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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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ケジメの時



■title:交国首都<白元>にて

■from:整備士兼機兵乗りのバレット


『くそ……! こっちも敵がいるのかよ……!』


 地下までやってきたが、ヴィオラ姉達がいる場所に行く道はどこもかしこも敵が配置されている。こっちの戦力は全然足りねえのに……!


 巫術の眼を使って敵の位置を急ぎ割り出したものの、戦力差に呻く。すると隊長がオレの肩を叩いて「落ち着け」と言ってきた。


「ヴァイオレット達が方舟にいるなら、一気に奪還する好機だ。お前の巫術(ちから)なら方舟乗っ取って一気に制圧するのも不可能じゃない」


『理屈の上ではそうかもだけどよ~……!』


 相手はどこぞの大王国とは違う。ガチの精鋭だ。


 前みたいに完勝するのは不可能だろう。


 オレが敵の位置を探っている間、同じ巫術師の「メイヴ」って女は別の工作を続けてくれていたらしい。「一部の監視カメラの欺瞞工作に成功した」と言った。


『ただ、全部は無理。泥縄商事対策に、あちこちに監視カメラあるから――』


「通気口とか秘密の抜け道とか、都合のいいものがないか?」


『通気口ならある。けど警戒されてる』


 通気口を通って無理矢理突破しようとしたら、直ぐに気づかれて手榴弾を投げ込まれるのがオチだよ――と言われた。


 メイヴが誘導してくれた経路が問題ねえなら、宗像達はオレ達の存在に気づいていないはずだ。向こうには巫術師がいない。そこだけは救いか。


巫術師(あなたたち)の存在もあるから、宗像長官も「全員で方舟に立てこもる」って手は使えない。籠もっていたら一網打尽にされかねないからね』


『だから要所に兵士を配置して警戒させて、方舟に寄せ付けないつもりか。それはそれで面倒なんだよな~……』


 アルを待って、2人で流体甲冑を使って強行突破するか?


