【ならば王よ、貴女の孤独を癒やそう】
■title:交国首都<白元>にて
■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0
「さすがは<武司天>だね~。楽に殺させてはくれないか……」
異世界で暴れている<武司天>の様子を画面越しに見守る。
プレーローマ最強の天使。<源の魔神>の最高傑作だけあって、<交国計画>の力を持ってしても簡単には殺せそうにない。
ただ、ここまでは概ね予定通り。こっちが彼から逃げ回りつつ、位置把握だけしっかりしておけば負ける事はない。<無尽機>を手に入れてしまえばこっちの負け筋は潰せる。
予定通りプレーローマに大打撃を与えつつ、武司天の足止めをしているうちに<無尽機>を手に入れる。そして交国計画に取り組みつつ、強化してやればいい。
「しかし、キミ達も粘るねぇ~」
交国本土にいる戦力で、私の脅威になるのは丘崎獅真だけ。
彼は天使・アザゼルの権能<カノン>を突破できる手をまだ隠しているようだけど……その手も着実に減らせている。
交国計画によって造り上げた兵器群を殺到させ、数で押す事で――やむを得ず切り札を使わざるを得ない状況を作り――徐々に手札を減らせている。
彼の神器はしばらく封じておけるし、彼にはもう勝ち筋がない。この調子なら30分以内に決着をつけられるだろう。
<混沌竜>の方も粘っているけど、そっちは私への対抗手段がない。影の中に逃げて逃げ惑うしかない。バフォメットの巫術の眼を使い、見張らせているから見失って寝首をかかれるという事も有り得ない。
「そしてキミ達はウザいねぇ~」
丘崎獅真と混沌竜とは別種のしぶとさを発揮している奴がいる。
泥縄商事社長が率いる泥人形達がいる。
数だけは豊富だから、首都のあちこちで暴れてこちらを撹乱してきている。
ただの雑兵なら交国首都に<星の涙>を振らせたり、核爆弾を爆発させればいい。でも、それをやると無尽機の親機たるパンドラを逃がしかねない。交国計画を強化するため、彼女は生け捕りにしたい。
とりあえず泥人形達を地道に潰しつつ、親機を見つけて確保するしかない。多次元世界中の戦線を同時進行させているんだ。たった数十万の雑兵の処理ぐらい、別にどうという事はない。
「……丘崎獅真の援護も無駄だよ」
泥人形の一部が、丘崎獅真の救援にやってきた。
けど、無意味だ。
泥人形達が自爆特攻しているけど、交国計画には傷一つつかない。権能によって無効化してしまえばいい。
機兵の前に飛び出してきた泥人形達を踏み潰しつつ、丘崎獅真への攻撃を続ける。泥の血肉が機兵の間接に詰まっても、汚れた部位をパージして瞬時に新しい部品を作れば良い。
泥人形達は何の脅威にもならない。
索敵の邪魔だから、親機以外は消すけどね。
「神器解放・不滅艦隊」
交国が確保していた神器を遠隔起動させ、艦隊を召喚する。
交国首都上空だけではなく、76の戦線の空に神器の艦隊を展開。爆撃を行い、邪魔な敵を蹴散らしていく。多少、端末も吹き飛ばしてしまうけど問題ない。
全て予定通り。交国本土で脅威たり得るのは丘崎獅真だけだけど――。
「ちょろちょろ動き回られると、それはそれで鬱陶しいんだよねぇ……」
落ちていた白衣を纏いつつ、背後に視線を向ける。
そこに機兵がいた。
交国計画の機兵のフリをしているけど、違う。
制御から離れている機兵だ。……巫術で操作しているんだろう。
■title:交国首都<白元>にて
■from:死にたがりのスアルタウ
『気づかれた……!』
お嬢様が――いや、真白の魔神がこちらを見ている。
けど、直ぐに攻撃してくる様子はない。
密かに近づくのは失敗した。
失敗したけど、もう少し距離を詰めれば――。
■title:交国首都<白元>にて
■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0
「殺したつもりだったけど、生きていたんだね。スアルタウ君」
交国計画側の機兵のフリして近づいてきた敵機に話しかける。
いま、向こうが使っている機兵は交国計画で造られたものじゃない。交国計画の制御下にある人間が操縦しているものでもない。
