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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
813/875

復讐者:人造神

■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「真白ォッ!!」


「怒んないでよ、怖いでしょ?」


認識操作開始(ナイトノッカー)考察妨害(ミスディレクション)


「ふぇ、フェルグスくん!?」


「ッ…………!!」


 激昂した丘崎獅真が剣に手をかけ、突撃してきた。


 交国計画で創造した人間サイズの機兵達を襲いかからせる。


認識操作(ナイトノッカー)休眠状態移行(スリープモード)


 ここまでしなくても、権能(カノン)で対策できるけど――。


「…………!?」


 丘崎獅真にけしかけた小型機兵達が、ずんばらりんと切り裂かれた。


 上半身と下半身に分割された。


 そして、私の首筋に衝撃が――――。


「あっぶなッ……!!」


 自分で自分の首を押さえ、交国計画を使って首の即時補修を行う。


 流体で肉と血管、骨を繋ぎ合わせ、死ぬ前に自分を治す。


 即時補修しないと死んでいた。首が飛んでいた。何をやってきた? 丘崎獅真の斬撃対策なら当然、権能でやっていたのに――。


「なるほど、血か(・・)!」


 再び飛んできた斬撃を、今度こそ権能で受けて無効化する。


 斬撃といっても、普通の斬撃ではない。


 こっちの対策の「外」にある攻撃だった。


 交国計画の支配下に置いた数多の目を使い、先程の攻撃のデータを集め、演算装置(にんげん)達に分析した結果――何とか二撃目は防げた!


「血を使った水流切断(ウォーターカッター)だね? まだ私の知らない技があるとは怖いなぁ……!」


 抜刀の瞬間、彼は自分の指を斬った。


 そこから血の糸を刃に纏わせ、居合い斬りを放った。


 こっちが対策出来ていなかった「血の刃」により、権能の防御を突破してきた。もう効かないけど、対応が一瞬遅れていたら全部パァになってた!


「こっちはキミみたいな再生者(バケモノ)じゃないし、この身体は何の罪もない幼女の身体なんだよ~!?」


「テメエという悪霊が取り憑いた時点で、身体の持ち主は死んでるだろうが!」


「まあ、それは――――」


 丘崎獅真が再び剣を振るった。


 鞭が振るわれたように、空気が鳴る。


 防御のために割って入らせたバフォメットの装甲が斬られた。


 また権能を突破された! バフォメットを殺すほどではないけど、生身の私が受けてたらま~た死にかけていただろうねぇ。


「勘弁してよ……! 今度は衝撃波? 生身でやる事じゃあないでしょ」


 対策する。対策するけど、バケモノ相手には安心できない。


 これだから丘崎獅真は殺すなり遠ざけるなりしておきたかったんだ。武司天め、殺さないどころか送り込んでくるなんて――。


「対策しなきゃいけないもの増やさないでよ」


「殺し方なんて億千万と存在する。完全な対策なんて不可能だ」


 正眼に構えた丘崎獅真が、針のように鋭い視線を向けてくる。


 その視線すら攻撃の一種に見紛う鋭さ。恐怖は権能では対策しきれず、背中に汗が伝う。……ホント、この子と正面衝突とか勘弁してほしい。


「全ての殺し方を試せば、いずれお前も殺せる」


「キミと真面目にやり合っていたら、命がいくつあっても足りないよ。……けどまあ、今のが最後の勝機だったのに逃したね。惜しかったねぇ」


 方舟を分解しつつ、さらに機兵達を創造する。


 単騎の戦闘能力では勝てなくても、こちらにはほぼ無尽蔵の戦力が存在する。


 数で質を磨り潰してしまえばいい。


「殺し方なんて億千万も存在する? じゃあその全てに対応すれば私は無敵だね」


「出来るならやってみろ――神器解放・伝達法度」


 伝達(それ)を禁じるか。


 悪くない手だ。交国計画の急所をわかっている。


 けど、神器(それ)は対策済みさ。


救済執行(オーダー)帝止(ストップ)




