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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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強権

■title:交国首都<白元>にて

■from:虚口のジガバチ


「投降してください。長官」


「私が、大人しく負けを認めると思うか?」


「場合によっては認めるでしょ。認めた方が得って時は認める」


「では、今はどちらだと思う?」


「止まれ! それ以上、近づくな」


 単身で近づいてきた元上司(ムナカタ)を牽制する。


 宗像には聞こえないよう、巫術師(メイヴ)が「後方に長官の仲間が控えている」と教えてくれた。


 だが、この距離なら大した事は出来ないだろう。向こうの目的が玉帝の奪還なら、ここで銃撃戦になったらマズいはずだ。


 こっちもこっちで、いま玉帝に死なれたら面倒になる。


 ただ……宗像が死んだらそれはそれで面倒になる。


 宗像は長年に渡って玉帝の側近として仕えてきた。その影響力は玉帝に次ぐものがある。そんな奴が死ねば、反黒水守派閥がコントロール不能に陥る可能性がある。こっちが玉帝を押さえているとはいえ、全てを完全にコントロール出来るわけじゃない。


 出来れば宗像も生け捕りにしたい。


 可能なら説得して諦めさせる。それがダメなら、コイツも玉帝のように傀儡にする。どの道を選ぶにしろ、宗像は生きたまま確保しておきたい。


「石守様。娘さんと玉帝を連れて、船内に」


 石守様に早く行くよう促す。


 石守様は娘さん(ももか)を乗せた車椅子を押しつつ、慎重に方舟に向かっている。それを庇うように玉帝も動く。正確には巫術師に操られた玉帝だが――。


「無駄だ。脱出用の方舟なら既に制圧済みだ」


「――――」


 方舟の砲塔が動く。


 <戈影衆>の残党が、宗像の命令で動いていたのか。これはかなり面倒だが……神器使い(おれたち)なら勝てる相手だ。


 最悪、石守様達を担いで一度逃げた後、宗像とその部下を俺達で制圧してやればいい。方舟が破壊された場合は別の逃走経路を使えばいいだけだ。


「そんなに急いで玉帝を隠さなくていいだろう? 売国奴共」


「アポ取ってきてくださいよ、犯罪者殿。……どうやって侵入したんですか」


 宗像が来た方向には警備の部隊が展開していたはずだ。


 そこから連絡らしい連絡は来ていない。生存も確認できている。


 宗像は「特別な事はしていない」と言った。


「お前達も把握していない地下通路を使っただけだ」


「…………」


「我が家の敷居ぐらい、正面から堂々とまたぎたかったがな。貴様らの怠慢の所為で、テロリスト共が騒ぎ立てた以上は裏口を使わざるを得なかった」


「よく言うぜ。アンタも奴らに利用しているくせに――」


「だが、テロリストの跋扈も今日で終わる。交国の玉座に<太母>が戻る事で、交国だけではなく、多次元世界の情勢も一変するからな」


 宗像は演説でもするようにそう言った後、馬鹿げた言葉を続けてきた。


「降伏しろ。降伏するなら命までは取らん」


「……状況わかってんのか?」


 そんな会話を交わしているところで、状況がさらに動いた。


 当然、こっちの有利なようにだ。


 方舟の砲塔が宗像の方を向いた。


 こっち側の巫術師が方舟を乗っ取った。さらに方舟の流体装甲を使い、船内に潜り込んだ宗像の部下達を拘束していく。


 別行動中だった俺の同僚達もそれに協力していく。


「はい、形勢逆転。アンタの部下達だけで、俺達に勝てると思ったか?」


「…………」


「大人しく投降してくれ、宗像長官。アンタはもう、詰んでいるんだ」


「違うな。詰んでいるのは、お前達だ」


 劣勢を頑なに認めない宗像が動く。


 ホルスターに手を伸ばし、拳銃を抜こうとする。


「――――」


 出来れば無傷で捕らえたかったが、仕方ない。


 俺だけではなく、全員が宗像を殺すために動いた。


 動いたはずだった(・・・・・・・・)


