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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
820/875

【王よ。貴女はもう、独りではない】



■title:交国首都<白元>にて

■from:贋作英雄


『――――』


 こちらに向いた砲塔が、止まった。


 石化したように、一斉に動きを止めた。


 これは泥縄商事の見立て通り――。


『兄弟!』


『――――!』


 微かに目を見開いた真白の魔神に向け、兄弟が突撃する。


 砲弾は飛ばない。


 攻撃は来ない。


 魔神の枷が(・・・・・)、魔神の首を締め上げる。




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「なるほど! 調子に乗りすぎたかなッ!?」


 周囲の砲塔が一斉に停止(ダウン)した。


 理由はわかる。理解した。


 敵が近すぎたんだ。こちらの攻撃が派手過ぎたんだ。


 交国計画には安全装置が仕掛けられている。


 交国計画(じぶん)の攻撃に真白の魔神(わたし)を巻き込まないよう、強固な安全装置が仕掛けられている。それが暴発したんだ。


「――行け!」


 敵の進路を遮る形で、新たに3機の機兵を創造する。


 この位置なら――絶対に――何があっても私に当たる事はない。


 演算支援により、先んじて弾道予測も行っ――――。


『一等権限者に対する攻撃を予測。危険行為(トリガー)停止(ロック)します』


「なんで!!?」




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『露と滅せよ――』


 進路上の機兵達が銃口を向けてきた。


 けど、固まった(・・・・)


 棒立ちしている機兵達に激突し、弾き飛ばしつつ突破する。


 すみません。本当にすみません、桃華お嬢様!


 お嬢様の身体でも、手加減は出来ません……!!


虹式煌剣(カラドボルグ)ッ!!』




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


『露と滅せよ――』


「…………!」


 矮小な身体を動かし、逃げる。


 けど、こんな身体じゃ間に合わない。攻撃も何故か出来ない。


 そもそも、逃げる必要はない。


 機兵の斬撃程度、権能(カノン)で無効化すればいい。


 無効化すればいいけど、嫌な予感が――――。


「っ…………!」


 交国計画に命じ、流体装甲の壁を急遽作る。


 けど、敵の攻撃を防ぎきれなかった。


虹式煌剣(カラドボルグ)ッ!!』


 敵の大剣が流体装甲の壁を切り裂き、斬撃を飛ばしてきた。


 壁による目隠しにより、直撃は避けた。


 けど、余波に吹っ飛ばされた……!


「ぃ――――ッ、たい、なぁッ!!?」


 吹き飛ばされながら手をついて着地する。


 敵の攻撃が、権能で防げなかった。防壁を破壊された。


 けど、今ので理解した(・・・・)


 今のは普通の斬撃じゃない。


 流体(エネルギー)を斬撃に乗せて飛ばしたものだ。


 理解した以上、権能で対策したら通用しない!!




認識操作開始(ナイトノッカー)考察妨害(ミスディレクション)




「あ、れっ?」


 視界が歪む。


 身体のダメージが重すぎた?


 いや、違う。


 これ、こっちの考え(あたま)をかき混ぜられ――――。




認識操作(ナイトノッカー)休眠状態移行(スリープモード)




「なん――だっ……けぇ…………?」


 交国計画に出した命令(オーダー)が中断されている。


 けど、何の命令を出したか覚えていない。ド忘れ(・・・)した。


 馬鹿な。有り得ない。


 演算支援まで受けている状態で、そんなこと起きるわけ――。


『露と滅せよ……!!』


「――――」


 壊れた壁を踏み越え、機兵が来る。


 大剣を振りかぶり、こっちへ――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:贋作英雄


『露と滅せよ……!!』


 兄弟が再び、大剣を振りかぶる。


 私の原典は交国計画に破れた。


 権能の防御を一度しか突破できなかった。


 向こうは権能による対策さえ行えば、全ての攻撃を防げる。


 しかし、対策させなければ(・・・・・・・・)攻撃は通る。


虹式煌剣(カラドボルグ)ッ!!』




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「――――」


 苦し紛れに機兵を創造し、盾にしたものの――機兵ごと叩き切られた。


 敵の刃で半身が切り飛ばされた。いや、消滅させられた。


 心臓まで潰されたけど――。


「やって――――くれるねっ!?」


 交国計画を使い、新たな半身を鋳造する。


 即死を避ければ復帰は出来る。


 けど、こんな危ない綱渡り、何度も続けられない……!


