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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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裏切りもの、裏切れないもの

■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『人が、津波みたいに……!』


 中央政庁に押しかけた泥縄商事社員を――アラシア隊の皆に届けてもらった――<ウィッカーマン>を使って止める。


 敵は一時、中央政庁の一部に張り込んだ様子だけど……交国軍が政庁に向けて容赦なく砲撃した事で、政庁内部に入り込んだ敵を追い出す事に成功したらしい。


 政庁内の密室も全て消した事で内部に入り込まれる心配はなくなった。


 でも、中央政庁の外から殺到してくる敵は消えない。


 倒しても倒しても泥縄商事の社員が自爆特攻を繰り返してくる。積み上がった死体の山が――混沌に戻っていくことで――溶けていく光景が辺りに広がっている。


 白瑛が暴れた事で交国軍の機兵戦力はかなり削られたようだけど、それでも何とか立て直す事が出来た。あとは敵に奪われた機兵を再掌握できれば――。


『バレット! 頼む!!』


『あいよっ!』


 泥縄商事が操る機兵の脚を切り飛ばし、無理矢理転倒させる。


 巫術を使った掌握はバレットに任せ、残りの敵機兵を倒しに向かう。


 アラシア隊長が<逆鱗>を使い、2機の機兵を押しとどめてくれていたところに駆けつけ、援護しようとしていると――。


『隊長!!』


 隊長の操る機兵が、敵機兵に斬りつけられた。


 けど、それはあえて攻撃を誘ったものだったらしい。


 隊長は敵機兵の攻撃を受け止めつつ、敵機兵の操縦席に短剣を突き刺した。その背後から別の敵が迫っていたけど、倒した機兵を盾にし、敵の攻撃を受けた。


『アル!』


『はいっ!』


 隊長が敵機兵を牽制してくれているうちに、巫術で敵機兵を掌握する。


 流体装甲で操縦席の敵を殺し、制圧する。誰もいなくなった操縦席に新しい泥縄商事社員が出てこないように、流体装甲で操縦席を埋めておく。


『これで何とか、敵に奪われた機兵は全て倒せたな!?』


『そのはずです。敵の機兵戦力は、もう1機いますが――』


 そう言いつつ、<白瑛>がいる方角を見る。


 向こうでは<白瑛>と巽さんの戦闘が続いている。ただ、巽さんが白瑛を圧倒しているらしく、向こうを心配する必要はないらしい。


 さすがに心配だけど……本当に問題ないならあとは中央政庁を守り切れば勝てるはずだ。泥縄商事の社員は現れ続けているけど、あとはしっかり籠城しておけば敵戦力もいつか枯渇するだろう。


