亡者の群れ
■title:交国首都<白元>にて
■from:交国軍人
「一時退却! 後方で立て直そう!」
泥縄商事の参戦によって、白瑛襲来の比ではない混乱が起きつつある。
「助けて! 一般人です!!」
両手を挙げてやってきた自称一般人を殺害する。同僚が「いいのか!?」と聞いてきたが、「避難は終わってる。今のは敵だ」と返す。
絶対に敵という確証はない。
だが、首都が戦場になる可能性があるため、一般人には避難勧告が出ている。相応の混乱はあったが、大半の一般人は逃げているはずだ。
残っていたとしても、SNS用の動画を撮ろうと目論む承認欲求のバケモノだろう。あるいは火事場泥棒だ。そんな奴らはさすがに知らん。死んどけ。
「しかし、面倒な奴らだな……!?」
首都のあちこちで爆音が響いている。
一般人には「避難する時、部屋の扉を開けて逃げてくれ」と勧告しているが、火事場泥棒が怖い者達が戸締まりをしていたのだろう。
おかげで首都のあちこちに泥縄商事社員が現れている。向こうの動きはほぼ素人だから、正面からやり合うなら大した脅威ではないが――。
「退避ッ!! 上から来るぞ!!」
仲間の警告の後、建物から飛び降りてきた泥縄商事が爆散した。死者は出なかったが、吹っ飛んできた肉片が身体に張り付いてきた。
不気味な感触の肉片を地面に叩きつけつつ、陣地に向かう。
奇襲されない陣地に一度退けば、そこまでの脅威にはならな――――。
「――――」
大通りに陣取った<逆鱗>が、こちらに銃口を向けている。
退避と叫ぶより早く、対人用の散弾が雨のように降り注いできた。
「…………!!」
吹っ飛ばされ、建物の外壁に叩きつけられる。
散弾で半身を持っていかれた。これはもう助からん。
せめて味方に警告する。味方の識別信号を使った機兵が敵に乗っ取られていると警告する。
味方の機兵が乗っ取られている。
おそらく、アレ以外にも――。
■title:交国首都<白元>にて
■from:夜行隊員
「バレたか。もう少し引っかき回せると思ったんだが――」
交国軍から奪った機兵を使い、敵拠点を榴弾で吹き飛ばす。
社長の指揮で平社員が投入され、さすがの交国軍も混乱している。その混乱に乗じて敵の機兵を奪い、さらに大きな混乱を引き起こそうとしていたが……この機兵が乗っ取られたとバレたようだ。
交国軍の<逆鱗>が3機、こちらに突撃してくる。
「――――」
包囲しようとしてきたが、建物を盾にしつつ突撃。1機を弾き飛ばし、そのままもう1機に詰め寄って零距離射撃で仕留める。
泡を食っている残り1機の操縦席に短剣を叩き込み、操縦者を殺害する。最初に弾き飛ばした機兵が転倒から回復しようとしていたため、足払いをかけて転ばし、そいつの操縦席にも短剣を叩き込んで殺害する。
「制圧した。操縦者と整備士の配達を頼む」
『了解。手配する』
連絡員に社長への支援要請を伝えつつ、機兵の流体装甲を使って密室を作る。
10秒とかからず希望した人員が「復活」により派遣されてきた。
操縦者を殺した機兵2機の操縦席をこじ開けてやり、復旧を頼む。上手くいけば敵機兵2機を鹵獲できる。機能が損なわれていても多少動けばいい。
『その調子で機兵を増やしてくれ。陣地制圧にはやはり機兵が欲しい』
「了解。急ぎ、手配する」
■title:交国首都<白元>郊外にて
■from:交国軍人
「泥縄の社長はどこだ……!?」
あの社長の配信により、おおよその場所は割り出した。
奴は首都郊外の森にいる。
奴さえ殺せば、増援は止まる。
森には「密室」なんて存在しない。大した戦力はいないはずだが――。
「撃たないで! 我々は罪無き一般人です!!」
「殺さないで!! ピクニックしてただけなの!!」
「一般人が爆弾抱えて走ってくるわけねえだろ!!」
森の中から大量の自称一般人が走ってきた。
先行させている機兵が機関砲を撃つと、射殺した自称一般人によって血煙が発生した。さらに、奴らが抱えている爆弾が炸裂した。
思っていた以上に、自称一般人が――泥縄商事の社員が森に潜んでいる。
投降するフリをして自爆特攻してくるのはまだ可愛い方で、中には爆弾を抱えたまま落ち葉の中に隠れている馬鹿もいた。
これだけの数が前々から潜んでいたとしたら、警戒班が何か見つけていそうなものだが、奴らはどこに隠れていたんだ……!?
