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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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影竜

■title:交国首都<白元>にて

■from:影竜のタツミ


「状況説明は――」


「いらん。大まかな状況は聞いた」


 ジガバチに「説明は不要だ」と言っておく。


 レオナールが白瑛を手に入れ、何故かバフォメットを従えている。どうやって従えているのかまでは聞けてないが、「敵」ってことはわかっている。


「黒水守の件も?」


「ああ」


「逆に、旦那は今までどこで何やってんだ。混沌の海にいたんだろうが……」


「死にかけてたところを救助された。詳しい話は――」


 俺をここまで運んできた輸送船が――急ぐあまり無茶な界内突入した事で――少し離れたところに不時着した。


 詳しい話は、あの方舟に乗ってる連中に聞け。多分死んでねえはずだ。


「お前らは中央政庁の救援に向かえ。ここは俺が受け持つ。……スアルタウ! お前も政庁に行け!」


『で、でも、相手は白瑛とバフォメット……それに黒水守の神器も使っているんですよ!? 生身の巽さんだけじゃさすがに無理――』


 機兵の残骸を拾い、起き上がろうとしていた白瑛にブン投げる。


 一投目は水の壁に止められたが、止められたそれに向けてさらに残骸を投げて打ち込む。


「この場は俺が何とかする。信じろ」




■title:交国首都<白元>にて

■from:虚口のジガバチ


「じゃあ、後は頼んだぞ。旦那!」


 声をかけると、人間のフリした混沌竜(バケモノ)はこっちに背を向けたまま軽く手を上げ、白瑛の方へ向かっていった。


 任せて大丈夫なのか、と聞いてきた同僚に「問題ねえよ」と返す。


 向こうは白瑛と真白の魔神の使徒(バフォメット)、さらに黒水守の神器まで持っているが……どれも使いこなせていない。化け物旦那が負ける道理はない。


「あの混沌竜は、そこらの神器使いを遙かに凌ぐ化け物だ」


 旦那に任せ、中央政庁の救援に向かう。


 遠目でもウンザリする数の泥縄商事社員(ニンゲンモドキ)が中央政庁周辺に群がっている。蹴散らすのは骨が折れそうだ。


「まずは石守様と合流するぞ」


 石守様と玉帝周辺の安全を確保したうえで、周辺の対処に移ろう。


 この状況、宗像長官が逃すはずがない。必ず動く。


 必ず止める。元上官殿だろうが、あの人についていっても未来はないんだ。




■title:交国首都<白元>にて

■from:復讐者・レオナール


「く――くたばれッ!!」


 神器使いですらないのに、生身で挑みかかってくるタツミに攻撃する。


 バフォメットは――スアルタウの時と違って――ちゃんと攻撃している。殺す気で攻撃をしている。それなのに通用していない。


『やる気のねえ攻撃だなぁ。ガキの駄々っ子パンチみてえだ』


 タツミには一切通用していない。


 生身のくせに水の壁も燼器の一撃も軽やかに避け、白瑛が振るった剣も素手で受け止め、撥ねのけてくる。オマケにこちらを殴り飛ばしてきた。


「撃ち殺せ!!」


 白瑛の機関砲で狙わせたが、それも通用していない。


 確かに当たったように見えるのに、一切……聞いてない。


「何なんだ……! なんで普通の人間が、生身で戦えるんだ!? なんでボクが、使用人如きに……!」


『舐めんな。テメエは平の使用人。俺は家令。俺が強いのは当たり前だろ?』


「人語を喋るな! バケモ――」


 飛んで後退しようとしたら、人間大の化け物が飛び込んで来た。


 白瑛の足を掴み、建物の外壁に叩きつけてきた。


『レオナール。お前がここまでの事をやらかす大馬鹿野郎とは予想外だったよ。けど……お前がテロに加担するだけの動機があることはわかる』


「ぐ、ぅゥッ……!」


『睦月も理解していた。お前が交国に対し、強い復讐心を抱いているのは理解していた。……それでも睦月がお前を傍の置くなんてリスキーな判断をしたのは、お前を想っての決断だったんだよ』


「うるさい。だまれぇっ……!!」


『お前は、睦月の温情を踏みにじった』


「うるさいっ!! 誰も、傍に置いてくれなんて頼んでない!!」


 流体装甲をあえて爆発させ、その隙に化け物から離れる。


 化け物はまだ死んでいない。爆発で舞った粉塵を払いつつ、ひどく冷めた目つきでボクを見ている。ボクを、見下している。


「ボクは、皆のために戦っているんだ!」


『…………』


「死んでいった父さんや母さん、ナルジス姉さんのために……皆を生き返らせるために、悪い交国と戦うのがボクの生まれてきた意味なんだ! 役目なんだ!!」


『…………。お前には、アイツの言葉は何も届いてねえんだな』


 人の形をした化け物が拳を構えた。


 それだけで、空気が重くなった。空気そのものに重しが乗せられたように――。


「さ――最大火力で奴を殺せ! バフォメットッ!!」


 大量の水を集めさせ、さらに燼器も構えさせる。


 燼器だけなら裏切り者(スアルタウ)に跳ね返された。けど、これなら通用するはず。ここまでの力を使えば絶対に殺せる!!