どちらでもない機兵がコソコソ近づいてきていたのは、とっくの昔に把握している。おそらく泥縄商事の輩が交国計画の制御下にないものに気づいたんだ。
こっちもキミ達の存在には気づいているよ、という意味を込め、笑顔を向ける。向こうもこちらが気づいた事に気づき、動きを止めた。
「……その子を助けるためだけに権能を使ったのか」
奪った銃を使い、致命傷を与えたスアルタウ君が生き残った方法を察した。けど、その方法を使う価値はあったのかな。
まあ、どうでもいいけど――。
「やあ、スアルタウ君。元気そうでなにより」
『……どうも』
敵に奪われた機兵に通信を繋ぐ。
向こうもこちらと話す気があるらしく、大人しく映像通信を繋いでくれた。
向こうの機兵は2人乗り。
巫術を使って機兵の流体装甲をイジり、複座式に変えたようだ。
スアルタウ君と、装甲服姿の人間が乗っている。
顔面までキッチリ守っている後者の装備には見覚えがある。
泥縄商事のものだ。
「スアルタウ君、泥縄商事と手を組んだの? 私を倒すためとはいえ、そんな輩と手を組むなんてねぇ。……泥縄の社長の居場所はどこかな?」
『…………』
「そんな機兵で、私に勝てると思う? 巫術で乗っ取った兵器なら、私に対する攻撃も出来るけど……白瑛の防御は抜けないよ?」
『でしょうね。でも、拘束は出来ます』
「…………」
『あなたを拘束して、丘崎獅真さんに引き渡せば……まだ、勝ち目があります』
そう、その通り。
丘崎獅真なら権能の防御を抜け、私を殺す事も出来るかもしれない。
理屈のうえではそうだけど――。
「私が、大人しくキミに拘束されると思う?」
交国計画を使い、周囲に兵器群を召喚する。
「キミ達は、私に指1本触れることが出来ない」
『…………』
「交国計画の火力で吹き飛ばされて終わり。……大人しく投降するなら、交国計画に取り込んであげる。私の下僕にしてあげるよ」
『そうですね。僕の手は届かないかもしれません。でも、言葉は届く』
「言葉……?」
『真白の魔神。こんな事、もうやめてください』
説得?
私に?
キミも馬鹿なんだね。
■title:交国首都<白元>にて
■from:死にたがりのスアルタウ
『こんな事、もうやめてくれ! アンタ、昔は人類を救おうとしてたんだろ!?』
真白の魔神まで、あと100メートル。
機兵の脚で走り出せば、一瞬で詰め寄れる距離。
でも、向こうが放つ弾丸の方が速く届く。
『守ろうとしていた人類を滅ぼすなんて間違ってる! 子供まで犠牲に――』
『いや、そういうつまんない話いいから』
真白の魔神はヒラヒラと手を振り、こちらの話を遮ってきた。
『あのね? 馬鹿のキミにもわかるように説明してあげると、私は人類が嫌いなの。憎んでるの。昔の私が善意で助けてあげようとしたのに、奴らは私の手を拒むどころか殺そうとしてきた。実際、殺された事も何度もあった』
間合いをはかる。
『私にとって、人類はもう敵なんだよ。私も、人類の敵なんだよ』
『あなたと敵対した人類は、人類のほんの一部でしかない』
『知った事か。人類という種は私に刃を向け、真白の魔神という存在を無かったことにしようとした。そのくせ……遺産は欲しがった』
確実に勝つなら、初撃で首を刎ねるしかない。
『人類は信用できない。キミも、いま、私を殺そうとしている』
『――――』
機兵脚部の車輪を駆動させる。
機兵背部の推進器に火を灯す。
大剣を生成しつつ、真白の魔神に向け、全力疾走する。
ここでやるしかない。卑怯な不意打ちすら、失敗しても――――。
■title:交国首都<白元>にて
■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0
「――――」
見え見えの不意打ち狙いに呆れる。
相手の遅さにも、呆れる。
交国計画の演算支援機能により、相手の動きが蝿が止まるようなものに見える。丘崎獅真並みに動けるならともかく、キミ程度じゃ機兵込みでも不意打ちすら成立しないんだよ。
「――馬鹿だね」
敵機兵が大剣を生成しつつ、突っ込んでくる。
敵に乗っ取られた機兵より、こちらの放つ砲弾の方が遙かに速い。
1本の剣が、1000の砲弾に勝てる道理はない。
「救済執行――斉射開始」
『一等権限者に対する攻撃を予測。危険行為を停止します』
「は?」




