい?」


「知らん。とにかく、本題に戻ろう」


「「「本題?」」」


「我々は『巫術師による機兵運用』について話をしていただろう」


 休憩は終わり。


 最初の話に戻ろう、と言われた。


 けど……ボクはもう、そわそわしてそれどころじゃなくなった。


 ヴィオラ姉ちゃんは色んな事を知っている。


 それで優しい。


 それってまるで……叡智神様みたいだ!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:整備長のスパナ


「ふぅ……」


 隊長殿(ネジ)の言う事も正しい。


 陰口みたいに、本人不在であーだこーだ話す内容じゃない。


 けど……気になるねぇ。


 混沌機関。機兵のシステム。実戦的な医学の知識。


 果てには<ヤドリギ>なんてモノまで作ってみせた。


 ヴァイオレットの知識は異常だ。記憶喪失という事もおかしい。


「…………」


 あたしは知っている。知ってしまっている。


 昔、大龍脈にいた頃、とある「神」について知ってしまった。


 その神はプレーローマと同じく、「人類の敵」として恐れられている。


 けど、今の人類があるのは、その神のおかげでもある。


 一説には人類に混沌機関をもたらし、流体装甲をもたらしたのもその神らしい。そういう意味では「人類の味方(メサイア)」と言える神。


 人類に力をもたらし、百般に通ずる智の厄災(カミ)


 ヴァイオレットの存在が、どうにも……そいつとダブるのは考え過ぎか?


 ネウロンに「叡智神」なんてモノがいた事や、あの人がネウロンくんだりまでやってきた事を考えると……どうにも嫌な考えが浮かんじまうねぇ……。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「まったくも~……」


 技術少尉の雑用(いやがらせ)を終わらせ、会議室に向かう。


 巫術師による機兵運用に関する会議、もう終わってそう……。


「ヴィオラ姉ちゃん!」


「アル君」


 予想通り、会議はもう終わったみたい。


 会議室から去って行く整備長さんと、会議室前の廊下で何かを話しているラートさんと隊長さんの姿が見えた。


 ラートさんの傍にいたアル君がこっちに走ってくる。


 お姉ちゃんに抱きついておいで~、と両手を広げていたけど、手にタッチしてくれただけだった。むぅ……グローニャちゃんは飛び込んで来てくれるのにな~!


「ねえねえ、ヴィオラ姉ちゃん」


「ん? なあに?」


 アル君がモジモジしつつ、私を上目遣いで見てくる。


「ヴィオラ姉ちゃんって、何でも知ってる……よね?」


「いやいやいや……。私、記憶喪失だよ~? 知らないことばっかりだよ」


 実質、素人だよ、人生の素人。


 頼りない女だから、アル君達もまだ助けられてないのです……。


「でも、混沌機関の整備方法とか、医術とか……色々知ってるよね?」


「あー……。ちょっと知ってる程度だよ?」


 必要な時、「知識の引き出し」が開く感覚がある。


 その引き出しの中にあったモノのおかげで、何とかなった事もある。


 けど、そうホイホイと開かない不便な引き出しなんだよね。とほほ……。


「知りたいこと、私の知ってる範囲なら答えられるけど……」


「ホント!?」


「う、うん……。何を知りたいの?」


死者蘇生の方法(・・・・・・・)


 アル君が私を見ている。


 すごく、期待に満ちた目で私を見ている。


「――そういうのは、さすがに……知らないかな~……」


「……ほんと?」


「ホント。そんなの知ってたら、それを交渉材料にしてるよ~……」


 交国は先進世界だけど、死者蘇生の方法は持っていないらしい。


 死んだ人を蘇らせる方法を知っていたら、それを交渉材料にしてアル君達を助けるよ~……。何でも生き返らせるので、アル君達を助けてください、って。


 死者蘇生が出来たら……魔物事件で死んでいったネウロンの人達も助けられるんだろうけどね。……出来たらいいんだけど……。


「ごめんね~……。さすがにそういう知識は持ってないかな」


「そう、だよね……。ごめん、変なこと聞いて」


 アル君はとてもガッカリした顔をしていたけど、私が謝ると首をぶんぶん横に振って、「気にしてないよ!」といった感じで振る舞ってくれた。


 知りたくてたまらなかったのかな? 死者蘇生の方法……。


 死んだ人が蘇って歩き出すって、ちょっと怖いと思うけどなー……。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:星屑隊隊長


 会議室を出て、指揮所に戻ると部下に声をかけられた。


「ああ、隊長、ちょうど良かった。ネウロン旅団本部――というか、久常中佐から通信が入っています」


「わかった」


 このタイミングでの通信。


 艦内にスパイでもいるのかと思ったが、危惧していた内容ではなかった。


 だが、中々面倒な内容だった。






【TIPS:アップルカンパニー】

■概要

 混沌機関の製造・整備を担う交国の国営企業。


 混沌機関以外にも混沌の研究を行っており、混沌によって編んだ流体を使う流体装甲の研究も行っている。


 交国にとって非常に重要な企業の1つで、技術流出を防ぐためにアップルカンパニーに勤める研究者や、混沌機関製造・整備に関わる者達の行動は、国が厳しく管理している。


 混沌機関製造・整備を行う工場に勤める者達は、工場及びその周辺に築かれた特別街区以外に行く事を許可されず、一生をそこで終える事も珍しくない。


 親の葬式すら行く許可を貰えない徹底ぶりだが、その分、福利厚生は非常に充実している。一生を高級ホテルで過ごすように暮らす事が出来るが、ネットすら検閲され、プライベートが殆どないことから「交国最高級監獄」とも言われている。


 混沌機関を製造できる人類国家にとって、混沌機関の製造・整備技術は非常に重要な物のため、このような管理体制はよくある話。他所はもっと酷い状態の国もあるため、これでも交国は配慮している方だ。



■外に出た者への対処

 混沌機関の製造技術は、それのない国家にとって垂涎モノ。そのため、どのような手段を使ってでも手に入れたがる国家・組織もある。


 過去にとある国の工作員がアップルカンパニーの技師を交国外に誘拐しようとした事件があった。


 この工作員は技師の子供を人質にし、特別街区の外に技師を連れ出す事に成功したが、交国領外に出る前に射殺された。技師及びその子供は奪還困難だと判断され、替えが効く部品だった事もあってまとめて射殺された。



■混沌機関製造国・製造組織への対処

 交国を含む一部国家は混沌機関製造によって自国軍を強くし、機関を製造できない国家に対して高額で売りつける事で財を成してきた。


 この体制は現在も続いており、彼らは新たに混沌機関を製造しようとした国家・組織に強い制裁を与える事もある。


 制裁の内容としては、「A国はプレーローマから技術供与を受け、混沌機関の製造を始めようとしている」と言い、軍を派遣する手がよく使われる。


 この「プレーローマからの技術供与」は真偽を問わない文句であり、対象国がどれだけ身の潔白を訴えたところで、交国軍等が問答無用で侵攻してくる。


 ただ、追い詰めた事で「混沌機関の製造方法を全世界に発信してやる!」と言えば、軍による侵攻を止められる可能性はある。


 製造方法を発信したところで、誰でも作れるものではないが、混沌機関を独占している国にとって、好ましい事体ではないので多少は配慮してくれるようになる。


 具体的には軍を本格派遣する前に、神器使いを含む特殊部隊を送り込み、技術を知る者達を皆殺しにするという事もある。あるいは政治的圧力で穏便に解決し、体制の維持を図ろうとする。



■社章

 アップルカンパニーの社章は、逆さにしたリンゴのシルエットである。




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