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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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最後の望み



■title:交国首都<白元>にて

■from:ラフマ


「なっ――――」


 黒い雷撃がスアルタウ君と真白の魔神を飲み込んだ。


 飲み込んだけど、真白の魔神はまったくの無傷。


 雷撃を権能(カノン)で無効化した。


 対して、スアルタウ君の乗っていた機兵は……ぐずぐずに溶けている。


 全身の流体装甲が溶け落ち、その場に崩れ落ちた。


 失敗した。あと一歩でしくじった。


 生死不明のスアルタウ君のところへ走ろうとしたけど、当然、阻まれた。


「ッ…………?!!」


 背後から急に現れた機兵に踏み潰され、地面に押さえつけられる。一瞬で身体中の骨が砕け、致命傷を負う。


 赤く染まる視界の中、何とか顔をあげると――既に怪我を修復し――余裕の笑みを浮かべた真白の魔神が佇んでいるのが見えた。


「な……なんで、バフォメットが……アンタ達に攻撃できているの……?」


 真白の魔神の方はまだわかる。権能で守られているから安全と判断されたと言われれば、まだ理解できる。


 けど、真白の魔神と同一存在と判定されていたスアルタウ君に対し、バフォメットが攻撃できたのはおかしい。こっちが考えていた前提と違う。




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「何故ってそりゃあ、バフォメットの統制戒言だけ(・・)外したんだよ」


