瞬く影光
■title:交国首都<白元>にて
■from:狙撃手のグローニャ
『これで攻撃が通る!』
白瑛が破壊された事で、敵は防御権能を使えなくなった。
通常兵器による攻撃も通るようになったけど――。
『前戦った時より強くない……!?』
バフォメットを倒し切れない。
交国計画による攻撃は、アルが割って入ってくれれば防げる。けど、交国計画による防御は――流体装甲を呼び出す防御は可能。
敵はそれを使ってこっちの攻撃を器用に防いでくる。バフォメットに対し、発砲しようとした機兵の銃口に流体装甲をねじ込むなんて荒技もやってきている。
アルとラートちゃんが斬りかかっても、敵は独楽のように回って回避しつつ反撃してきている。
ダメージは与えている。けど、致命傷ではない限り、流体装甲で修復してくる。一撃で倒さない限り、一瞬で復帰してくる。
『隊長、これは――』
「諦めるな! 応援も来る! 何とか持ちこたえろ!」
白瑛を倒した人達がこっちの応援に駆けつけようとしている。
攻撃が通用するようになったから、向こうの人達は交国計画がけしかけてくる兵器群を蹴散らし、進めるようになったみたい。
ただ、あの人達が来る前に真白の魔神に逃げられたら収拾がつかなくなる。何とかあたし達で足止めしないと……!
■title:交国首都<白元>にて
■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0
「やってくれたねぇ……!」
もう権能で身を守れない。
この弱体化によって、ここ以外の戦線でも押し返す奴が出てきている。物量で押し続ければ最終的に勝てるけど、対処には時間がかかる。処理能力への負担も増える。
交国計画で防壁を作る事は出来るけど、自分の周囲をガチガチに固めると身動きが取れなくなる。フェルグス・マクロイヒに対応できなくなる。
向こうの巫術も食らうことになる。
こっちにはバフォメットがいる。憑依の力比べなら勝てるけど、向こうが巫術師の数に物言わせて来た場合、動きぐらいは止められる可能性がある。
けど、敵の動きはほぼ読み切った。
北辰隊はもう脅威にならない。
問題は――。
「丘崎獅真と<死司天>を同時に相手取るのはキツいな」
正面からやり合っても最終的に勝つ自信はある。
けど、負け筋も存在する。
フェルグス・マクロイヒを消さないうちに逃げると、彼の権限を足がかりにヴァイオレットが交国計画をメチャクチャにする可能性もある。
逃げるのも1つの手だけど、交国計画の機能が損なわれる可能性がある以上、ここでフェルグス・マクロイヒは仕留めておきたい。
ここで踏みとどまって、相手を罠に誘導しよう。
「キミ達の戦術、盗用させてもら――」
フェルグス・マクロイヒと北辰隊の副長が同時に斬りかかってきた。
2方向から迫る刃を、飛び上がって回避する。
避けつつ、罠の準備を進めていると――。
「っ…………!!」
機兵の体勢が崩れた。
避けた先に狙撃が来た。
北辰隊の隊長機による狙撃。こっちが避ける先を読んで狙撃してきた。
しかも、同時に2発。
2丁の狙撃銃による同時狙撃が飛んできた。
おそらく、北辰隊の隊長と巫術師による同時攻撃だろう。
流体装甲で狙撃を逸らしたものの、衝撃を殺し切れずに体勢が崩れる。交国計画で足場を作り、無理矢理退避する。
狙撃への対応が一瞬でも遅れていたら、地面に落ちていた。敵前衛の刃がこちらの首を切り飛ばしていたかもしれない。
「やるじゃぁん! それじゃ、次はこっちの番ね!」
■title:交国首都<白元>にて
■from:<北辰隊>隊長のダグラス・レンズ
『うそっ! いまの弾いて――』
『レンズ! 後ろだ!!』
グローニャが叫ぶ中、フェルグスが警告してきた。
警告とほぼ同時に、天地がひっくり返った。
「なっ…………?!」
敵に攻撃の素振りはなかった。
それなのに、後方から攻撃を受けた。
傍にいたのは護衛についてくれていた味方機だけで――。
『たっ、隊長! 回避を!!』
「――――」
味方機に攻撃されている。
後方から殴りつけられ、さらに操縦席に刃を――。
■title:交国首都<白元>にて
■from:<北辰隊>副長のオズワルド・ラート
「ポラリス1!!」
レンズとグローニャが乗っていた機兵に、仲間の刃が突き立っている。
相手は真白の魔神であり、巫術師。
これはまさか――。
「バフォメットの仕業か!!」
