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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
823/875

我は神なり



■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『ふざけないでよ!! こっちが機嫌よく無双してたのにさぁ!!』


『僕らは、あなたの接待係じゃない!』


 真白の魔神を運んでいた機兵が、真白の魔神を投げた。投げて逃がした。


 そして機兵だけがこっちに走ってきたけど、僕に体当たりする前に急停止した。こっちが軽く手をかざしただけで自壊しながら退いていった。


 泥縄商事の社長の読み通り、交国計画による攻撃は当たらない。敵の防御はエレインの(わざ)を使えばある程度は突破できる。


 問題は真白の魔神自身(・・)の攻撃。


 交国計画が動き出す前、僕は彼女に攻撃された。アレは交国計画によるものではなく、真白の魔神本人からの攻撃だったから権限で止まる事は無かった。


 交国計画からの攻撃は心配しなくていいけど、それ以外の攻撃に関しては引き続き警戒しないといけない。距離を取らせるな。対策の隙を与えるな。


『真白の魔神は――』


 機兵に自分を投げさせた真白の魔神は、中央政庁の一角に着地した。


 そして、交国計画を使って巨大な箱を造り出した。


『中に閉じこもる気か……!?』


『いや、違う。エデンの機兵(・・・・・・)を使うつもりだ』


 エレインの言う通りだった。


 真白の魔神は召喚した箱に――落ちていた2機分の機兵の部品を詰めていった。その部品を使ってニコイチ機兵を造り上げた。


『バレットとアラシア隊長が使っていた機兵……!』


『交国計画の支配下に置かれていない兵器なら、攻撃できるよねぇっ!?』


 真白の魔神が修理した機兵に乗り込み、こちらに向かってくる。


 交国計画が繰り出してきた兵器群と違い、バレット達が持ち込んだ機兵は交国計画の支配下に置かれていない。


 だからこそ、偽の真白の魔神(ボク)相手でも攻撃できる。


『これがあれば、キミ程度を倒すなんて造作もない』


『そういう事は、倒してから――』


 敵機兵に斬りかかる。


 けど、攻撃は空ぶった。


 真白の魔神が操るニコイチ機兵は地面に倒れ込むように斬撃を回避し、さらに足払いをかけてきた。見事に転ばされかけたものの、前転して体勢を立て直す。


 真白の魔神が高笑いする中、敵機兵が蜘蛛(・・)のような動きで移動していく。背中から地面に倒れたものの、背部に流体装甲の脚と車輪を生やし、それを使って器用に移動しながら射撃してきた。


 こちらが大剣を盾代わりに使っていると、向こうは地を這いながら高速で近づいてきた。迎撃のために剣を振るったが、ギリギリのところで回避された。


 さらにこっちの大剣にワイヤーを放って縫い付け、至近距離から射撃を――。


『っ…………!!』


 大剣を捨て、強引に回避する。


 脚部の車輪を使い、後退しつつ敵の射撃を避ける。


 避けきれなかった弾丸が流体装甲とぶつかって火花を散らしてくる。


 相手の動きは素人じゃない。


 熟練の機兵乗りのそれだ。


 犬塚特佐のような圧は感じないけど、流体装甲の使い方が巫術師(ぼくら)のように速い。いや、僕ら以上か……!?


『あなたは発明家であって、機兵乗りじゃないんじゃ……!?』


『人類文明の機兵の基礎を造ったのは真白の魔神(わたし)だよ。知ってた? 知らないか。厚かましい人類がその辺の歴史は消してるよねぇ』


『そもそもその機兵、混沌機関まで破壊されていたはず……!』


『人類文明圏で普及している混沌機関の雛形も、真白の魔神(わたし)が造ったんだよ。これぐらいは目をつむってても直せるよっ!』


 真白の魔神が操る機兵が、軽快かつ巧妙(トリッキー)な動きで迫ってくる。中距離から射撃をばら撒きつつ、翻弄してくる。


 犬塚特佐やバフォメットとはまた別種の動きで、やりづらい……!


