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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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運命には抗えない

■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『アラシア隊長! バレット! 無事か!?』


 新手の金棒使いに攻撃しつつ、2人に呼びかける。


 金棒使いはこちらの攻撃を避ける素振りもない。真っ直ぐ突っ込んでくる。


 それなのに、機関砲の弾が一切当たっていない。


『まず――――』


 接近を許してしまい、機兵の右脚に攻撃を仕掛けられる。


 普通なら気にする事はない。


 生身の人間の攻撃なんて流体装甲で阻める。


 けど、バレット達の機兵が一撃で粉砕された事を考えると――。


『…………!』


 右脚を付け根から切り離しつつ、後方に大きく飛び退く。


 金棒が命中した右脚が金棒の一撃で粉砕された。


 普通の人間じゃない。機兵すら凌ぐ膂力の持ち主だ。


 けど多分、それだけじゃない。……何らかの異能(ちから)で、こちらの攻撃を無効化しているような――。


『自切か。くだらん小細工を……』


 金棒を持った男が再びこっちを追ってくる。


 僕の方に食いついてくるなら、このまま距離を取ろう。隊長とバレットから引き離して、2人の安全を確保しよう。


 切り離した右脚に、流体装甲を手早く補充していく。


 <逆鱗>では難しい補修も、<ウィッカーマン>なら何とか出来る。


『くそっ! 悪い、流体甲冑で援護する!』


 バレットの声が返ってきた。


 生きている。無事だ。


 壊れた機兵から這い出てきたバレットが戦闘に参加しようとしている。


 けど、機兵すら軽々と粉砕する相手に流体甲冑で通用するとは思えない。


『こっちはいい! バレットは隊長を連れて避難を! もしくは先に行ってくれ』


『お前だけでやれるのか!?』


『何とかするさ!』


 逃げつつ、金棒使いに瓦礫のつぶてを投げてみる。


 けど、それも機関砲と同じように当たらなかった。弾も瓦礫も、自分から金棒使いに当たるのを避けているように見える。偶然当たらなかったように見える。


 そんなはずはない。


 ここまで当たらないのは、明らかにおかしい……!


 世の中には生身で機兵とやり合える人もいると聞くけど、実際に会うのは初めて――――じゃないか。この人以外にも会った事はある。


 さっき会った交国の神器使いは、<白瑛>とやり合えていた。


 この人も神器使いなのか? でも、だとしたらどの陣営の神器使いだ?


