表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
804/875

憑依の荒業



■title:交国首都<白元>にて

■from:三等権限者・宗像灰


『妹に自害命じてんじゃねえよ。クソ兄貴が!!』


 ヒスイがこちらを罵ってきた。


 叫んだのはヒスイだが、ヒスイではない。ヒスイはそんな言葉を使わない。


 身体はヒスイだが、こちらの攘夷執行(オーダー)が届いていない。自害を命じたのに、しぶるどころか反撃の隙を窺っていた。


 ただ、愚妹(ヒスイ)自身が私に反抗してきたわけではない。


「エデンの巫術師。ヒスイの身体を乗っ取ったな」


『巫術師は人間には憑依できませ~~~~んっ!』


「例外がある。人造人間には憑依できるはずだ」


 ヒスイは一応、<玉帝の子>として製造された。


 <太母>の器として利用出来ないどころか、能力的に認知できるものではなかったが、アレも人造人間だ。つまり巫術で憑依できる。


「貴様は先程、ヒスイの身体をペイント弾(・・・・・)で撃ったな? エデンが<白瑛>を強奪した時のように小細工を使ったな」




■title:交国首都<白元>にて

■from:巫術師・バレット


「その方法まで把握してんのかよ……!」


『当たり前だ。何度も同じ手が通用すると思うな』


「くそっ……」


 タマが敵側についていて、人造人間だって事はアルに聞いた。


 だからもし敵として出くわした時は、巫術で身体を乗っ取って捕まえるのも手だと考えていた。タマの身体を使ってこっそり方舟に近づき、方舟も乗っ取ってやろうと思ってたんだが……そう簡単にはいかなかった。


 敵の戦力は、大半がアラシア隊長と泥縄商事の方に割かれている。


 今なら、強行突破出来るかもだが――。


『強行突破してくるなら、人質は殺させてもらう』


「クソ野郎が……。アンタ、ろくな死に方しねえぞ!?」


『大人しく降伏するなら殺さない。巫術師(おまえ)は有用だ。……我々の味方になるなら、お前にピッタリの戦場を用意してやろう』


「家族を大事にしない野郎の言葉なんて、な~んも信用できねえよ!」


 降伏したフリをして方舟に近づくのも無理そうだな。


 向こうは巫術を警戒している。タマ相手には――命懸けで――上手くいったが、宗像の野郎を騙すのは無理そうだ。


「そもそも、オレの乗っ取りに気づいたとしても言葉は選べよ! よりにもよって『自害しろ』はねえだろうが!!」


 本気で殺す気がなかったとしても、タマが傷つくだろうが。


 言葉だって……立派な凶器なんだぞ。


『降伏の意志無しか。では、人質を処分させてもらおう』


「おい、バカ――」


『まずは子供からでどうだ?』


「テメエ……!!」




■title:交国首都<白元>にて

■from:逆賊・石守素子


「兄上! やめろ!! 桃華に手を出すな!!」


 助けに来てくれたエデンの者と話していたと宗像の兄上が、車椅子に乗せられた桃華に対して銃を向けてきた。


 せめて庇いたいのに、命令で縛られて身体が……!


「撃つなら妾を撃て!!」


「子供の悲鳴の方が効果的だ」


 兄上が早速、引き金を引こうとした瞬間――。


『わかった! わかったよクソ野郎!!』


 通信機から「降参」と言いたげな声が聞こえてきた。




■title:交国首都<白元>にて

■from:巫術師・バレット


「オレの負けだ! ……子供で脅すとか、卑怯なことしやがって……!」


『効果的だからこそ「卑怯」と言うのだ。巫術師』


 どうする。どうすりゃいい。


 地下に湧いてきた魂も――泥縄商事も数を減らしている。さすがは特佐長官の手勢だけあって、数で勝る相手も制圧しつつあるようだ。


 時間稼ぎしたところで泥縄商事が都合良く逆転に導いてくれる――なんて事はないだろう。かといって、他に方法も――。


『――何をしている!?』


「…………?」


 万策尽きたと思った瞬間、宗像がやけに焦った声を出した。


 どうも、向こうで何か起こったみたいだが――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:三等権限者・宗像灰