■title:交国首都<白元>にて

■from:使徒・丘崎獅真


「――――」


 神器による書き換えが完了する直前。


 真白が割り込んできた。何らかの術式を発動し――。


「止めた……!?」


「止めたよ。伝達法度(それ)されると交国計画の演算支援が止まって、一気に弱体化するからね。書き換え完了前に、神器の機能を封じさせてもらった」


「チッ……! それも交国計画の力か」


「大衆の演算支援があれば、これぐらいはね」


 俺の神器(アストレア)の調子がおかしい。正常に動作しねえ。


 奴の言葉通り、俺の神器の力だけ封じられたらしい。


 破壊されたわけではないが、この封印を破らねえ限りは神器には一切頼れん。


 封印を破るためには真白を倒す必要がある。倒さない限り、封印の術式をアレコレと変えて妨害し続けてくるだろう。術式使いではない俺に、封印を真っ向から破る方法なんてない。


「ちなみに、これは玉帝ちゃんが考案した丘崎獅真(キミ)対策のようだよ。キミが彼女を殺しておけば、この対策どころか交国計画がここまで大きくなる事も無かったのにねぇ……」


「くそッ……!」


「キミの覚悟が足りない所為で、ここまでの大事になったんだよ」


 大小様々の機兵が襲いかかってくる。


 権能による防御を掻い潜り倒す方法ある。


 向こうが対策していないであろう殺し方もある。


 あるが、雑兵相手に振るったら即座に対策される。振るうなら、今度こそ真白を一瞬で屠れる時じゃないと――。


「――――」


 一度、剣をしまって。徒手空拳で迎撃にかかる。


 機兵共を掴み、転ばせ、投げる。


 下手な攻撃は無効化される以上、倒せはしないが――。


「そうそう、ダメージが通らないだけで、投げや拘束は出来る。……出来るけど、それじゃあそのうち押しつぶされるよ~? こっちの数を減らせてないんだから」


「真白!! お前……これだけの力があれば、人類を救えるだろうが!?」


「救えるかもね」


「何故、そうしない!? 何故、悪用する!?」


「何故、救わなきゃいけないの?」


 真白は流体で修復した首を撫でつつ、そう呟いた。


「人類なんかを助けて、私に何の得があるの?」


「損得じゃない! かつてのお前なら、この力を正しい事に使った!」


「いつの話? 忘れたねぇ。でも、覚えていることはあるよ」


 真白の方へ機兵を投げる。


 真白への道をこじ開ける。


 だが、固化していない流体が濁流のように襲ってきた。道が閉じる。


 真白の声だけが聞こえる。


「人類は救いようがない。救おうとしても邪魔してくる。救おうとした真白の魔神(わたし)を排除してきたんだよ」


「それは……!」


「わかった、じゃあ放っておくよと不干渉を決め込もうにも、彼らは『真白の遺産を寄越せ』『もっと強い兵器を寄越せ』と都合の良いことを言ってくる。自分達の欲望を押しつけてくる!!」