『メイヴ! 妙な金棒使いに襲われてる! 誰か知らないか!?』


『そっちの映像送って! なんとか調べてみる……!』




■title:交国首都<白元>にて

■from:整備士兼機兵乗りのバレット


「何者だよ、あのオッサン……」


 胡散臭い風体のオッサンに機兵2機が瞬殺された。


 混沌機関さえ無事ならまだ立て直せたが、オレの機兵も隊長の機兵も混沌機関を粉砕されている。何とか爆発に巻き込まれたりはしなかったが――。


「隊長! 大丈夫か!?」


「な……なんとかな……」


 操縦席に押し込められていた隊長を何とか助け出す。血を流しているけど、本人は「軽傷だ」と言い張っている。


 一応動けるみたいだけど、隊長は交国オークだから痛覚無いし……身体の内側が大きく損傷してても、自分ではなかなか気づけないはず――。


 隊長はその辺に隠れててくれと促したけど、隊長は取り出した小銃の具合を確かめ、「馬鹿を言うな」と言ってきた。


「行けるとこまで行く。とりあえず、オレ達で宗像長官を止めに行くぞ」


「それならアルの援護を――」


「速攻でやられたオレ達が、機兵も無しに援護出来ると思うか?」


「う……」


「さっさと行くぞ。ヴァイオレットと……タマを奪還しねえと」




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『これならどうだ!?』


 金棒使いの攻撃から必死に逃げ回りつつ、火炎放射器を生成する。


 弾丸は「点」の攻撃になるけど、火炎なら「面」の攻撃になる。突っ込んでくる相手なら、回避出来ずに倒せるはず。


 そう思って使ったものの、敵は金棒を使って跳躍した。棒高跳びのように飛び、こちらの火炎を回避して攻撃してきた。


『あぶなっ……!』


『ッ……! ちょこまかと……!!』


 その攻撃も何とか回避できた。


 ウィッカーマンのワイヤーフレームをタコのように動かし、敵の攻撃をぬるりと回避し、後ずさる。火炎放射器で牽制しつつ後ずさる。


 敵も一時後退したけど、火炎はまったく当たってない。積極的に回避してきた以上、面の攻撃なら当たる余地はあるみたいだけど……。


『スアルタウ。相手の情報がわかった』


『もうわかったのか!? 神器使いか!?』


『違う。神器使いではないけど、神器使い相当の実力を持ってる不審者!』


『ふし……。こんな強い不審者がいてたまるか!!』


『不審者兼、玉帝の協力者の1人! 玉帝奪還のために動いたのかも!? とにかく敵! 絶対に気を許さないで!』


 距離を取りつつ、相手の進路を塞ぐために瓦礫を崩す。


 すると、瓦礫を球のように打ってきた。それに間接を破壊され、慌てて体勢を立て直しながら逃げる。メイヴからの情報をよく聞く。


『そいつの能力は運命操作。そいつが関わる事象を操作できるみたい』


『プレーローマの権能みたいなものか』


『そういうこと! さっきからスアルタウの攻撃が一切当たっていないのは、アイツの異能の影響。【占星術師】(じぶん)に当たりそうな攻撃に干渉し、「当たらない運命」にねじ曲げているの!』


『それは、どういう――』


『奴に攻撃が当たらない可能性が0.01%でも存在すれば、奴はそれを100%にイジれるってこと!』


 要は結果をねじ曲げる異能か。


 99.99%命中するはずの攻撃が、0.01%でも命中しない可能性があるなら……命中しない結果の方を引き寄せる。とんでもないインチキ能力だが――。


『奴がイジれるのは、自分が関わっている事だけなんだな!?』


『そういう事!』


『じゃあ何で、僕との勝負の結果をイジれないんだ!?』


『さすがにそこまではイジれないってだけ。ただ、このままじゃ結果を操作するまでもなく、スアルタウが負けちゃうけどね!? でも、とにかく時間を稼いで!』


 時間を稼いだところで勝てるとは思えない。


 交国軍に救援を求めるか? 皆で一斉攻撃したら、100%命中するという結果を引き寄せられるかもしれない。


 交国軍の人達は泥縄商事で手一杯なうえに、宗像長官に操作されている可能性があるけど、ダメ元で――。


『集中しろ、兄弟』


『――――』


 エレインの言葉にハッとしつつ、金棒を振り上げてきた敵から飛び退く。


 金棒の攻撃は回避したものの。敵は金棒を大きく振るい、近くの建物を崩してきた。それは金棒使いの方に倒れかねない建物だったけど――。


『こっちに来るか……!!』


 建物が僅かに不自然な動きを見せ、こっちに倒れ込んできた。


 今のも結果をねじ曲げたのか。自分の方に倒れ込んでこない結果を選んだのか。


 どんな攻撃でも、結果をねじ曲げられれば通用しない。


 僕じゃ勝てない。


 ……本当にそうか?


 僕はまだ負けていない。


 敵の運命操作能力も完璧ではない。僕を瞬殺できるほどじゃない。


 異能以外にも機兵以上に動ける身体能力を持っているけど、それは何とか凌げている。敵がやっているのが白瑛みたいな「攻撃の無効化」ではなく、「結果の操作」なら――。


『メイヴ、コイツは回避以外にも異能を使えるのか?』


『もちろん! 多分、自分の攻撃は常に命中するように確率イジってるはず。さすがに絶対命中しないものを当てる事は出来ないけど――例えば飛び道具なら必中に出来るだろうから気をつけて!』


 メイヴがそう言った瞬間、ちょうど向こうが攻撃を仕掛けてきた。


 瓦礫を金棒ですくい上げ、再び打ってきた。


 その瓦礫が機兵のカメラに激突し、視界が一部塞がれた。


 そういう事か。そういう能力か。


『――――』


 この金棒使いは強い。


 絶対回避と必中化。


 少しでも可能性があれば、都合の良い結果を引き寄せる。


 なら、その「強さ」を利用させてもらう。


 通用しない可能性もあるけど、何もやらずに負けるよりマシだ……!!