『三等権限者への敵対行動検知。トリガーをロックします』


「――――?」


 声が聞こえた。


 頭の中から(・・・・・)、知らない奴の声が――。


 それに、身体が……まともに、動かない。


 骨や筋肉が石になったように、自分の身体が動かなくなった。


「な――何が、起きて……。なんで、誰も、コイツを――」


「権限の問題だよ。ジガバチ」


 皆が動きを鈍らせている中、宗像は平然としていた。


「お前達は私に逆らえない。私を殺せるのは上位権限者か、計画の外にいる者達だけだ。……私がここに、無策で来たと思ったのか?」




■title:交国首都<白元>にて

■from:三等権限者・宗像灰


攘夷執行(オーダー)。武器を放棄しろ」


 そう命じると、敵対者達が次々と武器を捨て始めた。


 素子を守っていた黒水守一派が愕然とした様子で、武装解除していく。私を殺したくても出来なくなっている。


「抵抗するな。お前達は優秀な兵士(ぶひん)だ。黒水の泥で汚れた身でも、再利用する余地はある」


「宗像……! アンタ、俺達に何を――」


「ジガバチ。お前達も同じだ。だから大人しく神器を放棄しろ」


 支配下(・・・)にある神器使い達も、私に攻撃を出来なくなっている。


 しかし、命じてもなかなか武器を放棄しないでいる。三等権限者(わたし)の言葉では完全には従えられないのだろう。


 反撃される恐れは無い。


 私を殺そうとしたら、その意志(トリガー)制御(ロック)される。


 だが念のため、しっかり対処しておくべきだな。


「私の権限では神器の術式解体(ちから)で抵抗されるようだ。降伏したら命までは取らんと言ったが……抵抗してきた以上、対処しても構わんな?」


「何なんだよ、お前は!!」


攘夷執行(オーダー)。ジガバチ、司吟、マウガチを殺せ」


 黒水守一派が動き、ほぼ無抵抗の神器使い達を射殺していった。


 全身に銃弾を受けた神器使い達が倒れていく。さらに命じ、神器を引き離しておく。特にしぶといジガバチはこれぐらいしてやらねばな。


「悪いな。私の力が足りていないばかりに、無駄な犠牲を出した」


 血だまりの中に倒れている神器使い達に謝意を示していると、玉帝が(・・・)こちらに発砲してきた。


 その弾丸を弾丸で弾きつつ、玉帝に銃を向ける。


『二等権限者への敵対行動検知。トリガーをロックします』


「…………」


 向けるだけで撃つ事は出来ない。


 当然、撃つつもりはないが行動を縛られている。引き金は引けない。


「やめておけ。貴様1人で私を殺すのは不可能だ」


 しかし、行動制御(それ)を隠しつつ、私を撃ってきた玉帝に語りかける。


 正確には「玉帝」ではないが――。


「そもそも……不敬だぞ、巫術師(ドルイド)。玉帝の身体を使って反抗するとは」




■title:交国首都<白元>にて

■from:黒水守一派(ロレンス)の巫術師・メイヴ


「無駄な抵抗をやめるのはそっち。こっちに人質いるの、わかってるでしょ?」


 その人質本人の身体を――玉帝の身体を操りつつ、宗像特佐長官に告げる。


 マズいマズいマズい……! ジガバチおじさん達が一瞬でやられた! しかも、こっちの味方全員がおかしくなっている!


 ただ、私は無事。


 別働隊にいる巫術師も無事っぽい。


 それ以外に関しては……宗像の言葉1つで動くようになっている。


 例の操り人形――<蟲兵>のように動かされている。けど、アレとは別物に見える。だって皆、感情が顔に出てる。自我を失ったわけではないみたいだ。


「こちらは、お前自身も人質に取っているぞ」


「あっそう。好きに殺せば?」


 車椅子に乗せられた私の本体に銃が突きつけられる。


 本体を撃たれたらさすがに死ぬ。


 死ぬけど、しばらくは玉帝の身体に取り憑いて延命できる。


 交国相手にやり合うと決めた以上、いつかこういう目に遭うのは予想していた。自分の命を天秤に乗せられたぐらいで止まるつもりはない。


「私の命と、玉帝の命が釣り合うとは思わないけどね? そっちが変なことをしたら直ぐに玉帝の身体を使って玉帝を殺してやる」


「……やめておけ」


「やめてほしいなら命令すれば~? でも、私には(・・・)通用しないみたいだね」


 宗像が妙な言葉(オーダー)を呟いた瞬間から、皆がおかしくなった。


 宗像を撃てなくなったどころか、宗像の言葉1つで操られている。……けど、少なくとも私は自分の意志で動けている。宗像の言葉が通用していない。


 通用する相手(みんな)と私。その違いは何?


 私が巫術師だから? それとも、もっと大きな違いがあるの……?


「そっちの目的は玉帝の奪還でしょ。私が玉帝殺したら困るよねぇ!?」


「玉帝が死んで困るのは、お前達も同じだろ?」


「そうだね。確かに皆は困るかもね。……けど、私は違う(・・・・)


 私はネウロン人だ。


 玉帝の選択によって、全て奪われた人間だ。


 黒水守達の計画に乗ったのは、交国への復讐のため。それが困難になるならここで玉帝殺して一矢報いてもいいんだよ――と脅す。


「私はお前達に父を、母を……妹を奪われた。私にはもう、失うものなんてない!」


「…………」


「玉帝を殺せばその仇討ちが出来る以上、玉帝の命なんて――」


「ではこうしよう。攘夷執行(オーダー)