 普通なら権能で対策できる。出来るのに、出来ていない。


 これは、まさか――。


「認識操作か!!」


 敵の攻撃に対する考えがまとまらない。


 大剣を使った攻撃なのは、わかった。


 けど、詳細が理解できない(・・・・・・)


 考えをまとめ、対策しようとしても、その考えが雲散霧消していく。


 私の頭どころか、交国計画全体から対策内容が……敵の攻撃方法情報が消えていく。


 無敵の盾を持っていようと、不知(しらず)の太刀には対応できない。


 対策しようにも、対策そのものを潰されてる……!


「こっちは交国計画(システム)演算支援(バックアップ)があるんだよ!?」


 それを上回る認識操作(ちから)を、何でキミらが持ってんの!?


 その「何で」という疑問すら、消されていって――。


「そっちを消せば、いいんでしょ!?」


 敵機の足下を走り、背後に回る。


 蹴飛ばされた瓦礫が飛んできたけど、それは効かない。


 無効化できている。


 頭が混乱する。でも、敵という問題を消し飛ばせば問題ない。


救済執行(オーダー)!! そいつらを消し飛ばせ!!」


『一等権限者に対する攻撃を予測。危険行為(トリガー)停止(ロック)します』


「だから何で!!?」


 神器を使い、敵機兵だけ攻撃したはずなのに!!


 攻撃が放たれる直前に、攻撃命令が停止に追い込まれた。


 今のは明らかに私を巻き込まない攻撃だった。


 いや、そもそもさっきも同じだ。


 敵は何をしてんの。


 私は、何をされて――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「くそッ……!!」


『落ち着け。攻撃は通じている』


 初撃どころか、二撃目でも仕留め損なった。


 お嬢様の身体に深い傷を負わせただけだった。


 けど、エレインの言う通り、攻撃は通じている。


 犬塚特佐の操る<白瑛>にはダメージを与えられなかった。


 それは、あの人が権能頼りの戦闘をしていなかったからだ。


 あの人が、こっちの攻撃をしっかり回避していたからだ。


 でも、真白の魔神は違う。権能に頼り切っている。


 敵の攻撃も、想定通り止まっている。


 このまま真白の魔神を逃がさず、エレインの(わざ)を使えば――――。


『バフォメットォッ!!』


 強風が吹く中、真白の魔神が叫んだ。


 忠実な使徒を呼びつけた。




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「バフォメットォッ!!」


 無尽機捜索に注力させていたバフォメットを呼ぶ。


 スアルタウ君と真面目に真っ向勝負する必要なんてない。


 彼を上回る実力の巫術師をぶつければいい!


「そいつを、止めろッ!!」




■title:交国首都<白元>にて

■from:使徒・バフォメット


「そいつを、止めろッ!!」


 統制戒言による命令(オーダー)受諾。


 即時行動開始。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「バフォメット――退け(・・)!!」




■title:交国首都<白元>にて

■from:使徒・バフォメット


 統制戒言(・・・・)による(・・・)命令受諾。


 即時行動停止(・・)




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「な――――」


 敵に差し向けたバフォメットが止まった。


 身を退いた。


 おかしい。有り得ない。


 バフォメットに対する命令権限を持つ者は、2人いる。


 1人は真白の魔神(わたし)


 もう1人は、現契約者のレオナール・ブレナン。


 しかし、彼の権限は私より下だ。


 命令順序に関わらず、私の命令が優先される。


「――――」


 【占星術師】はマクロイヒ兄弟を排除しようとしていた。


 <予言の書>に彼らが「交国計画の脅威になる」と書かれていたから、殺そうとした。


 何故、そんな事が書かれていたかはわからない。


 <予言の書>を盲信する【占星術師】は、書かれている事を信じた。


「――――まさか、」


 ネウロンには<叡智神>のバックアップデータが眠っていた。


 眠っていたはずだった。


 しかし、それがあったと思しきニイヤドの地下には、何も残っていなかった。


 誰かが立ち入った形跡が残されていただけ。


 その誰かが、<叡智神>のバックアップデータを使っていたとしたら?


