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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
825/875

深き闇夜を切り裂いて



■title:交国首都<白元>にて

■from:使徒・丘崎獅真


「天使が全員やられたのか、泥縄」


『そうそう、何とか援護に行ってあげられない?』


「そうしたいのは山々なんだがな~……!」


 泥縄商事の社員から受け取った通信機で向こうの社長と話しつつ、砲撃から逃げ回る。


 小僧が交国計画に対抗できるらしいから、そっちを手伝いにいきたいんだが……真白に阻まれる。アホみたいな数の兵器群が邪魔してくるから手伝いに行けねえ。


 小僧がまた致命傷を負ったみたいだから、このままだと切り札がなくなりかねない。それはわかっているんだが――。


「くそったれ、邪魔すんな!!」


 襲いかかってきた機兵を蹴って押しのけ、飛んできた砲弾も殴って弾く。


 手が痛え! 砲弾すら権能(カノン)で防護されてやがる。俺達の方は何とか生き残れているんだが、このままだと物量に押されて潰されるな。


「おい混沌竜! お前だけでもあっちの手伝いいけねえか!?」


「さっきから試してる……! 向こうに位置把握されてるから、影に潜んでも直ぐに見つけられる。突破できねえんだよ!!」


「チッ。バフォメットの巫術の眼(ちから)か」


 突破しようとして失敗していた混沌竜(タツミ)と再度合流する。


 やはり、コイツだけ突破させるのも難しいか。向こうはバフォメットを使い、魂の位置を把握しているからどう潜んでもお見通しなんだろう。


 真白が俺達の事をしっかり警戒して動いている以上、小僧のところに辿り着くのはほぼ不可能。小僧の方から合流してもらうのも、多分難しいだろう。


 小僧が真白に仕掛ける前に合流してもらった方が良かったか? それはそれで真白が小僧の能力に気づいて分断してくるだろうからなぁ……。


「まあ、何とか持たせろ! 反撃の機会は必ずある!」


「わかってる! わかってるんだが……」


 コイツもよくやってるが、あまり長く持ちそうにないな。


 混沌竜は高い再生能力を持ってるが、圧倒的な物量を捌ききれていない。元々弱っていた様子なのに傷を負い続けた結果、戦闘能力は大きく低下している。


 泥縄商事の社員はまだまだ呼べるようだが、大した役には立たん。真白の奴、あえて密室を作り、そこに新しい魂が生えた瞬間に砲撃して潰してやがる。モグラ叩きのように泥縄の泥人形共を潰している。


「攻撃が通じねえうえに、相手の数が増え続けてんだ。長くは持たねえぞ」


「そうだな。けどまあ、段々わかってきた(・・・・・・・・)


「わかってきたって、何が――」


「後で教えてやるよ!」


 次々と襲いかかってくる敵機に対し、剣を振るう。


 当然のように斬れない。


 斬るのではなく、押すことは出来るが打撃を与えることは出来ていない。


 混沌竜の言う通り、こっちの攻撃が通じないのに敵が増え続ける状況はかなりマズい。マズいんだが……相手の硬さはよくわかってきた。


 前に同じ権能を使ってきた天使(アザゼル)の時は、防御されてない攻撃で退けた。けど、今回は前回と同じ手は使えない。真白は対策を用意してやがった。


 俺の剣ですら、まったく通用してないが――。


「コツは掴めてきた」




■title:交国首都<白元>にて

■from:影竜のタツミ


「邪魔を、するなッ……!!」


 襲いかかってくる兵器群を影に入れつつ、投げる。


 倒す事は出来ない。こっちの攻撃を完全に無効化してくる。俺がやっている事は、沈みゆく船から海水という敵を掻きだしているだけだ。


 いずれ終わりがやってくる。いずれ俺達は殺される。


 丘崎獅真はちょっと楽しげに剣を振っているように見えるが、それは頭がおかしい所為だろう。頼りがいはあるが、さすがの丘崎獅真でもこの状況はキツいらしい。俺達が手を組んでもまったく打開できてねえ。