■title:交国首都<白元>にて

■from:【占星術師】


「いい加減……! くたばれッ!!」


 棍を振るい、小僧(フェルグス)の機兵の両脚を破壊する。


 こちらに反撃してきたが、その手も破壊する。四肢の大半を失ったのに流体装甲を芋虫のように蠢かせ、必死に逃げようとする姿は実に滑稽だ。


「手こずらせてくれたな。凡夫」


 最初から勝者は決まっていた。


 俺は遊者だ。予言の書を持つ特別な存在だ。


 かつては<観測肯定派>の走狗にされていたが……数々の死線をくぐり抜け、腕を磨いてきた。弟と共に生き抜いてきた。


 異能(ちから)も経験も、お前を圧倒している。


 予言の書にお前の敗北が記されていなくても、俺の勝利は揺るがない。俺の敗北も予言の書に記されていない以上、あとは単純な力比べ――。


「にゃぁん」


「…………」


 どこからか猫の鳴き声が聞こえる。


 空中から聞こえる。視界の端に、猫らしき何かが浮かんでいる。


 いや、本当に猫か?


 風に飛ばされた風船か、ビニール袋の類いだろう。


 そんな事よりも――。


「お前は知らないと思うが、俺はお前にずっと手を焼いていたんだ」


 交国計画を破綻させる者として記されていたマクロイヒ兄弟。


 大した力は持っていないため、大した脅威にはならないと思っていた。……だが、潰せるなら潰しておくべきだろうと思っていた。


 今まで何度も何度も何度も何度も殺そうとしてきたが、仕留められたのは弟の方だけ。兄の方はしぶとく生き延びてきた。


 それも今日で終わりだ。


 マクロイヒ兄弟は全滅。


 原典聖剣に代わり、俺が歴史書にお前の死を記してやろう!


「さらばだ、労働者(イレギュラー)ッ!」


 這い逃げる機兵に棍を振り下ろす。


 その瞬間。


「――――?」


 カチリ(・・・)という音がした。


 棍の先端から……棍が当たった機兵から、何か、妙な音が――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


 逃げるフリをしつつ、機兵を作り替える。


 機兵の形をしたスイッチ(・・・・)に作り替える。


 敵は、こちらの攻撃を絶対に回避してくる。


 敵は、自分の攻撃を必ず当ててくる。


 じゃあ、これ(・・)はどうだ?




■title:交国首都<白元>にて

■from:【占星術師】


「じ――――」


 自爆。


 機兵が自爆した。


 俺の攻撃が命中した瞬間、機兵が内側から破裂した。


 混沌機関を使った自爆! この至近距離から、面による攻撃を放ってきた。


 問題ない。そんなもの効かない。


 これよりもっと恐ろしい攻撃を経験してきた。


 爆発の勢いを借りて吹き飛び、奇跡的に無傷で生き残る可能性を引けば――。


「ヂぃ――――ッ?!!!」


 全身の肉がめくれ上がるような衝撃が奔る。


 自爆に吹き飛ばされた。


 吹き飛ばされ、ダメージを(・・・・)受けている(・・・・・)!?


 馬鹿な。自爆なんて破れかぶれの甘い攻撃、俺なら生き残れる。


 俺の運命操作(ちから)は無敵なんだ!