 そいつは、何に(・・)使った。


 器となる少女(ヴァイオレット)には使われなかった。


 それなのに、データだけ使われていたとしたら――――。


「ま――――まさか! そんな、馬鹿なこと……!!」




■title:交国首都<白元>にて

■from:史書官ラプラスの護衛


「そもそも、『バフォメットが負けた』というのがおかしかったのだ」


 ラプラスに洗いざらい話せと言われたので、口を割る。


 言える範囲で――自分で気づいた範囲の事を話す。


「奴は神器を失って弱体化し、さらに1000年も眠っていたとはいえ……その程度の冬眠期間(ブランク)で負けるとは考え難かった」


「でも実際、バフォメット様は繊三号で<星屑隊>に敗北した」


「そうだ。正確には<星屑隊>と<第8巫術師実験部隊>だな」


 バフォメットが交国軍の末端兵士達に敗北した。


 その時点で「おかしい」と思ったのだ。


 星屑隊の船を一撃で破壊したら、勝負にすらならなかったはずだ。


 だが、そうはならなかった。


 バフォメット自身が無意識にうちに避けてしまったのだろう。


 燼器を使って星屑隊の船を焼こうとした事はあった。


 しかし、聞けばその直前、星屑隊はある行動をしていた。


 子供達を船から一時逃がす(・・・・・)という行動をしていた。


 あの行動がなければ、バフォメットも気づいていたはずだ。


「普通の兵士、普通の巫術師が、バフォメットに勝てるわけがない」


 となると、「普通」ではなかったのだ。


 あの時、バフォメットは「天敵」と戦っていたのだ。


 そして、今も――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:泥縄商事社長のドーラ


「スアルタウ君の……いや、フェルグス君の正体がアレなら、逆らえないわけだ」


 【占星術師】の命令に応えられなかったのは、そういう事だったんだ。


 あたしが直接、彼のところに出向いて殺そうとしたから――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


 フェルグス君は人造人間だった。


 造られた存在だった。


 その過程で叡智神の須臾学習媒体(バックアップデータ)が使われていたら――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:使徒・バフォメット


「何をしているのバフォメット……!! そいつを止めて(・・・)!!」


 了解。


退いてくれ(・・・・・)、バフォメット!!』


 了解。


 矛盾命令判定(エラー)


 同一権限者(・・・・・)による命令を確認。


 致命的支障回避のため、緊急停止。




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


 交国計画が機能しない。


 安全装置が勝手に起動している。


 真白の魔神の使徒(バフォメット)が指示に従わない。


 統制戒言で縛っているのに、指示を破る。


 いや、違う。


 指示には従っているんだ。


 相反する命令をぶつけられ、従えなくなっているんだ。


 交国計画も統制戒言も、最高位の権限持ちが、2人(・・)いるんだ。


 つまり、彼は私なんだ(・・・・・・)




■title:交国首都<白元>にて

■from:対交国計画用人造人間メフィストフェレス・コピーのフェルグス


『つまりキミは、真白の魔神(わたし)贋作(ニセモノ)か!!』


『違います!』


『とぼけるつもり!? このッ……詐欺師!!』


 交国計画による攻撃が飛んでこない。


 バフォメットがこちらの頼み(オーダー)に従ってくれる。


 何故、こうなるのかわからない。


 けど、自分が何者かはわかっている。


『僕は、<エデン>のスアルタウですっ!』


「ふッ――――ふざけんな、偽者がッ!!」


 確かにそうだ。


 僕はスアルタウではない。


 けど、弟の覚悟を継いだ者だ。


 この想いは、偽物なんかじゃない。






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