 中央政庁は流体装甲まで使い、要塞化している。密室を作らないように気をつけているうえに、敵機兵がもうやってこないなら交国の勝ちは揺るがないはずだ。


 揺るがないはずだ。


 でも、まだ宗像特佐長官がどこかに――。


『――――』


『おい、アル! 油断すんな! 歩兵ならまだまだいるんだぞ!?』


 バレットが「敵が湧いてくる場所を――密室を潰しに行くぞ!」と誘ってきたけど、僕は中央政庁の地下に釘付けになっていた。


『中央政庁の地下で魂が消えるのが観えたんだ』


『そりゃあ、こんだけ泥縄商事の奴らがいるんだから、死人ぐらい――』


『中央政庁にいた泥縄商事は全員追い出した。地下にも敵の手は及んでないはず』


 いま、地下で誰かの魂が消えるのはおかしい。


 運び込まれた怪我人が息を引き取ったって可能性もあるけど、嫌な予感がする。


 念のため指揮所に問い合わせてみる。けど、返ってきたのは「異常はない」「外部の泥縄商事対応に集中しろ」という答えだった。


 でも、奥歯に物が挟まっているような物言いだった。


 まるで、誰かに無理矢理言わされているかのような――。


『スアルタウ。聞こえる?』


『誰だ? 何で僕の名前を知って――』


 知らない声からの通信に戸惑っていると、相手は「私だよ」と言ってきた。


『メイヴだよ。さっき会ったでしょ?』


『でも、声が違う。機械音声で喋らせているみたいな――』


『そりゃあ、本体(からだ)がやられたからね』


 メイヴは巫術を使い、玉帝の身体を操作していた。


 ヤドリギを使って遠隔操作しているとはいえ、安全な場所に――玉帝の傍にいるはずだった。玉帝の傍(そこ)で襲撃されたらしい。


『宗像特佐長官がこっちに来たの! 襲われてるから助けに来て……!』


『でも、指揮所に問い合わせても異常はないって――』


『宗像は、交国人を言葉1つで従える事が出来るの。交国の人達は宗像特佐長官に逆らえない……。それこそ、バフォメットがレオナール君の命令に逆らえないようにね』


 絶対命令権限(それ)を使って、指揮所の人達も従えているってことか?


 泥縄商事が自分達のところに雪崩れ込んできたら面倒だから、交国軍を使って押しとどめさせているって事か。そうなると、いくら泥縄商事を倒したところで宗像長官の思い通りになってしまう。


『向こうが切り札を隠し持ってたってわけ! 多分、真白の魔神由来の技術』


『僕はどうすればいい?』


『地下まで助けに来て! 交国人が何人来たところで、宗像の言葉(オーダー)で制圧される。ネウロン人のあなたなら奴に対抗できる!』


 実際、ネウロン人のメイヴには効かなかった。


 メイヴ達どころか、玉帝の護衛に回った神器使いの人達もやられてしまったそうだけど……僕が宗像長官を倒せば状況を変えられる。


『私本体はやられちゃったけど、魂だけで何とか生きてる。宗像達はそれに気づいていない。こっちでも出来るだけ支援するから、助けに来て……! 素子様と桃華様も、このままじゃ殺されちゃう……!』


『わかった。直ぐに助けに行く』


 メイヴ達は中央政庁地下の港にいるらしい。


 そこにある方舟で、宗像長官達は籠城している。交国人がいくら近づいたところで命令で退けられてしまっている。


『方舟内にはヴァイオレットさんもいる』


『ヴィオラ姉さんが……!?』


『宗像が連れてきたみたい。奴は彼女を玉帝と接触させて、交国を作った真白の魔神を復活させようとしている。そんな事をしたら、少なくともヴァイオレットさんが死ぬ! 身体を乗っ取られて死ぬ! 手遅れになる前に早く来て!』


 メイヴから送られてきた地下への侵入経路をバレットと隊長にも共有する。


 宗像長官が「交国人に対する絶対命令権限」を持っているとしたら、交国軍の人達に協力を頼んだところで……敵を増やすだけになるかもしれない。


 交国軍の人達に地下に突入してもらったとしても、宗像長官の言葉1つで敵側の戦力にされるかもしれない。


 いま、宗像長官を止められるのは僕らしかいない。




■title:交国首都<白元>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「なるほど。大した反則技を持ってるわけだ」


