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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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終わりの足音

■title:交国首都<白元>にて

■from:贋作英雄


『兄弟!! しっかりしろ! 兄弟……!!』


「フェルグスくんっ……!」


 石守桃華嬢の身体を乗っ取っていた真白の魔神が、兄弟を撃った。


 弾丸は兄弟の身体に痛打を与えている。義体化によって常人より丈夫な身体になっているとはいえ、義体化していない部位まで命中している以上、速やかに手術しなければ救えなくなる。


 兄弟の身体を私が無理矢理動かし、ヴィオラ嬢を抱えて撤退させたものの……まともな手術を受けさせてやれない。敵から完全に逃げ切れたわけではない。


 やむを得ず地下の一角に逃げ込み、ヴィオラ嬢に応急処置をしてもらっているが……さすがのヴィオラ嬢でもどうしようもないようだ。それでも何とかしようとしてくれているが――。


『マーリン、いないのか!?』


 どこかで見守っているであろう、ネコのフリをした魔術師に呼びかける。


 返答はなかった。彼女には私の声が届くはずだが、今はいないのか……いたとしても手出しする気はないのかもしれん。


『もう一度、兄弟の身体を私で操り、別の場所に逃げるか……? いや、逃げ切る前に私の方に限界が来るか……』


 何とか踏みとどまっているが、視界が霞む。


 眠気の如き倦怠感が襲ってくる。


 意識を手放せば、もう戻ってこれない確信がある。


 元々、私はいつか消える身だった。兄弟が私に頼り過ぎず、温存してくれたおかげで何とか今まで消えずに済んでいたが……先程、兄弟を逃がすために身体を使わせてもらった事で力を使い過ぎた。


 これではもう、あと一戦……いや、一太刀、力を貸せるか否か程度。


 そもそも……兄弟がもう、戦える状態ではない。




■title:交国首都<白元>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「だめ……! だめだよ!? こんなところで、死んじゃ……」


 真白の魔神に撃たれたはずのフェルグス君が、私を連れて逃げてくれた。


 致命傷を負っていたと思っていたけど、無事だったと思ったのも束の間。しばらく逃げた後、フェルグス君はまた動かなくなってしまった。


 私はフェルグス君に助けてもらったのに、満足な応急処置をしてあげられない。止血すら満足に出来ず、命の火が消えていくのを見守る事しか出来ない。


「なんとか……なんとかしないと……!」


 ここで手術するしかない。必要な物資を私が見つけてくるしかない。


 止血用のジェルすら、どこにあるかわからない状態だけど何とか見つけてくるしかない。いま出来る最低限の処置だけ終わらせ、部屋を出て――。


「むぐっ……?!」


「はい、はい。大人しく部屋の中に戻ってね」


 部屋を出た直後。誰かに背後から口を押さえられた。


 そのまま部屋の中に引きずり戻される。


 誰かがいるのは間違いないのに、姿が見えない。


 透明な手が私を取り押さえている。この力はまさか――。


「一時休戦といきましょう。ヴァイオレットちゃん」


「ら、ラフマ隊長……!?」


「その子、まだ死なせたくないんでしょ?」




■title:交国首都<白元>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>副長・ヨモギ


「何か手伝えることはあるか?」


「こ……ここを押さえてもらえますか?」


「わかった。何でも指示してくれ」


 怯え、警戒しているヴァイオレットが遠慮気味に指示してくれた。


 俺達が「天使」ってバレちまっているから、警戒されるのは仕方ない。とりあえず一時休戦に応じてくれただけ良かったとしよう。


 ヴァイオレット達が隠れていた部屋にて、スアルタウの治療を行う。こっちが持っていた医療用の物資を全部供出し、使ってもらう。


 ただ、これで助けられるとは思えん。


 医療用の物資といっても、応急手当用のものばかりだ。死期が多少遠ざかる程度で、救えるとはとても思えない。


「戦力になると期待してたけど、さすがに微妙そうね」


「隊長……!」


 端末をイジっていた隊長が、ボソリと余計な事を言った。


 丘崎獅真でも今の真白の魔神を仕留めるのが難しそうだったから、俺達は丘崎獅真や部下を囮に一時撤退した。


 致命傷を負ったはずのスアルタウがヴァイオレットを担いで逃げていたから、こっちの戦力に出来ないかと期待していた。ただ、どうやらアレは最後の力を振り絞ったものだったらしい。


 スアルタウはもう戦えない。この身体で(・・・・・)戦うのは無理だろう。


 ただ、コイツは巫術師だ。


「何とかスアルタウの意識を取り戻させよう。意識さえ戻って来たら、憑依が使える。何かに憑依して戦ってもらうしかねえ」


「この子を、まだ戦わせるつもりなんですか……!?」


「他に手がねえんだ。勘弁してくれ……」


 戦況は激変した。


 真白の魔神が<交国計画>を使って、一気にひっくり返してきた。


 交国への大規模侵攻を開始していたプレーローマの軍団は、もう侵攻どころではなくなっている。一騎当千の猛者達すら、交国計画が繰り出してくる圧倒的な物量と攻撃の無効化に押されている。


 末端の兵士達は逃げ惑うのが精一杯。いや、それどころか交国計画の支配下に置かれ、戦わされている状態だろう。


「真白の魔神を倒せば、ちゃんとした設備でスアルタウの治療も行える。倒さない限り、俺らも殺されるか……交国計画の走狗として死ぬまで戦わされる事になるぞ」


 走狗として生き残れたとしても、最終的には処分されるだろう。


 真白の魔神は狂っている。交渉の余地はない。向こうは交国計画を使ったゴリ押しを続けていれば、多次元世界を完全制圧できると思っている。


 無尽蔵の戦力と、権能すら組み込める学習能力があれば実際に多次元世界を制圧できるかもしれん。<源の魔神(アイオーン)>なら対抗出来るかもしれんが、とっくの昔に死んでいる。源も真白もどっちも邪神だから、どっちがいても詰むが――。


「交国計画を止めるには、真白の魔神を止めるしかない。……他所からの増援なんて見込めない以上、俺達で何とかするしかないんだ」


 丘崎獅真はまだ戦っているが、奴でも厳しいようだった。


 武司天が交国本土(ここ)に来てくれたら勝機はあるが、武司天は武司天で別の世界で戦っている。真白の魔神も武司天は警戒しているだろうから、自分のいる世界までは絶対に近づけさせないだろう。


 俺達で何とか戦力をかき集めて、真白の魔神を倒すしかねえ。


 丘崎獅真が粘って戦力を引きつけている間に、何とか……真白の魔神を倒すだけの戦力をかき集めるしかない。


 かき集めようにも、交国本土にいた戦力はほぼ交国計画に取り込まれちまった。戦力のアテなんてろくにないが――。


「スアルタウは貴重な戦力なんだ。敵方にバフォメットまでいる以上、巫術師(コイツ)の力が必要なんだ」


「でも、これじゃあ意識すら――」


「隊長……! 隊長も端末イジってねえで手伝ってくださいよ!」


 そう声をかけたものの、隊長は肩をすくめ、「私は医者じゃないから」と言って断ってきた。ただ、仕事はしてくれていたらしい。


「応援を呼んだ。近くにいるみたいだから直ぐにここに来る」


「応援って……そんなの、いるわけ――」


「面白い話があると聞きました!」


「患者がいると聞いた」


 いた。


 金髪幼女がやってきた。両目を眼帯で覆った天使に肩車されてきた。


 来たのは1人と1体だけじゃなかった。


 <死司天>は、ぐったりしている男を抱えていた。








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