 敵の攻撃が命中するはずが――――。


「ごッ?!」


 当たるわけが――――。


「ボぶぅッ?!!」


 後ろから何かに串刺しにされた。


 吹き飛ばされた先にあった鉄筋に、身体を貫かれ、縫い止められた。


「な――ナぁッ?!! なンぇ!? なんぇえエエエエエ!!?」


 敵の攻撃は(・・・・・)一切命中しない。


 絶対に命中する攻撃じゃない限り、俺が有利な結果を選べるはず――――。


「――――」


 空から誰かが飛び降りてくる。


 流体甲冑を纏った男が、大剣を手に飛び降りてきて――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『――――』


 爆発直前の機兵から身体を射出させ、空を舞う。


 身体が軋む。けど、歯を食いしばって耐える。


 落下しつつ流体甲冑から剣を作り、敵の姿を探す。


 いた。


 金棒使いが串刺しになって、ジタバタと暴れている。


『邪魔を――しないでくださいっ!!』


 今度は避けられなかった。


 串刺しになっているうえに、爆発で全身がボロボロになっている身体では回避の余地がなかったらしい。「絶対ではない絶対回避」も発動せずに倒せた。


 落下の勢いも活かして首を切り飛ばした相手をよく見る。


 舌を突き出すほどビックリした様子の生首が転がっている。


 倒せた。


 結構、賭けだったんだけど――。


『兄弟。相手の魂は――』


『消えた……!』


 首を落とした一刀でキッチリ倒した。


『くそっ! こんなよくわからん人の相手してる場合じゃないっ……!!』


 死体を放置し、中央政庁地下に向かう。


 メイヴに「僕も直ぐそっちに向かう!」と言うと、とても驚かれた。


『えっ、うそ。【占星術師】倒しちゃったの? 足止めだけで良かったのに!』


『あんな無茶苦茶な相手、足止めなんてそう長く出来ないよ……!』


『いや、でも、どうやって倒したの……?』


『こっちの攻撃じゃなくて、向こうの攻撃(・・・・・・)を利用したんだ』


 みっともなく逃げ回りつつ、機兵を改造したんだ。


 機兵のあちこちに「スイッチ」を作り、敵に(・・)それを押させた。


『スイッチを押したら機兵が自爆するようにしたんだ。向こうが自爆スイッチを押して爆発が起きたら、それは向こうの攻撃。自己責任だろ?』


 こっちの攻撃は回避される。


 なら、向こうの攻撃にしてしまえばいい。


 お膳立てはするけど、最後にスイッチを押したのは向こうだ。


『そ…………そんな間抜けなやられ方したの? 彼?』


『ちょっとカッコ悪いやり方かもだけど、他に方法を思いつかなかったんだよ!』


 向こうの攻撃が必中になるなら、向こうの自爆も必中になると思ったんだ。


 危うくこっちもやられそうになったけど、機兵を使った自爆戦術は――巫術使えば出来るから――アラシア隊長達と前々から色々考えていたんだ。


 その自爆戦術は基本、巫術で遠隔操作している時のもので、自分が巻き込まれそうな自爆は初めての経験だったけど――。


『博打だったけど、上手くいって良かった。僕も直ぐにそっちに向かう!』


『わ、わかった~……。でも気をつけてね』


 まだ宗像長官がいる。


 メイヴはそう忠告してくれた。


 けど、とりあえず厄介な不審者は倒した!


 この調子で宗像長官を倒して、ヴィオラ姉さん達を助けないと……!




■title:交国首都<白元>にて

■from:【占星術師】


「アッ、ァア――ありえ、ンッッッ……!」


 首の肉を「うにょん」と伸ばし、串刺しにされた本体に何とか戻る。


 肉体からこぼれた魂を、必死に繋ぎ止める。


 串刺しになった状態から何とか脱し、全力で身体を修復する。少しでも気を抜いたら意識が飛ぶ……! 死んでしまう!!


 観測肯定派に施された改造手術がなければ、もう死んでいた。こんな馬鹿な事があってたまるか! あんな小僧に俺が負けるのはおかしい!!


 相手は労働者(ノンプレイヤー)。対する俺は遊者(プレイヤー)だぞ!? 超人の俺が、こんな無様に負けるはずが――。


「いッ、急ぎ追わねばっ……!!」


『そうだよぉ!』


『このままじゃ全部おじゃんになっちゃうっ!』


『止めろぉ~~~~っ!』


 あの小僧が玉帝のところに、歩く死体(ヴァイオレット)のところに行ってしまう。俺の交国計画が、計画復活前に潰されてしまう!!