『何で、巫術師でもないのにそんな高速で流体装甲の変形を――』


『流体装甲も真白の魔神(わたし)以下略ッ!!』


 敵機に斬りかかったものの、急に生えた壁を足場に逃げられた。


 交国計画による攻撃は出来ずとも、交国計画を防御や移動の補助には使ってくる。地の利は向こうにある。


『ここからはこっちのタァーーーーン! 反撃はご自由に! 同乗中の<夜行>に助けを求めてもいいし、他の奴らに泣いてすがってもいいんだよ~?』


『くっ……!』


『キミ以外は、容赦なく交国計画で吹っ飛ばせるけどねっ!』


 真白の魔神を倒さない限り、交国計画は止まらない。


 多次元世界も滅ぼされる。


 僕だけでは勝てない。……けど、いま、ヴィオラ姉さん達が地下で動いてくれている。「支援」してもらえる予定はある。


 ヴィオラ姉さん達の準備が整う前にこちらがやられかねないけど、まだ何とかなっている。真白の魔神はこっちに注意を向けている。ここは――。


『予定通り、力を貸してください』


 同乗者に呼びかけ、動いてもらう。


 今の真白の魔神なら、引っかかってくれるはず――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「仕掛けてくるか」


 大剣を使い、強引にこちらを殺そうとしていた相手の動きが変化した。


 無理に斬りかかってこず、つかず離れずの距離を保っている。攻撃してくる事もあるけど、先程までの殺意はない。


 いっそのこと、逃げてしまいたいけど――。


「丘崎獅真が合流すると厄介だしなぁ……。無尽機も確保しておきたいし、私が対応するしか――」


 丘崎獅真も無尽機も、交国計画の遠隔操作で最終的には何とかできる。けど、フェルグス・マクロイヒは――同一権限の問題が解決しない限りは――私が決着をつける必要がある。


 丘崎獅真がフェルグス・マクロイヒを盾に暴れ始めたら、さすがにキツい。フェルグス・マクロイヒを盾兼武器として掴んだ丘崎獅真に首を刎ねられるなんていうシュールな最期は御免被る……!


「バフォメット。視覚共有、切っちゃダメだよ?」


 バフォメットの頭を遠隔操作でイジりつつ、巫術の眼を借りる。


 相手は巫術師。巫術の眼も使い、全ての動きを把握しておく必要がある。


 真っ向勝負でも勝つ自信あるけど、相手が真っ向勝負に応じるとは考え難い。万策尽きた後ぐらいでしょ。彼らの方が挑戦者なんだから、何かやってくるはずだ。


保険(・・)用意して、誘い受けしますか~……」


 巫術の眼で観る。相手の機兵の中に、2つの魂が観える。


 1つはフェルグス・マクロイヒ。もう1つは<夜行>の隊員だ。後者も機兵の操縦技能を持っているから同乗しているんだろう。


 ただ、機兵の操縦技能はフェルグス・マクロイヒも持っている。それなのにあえて2人いるって事は、何らかの目論見があるんだろう。


「2人乗りである事を活かしてくるよね。そろそろ――」


 敵機が槍を生成し、投げてきた。


 アレぐらいの投げ槍なら流体装甲で簡単に弾けるけど――。


「チッ――――」


 無理をしてでも回避する。


 今の投げ槍に、魂が観えた(・・・・・)


 槍越しに憑依強奪を行い、こっちの機兵を奪うつもりだったんだろう。


 いま使っている機兵は権能で守らせていない。下手に交国計画を絡ませると機能不全を起こす。いま、巫術を仕掛けられたら殺されかねない。防御した瞬間にやられる。あんな槍でも当たるわけにはいかない。