「…………」


「まあ、人類に使い道があるのは認めるよ! 統制機関に繋いでおけば支配できるし、演算装置や死兵として使えるからねぇ」


「お前は…………」


「安心して! 人類も天使も有効活用して、争いのない世界を作ってあげるよ! 一度全部滅ぼそう! 私の敵になる全てを滅ぼしてしまおう!」


 コイツも駄目か。今回の真白も駄目だった。


 斬るしかねえ。殺すしかねえ。生け捕りに出来るのが一番だが、この真白を生かしておくのは難しい。交国計画とやらが邪魔だ。


 だが、殺して終わりじゃねえ。……今回はかなりマズいかもしれん。


「全て滅ぼして、世界を白紙化(リセット)して……そこからやり直すよ。私に都合の良い世界を作るよ。そしたら多分、きっと……上手くいく」


「じゃあ死ねッ!!」


 抜刀する。


 だが、いま刃を向けるべきは真白じゃねえ。


 俺に対し、熱線を吐こうとしている機兵の群れだ。


 通常の攻撃では権能に弾かれる。


 敵の攻撃を刀で弾き、跳弾として真白を襲わせれば――。


『一等権限者に対する攻撃を予測。危険行為(トリガー)停止(ロック)します』


「ハァ……!?」


 機兵共は急に、熱線による攻撃を中断した。


 その代わり、のしかかりによる面攻撃を四方八方から行ってきた。




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神・メフィストフェレス ver.17.1.0


「無駄無駄。私は【占星術師】みたいな間抜けとは違うよ」


 機兵達の面攻撃をいなし、回避した丘崎獅真に語りかける。


交国計画(システム)の方が、自動的に真白の魔神(わたし)を保護してくれるんだよ。流れ弾の1つすら届かないように安全装置が働くんだ」


「統制戒言と同じ安全装置か!! 裏切り防止どころか、流れ弾すら止めるか!」


「そういう事。自分が作った兵器に殺されたら、大間抜けでしょ?」


 権能で防御するって手もあるけど、攻撃自体も権能で保護されているものもあるから干渉しあって面倒な事が起きる可能性もある。


 だから、「一等権限者(わたし)に当たりそうな攻撃」は自動的に止まる。演算支援によって未来を予測し、危なくないところで止めるの。


「<太母>も他の真白の魔神と同じく、裏切りに怯えていたからねぇ……。こういう安全装置をガチガチに設定してるんだよ」


 お陰で自分を巻き込むの覚悟で攻撃するって手が使えなくなるけどね。


 でも、大した問題じゃない。


「愚かな<叡智神>なんかは、キミやスミレちゃんに統制戒言をつけていなかったけど……この手の安全装置が働くところはキミもよく見てきたでしょう? 流れ弾とか自爆で死ぬ事も有り得ないよ~?」


 あの叡智神(バカ)の所為で、丘崎獅真という強力なカードを手に入れられなかった。統制戒言を仕掛けておいてくれれば、命令1つで従える事が出来たのに。


 あの馬鹿の所為で、真白の魔神(わたし)達は散々苦労してきた。成就していたはずの計画が丘崎獅真という執行者の所為で何度も失敗してきた。


 今回は失敗しない。


 もはや、丘崎獅真は脅威ではない。


「悪いけど、しばらくそいつらと戯れてて。生きていたら後で会おう」


「真白!! 待て!! 待ちやがれッ!!」


 丘崎獅真を交国計画によって造り上げた兵器群で押し流す。


 押し流すだけで簡単に殺せない辺り、彼の化け物っぷりがよくわかるけど……まあ時間の問題だよ。私を殺すために手札を温存しているから、増え続ける兵器群を1つも倒せていないからね。


 最終的に圧殺できるだろう。


 再生者(リジェネレイター)たる丘崎獅真でも、全ての命を散らせば復活できなくなる。彼は化け物だけど、無敵ではない。


「でも油断したらやられかねないから、距離は取っておこうね」


 丘崎獅真を兵器群で押し流し、流体装甲の壁も作っておく。交国計画を使えば壁や建築物どころか、都市すらも一瞬で創造する事が出来る。


 長くても1時間ほど猛攻を続けていれば、彼も限界に達するだろう。出来れば生け捕りにしたかったけど、神器を確保できたら御の字ってとこかな。


「彼以外にも……面倒な子がいるみたいだねぇ」


 バフォメットを艦橋(ここ)に直行させるために開けた穴から見上げる。


 地上では別の化け物が暴れてる。さすがに丘崎獅真よりずっとマシだけど、あっちはあっちで面倒くさそうだ。


混沌竜(あっち)も生け捕りにしたいな~」


 大量生産できたら絶対に役立つしね。


 あの混沌竜――確か名前は巽と言ったか。彼は交国暮らしそこそこ長くて、<知恵の果実>も相当カジってるはずだけど、まだ支配下に置けていない。


 混沌竜(バケモノ)だから耐性があるのか、混沌竜だから支配下に置けないのかはわからない。仮に後者だったとしても、生け捕りにして薬漬けにしてしまえばいいさ。最悪、解剖して構造データだけ確保しよう。


