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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
822/875

贋作英雄と裸の王様



■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「誰だよ!! 私の偽者を造ったのは……!!」


 <叡智神>の須臾学習媒体が見つからなかった時点で予想するべきだった。


 器が健在だから、偽者が造られる可能性なんて考えてなかった。


 偽者といっても、彼はおそらく完全複製体ではない。完全な複製だったとしたら、もっと私らしい力を発揮しているはずだ。となると「魂だけ同一と判定される偽者」に過ぎないんだろう。


 それでも脅威に――いや、厄介な存在になる。


 交国計画は安全装置が組み込まれている。圧倒的な力が自分に向かい、自爆するのを避けるための安全装置が組み込まれてしまっている。


 私が<太母>の立場でも組み込む。自爆して死ぬとかみっともないもん!! 自分の作品だろうと過度に信用するのは間違っている。


 けど、こんなところで偽者に遭遇するなんて……!


「くそっ……! 来い!!」


 移動用の機兵を呼び出し、その手のひらに載って運んで貰う。


 追いすがってくるスアルタウ君は、流体装甲の壁で行く手を阻む。万里を覆う長城を造る勢いで交国計画を使ったけど、足止めは失敗した。


『一等権限者に対する危険を予測。鋳造(トリガー)停止(ロック)します』


「ああ!! もうッ!!」


 壁の建設予定地点にスアルタウ君が踏み込んでしまった。


 交国計画なら長大な壁も一瞬で建設できる。


 けど、建設過程で一等権限者(わたし)の身が危ういと判定されると、攻撃と同じく建設まで中断されてしまう。場合によっては防御すらままならなくなる。


 いや、防御は出来るはずなんだ。


 防御は一等権限者(わたしたち)を傷つける事にはならない。権能(カノン)による防御は機能するはずなのに、ダメージを受けている。向こうの攻撃が通っている。


 本物の真白の魔神は私!


 向こうは偽者!!


 私が2人いるのはおかしいでしょ!?


 交国計画(システム)にそう説明しても、魂魄認証の方が優先される。同じ存在が2人いると判定されても、「いるもんはいますし……」と判定される。


 乗っ取り工作(ハッキング)対策が機能しすぎて、想定しなかった不具合に対処できていない。交国計画の強みがほぼ全て潰されている。


 交国計画の外にいる存在に……バフォメットに頼ろうとしても――。


「バフォメット!! そいつを止めて!! 保護って形でいい!!」


『邪魔しないでくれバフォメット!!』


「っ~…………!!」


 こっちの命令(オーダー)が、向こうの命令(おねがい)に打ち消される。


 バフォメットは交国計画の支配下にいない。


 けど、統制戒言ドミナント・レージングで操ることが出来る。


 でも向こうも「真白の魔神」と判定されるから、バフォメットに対する命令も交国計画と同じ状態になっている。


 いや、交国計画より悪い。向こうは交国計画に対する命令は出来ていない。接続を確立していない。けど、バフォメットに対しては命令できる……!


 あの子を殺すとなると、ほぼ自分の力だけで勝つ必要がある。


 さっきは勝てた。方舟の艦橋では致命傷を与えられた。


 アレは交国計画で制御されていない小銃を使ったからだ。私が「私」に対して発砲したから、安全装置が介在する余地なんてなかった。


 でも、今はもうさっきみたいな不意打ちはできない。


 フェルグス・マクロイヒは、交国計画(わたしたち)の天敵だ。


「誰かが造ったんだね? 交国計画への対抗手段として……!」


 あの子は牙を隠し持っていた。多分、本人すら無自覚だったんだろう。


 気づいたのは<無尽機>か! あの子(パンドラ)にも統制戒言を仕掛けてあるから、フェルグス・マクロイヒに逆らえない事に気づいたんだろう。余計な事を……!


「なんとか、交国計画(システム)を書き換えないと――」


 安全装置周りの仕組みを変える。


 そうすれば、交国計画を使った攻撃で簡単に仕留められる。


 けど、直ぐにやるのは無理。


 相手の位置に気をつけつつ、足止めのための防壁を展開する。


 今のうちに距離を取って書き換え作業を行えば――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『逃がすか!!』


 真白の魔神との間に巨大な壁が立ち上がった。


 いま逃げられたら、対策をされる可能性がある。攻撃を止めるな。


 距離を詰め続けて、仕留めなければ負ける。


 僕は交国計画に「真白の魔神と同じ」と判定されるみたいだけど、本物のように交国計画を操れるわけじゃない。通常の攻撃手段では権能の防御も突破できない。


 けど――。


『露と滅せよ――虹式煌剣!!』


 流体装甲の壁を斬り伏せ、突破する。


 虹式煌剣の勢いを推進器代わりにし、一気に加速する。


 通常兵器では権能に防がれる。


 けど、エレイン由来の攻撃なら通用する。


 認識阻害術式が、相手の「対策」を妨害し続けている。




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「なんだよっ、その攻撃っ……!!」


 足止めの壁も、界外に逃れるために呼び出した方舟も破壊された。


 有り得ない事が起きている。権能の防御が突破されている。


 いやそもそも、敵がいまやっている攻撃の正体が掴めていない。こちらが防御指定していない種類の攻撃だから、権能の防御をずっと素通りされている。


 攻撃の正体は、見ればわかる。


認識操作開始(ナイトノッカー)考察妨害(ミスディレクション)


 わかる……のにっ……!!