 いや、敵はそれすら読んでいる可能性がある。狭い通路で対物狙撃銃を構えられていたら、流体甲冑を使っても突破は難しいだろう。


 ……7年前、星屑隊の皆を次々と殺していった玉帝の兵士みたいのがいたら、オレ達だけで突破するのは難しい。オレだけならもっと不可能だろう。


 危ないから混沌の海に戻ってもらったアラシア隊の皆を呼ぶのも間に合わない。こっちに辿り着く前にやられる可能性が高い。


 けど、このままじゃ――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「バレット、二手に分かれるぞ」


『ふ、二手に分かれてどーすんだよ……!?』


「説明している暇はない。オレが指定した地点に移動して待機してろ」


 協力者(メイヴ)から貰った地図を参考に、バレットの待機場所を指定する。


 詳しい作戦内容を説明する時間はない。移動しつつ、概略を話す程度で済ます。


 全部ハッキリ言ったら、お前もアルも止めるだろうからな。


「ここが……ケジメのつけ時だ」


 オレじゃあ、宗像長官に勝てないだろう。


 アルとバレットが揃っていても難しいだろう。


 交国軍を呼んだところで、宗像の命令に一蹴されかねない。


 それならもう、これしかねえ。




■title:交国首都<白元>にて

■from:三等権限者・宗像灰


「……明らかに囮だな」


 地下に入ってきたオーク(ネズミ)が1匹。


 意図的にこちらの警戒網に引っかかり、ドタバタと逃げ回っているようだ。


 伏兵と罠に注意しろ、と言おうと思ってやめる。ウチの部下がそんなものに引っかかるはずがない。直ぐに制圧出来るだろう。


「星屑隊の生き残りか」


 監視カメラの映像をよく見ると、見覚えのあるオークだった。


 第59教導隊から戦地に送り込み、しぶとく生き残っていたオーク。ネウロンに送り込んで処分する予定だったが、それでもなお生き残っていたオーク。


 愚かにも<エデン>に加入し、テロリストの一員として交国に刃向かってきた男だ。名前は、確か……アラシア・チェーンだったか。


「大人しく投降しろ。今ならまだ、命だけは助けてやる」


 部下の通信機を使い、投降を促す。


 だが、向こうは耳を塞いでいるようだ。私の声が聞こえていない。


 音を断たれてしまっていては、私の権限で従えるのは難しい。命令(オーダー)を通す方法もあるが、あの場に直接行かなくてはならない。


 引き続き部下に任せていると、愚かなオークは地下の行き止まりに辿り着いた。もはや逃げる事すらままならない袋小路に、自ら飛び込んでいった。




■title:交国首都<白元>にて

■from:<燭光衆>の残党


「…………」


 馬鹿なオークだ。お前はここで終わりだ。


 こちらに攻撃しつつ、ドタバタと逃げていたオークの逃げ道はもうない。


 まだ何とか生きているが、廊下に点々と血の跡を残している。あと数発銃弾を撃ち込んでやれば確実に殺せるだろう。


「オレは、交国が大っ嫌いだ!!」


「――――」


 男が逃げていった方向から声が聞こえる。


「だが、交国で生まれ育ったおかげで、最低限の教育を受けることは出来た」


「…………」


 配下の者達に手振りで連絡し、一気に踏み入る準備を整える。


 ここまで罠も伏兵もなかった。最後は自爆してくるかもしれんが、それに対する備えもある。オーク1人が足掻いたところで何の意味もない。


 自分が囮になっている隙に、別働隊を突っ込ませようとしているんだろう? お前程度で大量の兵士が釣れると思ったら大間違いだ。


 宗像長官の部下で、お前を追っていたのは私1人だけ。


 あとの兵士は長官が命令(オーダー)で用意してくださった傀儡達だ。私に与えられた臨時の命令権限で、死を恐れず動く兵士となった。


「テメーらの洗脳教育のおかげで、オレは文字を覚えた。言葉を覚えた」


 あとはコイツらを突っ込ませれば終わり――。


「おかげで、商談(・・)も出来るようになったぞ!!」


 馬鹿の話を無視し、配下の兵士を突入させようとした。


 だが、その直前に何かが転がってきた。


 手榴弾かと思い、兵士を盾にしたが無意味だった。手榴弾ではない。


 転がってきたのは通信機(・・・)だった。


 そこから陽気な声が響いてきた。


『アハハッ! ここで問題! あたし(・・・)は誰でしょーかッ!?』


「――――」


『ヒント! いま、交国首都で暴れてる悪い奴だよぉ~~~~んッ!!』


「――――待て!! まさか!!!」


 敵が来た。


 袋小路から――行き止まりにある部屋から――敵が来た。


 通路を埋め尽くす大量の敵(・・・・)が、一斉に押し寄せてきた。




■title:交国首都<白元>にて

■from:三等権限者・宗像灰


「馬鹿なことを……!」


 地下に大量の泥縄商事社員が雪崩れ込んできた。


 アラシア・チェーンを追い込んだはずの場所から、次々と泥縄の兵士達が突撃してくる。追撃を任せた部下は爆発に巻き込まれたようにやられた。


 泥縄商事の社員が急に殺到してきた理由は、わかる。


 わかるが理解できん。正気を疑う。


 ヒスイの情報では、アラシア・チェーンは強硬派(カトー)と不仲だった。カトーのように交国首都を攻めるのは絶対に有り得ない男だった。


 ならば、泥縄商事を中央政庁地下に引き込むのも有り得ん。


 有り得んが、奴の手引きで大量の敵を呼び込まれた。


 アラシア・チェーン(ヤツ)はどこかで名刺なりなんなり連絡先を手に入れていたのだろう。


 泥縄商事はエデンに物資を運んでいた。その時、連絡先を手に入れる機会があったのだろう。


 連絡が可能だったとしても、正気を疑う。


 わざわざ密室を作り、泥縄商事に連絡して呼び込むなど……!!