 命令1つで交国人を自由に動かせるなんて反則技、信じたくないが……信じがたい状況が続いている。ひとまず信じるしかない。


 宗像特佐長官が今までその「切り札」を使わなかったことには違和感があるが、おそらく使うための条件があるんだろう。あるいは、重大な欠陥があるかもな。


 まあそれはともかく――。


「お前ら、いざとなったらオレを殴り倒してくれ。撃っても止めてもいい」


『何言ってんだよ隊長! 仲間を撃てるわけ――』


「さっきの子の話が本当なら、宗像長官はオレも操れるはずだ」


 オレも一応、交国人だ。


 交国政府の都合で作られた存在(オーク)とはいえ、一応は交国人だ。他のオークも操られているなら、オレも命令1つで操られかねん。


 オレが怪しい素振りを見せたら、直ぐに殺してくれと頼んでおく。……ヴァイオレットの救出もしなきゃならねえのに、お前らの足を引っ張りたくない。


「とりあえずヘッドホン使って耳を塞いでおくが、こんな方法、通用するかわからん。……いざという時は頼む」


『流体装甲なり流体甲冑で拘束します』


『もしくは、隊長は宗像の声が届かないとこで待機だな!』


 そんな話をしつつ、密かに中央政庁地下への侵入経路に向かう。


 宗像の息がかかった奴に見張られている可能性もある。こっちは実質2人で宗像を何とかしないといけない以上、奇襲をかけたいところだが――。


『お前、メイヴって言ったっけ? 宗像が人を操る時に予備動作とかあるのか?』


 バレットがそう問いかけると、メイヴって子は「動作ってほどのものはなかったけど――」と言いつつ、知っている事を教えてくれた。


『呪文みたいな言葉は吐いてた。宗像長官が「攘夷執行(オーダー)」って言った後の言葉通り、皆が動いていたから――』


『ふぅん……? そいつは利用――』


『敵だ!!』


 アルが叫び、機関砲を空に向けて放ち始めた。


 弾丸が向かう先に、人間爆弾が――泥縄商事の社員がいた。


 どこかから投石機のようなもので飛ばしているらしい。こちらに向け、爆撃のように降ってくるそれを撃ち落としていく。


 撃ち落としきれなかったものは、アルとバレットが流体装甲の盾で受け止めてくれた。泥縄商事の奴らが、明らかにこちらを狙ってきている。


 人間爆弾による爆撃だけではなく、そこら中から泥縄の奴らが湧いてくる。


「今度はオレ達の機兵狙いか……!?」


『くそっ……! 邪魔をしないでください!!』




■title:交国首都<白元>にて

■from:真白の魔神の使徒・パンドラ


『くそっ……! 邪魔をしないでください!!』


「えぇ~、こっちは邪魔するのが仕事なんですけどぉ」


 というか、フェルグス君(キミ)を処分するよう、【占星術師】に言われたんだよね。


 言われたんだけど――。


「……ま、いっか。ひとまず撤収!!」


『了解』




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『えっ? あれっ……!?』


 こちらに殺到してきた泥縄商事の人達が、一気に逃げ始めた。


 蜘蛛の子を散らすように「ワァ~!!」と逃げて行った。


 何かの罠かと思って身構えていたけど、何も起きなかった。人間爆弾による爆撃も飛んで来ない。……何がしたかったんだ、あの人達。


『メッチャ聞き分けいいじゃねえか。最初から頼めば良かったのか?』


『そんなわけないって……! でも、とにかく、これで邪魔者は消えた』


 泥縄商事の社員はまだあちこちで暴れている。


 けど、僕らを襲ってきた人達は何故か退いていった。


 何らかの企みがあるのかもしれないけど――。


『今のうちに行こう!』


『あいよっ!』




■title:交国首都<白元>にて

■from:【占星術師】


「なっ……! おい、ドーラ! 何をやっている!?」


 目障りなガキ(フェルグス)を仕留めるためにけしかけた泥縄商事社員が退いていく。


 ドブ女が直々に率いた自爆特攻部隊が退いていく。機兵無しでも数千の自爆特攻兵を使えば奴を殺せたはずなのに……!


「何故、あのガキを見逃した!? 俺を裏切るつもりか!?」


『うげっ。見てたの? いやぁ~……激しく抵抗されちゃってぇ~……。やっぱ相手が機兵だから歯が立たなくってぇ~……』


「ふざけるな! 俺がお前にいくら払ったと思ってる!!」


 泥縄商事のほぼ全員を動員する以上、相応の金額は支払っている。


 今回の支払いで全財産を失った。玉帝に削られた財産を全てつぎ込む事で貴様らを動員したというのに、ここで命令違反をするという事は――。


「ドーラ。貴様。まさか、俺を裏切――」


『あっれれ~? おかしいぞォ? 声が――遅れて――聞こえて――通信が乱れてるっぽいよねぇ~? うわわ~、敵の通信妨害がぁ~~~~』


「きッ、貴様ァッ!!」


 通信が切れた。向こうに切られた。


 あの女、ここで裏切ってくるか……!