『足下から来た魂に、味方機が乗っ取られたのが観えた! 憑依強奪だ!』
遠隔憑依なら皆の巫術で対抗できる。
だが、ワイヤーを使った直接憑依を仕掛けられたらしい。交国計画で造り出したワイヤー経由でバフォメットが憑依強奪を仕掛けてきたんだろう。
「ポラリス5、敵の魂の動きに集中――」
部下に索敵を任せようとした瞬間、その部下の機兵が砲撃で吹き飛ばされた。
砲撃だけでは倒れなかったが、蝗の群れの如く飛来してきた敵機兵の群れに飲まれた。そして、敵機兵の自爆に巻き込まれて破壊された。
敵の防御権能を潰したから憑依で敵の機兵を乗っ取ってもらいたいところだったが、そんな暇すら許さない波状攻撃が始まった。
■title:交国首都<白元>にて
■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0
「仲間同士で足を引っ張り合ってね」
交国計画で造り出したワイヤー経由で敵機兵への憑依強奪を仕掛ける。
敵機がこっちの憑依を恐れ、距離を取ろうとする。けど、それがマズい事だと北辰隊の副長はわかっているらしく、部下に対して「離れるな!」と叫んだ。
けど、遅い。
フェルグス・マクロイヒが割って入れない位置に移動した機兵に向け、交国計画による砲撃を行う。何かに憑依して逃げる事すら許さず、磨り潰す。
北辰隊の機兵をさらに減らしていく。
「そろそろ、他の悪い子も潰しちゃおうかなぁ~……?」
北辰隊以上に鬱陶しい存在の位置を特定した。
アレは出来れば生け捕りにしたかったけど、やるしかないね。
■title:交国首都<白元>にて
■from:泥縄商事社長のドーラ
「あっ! やっっっっっばッ!!」
大龍脈の保存領域に不正アクセスが行われている。
サーバーをブッ壊されたわけではないけど、こっちの情報を読み取られた。
こっちの現在位置を特定された。
普通なら出来ないけど、交国計画の演算支援によってゴリ押してきたんだろう。真白の魔神にあたしの位置が知られたのはマズい。
ヴィオラちゃんの肩を叩き、「逃げるよ!」と促す。
夜行に担がせて逃げつつ、こっちの位置が割られた事を知らせる。
「マジでゴメン! でもこれはさすがにどうしようもないから勘弁してよね!?」
「反省会は後で! とっ、とりあえず、逃げつつ何とか――」
部下達から次々と「敵が迫っている」という報告が来る。
親機の位置がバレた以上、敵が殺到してくる。ヴィオラちゃんだけその辺の死体の山に隠したところで、巫術の眼で位置バレするだろう。
社員を使って時間稼ぎしつつ、逃げ回るしかない。
「あっ!! そうだ、ヴィオラちゃん、今のうちに無尽機と契約結んでおく? そしたら復活できるよっ!」
「するわけないでしょう!? というか、契約結んだところで直ぐに復活できないなら無意味ですよ! いまを逃したら勝ち目がなくなりますっ!」
「だよね~! ところで意識不明のまんまのバレット君、そろそろ捨てていい!? 背負って運ぶのも疲れるんですけど!!」
「駄目です耐えてください!!」
「マジか!! あっ、ちょっと、別の道に――」
先行していた部隊との連絡が途絶えた。
地下道でも問題無く侵入できる小型の機兵に蹴散らされたようだ。
このまま真っ直ぐ進むと捕まりかねない。別の道に誘導しようとしたけど、そっちに向かわせていた社員も戦闘を開始したようだ。
ズルいよ! 交国計画は大した縛りもなく無尽蔵に戦力を送り込めるとかさぁ……! 無尽機も待機時間無しの無限復活に改造してよ! それでも火力で押し負けるんだろうけど……!
「あぁんっ! もう駄目!! これはもう持たな――」
やってきた小型機兵が、突然、機能を停止した。
急に壊れた。
背後からスッと近づいてきた人間が触れた瞬間に壊れた。
ウチの社員じゃない。夜行の隊員でもあんな芸当はできない。
機械を内部から壊すなんて芸当は――。
「あらっ? 石守の素子ちゃんじゃん」
敵を黙らせたのは、交国の石守素子ちゃんだった。
それともう1人いた。
あの子は、確か――。
「タマちゃん!?」
■title:交国首都<白元>にて
■from:ヴァイオレット
「何でタマちゃん達がここに――」
「お叱りは後で! さあこちらへ!!」
敵機兵を制圧してくれたタマちゃん達が、逃げ道を切り拓いてくれた。
泥縄商事の社長さんが援軍を呼び、戦力を増強してくれている中、タマちゃんと石守素子さんに話しかける。何で2人がここに?