 交国計画は強大だ。


 さすがの私でも、安全装置の再設定にはかなりの時間がかかる。


 けど、バフォメットは違う。


 バフォメットは最初から「交国計画の外」にいる存在。真白の魔神(わたし)に従っているのは「統制戒言を仕掛けられている使徒だから」という理由だ。


 バフォメット1人の統制戒言を外すぐらいなら、そこまで時間はかからない。交国計画による演算支援を使うまでもなく外せるさ。


 愚かなバフォメットは統制戒言なんて使わなくても、簡単な制御機構で従えられる。昔ならともかく、自我すらなくしちゃったみたいだしね。


「無敵の権能(たて)を持っている私と違って、フェルグス・マクロイヒは脆弱な存在だ。バフォメットの燼器で簡単に屠れる」


「ばけ、もの……」


 失礼なことを呟いた天使(ラフマ)を、プチッと潰してしまう。


 蚊のように始末する。


「あ、しまった。権能を手に入れ損ねた。まあ……いいか」


 彼女の透明化権能を手に入れれば、それなりに悪さ出来たんだけど……大勢に影響ないでしょう。透明化が通用するのはどうせ雑魚相手だけだ。


 さっきの小細工はそこそこ面白いものだった。


 けど、小細工を上回る大技で叩き潰せばいいだけだ。


 フェルグス・マクロイヒが一瞬躊躇ってくれたおかげで、さらに怪我せず助かった。躊躇ってなくても即死を避けて立て直す自信はあったけどね。


 とりあえず、面倒な敵の処分が終わって――――ないか。


「そうだよねぇ、キミは巫術師だもんねぇ」


 バフォメットの攻撃を受け、溶解していた機兵が立ち上がる。


 流体装甲を強引に直し、立ち上がってきた。混沌機関にも相当なダメージが入っているはずだけど、ギリギリ持ちこたえたようだ。


 機兵は危ういところで生き残った。


 けど、生身の身体は助からなかったでしょ。


 燼器の雷撃に操縦席を焼かれ、身体の方は耐えられなかったはずだ。巫術のおかげもあって、機兵は何とか動いているようだけどね。


 交国計画が攻撃を拒んでいる辺り、まだかろうじて生きているようだ。ただ、もうその傷を――致命傷を何とかする手段はないはずだ。


「諦めが肝心だよ、フェルグス・マクロイヒ」


『ま…………真白の、魔神……』


 満身創痍の機兵がこちらに手を伸ばしてくる。


 バフォメットを呼びつけ、敵機を吹っ飛ばす。相手を間合いの外に出す。


「惜しかったね。どう頑張っても私が勝っていたけど……万が一、キミが勝利を掴んでいたら、この天使は死なずに済んだだろうね」


『――――』


「キミの所為だよ、フェルグス・マクロイヒ」


 バフォメットに弾き飛ばされ、転んでいた機兵が立ち上がる。


 修理しきれなかった装甲が落ちる。さらに破損する。けど、それでも流体装甲を操って何とか戦おうとしている。


「……せめて反論してきなよ。責任感があるのは一般論として良いことだろうけど、何もかも背負ってると疲れるでしょ?」


 この身体になった時を思い出す。


 この子は「石守桃華」を必死に助けようとしていた。危ない目に遭わせてしまったと必死に謝っていた。


 けど、この子が石守桃華に対して――他人の子に対し、責任を負うべき事は何1つない。この子が勝手に責任を持っていただけだ。


 石守桃華を殺したのも、先程の天使を殺したのも私だ。「真白の魔神。お前の所為だろ」となじればいいのに。その余裕もないのか、あるいは――。


「昔、キミみたいなクソ真面目な馬鹿がいたけど。そいつは潰れて壊れたよ」


『…………』


「ここでキミが敗れて多次元世界が白紙化(リセット)されたとしても、それはキミの責任じゃないよ。気楽に戦いな? あるいは諦めて」


『僕がもっと早く、あなたを斬っていれば――』


「どっちにしろ、バフォメットの方が速かったよ」


 そっちが小細工を仕掛けてくるのはわかっていた。


 統制戒言を外したバフォメットを待機させつつ、そっちの攻撃を誘って逆撃(カウンター)の燼器を放ってハイ終わりという保険もかけていた。


 そっちの小細工にちょっとだけ引っかかっちゃったから、危うい感じになったけど概ね予定通りよ。キミがどう足掻いても負けてたワケ。


「ああ、ちなみにバフォメットはもう、キミの言うこと聞かないからね。統制戒言は外したけど、私の命令に従うよう木偶にしたから」


 バフォメットに「おいで」と手招きする。


 改造を施したバフォメットと、フェルグス・マクロイヒに破壊された機兵を合体させる。バフォメットと流体装甲によって欠損を補う。


「木偶というか機兵だね! 操縦者の私の意のままに動く兵器。ただ……コイツもあまり長くは持たない」


 バフォメットは石守睦月の神器を無理矢理使っていた。


 本来の担い手ではないのに無理矢理使っていたから、バフォメットの魂は既に欠損している。コイツも長くは持たない。


「ただ、もう一戦ぐらいはこなしてくれるよ。私が上手く使ってあげるからね。持久戦はオススメしないよ? バフォメットが限界を迎える前に、キミが死ぬから」


『…………』


 壊れた機兵の隙間から、ドロドロに溶けた操縦席内部が見えた。


 酷い状態だ。かろうじて生きているらしいけど、遠からず肉体が死を迎えるだろう。ただ、魂はしばらく持ちこたえるだろうね。


 最終的に肉体の死に引っ張られて死ぬけどね。


 犬塚銀を倒した時は、予備の義体を遠隔操作して死を偽装したようだけど……あの操縦席にいるのは本物のフェルグス・マクロイヒだ。


 彼の死は確定した。


 機兵に憑依して必死に意識を繋いでいるけど、敗北が――消滅が確定した。


「可哀想なキミに朗報を教えてあげよう。交国領に攻め入ったプレーローマの軍勢は、退却を開始した。今回の大規模侵攻も失敗した」


 今回はかなり周到に準備を整えていたようだけど、交国計画によって彼らに大打撃を与えてやった。このまま再起不能になるまで叩きのめしてやる。


「キミ達はもうプレーローマに怯えなくていい。彼らは私が滅ぼしておくよ。だから、私に感謝しながらキミも死――」


『――――!!』


「馬鹿だね」


 満身創痍の機兵が斬りかかってくる。


 バフォメットを取り込んだ機兵を神経接続で操作し、余裕を持って攻撃を回避する。回避し、こっちから斬りつけてやる。


 敵は無様に転がった。……けど、回避には成功した。無様に転がりながらもこちらに剣を向け、半壊した機兵のカメラ越しに睨んできている。


「大人しく負けを認めなさい」


『まだ……まだ終わってない!!』


「終わりだよ」


 所詮、キミは贋作。


 完璧な真作に勝てる道理はない。


 本物(わたし)なら真白の魔神(わたし)に勝てるかもしれない。


 けど、紛い物のキミじゃ無理だ。


 同一権限者と考えられているだけのキミじゃ無理だ。


「キミに出来る事はもう、神に祈る事だけだ」


 どの神も助けてくれないだろうけどね。


 神はキミ達が考えるほど、都合の良い存在じゃないんだよ。




■title:交国首都<白元>にて

■from:泥縄商事社長のドーラ


「社長。プレーローマのラフマがやられました」


「あ~らら……」


 偽装のために夜行の装甲服を貸してあげたラフマちゃんはやられた。


 けど、戦闘は続いている。スアルタウ君が諦めず戦っているようだ。


 戦っているけど……彼の肉体もやられたな。


 交国計画による攻撃を受けてないって事は生きているんだろうけど、瀕死だろう。巫術師は身体が死んでいようが、何かに憑依してしばらく持ちこたえるだろうけど――。


「……我々だけ撤退しますか?」


「作戦続行。彼を信じよう」


 死んで逃げても、交国計画から逃げ切れるのは不可能。


 あたし達が勝つ機会は、おそらくこれが最後。


 彼が最後の望みだ。彼に託そう。


 手立ては残っている。


 地下にいるヴァイオレットちゃんが、上手くやれば――――。




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