「奴らを押しとどめろ!! 密室を作らせるな!!」


 急ぎ、兵士の配置を変える。


 部下達に泥縄商事が湧き出した場所へ急行させる。


 急がないと、地下に泥縄の奴らが――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:<無尽機>パンドラ


「逝け逝け逝け~♪ ブチ殺せぇ~♪」


 ネウロンで名刺渡しておいて良かった!!


 エデンのアラシア(オーク)君が、あたしに「助けてぇ」って連絡してきてくれたっ♪ おかげで中央政庁の防衛網を一気に突破出来た。


 オーク君が密室を作ってくれたおかげで、ウチの社員の地下潜入が成功した。彼が作ってくれた密室を橋頭堡とし、さらに部下達を送り込んでいく。


 宗像長官の対応が早くて、ウチの部下がバンバン殺されているけど、数で押し切ろう! こっからあたしが大逆転するためにもね!!


「でもさぁ、いいのぉ? あたし、キミのお仲間もやっちゃうかもよ~?」




■title:交国首都<白元>にて

■from:肉嫌いのチェーン


『でもさぁ、いいのぉ? あたし、キミのお仲間もやっちゃうかもよ~?』


「そこは、宗像の部下に期待するさ。……テメエらは共倒れしちまえ」


 オレ達だけでヴァイオレット達の奪還は難しい。


 交国軍も頼りにならねえ。なら、敵の敵を呼び込むしかねえ。


 この手はヴァイオレット達も危うくなるが、宗像に対抗するにはもうこれしかねえ。宗像と泥縄商事が上手く潰し合ってくれるのを期待するしかねえ。


『あはっ☆ そうならないよう、天国で見守っててね~?』


「馬鹿が。オレが行くのは、地獄だよ」


 泥縄の兵士達が銃口を向けてきた。


 それが一斉に、火を噴いて――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:整備士兼機兵乗りのバレット


『隊長、まさか、泥縄商事を引き込んだのか……!?』


 地下の爆発的に魂が増えていく。無数の魂が湧いてくる。


 援軍を呼ぶとは聞いたけど、敵じゃねえか!!


 敵だけど、宗像長官にとっても敵だ。向こうは泥縄商事に対応せざるを得ない。


 対応するために、自分の部下達を大量に割かないといけなくなる。


 おかげで警戒網が一気に手薄になってきた。警戒していた奴らが、慌てた様子で泥縄商事の方へと向かって行く。これなら何とか突破できそうだが――。


『隊長? 隊長!? そっち無事なんだろうな……!?』


 呼びかけたが返事がない。


 隊長は「援軍を呼んで宗像の部下達にブツけるから、その間に方舟を掌握しろ」と言っていた。方舟を掌握したら、後は方舟に籠城してしまえば泥縄商事の歩兵ぐらいなら何とかなる……はずだ。


 宗像は巫術師の存在が怖いから籠城出来ないが、オレには出来る。


 出来るけど……隊長はどうするんだよ。


『死んでたら、許さねえからな……!』


 危険を顧みず、無茶な作戦やっただけでも許せねえけど、死んでたらもっと許さねえ! 早くヴィオラ姉達を救って、隊長も直ぐに助けに行ってやる!!


 隊長が作ってくれた隙を突けば、方舟まで辿り着く事が――。


『…………』


 誰か待ち受けている。


 行く先に魂が観える。


 木っ端の兵士なら、まだ良かったんだけど……。


『……退いてくれ。頼む』


「…………」


 待ち受けていたのは、タマだった。




■title:交国首都<白元>にて

■from:森王八百八十八号のヒスイ


『オレはお前と戦いに来たんじゃねえんだよ、タマ』


「私は、タマじゃない」


 私の命は、国家のもの。玉帝のもの。


 私は……人類救済のために作られた部品の1つ。


 いくらでも……替えの利く部品の1つ。


「私は<戈影衆>のヒスイ。……あなた達の、敵よ」









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