それに、敵の小型機兵をどうやって――。
「巫術だよ。オレらが一瞬だけ憑依して壊したんだ」
「も、もしかしてバレット君!? タマちゃんの身体に憑依してるの!?」
「おう! こっちも色々あってさぁ」
「私がバレットに重傷を負わせたから――」
「バカッ! いま余計なこと言わなくていいんだよタマ!!」
タマちゃんの口を使い、タマちゃんとバレット君が喋ってる。
おそらくタマちゃんは交国計画の支配下に置かれているはずだけど、バレット君が憑依する事で支配に抗っているみたいだ。
周囲の状況が明らかにおかしいから、周りの動きに従いながら潜伏していたところ、私達を見つけて助けに来てくれたみたい。
「ありがとう! タマちゃんも助けに来てくれて――」
「わっ、私はバレットに操られているだけで……!」
「オレは敵の操作に抵抗してるだけで、戦ってるのはタマの意志だ」
「バレット!!」
気まずそうなタマちゃんに改めて「ありがとう」と告げる。
後でいっぱいお話しよう。
皆で生き残れば、その時間はたっぷりある。
「石守素子ちゃんの身体には、誰が憑いてんの?」
泥縄商事の社長さんの言葉に対し、石守素子さんが「巫術師のメイヴでーす」と答えた。答えたのはそのメイヴさん本人だろうけど――。
「意識取り戻したら大惨事になっててビックリ! これ、何が起きてんの? てか、泥縄商事の社長って敵じゃん!!」
「敵の敵は味方って事にしてて! いま揉めてる場合じゃないからっ!」
「素子様、どうします?」
「共闘するしかあるまい。メイヴ、引き続き妾の身体を使え」
「了解! じゃあ泥縄商事、敵の動き無理矢理止めて!!」
新手の小型機兵に対し、泥縄商事の社員さん達が「ひぃぃぃ!」「死にたくない!!」と言いながら突撃していく。
組み付き、僅かに動きが止まった隙に石守素子さんが肉迫し、手で触れた。その手からメイヴさんが憑依を行い、小型機兵を奪い、機能停止に追い込んだ。
タマちゃんとバレット君の方は1人の身体だけで敵を圧倒していく。白兵戦の心得があるだけではなく、権能まで使えるらしいタマちゃんが一気に敵との距離を詰め、バレット君が憑依で小型機兵を倒している。
地下なら大型の兵器も入ってこれないはず。
この調子で逃げ回って――――。
「――――」
いや、駄目だ。
どっちにしろ無理だ。
私達は、もう詰んでいる。
「皆だけ逃げてください!!」
「ヴィオラ様!?」
私だけ皆と別方向に駆ける。
敵は泥縄商事の社長さん経由で、私の居場所を割り出した。
姿も見られた。
という事は、次に打たれる手は――――。
■title:交国首都<白元>にて
■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0
「手遅れだよ」
端末経由でヴァイオレットの姿を捉える。
無尽機の親機も巻き込む形になるけど、仕方ない。
これ以上、手こずりたくないんでね。
「救済執行。まとめて吹っ飛びな!」
■title:交国首都<白元>にて
■from:ヴァイオレット
「――――」
遅い。
私の判断が遅かった。
地下通路に爆弾が生成され始めた。
敵の方が圧倒的に速い。フェルグス君の権限を使っても止めようがない。
この区画丸ごと、吹き飛ばされ――。
「えっ?」
生成された爆弾が消えた。
瞬間移動したように現れた女の子が、爆弾を抱えてどこかに――。
■title:交国首都<白元>にて
■from:影兵・ヒスイ
「権能起動――!」
囮になろうとするヴィオラ様の先に、何かが出てきた。
明らかに危険物。爆弾の類。
権能を使って光速移動し、爆弾を抱え、走る。
少しでもヴィオラ様から遠くに逃げないと。
バレットが「ばかやろう」と言うのが聞こえた気がした。
貴方を巻き込まないためにも必要なんだから、いいでしょ?
私が爆死したところで、貴方は自分の身体に戻るだけ。
巫術憑依による解体も間に合うか怪しいので、大人しくしててください。
貴方のおかげで戦えているだけで、私は――――。
『貸せ。邪魔をするな』
「へっ?」
黒い影が、私の抱えていた爆弾に手を伸ばし――。
■title:交国首都<白元>にて
■from:影兵
『権能起動』