 けど、回避してもなお敵の目論見を完全にくじけたわけじゃない。


「――――」


 私が避けた槍の向かう先に、交国軍の機兵(・・・・・・)がある。


 槍が軍の機兵に命中した。魂が機兵の方に移ろうとしている。


 巫術を利用し、別の機兵を掌握する気か。


 元の機兵は同乗者の夜行に預け、操作させるんだろう。


 機兵2機を使った挟み撃ちをするつもりなんだろうけど――。


「そこはバフォメット(・・・・・・)の間合いだよ」


 槍を投げた機兵が停止する。


 遠隔憑依(・・・・)により、動きを止める。


 フェルグス・マクロイヒの魂が投槍越しに別機兵に移ろうとしているって事は、槍を投げた方の機兵はいま、巫術師が操作していない。


 それならバフォメットが簡単に奪える。


 凡百の巫術師達と違い、バフォメットは遠隔憑依が出来る。巫術師が操作しているものなら遠隔で奪うのは難しいけど、あの機兵は巫術操作されていない。


 バフォメットに止めさせ、私の攻撃でトドメを刺せばいい。


「はい、終了――」


 背部に生成していた小型狙撃砲を脇越しに構え、撃つ。


 動きを止めた機兵の操縦席を狙い撃ち――。


受けて(・・・)滅せよ(・・・)


「――――」


 瞬間。


 動けないはずの(・・・・・・・)機兵が動いた。


 バフォメットに止めさせたはずの機兵が動いた。


 槍に憑依したフェルグス・マクロイヒの魂は、まだ身体に戻っていない。


 それは巫術の眼で確認できる。


 槍に乗って移動した魂は、まだ別機兵の傍にいる。


 いま、目の前の機兵が動けるはずが――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


溝式煌剣(カレトヴルッフ)ッ!!』


 真白の魔神が放ってきた砲弾を、大剣で撃ち返す。


 操縦席への直撃弾は返せなかったものの、敵機兵に大きなダメージを与えた。


 逆撃(カウンター)で、真白の魔神の機兵に致命傷を与えた。


 これも、ラフマ隊長(・・・・・)のおかげだ。




■title:交国首都<白元>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除(けんじょ)>隊長・ラフマ


「見事に引っかかってくれたわね、真白の魔神(メフィストフェレス)


 夜行から借りた装甲服を脱ぎつつ、姿を露わにする。


 真白の魔神は引っかかった。観えすぎたゆえに引っかかった。


 今の真白の魔神は、バフォメットの視界を借り、魂まで観えている。


 だからただの投槍(・・・・・)にスアルタウ君が憑依していると勘違いした。


 目の前の機兵から魂が1つ減り、投槍に魂が観えるんだから「憑依対象を変えた」という結論を即座に導き出したんだろう。けど、そこが間違っている。


 投槍の中に観えた魂は、スアルタウ君ではない。


 権能で姿を消した(・・・・・)私だ(・・)。透明になった私を「巫術師の魂」と勘違いした真白の魔神は、目の前の機兵がノーガードになったと勘違いした。


 迂闊な攻撃を行い、逆に破壊された。


 大破した機兵から、大怪我を負った真白の魔神が転がり出てきた。大怪我といっても、首を斬られても交国計画で修復する輩だ。


 即死か圧死でもしない限り、死なない。


「スアルタウ君! トドメを!!」


 こちらも小銃を使い、生身の真白の魔神を狙い撃つ。


 私の放った弾丸は権能に弾かれている。傷1つ与えられない。


 けど、スアルタウ君なら――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『露と滅せよ――!!』


 大剣を振りかぶる。


 壊れた機兵から転がり出てきた真白の魔神に、トドメの一撃を――。


『やめて! アーロイ! 私よっ! 桃華(・・)よっ!』


『――――』


 剣は止めない。


 振り下ろす。


 お嬢様はもう死んでいる。


 目の前にいるのは、真白の魔神――――。 




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「甘いよ、勇者様」


 一瞬。


 ほんの一瞬。フェルグス・マクロイヒが躊躇った。


 止まったわけじゃない。


 真白の魔神(わたし)と石守桃華が別人だとわかっている。


 だから、攻撃は止めていないけど――ほんの一瞬、剣が乱れた。


殺せ(・・)バフォメット(・・・・・・)


『燼器解放』


 大太刀が落ちる。


 私達の首に向けて(・・・・・・・・)







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