「スアルタウ……!」


 中央政庁の方でスアルタウが戦っているらしいが、援護してやれねえ。俺達が合流できねえでいるうちに、向こうは相当厳しい事になっているらしい。


 何とかしてやりてえんだが――。


『立浪殿。聞こえるか!?』


「聞こえ――。悪い! 丘崎!! ちょっと援護してくれ!!」


「仕方ねえなぁ~~~~っ!!」


 通信に応じるため、敵を丘崎獅真に任せる。


 援護しつつも、通信に集中する。そうしている間にも容赦なく襲ってくる敵の弾丸に身体を抉られまくったが、混沌竜の再生能力で無理矢理耐える。


 また死が近づいたが、それだけの価値はあった。


「丘崎! 東側から味方の方舟が突入してくる。俺が合流できるよう手伝ってくれ」


 真白の魔神は俺達がスアルタウと合流する事を警戒している。


 だからスアルタウに近づくのは難しいが、それ以外の相手なら――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『待ってくれ。待ってくれ、バフォメット!!』


 真白の魔神がバフォメットと機兵を融合させ、仕掛けてきた。


 先程までは僕の言葉を聞いてくれていたバフォメットが、一切聞いてくれなくなった。僕の命を狙ってくるようになった。


 バフォメットの統制戒言ドミナント・レージングが外されている。交国計画の攻撃は来ていないけど、統制戒言は外された。


 向こうの機兵にバフォメットがいる以上、憑依強奪も困難になった。逆に捕まったらこっちの機兵が奪われかねない。


 こちらの優位がさらに削られて――。


『ッ…………!』


 敵の突きを逸らしつつ、距離を取って虹式煌剣を放つ。


 回避された。僕だけでは勝ち筋が見えない。


 けど、何とか凌ぐしかない。


 僕よりも、(アル)が置かれた状況の方がもっと酷かった。


 弟と比べたら、この程度の窮地――。


『いい加減、楽になりなって』


 お嬢様の声で真白の魔神が喋っている。


 声と同時に、相手の流体装甲が鞭のように襲いかかってきた。




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「まだやるつもり?」


 刃付きの鞭で敵機兵の関節を抉る。


 トドメを刺してあげようとしたけど、フェルグス・マクロイヒは地面を転がってでも回避してきた。無様だけど、何とか凌いだ。


 彼はまだ戦おうとしている。


 破損箇所に流体装甲を流し込み、戦おうとしている。ただ、燼器の一撃によるダメージから回復しきっていない。混沌機関まで不調になっているようだ。機兵の性能が十分に発揮できていない。