「――――ッ!!」


 壊れかけのカメラが黒く染まるほどの一撃を叩き込む。


 建物も大地も抉り、黒水守の犬(タツミ)も消してやった。


 倒した。倒せた。奴はもう、肉片1つ残ってな――。


「ぐあッ?!!」


 また吹っ飛ばされた。今度は背後から。


 巨大な何かに追突されたように白瑛が吹っ飛ぶ。


 黒水守の犬が生きている。素手で白瑛(ボク)を殴り、ピンピンとしている。


『大技に頼ってもいいが、使うならもっと当たる状況でやれよ』


「なんなんだ、お前……! なんで生身で機兵とやり合えるんだよ!?」


『そりゃあお前、石守家の家令兼黒水警備隊長だからだよ』


「そんな理由でやれるはずが――」


『その通り。生身で機兵とやり合えてる理由は、お前の足下(・・)にある』


 地面を見る。


 するとそこに、黒いものが蠢いていた。


 黒水守の犬から伸びた長い影が、ゆらりと動いて起き上がってきた。




■title:交国首都<白元>にて

■from:影竜のタツミ


「俺がお前みたいな毛無し猿(にんげん)じゃなくて、混沌竜サマだからだよ」


 影から竜として姿を現し、白瑛を襲う。


 俺は普通の人間じゃない。人間ですらない。


 自我を持った化け物――混沌竜だ。人間を遙かに超えた身体能力と再生能力を持ち、天使達が使う<権能>のような異能も持っている。


 影を操り、影の中を泳ぐ事が出来る。アダムのように光速移動出来るわけではないが、単純な戦闘能力ならアダムを遙かに凌ぐバケモノ様だ。


 立体化させた影で組み付き、潰しにかかる。


 さすが白瑛だけあって、空き缶のように潰す事は出来なかった。オマケに水を集めて抵抗してきたので、水が集まりきる前に空に放り投げてやる。


 壊れた建物の破片を――影で作り上げた鞭で掴み――連続で発射する。空中でなんとか体勢を立て直そうとしている馬鹿にぶつけ続ける。


 白瑛もバフォメットも……睦月の燼器も、レオナールには過ぎた得物だ。扱え切れていない。道具の良さを潰してすらいる。


 犬塚特佐なら白瑛をもっと上手く使っていた。俺でも手を焼くどころか、なかなか勝たせてくれないだろう。


 バフォメットも本来の戦闘能力を発揮したら、さすがの俺でも苦戦するだろう。俺は巫術で乗っ取られるなんて事はないから、相当相性はいいけどな。


 睦月ならもっと上手く神器を使い、俺を翻弄してくるだろう。


 付け焼き刃を振り回すしかないレオナールと違って、もっと老練な立ち回りで俺に勝つだろう。


 だが、俺が睦月に負ける事は無くなった。


 一緒に酒を酌み交わす事すら出来なくなった。


 俺が宗像のクソの罠にかかってなければ、こんな事には――。


『巽。すまんが……レオナールの方を頼む』


「了解です。奥方様」


 この混乱に乗じ、玉帝奪還を狙うであろう宗像のクソ野郎を殴りに行ってやりたいが……それは後回しだ。


 レオナールは俺が始末をつける。コイツのような問題を残しちまったのは、俺が睦月に進言しなかった所為もある。


 自分の境遇をレオナールに重ねちまっている睦月に、「他人のガキにここまで構わなくていいだろ」と進言しなかった所為でもある。


 レオナールに危なっかしいところがあるのは、わかっていたのに……。それでも睦月の意を、言葉を汲んでくれると期待していた俺が馬鹿だった。


「石守家の家令として、しっかり躾けてやる」


 殺しはせん。お前の処遇は、奥方様に決めてもらう。


 レオナールは雑魚を通り越して、白瑛とバフォメットと神器の良さを損なっている重りに過ぎんが、それでもレオナール以外はそれなりの脅威だ。


 キッチリここで制圧してやる。



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