【貴女は無敵ゆえに孤独である】
■title:交国首都<白元>にて
■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊長・ラフマ
「やっぱ敵かよ!!」
拳銃を構え、引き金に指をかけた泥縄商事の社長にヨモギが突進する。
撃たれたところでスアルタウ君にトドメを刺すだけ。でも、とりあえず制圧させておく。泥縄商事に期待したのが間違っていた。
「そうか! そういう事かぁ!! わかった!!」
「ヨモギ、そのまま首をへし折って」
「言われるまでも――!」
「待った!! 待った待った待った!! 裏切ったわけじゃないからぁ!!」
泥縄の社長は必死にヨモギの腕を叩き、命乞いをしてきた。
先程の行動は裏切りではないと言い張り、その理由を説明してきた。
聞くだけ聞いてあげたけど――。
「…………なにそれ。何でそんな事になってんの……?」
「そこまでは知らないよ!! でも実際、そういう事なんだよ! いやぁ~、1つ疑問が解けたよ。この子に勝てないわけだよ」
意味不明だ。
いや、理屈は説明してもらったけど、それでもなお「意味不明」と言いたい。
なにそれ。そんなのアリ?
「泥縄の社長の見立ては、おそらく正しい」
そう保証したのはサリエル閣下だった。
意識を取り戻さず、確実に死に向かっているスアルタウ君への処置を続けつつ、泥縄社長の「トンデモ話」を保証してきた。
■title:交国首都<白元>にて
■from:史書官ラプラスの護衛
「フェルグス・マクロイヒは、普通の人間ではない」
おそらく、仕込んだのはロイだろう。
奴は最初からマクロイヒ兄弟に切り札を託していたのだ。
「そもそも、この子は7年前に死んでいたはずだ。ネウロンで弟と共に――」
「でも、この子は生きています! アル君が命懸けで助けたから……!」
「それもおかしいんだ」
マクロイヒ兄弟は7年前、ラート軍曹と共に死んでいたはずだった。
しかし、死んだのは1人だけ。死んだのは弟だけだった。
「フェルグス・マクロイヒは、オズワルド・ラートと共に生き残った。その時点でおかしかったのだ。アレは輸血だけで何とかなるものではなかった」
「エノクが治療に手を貸したから、何とかなったのでは?」
「違う。ワタシが手を貸さずとも、生き残っていたはずだ」
ワタシが処置する前に、フェルグス・マクロイヒは助かっていた。
何者かが彼らを救ったのだ。
その何者かは、おそらくスアルタウ・マクロイヒだけではない。
そう断言すると、ラプラスが少しムッとした様子でワタシを咎めてきた。
「おかしいと気づいていたなら、私に報告してくださいよ」
「聞かれなかったからな」
「ンモ~……! 指示待ち天使!!」
「ともかく、フェルグス・マクロイヒは普通の人間ではない。7年前に死なずに済んだのとは別に、明らかな『異常』が存在している」
泥縄の社長は、異常に気づいた。証明した。
先程の戦闘で気づくきっかけがあったのだろう。
だが、奴は気づけなかった。
バフォメットは、それに気づけなかった。
だから奴は負けたのだ。
その事を簡潔に説明すると、工作員達も一応納得した様子だった。納得し難い話だろうが、事実としてフェルグス・マクロイヒは生き残ってきたのだ。
「この男は<交国計画>の天敵だ。しかし……もう直ぐ死ぬ」
これはもう助からん。
ヴァイオレットの処置は的確だったが、環境が悪すぎる。
真白の魔神から与えられた銃創は、命にまで達している。
あと数分の命だ。
7年前にこの命を救った者が、再び助けてくれるなら状況は変わるが――。
■title:交国首都<白元>にて
■from:使徒・マーリン
「……悪いけど、今回は手を貸せないよ」
マクロイヒ兄弟は残機を使い切っている。
彼らは2回まで死をチャラにする事が出来た。
けど、その権利はもう使い切っている。
7年前に使い切っている以上、こっちは……手を貸せない。
■title:交国首都<白元>にて
■from:ヨモギ
「…………」
泥縄の社長の話は理解しがたい。与太話だ。
だが、死司天までその与太話を支持している以上、事実なんだろう。
「……交国計画の天敵、か」
真白の魔神を倒さなければ、プレーローマは滅びるかもしれない。
武司天まで倒せるかはともかく、武司天が生き残っても他が持たないだろう。プレーローマ領は交国計画に蹂躙され、組織も滅びるだろう。
組織は滅びてもいい。
プレーローマなんて、最初から存在しなくて良かったんだ。
けど、プレーローマが滅びると、アイツが――。
「…………。隊長、俺に考えがあります」
「駄目よ」
隊長は俺の考えを直ぐ察したらしい。
有り難い。説明する手間が省ける。
「真白の魔神に勝つには、もうスアルタウに賭けるしかない」
「…………」
隊長もわかってくれている。
その証拠に、視線を逸らした。もう止めて来なかった。
俺は大した戦力にならん。
だが――。
「権能起動」
まだ、出来ることはある。