 首を繋げて駆けだしたものの、直ぐに転んで顔面を瓦礫でヤスリがけする事になった。内臓や骨の修復が、まだ完全に終わってない……!


 だが、早く……早く追わねば……! 不安要素は全て潰さねば!!


「にゃぁん。にゃぁん」


「うるさいッ!! さっきから、なんだッ!!」


 猫の鳴き声が聞こえる。


 空中にフワフワと浮いた猫が、こちらを見ている。


 ……これは、本当に猫か?


「にゃぁ~ん」


「黙れッ!!」


 俺を煽るように近づいてきた猫に平手を放つ。


 だが、俺の手は猫をすり抜けていった。平手は空を切るだけだった。


「なっ……!?」


「にゃぁ~ん。……苛つくのはわかるけど、腹いせに動物殴るのはどうかと思うよ。プレイヤーく~ん」


「なんだ、お前は」


 猫が――猫らしからぬ小馬鹿にした表情を浮かべている。


 口元を舌でペロリと舐めつつ、俺を見つめてくる。


 猫が浮かんでいる。猫は確かに俺の前にいる。


 それなのに、触れることができない。


『うわ。でた』


『やっぱジャマしにくるかぁ』


『バッカスの亡霊……』


 まるで、俺の視覚()の中にしか存在していないように――。


「誰だ、貴様!!」


「そんなこと、どうでもいいじゃん。それよりいいの?」


「何が……!」


「大事に持っていたお人形、なくしてなぁい?」


「…………!?」


 言われ、気づいた。


 隠し持っていた小人(メフィストフェレス)がいない。


 肉片1つ残さず消えている。さっきの爆発で消し飛んだ? いや、まさか――。


「メフィスト! メフィストフェレス!? 貴様……どこに行った!!?」


 叫び、探す。


 だが、奴は完全に姿を消していた。


 壊れた拘束具が地面に転がっている。


 小僧にやられた時、拘束具が壊れたのか。その隙に逃げたか!?


 いま、奴を自由にするのはマズい! 小僧は小僧でマズいが、奴は小僧以上の脅威になりかねない。その辺で死に損なっているのを祈り、名前を呼んだが――。


「おい、お前。大丈夫か?」


「――――」


 返ってきたのは男の声だった。


 振り返ると、刀を佩いた男が不審者を見る目で俺を見つめていた。


 なんで? なんでお前がここに――。


「大丈夫か? 逃げ遅れた一般人か?」


 男は抜刀していない。


 俺を不審げに見つつも、気遣う台詞を吐いてきた。


 いま、こいつとやり合うのはマズい。


 俺を一般人だと思っているなら、その話に合わせてやろう……!


「そ……そうなんですぅ! きゅ、急に戦闘が始まって!! ぼっ、ボクは逃げ遅れた一般人なんですぅ!!」


「一般人が、何で真白の魔神(メフィストフェレス)の名を呼んでた? ん?」


「あ…………ああっ! それは幻聴!! 聞き間違いではぁ? かくいう私も、猫の幻覚が見えているようでしてぇ!!」


「そうか、そりゃ大変だな。ミカエルの旦那(・・・・・・・)が言ってたのはコイツだな」


 ニヤリと笑った男から、銀色の光が奔った。




■title:交国首都<白元>にて

■from:小人になったメフィストフェレス


「ひゃっほい、自由だぁ~!」


 ウキウキ脱走していると、後ろの方から誰かさんの悲鳴が聞こえてきた。


 まあまあ、別に助けなくていいや。出来れば彼の異能は欲しかったけど、今はそれより先に確保すべきものがある。


 フェルグス君のおかげで【占星術師】の手元から逃げられた以上、目指すは大逆転! 玉帝とヴァイオレットちゃんのとこに行っちゃお!


「最後に勝てば総取りよぅ! さぁて、好き勝手しちゃうぞぉ★」






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