「曹長。奴ら、森で密室を作っているようです」
「そんな馬鹿な。どうやって――」
部下が無人機による索敵映像を見せてくれた。
森の中に無数の天幕が設営されている。
天幕から出てきた輩が――抱えていた部品を使って――さらに新しい天幕を量産している。新たに作られた天幕から、さらに新しい泥縄の社員が這い出てくる。
「ぬ、布で区切るだけでも、『密室』になるのかよ……」
一度誰かを送り込むことに成功したら、いくらでも密室を量産できるじゃないか。建物だけを警戒すれば済む話ではない。
普通に相手していたらキリがない。
だが、いくら歩兵を増やしたところで、機兵部隊で蹴散らしてしまえばいい。
敵はせっせと平社員を量産し、自爆特攻を仕掛け続けてきたが、泥縄商事社長対応のために来た機兵部隊が包囲を完了した。
包囲の中心部に泥縄商事の社長がいるはずだが――。
『アハハ! 引っかかった! そっちに社長はいないよ~ん』
配信中の泥縄の社長が、そう宣言した。
■title:交国本土<帆布>にて
■from:<無尽機>パンドラ
「親機潰されたら増援打ち止めなんだから、配信場所も偽装してるに決まってんじゃん」
事前に用意しておいた車内撮影所で、背景の映像をアレコレと変えてあざ笑う。そんな簡単に弱点晒すわけないでしょ。
あたしが死んだところで既に投入済みの社員達は交国首都に残るけど、増援は派遣出来なくなる。そうなると一気に制圧されかねないし、あたしはコソコソと逃げ回らせて貰いますとも!
復活による召喚可能な距離には制限あるから、どうしても首都周辺にいなきゃいけないけどね~。まだ当分逃げられずはずだ。
「攪乱工作はお任せ~★」
<夜行>の中には、機兵戦もそれなりに出来る子達もいる。
けど、そういう人員はさすがに限られているし、社員の召喚を利用して機兵を召喚するのは難しい。装甲車程度なら部品バラして呼んで、現地組み立てって手もあるけどさぁ。
機兵を相手するのはさすがに面倒なので――。
「大物はそっちに仕留めてほしいな」
鷹のように舞い降りた白い影が地上部隊を蹂躙していく。
白瑛だ。白い機兵が交国軍の機兵部隊に襲いかかっていく。
巫術対策が出来ていない機兵は、ひとにらみで制圧されていく。
出来れば無傷で鹵獲してほしいけど、レオナール君は繊細な仕事は無理みたい。使えないガキ!! まあ、数機は鹵獲できそうだから良しとしよう。
「さぁ~~~~て、さらに交国軍を攪乱していこう! コンドーム作戦開始~!」
『了解。コンドーム作戦、開始します』
■title:交国首都<白元>にて
■from:交国軍人
「今度はなんだよ……!」
あちこちで爆発が起きている首都で、さらなる異常が生まれ始めた。
風上から大量の風船が流れてくる。
どこかの泥縄商事社員が大きな風船を大量に飛ばしているらしい。
航空支援に対する妨害か……? だとしても、妙ちきりんな――。
『全ての風船を撃ち落とせ! 好きに飛ばさせるな!』
「は? 何を言って――」
上からの妙な指示に疑問を抱いていると、突風がやってきた。
それと共に、大量の風船が拠点の上空にやってきて――。
「――――」
風船が弾け、中から人が降ってきて――。
■title:交国本土<帆布>にて
■from:<無尽機>パンドラ
「うおおおおっ! 爆撃爆撃爆撃爆撃爆撃爆撃死刑死刑死刑死刑っ!!」
爆撃要請のあった敵拠点上空に移動した風船の群れの中に、社員を召喚する。
風船を1つの「密室」と定義し、その中に社員達を呼び出して落下させる。
当然、爆弾を持たせておく! 風船から落下した社員達が敵拠点をドンドコと爆撃してくれている。キミ達の尊い犠牲は多分忘れる! いけいけ逝け~~~~っ!