 宗像が、うっすら笑いながら呟いた。


「石守素子。石守桃華に(・・・・・)銃を向けろ」


「なッ……?!」


 素子様の手に拳銃が渡り、それが直ぐに桃華ちゃんに向けられた。


 母親の構えた銃が、娘に――。


「兄上、貴様……! 貴様っ!!」


 当然、素子様に桃華ちゃんを殺す意志なんてない。


 けど、宗像の命令1つで引き金が――。


「睦月どころか、桃華まで奪うつもりか!?」


「説得材料として効果的だと判断した」


 宗像は私を見つめつつ、「説得に失敗した場合、死ぬのは子供1人だけだ」と言い、さらに冷たい言葉を並べた。


「即戦力のお前達と違い、子供1人程度の損耗なら大したことはない」


「卑怯者……」


「それは褒め言葉だ。巫術師」


「――――」


「さあ、どうする。お前の天秤は、どちらに傾く?」


 素子様が私に何か言おうとしている。


 言わせちゃだめ。なに1つ言わせるべきじゃない。


 自分の身体に戻り、「わかった。やめて」と告げる。降参する。


 玉帝は嫌い。


 殺してやりたいほど憎い。


 だけど、桃華ちゃんと素子様の人生とは釣り合うわけないじゃん……!


「……宗像長官。最期に言いたいこと言ってい――」




■title:交国首都<白元>にて

■from:逆賊・石守素子


「……死人が喋るな」


「――メイヴ!!」


 宗像の兄上の放った弾丸が、メイヴを抉っていく。


 車椅子に座ったまま弾丸を食らったメイヴは、くたりと上半身を倒した。


 車椅子から転がり落ち、自身の作った血だまりに倒れ、動かなくなった。


「――――」


 桃華が目を見開き、呆然としている。


 自分を妹のように可愛がり、大事にしてくれていたメイヴの死に固まっている。


 呆然としている桃華に手を伸ばそうとしたが、宗像の兄上はその自由すらくれなかった。立ち尽くしている妾に「まだ動くな」と厳命してきた。




■title:交国首都<白元>にて

■from:三等権限者・宗像灰


「…………」


 巫術師の胸部に2発。頭部に2発打ち込んで殺しておく。


 ピクリとも動かない。憑依で魂だけ逃すのを防ぐため、不意を打って殺しておいたが……上手くいっただろうか。


 まあ、仮に魂だけ逃れていたとしても、長くはなかろう。


 それよりも――。


「玉帝。ご無事で。救出が遅れてしまい、申し訳ありません」


「不覚を取ったのは私です。貴方が謝罪する必要はありません」


 ヒスイ達を呼び、玉帝の護衛につける。


 素子達を「言葉(オーダー)」で従えるのも限度がある。コレだけでは玉帝を守り切れない以上、ヒスイ達も必要だ。


 素子達を人質にし、方舟を奪還してみせた巫術師に出て行くよう命じる。……あとは黒水守派の人間を使い、騙し討ちしてやればいいだろう。


 玉帝にはひとまず、再制圧した方舟に乗ってもらう。黒水守一派は混沌竜(トカゲ)以外は脅威にならんが、泥縄商事の馬鹿共は脅威だ。


 地下港に潜んだ敵がまだいないか警戒した後、私も方舟に乗ろうとしていると……立ちくらみがした。


 思わず膝をつき、咳き込んでいると、ヒスイが駆け寄ってきた。


「む、宗像長官!? 大丈夫ですか!?」


「…………」


 上手く言葉が出ない。私より玉帝の護衛を優先しろ、と伝える。


「どこか撃たれたのですか……!?」


「……問題ない」


「でも、血が……!」


「ただの、吐血だ。私はもう……長くない(・・・・)からな」


「えっ? どっ、どういう……」


三等権限者(わたし)如きが、強引に統制機関ドミナント・プロセッサーを動かした報いだ。私も……器になれなかった、失敗作だからな……」


 手に余るものに手を出した報いだ。仕方ない。


 だが、玉帝を奪還するためには無茶をする必要があった。


 私自身を部品(パーツ)として使い潰すしかなかった。


 玉帝さえ奪還し、器を引き合わせさえすれば……後の事はどうでもいい。玉帝と復活した<太母>が上手くやってくれるだろう。


 人類救済に、私は必要ない。


「ドミナント…………なんですか?」


「交国計画の一部だ。……まあ、ともかく、見ての通りの力だ」


 弱点もあるが、大きな力になる。


 抵抗されたものの、ジガバチ達のような神器使いを処分する事も出来た。出来れば生け捕りにしたかったが、勝てただけ良しとしよう。


「私の手に余る力だが、太母なら……太母なら十全に使える」


 その太母も、もう直ぐ復活する。


 無理矢理、交国計画の一部を利用してしまった私は、もう長くはあるまい。だが、太母復活ぐらいは拝んで死ぬ事が出来そうだ。


 人類救済を見届ける事は、出来ないだろう。


 それだけが残念だが、まあ仕方ない。


「征くぞ。お前にも、真の救済を見せてやる」







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