「――何をしている!?」


 背後から呻き声が聞こえてきた。


 器が――ヴァイオレットが動いていた。


 玉帝が上書き作業(オーバーライド)を行う事で、まともに動けなくなっていたはずの女が玉帝に体当たりし、抵抗していた。


 不意を突かれたらしい玉帝がふらついている中、器が玉帝に挑みかかっていく。それを止めようとしていると――。


「――ッがァ……?!」


 下半身に激痛が走った。




■title:交国首都<白元>にて

■from:逆賊・石守素子


「――――」


 玉帝に反撃したヴァイオレット嬢に気を取られ、宗像の兄上が視線を逸らした。


 妾達から視線を切った。


 その隙に動こうにも、言葉で縛られた妾は動けなかったが――。


「――ッがァ……?!」


 兄上に対し、音も無く駆け寄った者が蹴りを放った。


 背後から股間を蹴り上げられた兄上は、さすがに呻き声をあげ、ふらついた。


 兄上を蹴った者は柔術で兄上を転ばせ、手にしていた拳銃を取り上げた。兄上の頭に突きつけ、人質に取った。


 拳銃を突きつけられた兄上は脂汗を流しつつ、口を開いた。


「貴様、桃華(・・)……!?」


「子供相手だからって、油断したね。長官」


 兄上を制圧した桃華は拳銃の引き金を引いた。


 両脚を撃たれた兄上が呻く中、ヴァイオレット嬢を押しのけた玉帝が「射殺しなさい!」と周囲に訴えたが――。


「全員、動くな。動けば玉帝の頭が吹き飛ぶよ」


 桃華がそう脅すと、兄上の部下達は狼狽えながら動きを止めた。


 完全に形勢逆転したわけではないが――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:玉帝


「馬鹿な……」


 器が反抗してきた。


 上書きで記憶を焼かれ、ろくに動けないはずなのに。


 私に対して抵抗し、今はキッと睨み付けてきている。


 しっかりと自我を保っている。器自身の自我が残っている。


 この女……<太母>になっていない。


 おかしいのはそれだけではない。


 素子の娘が、灰を制圧した。


 灰が使った攘夷執行(オーダー)で動けないはずなのに――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:巫術師・バレット


『バレット! 艦橋まで強行突破してきて! 早く!!』


「――――」


 知らねえ女の子の声が聞こえてきた。


 よくわからんが、宗像の野郎がいる場所で何かあったらしい。


 宗像の部下から距離を取る。タマの身体に憑依したまま自分の身体まで戻る。


 自分の身体(こっち)はタマに撃たれて怪我してるから、このままタマの身体を使わせてもらうとして――。


『通してもらうぜッ!!』


 流体甲冑発生装置を握り、タマの身体を流体で覆う。


 流体甲冑の運動能力と防御能力で無理矢理、宗像の部下共を突破する。まだ泥縄商事の社員が暴れているから、方舟周辺は手薄になって――。


『うおッ?!』


 急に目の前に現れ、顔面にフルスイングかましてきた敵の攻撃をのけぞってよける。流体甲冑を滑らせ、のけぞりつつも進む。


『玉帝の近衛か!?』


 7年前、ネウロンから逃げる時に戦った輩の仲間。


 権能を使って強襲してきた。近くまで来た魂が不意に高速移動したから気づけたが、あと少しで頭をブッ叩かれていた。


 フツーにやったら勝てない相手だが――。


『テメエらの手品の種は、もうわかってんだよッ!!』


 閃光手榴弾を使い、敵の影を操作する。


 光で影を縫い付けて移動場所を限定し、小銃を撃ち続ける。


 殺しきる事は出来なかったが、大怪我を負わせた。この隙に艦橋に走る。


 そこに宗像がいるって事は、アレ(・・)が出来るはず……!!


宗像長官(コイツ)の身体を乗っ取って!!」


 銃を持った小さい子に促され、両脚から血を流している宗像に組み付く。


 負傷しているが問題ねえ。


 敵がさらにやってくるが、何の問題もねえ。


 宗像に憑依した時点で、オレの勝ちだ!


オーダー(・・・・)! 武装解除!! 止まれッ!!」


 宗像の口を使って吠える。


 追ってきた敵が表情を引きつらせ、武器を手放し、止まった。


 とりあえず、宗像の部下共はこれで止められる。従える事が出来る。


 あとは――。


「オレに従え! 地下に入り込んだ泥縄商事を止めるぞ!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