「<無尽機>を舐めないでほしいねぇ。真白の魔神謹製の対プレーローマ兵器だよ? ガチったらこれぐらいの破壊工作は出来ちゃうもんね~」
これだけ大量の社員の召喚&命令をやるあたしの負担がメチャクチャデカくて面倒だから、普段はやりたくないだけで、やろうと思えばここまで出来る。
あと、社員達のストレスがマッハって問題もあるんだよね~。あたしの負担と比べれば大した問題じゃないんだけど――。
「風船は撒き得だから、大量に撒いておいて!」
風船散布用の社員もあちこちに呼び出しておく。
浮揚ガス入りの大型風船を――人が入れる大きさの風船を撒けば、敵は風船も警戒しなきゃいけなくなる。こっちがその気になれば、いつ爆発するかわからない風船爆弾に出来ちゃうからネ~。
無尽機は所詮、歩兵の群れ。
雑魚が群れているだけだ。
機兵や方舟には蹴散らされる。ガッチガチに守られた拠点を落とすのは難しいし、神器使いみたいなバケモノ達には歯が立たない。
けど、こっちにはそこらの機兵や方舟を簡単に蹴散らせるバケモノがついている。バフォメットと白瑛という矛と盾がついている。
向こうに大物の対処を任せ、こっちは好き勝手に暴れ回ればいい。個の力は弱いけど、皆で暴れればそこそこの脅威にはなるっしょ! 戦いは数だよメッフィー!
「敵がもっと混乱したら、ダメ押しの夜行投入。さらに交国軍の軍服を着たコスプレ部隊も投入しちゃうよん♪ 血みどろ大乱戦じゃ~~~~い!」
こっちはいくら死んでも無問題!
無尽機はニセモノの復活能力。真の不死身ではない。
けど、それは些細なことだ。
戦果が本物なら、パチモンの軍勢でもいいのさ。
「さて、そろそろあたし達も行こうか。人事部長」
配信管理ソフトをイジってくれていた人事部長が「どちらへ?」と聞いてきたので、その額をつつきながら教えてあげる。
「決まってるじゃん。玉帝のところに攻め上がるんだよ。雇い主のためにね」
「本心は?」
「交国計画を横取りする」
【占星術師】には悪いけど、オモシロイものならあたしが欲しい!
【絵師】も「交国計画に手を出すな」とは言ってなかったし、こっから先はあたしの好きにしていいっしょ!
【占星術師】に大金支払ってもらってる以上、彼の依頼はこなすけどね。こなすけど……値引きしろって頼まれて、その通りにしてあげてるからさぁ……この程度の好き勝手は許してくれるよねぇ。
早い者勝ちでいいよね。
人事部長も「悪くない提案ですね」と言い、散弾銃を手に取った。
「ちなみに、僕のモノにしてしまっても構いませんね?」
「あはっ! いいよぉ~! 競争相手は多い方が楽しいからね!!」
とりあえず共闘しよう。一緒に交国と戦おう。
一緒に戦いつつ、お互いにいつ裏切られるかのドキドキを楽しもう! 【占星術師】は「ふざけるな」と怒るだろうから、言わずに勝手にやっちゃお。
「ただ、今回の雇い主には注意してね。彼はあたしに対する強制命令権限を手に入れているから、最悪それを使われてしまう」
【占星術師】は真白の魔神を小人の器に押し込め、拘束している。
彼あるいは彼女を信頼していないだろうから、そうホイホイとは使ってこないだろうけど……真白の魔神はあたしに対する強制命令権限を持っている。
あたしも、統制戒言という首輪に縛られた存在だからねん。
「命令される前に殺してしまえばいいのでは?」
「場合によってはそうしたいね。ただ、あたしは統制戒言の関係で真白の魔神を殺せないから、キミ達の方で殺っちゃって」
「了解。では行きましょうか」
あたしには真白の魔神は殺せない。
真白の魔神の魂を自動認識し、裏切り防止の枷が働いてしまう。
子機である人事部長達なら殺せるはずだけど、先に向こうが親機を制圧してしまった場合、あたし経由で子機も制圧されかねない。
それでもまあ、勝ち目はあるさ。やるだけやってみよう。
統制戒言で縛られたところで、死ねば命令から逃れられるからね。それはあくまで「新しいあたし」になるからだけど――。