「消し飛ばしてあげるよ。――バフォメット」


 バフォメットに再び燼器を用意させる。


 フェルグス・マクロイヒは必死に動き、こちらの射線の外に逃れようとしている。けど、無駄だ。どう足掻いても詰んでいるんだよ、キミは。


「さよなら、巫術師――――と、その前に」


 逃げ惑うフェルグス・マクロイヒがいるのとは、別の方向。


 東の空にいる方舟が、こちらに向かって飛んでくる。


「邪魔だよ」


 フェルグス・マクロイヒではなく、方舟に向かって燼器を放つ。


 交国計画で生成された方舟のフリをしながら、こっちに近づいてこようとしていた方舟を撃墜する。


 撃墜は出来たけど――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:影竜のタツミ


『立浪殿!!』


「わかってらぁ!!」


 墜落してくる方舟に向け、飛ぶ。


 援軍としてスアルタウのところに送ってやろうとしたが、真白の魔神にバレた。これ以上、方舟の状態で近づけさせる事はできない。


 だが、まだ完全に機能停止したわけじゃない。


 墜落していく方舟の部品を掴み、それをブン投げる。


 真白の魔神がいる地点の上空に向け、投げる。


「行け! 海門(もん)をこじ開けろッ!!」




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「方舟?」


 混沌竜が投げてきた方舟の部品が、<海門(ゲート)>を開いてきた。


 その海門から、方舟が垂直落下してきた。


 無茶な突入をしてきた事もあり、派手に地面に激突した。中央政庁の建物を大きく損壊させていった。


 私にはノーダメージだけど……何のつもり? 混沌の海にいた方舟を私にぶつけるつもりだったとか? そんなことされたところで無意味だけど――。


 いや、落ちてきたの交国軍の方舟じゃん。


 だったら、乗員の殆どは交国計画(わたし)の支配下のはずだ。


救済執行(オーダー)。キミ達、こっちはいいから向こうの加勢に行って」


 フェルグス・マクロイヒに対し、交国計画は十分に機能しない。丘崎獅真達を倒すための援軍として、新手の交国軍兵士に命じたけど……動かない。


 それどころか、方舟から出てきた機兵達がこっちに攻撃してきた。


「はぁ? 何でキミら支配から抜け出し――ああっ、なるほど、巫術師か!」


 新手の機兵達は巫術で操作されている。


 おかげでバフォメットの遠隔憑依も弾かれている。乗っ取るなら直接触れて憑依するしかない。瞬殺するのは難しそうだ。


 相手がどこの部隊か、交国計画を使って検索する。直ぐにわかった。多数の巫術師が所属する歴史の浅い部隊だ。交国人以外が多く所属している。


「逃げればいいのに、わざわざ死にに来たんだね。<北辰隊(・・・)>」




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『北辰隊って――』


 大斑で戦闘した巫術師機兵部隊。


 それがいま、僕と真白の魔神の間に割って入ってきた。


 僕を庇うように立ち、真白の魔神を牽制しようとしている。


『キミ達如きが来た程度で、戦況が変わると思う?』


『変えてみせるさ。――おい、フェルグス、まだやれるか!?』


『――――』


 狙撃銃を手に、僕の傍に近づいてきた北辰隊の機兵。


 そこから聞こえた声は、僕の知っているものだった。


 星屑隊隊員の声だ。


レンズ(・・・)……?』




■title:交国首都<白元>にて

■from:<北辰隊>隊長のダグラス・レンズ


「久しぶりだな。フェルグス」


 岩から削り出したようにボロボロになっている機兵に向け、言葉を返す。


 ダグラス・レンズ様参上だ。


 といっても、表向きの立場は北辰隊隊長・ザイデル中尉だが、それについて説明するのも時間かかるからな。呼びたいように呼べ。


 幽霊でも幻覚でもねえぞ。


 ちゃんと生きて、ここにいる。


『偽レンズちゃんこと、グローニャちゃんもいるよ! アル、大丈夫!?』


『レ――グローニャもここに来たのか!?』


「ああ。オレの機兵の巫術防御に協力してもらってる」


 機兵を複座式にし、グローニャはオレの後ろに乗ってもらっている。今は機兵に憑依し、バフォメットの遠隔憑依対策とその他の支援を頼んでいる。


 北辰隊の機兵乗りは、オレ以外は全員、巫術が使える。


 全員がネウロン人ってわけじゃないけどな。


「懐かしい顔はもう1人いるぞ。そうだろ?」


『おう! 俺もいるぜッ!』


 暑苦しく、嬉しそうな声が響く。


 先頭に立ち、斧と盾を構えた我らが「副長」がフェルグスに声をかけた。




■title:交国首都<白元>にて

■from:<北辰隊>副長のオズワルド・ラート


『――ラート』


「おうおう! 星屑隊隊員改め、北辰隊副長のラート様参上だ!」


 懐かしい声が聞こえ、思わず頬が緩む。


 本当に懐かしい。けど、昔のままじゃない。大人びた声になったなぁ!


「追いついたぜ。ようやく」


 待たせて悪かった。


 ここからは、北辰隊(おれたち)も手伝うぜ。魔神退治を。






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