 懐からケラケラという笑い声と共に、小人が――メフィストが話しかけてきた。


「あららぁ、どうする? 私が命じてあげようか? ……私に従えって」


「ぐ……!」


 真白の魔神の統制戒言に縛られるドーラなら、コイツを使えば従える事が出来る。


 金など出さずとも従える事が出来る。


 だが、メフィストフェレス(こいつ)が俺に背き、「【占星術師】を殺せ」とドーラに命じると……どっちにしろ面倒になる。


 メフィストは死んだところで転生する。転生する以上、「殺してやるぞ」と脅したところで大した意味はない。切り札としては使いにくい。


「早めに私に頼ったらぁ? キミの計画は穴だらけなんだよ」


「黙れッ!! 俺の計画は完璧だ!」


『そうそう』


『そのとぉ~~~~り!』


『別にねぇ、失敗してもいいんだよぉ』


 何もかも計画通りに進んでいる。


 俺の敗北は有り得ない。俺の敗北は予言の書に記されていない。


 だが、ドーラがここで裏切る事も……予言の書に記されていない。


 メフィストフェレスがここでキチンと協力してくれるかもわからない。


 計画通りに進んでいても、このままいけるのか? 勝てるのか?


「――――」


 あの小僧は――フェルグスは、明らかに中央政庁内に向かっている。


 おそらく、奴は宗像が政庁地下に現れた事に気づいた。


 このままだと、交国計画始動前に奴が宗像まで辿り着きかねない。計画始動前の状態なら、奴のような雑魚でも交国計画を阻む事も出来る。


 こうなったら――――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『こっちか……!』


 メイヴに教えてもらった経路で地下に向かう。


 機兵が入れる場所ではないから、途中までしか使えない。けど、ギリギリまで機兵で行こう。泥縄商事がまた襲ってくる可能性は十分有り得るし――。


『――――』


 何か来る。魂が一気に近づいてきた。


 泥縄商事の人間爆弾じゃない。


 でも、普通の人間でもない。


『バレット――――』


 僕が警告するより早く、バレットも動いていた。


 2人で新手に対して射撃する。射撃したけど――。


『…………!?』


 こちらの攻撃がことごとく(・・・・・)外れた。


 弾幕を張ったのにかすりもしなかった。それどころか――。


『バレット!?』


 飛来した新手が、バレットの操るウィッカーマンを叩き壊した(・・・・・)


 飛んできた勢いを活かして攻撃したとしても、限度がある。


 だって、相手は――


『――――』


 明らかに生身の人間だった。


 それが3メートルは優に超える金棒を軽々と振るい、バレットの機兵を木っ端微塵に破壊した。たった一撃で破壊してみせた。


 その金棒が、僕の攻撃を弾きながら鋭く振るわれて――。


『アル!!』


 アラシア隊長が僕を押しのけつつ、盾を構えて突撃した。


 次の瞬間、隊長の機兵も粉砕された。盾も機兵も弾け飛んだ。


 <星の涙>をまともに食らったように、吹っ飛ばされた。


 機兵2機を瞬く間に倒した相手が、こちらを見ている。


 それも、睨むように僕を見つめている。金棒を携えた長身の男が僕を見ている。




■title:交国首都<白元>にて

■from:【占星術師】


「もういい。もう計画は最終段階なのだ。……俺自ら動けばいい」


 ドーラは裏切った。メフィストも頼りにならん。


 レオナールは囮の役割しか果たせていない。


 だが、まだ俺がいる。我が身を使えば何の問題もない。


 交国計画の乗っ取りまであと僅か。派手な動きをすれば、他の遊者(プレイヤー)に見つかるかもしれん。だがもう見つかってもいい。


 他の遊者が動いたところで、もう遅い!


 この小僧(フェルグス)を逃して、計画が破綻するよりマシだ……!


『誰ですか! あなたは……!』


「キミ如きが知る必要はないのですよ。……キミはここで死ぬのですから」


 ネウロンの巫術師、フェルグス。


 その死が予言の書に記されていないなら、俺が記してやる。








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