認識操作(ナイトノッカー)休眠状態移行(スリープモード)


 理解不能(わからない)……?!!


 掴んだはずの答えが、次の瞬間には砂のようにこぼれ落ちていく。


 こぼれ落ちていった事すら忘れていく。


 敵の攻撃は私由来のものじゃない。「真白の魔神と同一の存在」と誤魔化し、交国計画の防御を突破しているわけじゃない。


 それは、わかる。


 わかるのに、対策できない……!


 多分、何らかの方法で認識操作されている! その答えすらもう何度も思い浮かんでは消えている気がする。どれだけ考えても対策(こたえ)に辿り着けない。


 映像記録どころか、メモすら残せない。


 理解はできる。演算支援まで受けている私なら絶対に出来るはずだけど、理解できた記憶が――――。


「防御できないなら、火力で何とかすればいい……!」


 攻撃そのものがほぼ出来ない状態だけど、その状態を解決する。


 敵に攻撃できない理由は理解できている。これに関しては答えが消えることもない。敵の認識操作が邪魔できないところを何とかすればいい。


「交国計画の安全装置さえ、何とかすれば……!!」


 攻撃可能になる。


 敵を消し飛ばしてしまえば、防御に関して悩む必要がなくなる。


 それは、わかってるんだけど――。


「どんだけ頑丈な防衛機構(セキュリティー)にしてるんだよ、<太母>!!」


 過去の真白の魔神(わたし)に足を引っ張られ続ける。


 交国計画の安全装置を何とかしたら、偽者への攻撃も可能になる。


 けど、魂魄認証装置まで組み込まれた安全装置を取り外せない。敵に安全装置を破壊される場合に備えた対策が、ガッチガチに組み込まれている! 一時停止すらできない!


 一等権限者の私ですら、これを何とかするのには時間がかかる。


 書き換え自体は可能だけど――――。


「あはッ! あはははははっ!! 安全装置の改修に、計画全体の全改修(オーバーホール)が必要じゃん!! 私なら1週間あれば出来るけどさぁ、そんな時間ないよ!?」


 今は一瞬が明暗を分ける状況だ。


 呑気に改造している時間なんてない!


 太母のバカ! アホ!! 致命的な欠点じゃないかコレ!! 同一権限持っている奴いたら機能不全起こすって馬鹿のやることじゃん!! 世界を制圧する前に自縄自縛に陥るとか無能――イヤやめよう自傷行為(ブーメラン)だコレ!!


「キミがバフォメットに勝ったのは、偽者だったからか……!」


 バフォメットにとって、キミは天敵だったんだ。


 だから繊三号での戦いで勝利できたわけね。


 けど、おかしい。それにしては辛勝だったはず――。


「――そういう事か」


 交国計画の演算支援を使い、過去の記録を漁る。


 フェルグス・マクロイヒとバフォメットの戦闘記録を漁る。


 バフォメットは燼器を使い、星屑隊の船を攻撃をしている。


 それはフェルグス(ニセモノ)を殺しかねない行為だ。


 ただ、バフォメットが方舟に燼器を放った時、彼は船にいなかった。星屑隊の奴が余計な事を――巫術師達の身体を、船から脱出させている……!


 だからあの時は攻撃できたんだ。


 私の偽者の「身体」を巻き込む形で攻撃したら、バフォメットに仕掛けられた統制戒言がブレーキをかけていたはず。


 偶然、巻き込まない形になっていたから今日まで「異常」が明らかにならなかったんだ。


「くそっ……! ネウロンの統制機関ドミナント・プロセッサー、使い捨てなきゃ良かった……! 試作型とはいえ、アレもこっちに取り込んでいれば……!!」


 ネウロン人のフェルグス・マクロイヒを、交国計画の支配下に組み込めたはず。


 いや、奴を造った奴はその対策すらしているかもしれない。一体誰があんな奴を――――いや、誰が造ったかは重要じゃない。そんな事は後で考えれば良い。


 とりあえず、目の前の天敵を排除しないと。


 フェルグス・マクロイヒ相手じゃ、私は裸の王様だ。


「ふざけないでよ!! こっちが機嫌よく無双してたのにさぁ!!」


 キミという小石の所為で、何もかもメチャクチャになってしまう。


 真白の魔神(わたし)が捨てた小石の分際で、邪魔をするな!!


 あと少し。


 あそこまで辿り着けば、武器が手に入る。





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