「……交国計画はまだまだ改良していかないと。虚の魔神や夢葬の魔神とやり合うには、今のままじゃあ足りない」


 虚の魔神は大龍脈に封じ込める事が出来るけど、消滅させるまで安心できない。


 夢葬の魔神は「現の事は不干渉」とか宣っているけど、あの女は信用できない。特例を作って干渉してくるかもしれない。存在している以上は信用できない。


 全ての敵を消し、真っ白な世界を手に入れない限りは安心できない。


 また裏切られるかもしれない。また誰かに足をすくわれるかもしれない。


 何もかも消し去らないと、「平和」は訪れないんだよ。


「武司天も消してやる。必ず……」


 プレーローマで最も厄介なのはあの天使だ。


 奴にも交国計画をけしかけているけど、まったく手傷を与えられていない。笑いながらこちらの兵器群をボコボコにしている。……権能が通用していない。


 けど、進化速度はこちらが圧倒している。


 武司天に関してはひとまず足止めできればいい。丘崎獅真を倒し、彼の神器を手に入れて武司天の権能を封じれば勝機はある。


 武司天を倒す前に、プレーローマも滅ぼすことが出来るだろうけど――。


「それで? キミらは結局、尻尾を巻いて逃げる気?」


 表情引きつらせながら逃げようとしていた天使達に声をかける。


 いまここにいる子達は全員、戦意を消失しているようだ。丘崎獅真が私の首をスパーーーーンッ! とやった隙に逃げれば良かったのにね。


「プレーローマ本土も大変な事になってるのに、キミらだけ生き延びようとするの? 上司に怒られるよ~?」


「ま、待て! 降参だ! アンタの命を狙わないと約束す――」


 交国計画で創造した槍を放ち、馬鹿な事を言った天使の喉を貫く。


 命を狙わないと約束する? それって私に何の得もないよね? キミらじゃ私の命を脅かすことなんて出来ないんだから……。


「キミ達のような鉄砲玉、見逃してあげてもいいんだけど……せっかくだから捕まえようかな? ショボいものだけど、一応は権能持ちだもんね」


「我々を、アザゼルのようにする気か……!? じょ、冗談じゃ――」


救済執行(オーダー)。捕まえろ」


 統制機関による命令を行い、天使達を(・・・・)動かす。


 全員ではないけど、大半が<知恵の果実>に毒されていたようだ。全員これで片付けられたら生け捕り簡単なんだけどね。


 コレを仕込むのも、それなりの時間と手間があるんだよ。ちょっと<知恵の果実>入りの食事を食べただけでは支配下に置けないんだよね。個人差あるけど数年、数十年がかりで改造しなきゃいけないから――。


「はい捕まえたぁ。で、キミ達の隊長と副長はどこに行った?」


 2体、天使がいない。


 姿を消している。


 権能で姿を消して近くに潜んでいるわけじゃない。


 直ぐに力の差を理解して、私が丘崎獅真に首を斬られた瞬間に逃げたんだろう。あれを好機と見ず、「ダメだこりゃ」とさっさと退く判断能力は少し面倒だ。


 彼らはどこに逃げたんだい、と聞いたものの、どんくさい天使達は答えを知らなかった。まあいいさ。世界を真っ白にしていく過程で消すからね。


「さて、それじゃあ、必要なものだけ抽出させてもらうね~」


 天使の数だけ手術台を創造し、そこに縛り付ける。


 手足はいらない。胴体もいらない。必要なのは権能だ。


 ショボい権能でも、交国計画に組み込めば皆が使える。組み合わせ次第で大きな成果を得られるだろう。キミ達では無理な事も、交国計画(わたし)なら出来る。


「安心して血肉になってね」


 2体の天使が逃げた。コイツらの後方支援を行っていた天使も含めれば、3体の天使が交国本土にいる。今日中に瓶詰め出来ると思うけど――。


「その前に、今日の【占星術師】(メインディッシュ)を食べたいなぁ!」


 確率に干渉する能力。


 アレがあれば、交国計画はさらに強化できる。


 彼はあの力を活かしきれていない。こちらで有効活用してあげよう。







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