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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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北辰隊のツートップ



■title:北辰隊母艦<隕鉄>にて

■from:炎寂特佐麾下機兵部隊<北辰隊>隊長・ザイデル中尉


「隊長。本土との通信が回復しました」


 部下から知らせを受け、本土の状況を聞くために会議室に向かう。


 会議室では交国本土との通信を繋いだままになっていた。


 そこで上官である炎寂特佐や副長らと合流して話を聞く。龍脈通信の乱れで本土の状況がよく掴めていなかったが……相当、マズい事になっているようだ。プレーローマとの前線は前線で面倒な事になっているのに――。


『現在、テロリストによって首都が襲撃されようとしています』


 本土からの通信によると、<白瑛>が首都攻めに使用されているらしい。


 敵機兵は白瑛1機のみ。


 だが、白瑛を操縦しているのは真白の魔神の使徒(バフォメット)らしい。……奴の恐ろしさは身に染みてわかっているから、1機とはいえ侮ることは出来ない。


 ただ、対抗できそうな戦力に心当たりがある。


「黒水の巽隊長は?」


『未だ行方不明のままです。捜索は続けているのですが……』


「あの人がいれば、バフォメット相手でも上手くやってくれると思うんだが……」


「まあ、巽さんなら生きているでしょ。そのうちフラリと戻ってくるはず」


 炎寂特佐は視線を集めるために手を「ぺちん」と叩いた後、のほほんとした様子でそう言い、さらに言葉を続けた。


「機兵の装備は乙三式のままで。最悪、<北辰隊>だけでバフォメット及び白瑛とやり合うつもりでいてくださいね」


「了解」


「了解ッ! 野郎相手なら北辰隊(おれら)が適任です。任せてください!」


 暑苦しい副長が歯を見せて笑い、手のひらを拳で叩いている。


 コイツはバフォメットどころか、白瑛の強さもよくわかっているだろうに……それでも勝つ気満々のようだ。ムカつくが頼りになる。


 まあ、それはともかく――。


「問題は我々が間に合うかですね。炎寂特佐」


「そうねぇ。首都まで最短で30分ってところだけど、それは向こう側から<海門(ゲート)>開いてもらった場合に限るから」


 事が円滑に進むとは限らん。


 敵はバフォメットに限らない。


 何者かが首都港の海門発生装置を壊す可能性もある。そうなると安全な最短経路での到着は困難になり、参戦が遅れてしまう。


「最悪、この方舟単艦での直接侵入ね」


「最悪、地面とキスする事になりますよ」


「祈りましょう。皆も『石の中にいる!』なんて最期は嫌でしょう?」


 クスクスと笑う炎寂特佐の所為で、冷や汗が出てきた。


 だが、最悪の場合はそうせざるを得ない。テロリストが首都で好き放題に暴れた場合、黒水守達がやっていた工作(こと)が全てパァになりかねない。


 それどころか、交国が荒れに荒れてプレーローマが交国を滅ぼす可能性がある。そこまでいったらもう、交国の危機だけでは済まん。人類全体の危機だ。


 ここは命懸けで動くしかないだろう。


「まあ、事故死なんてしたくないし、港が破壊されていた場合は界内の方舟と連携しましょう。向こうの方舟に海門開いてもらえば安全に入れるから」


 色々と懸念はあるが、ひとまず首都に向かう。


 バフォメットを制圧したら「めでたしめでたし」とはならんだろう。


 無茶苦茶をやらかした宗像特佐長官も、この機に乗じて動くはずだ。玉帝を奪還されちまった場合、今までの工作がパァになっちまう。


 プレーローマの工作員が――しかも権能持ちの工作員が――交国本土内に潜んでいる以上、奴らも動いてくるだろう。


 頭が痛いがここが正念場だ。それに、これぐらいで不平を言っていたら前線で<武司天>の相手させられてる奴らにキレられる。何とかするしかねえ。


 ひとまず解散し、各自、首都での戦いに備える事になった。


 いつも以上に張り切っている暑苦しい副長は、格納庫に走っていっちまった。それを追っていると、機兵用の操縦服を着た女の子が駆け寄ってきた。


 グローニャ――もとい、「レンズ」と名乗るエデン構成員が近づいてきた。


 副長と同じように張り切った様子で近づいてきて、「隊長ちゃん! 私もついていくからねっ!」などと言ってきた。


「わかったわかった……。オレの機兵を複座式にしたから、同乗してくれ」


「やった!」


 炎寂特佐麾下機兵部隊<北辰隊>の中で、隊長であるオレだけは巫術が使えない。


 遠隔憑依可能のバフォメット相手だと、オレは足を引っ張ってしまう。


 部下の巫術師に協力してもらい、憑依対策をしようと考えていたが……今回はコイツに協力してもらおう。正直、出撃させたくないが猫の手も借りたい状況だ。


 その辺はさておき――。


「ついてくるのは良いが、隊長『ちゃん』って腑抜けた呼び方はやめろ」


「……もう、ちゃん付けして呼んじゃダメなの?」


「さ…………作戦行動中は、って意味だ」


 周りに人がいる時はやめろって話だ。オレにも北辰隊隊長としての体面がある。


 そう説明すると、「レンズ」は灯りがついたようにパッと笑顔になり、「先に行ってるね!」と言い、格納庫に走っていった。


 ほんの一瞬前まで泣きそうな顔で上目遣いしてきたのに、女は怖い。


「作戦行動中に女遊び? 余裕ね、ザイデル中尉」


「うっ……!」


 茶髪の女軍人が――さっき会議室で別れた炎寂特佐が、面白い玩具(ゴシップ)を見つけたような顔をしながら近づいてきた。


 違うんですよ、そういうのじゃないんですよ、と弁解する。クスクス笑って、「貴方は節度がわかっているから大丈夫と信じてる」と言ってくれた。


「けど、皆の前では控えてね? 貴方のこと大好きな子達がただでさえ嫉妬しているんだから。私の前では面白いからいいけど」


「勘弁してください……!」


 この特佐(ひと)は苦手だ。


 まあ、この人の部下にしてもらっているおかげで、色々と動きやすくなったのは確かなんだが……。人間としてはどうしても苦手だ。


「ところで義体の調子は? 最近、ろくに病院行けてないでしょ?」


「問題ありません。最低限の調整はしているので」


 この作戦が終わったら、念のため本土の病院で診てもらいますよ――と答える。


 義体(からだ)の調子は本当に悪くない。


 昔、トチって死にかけた所為で生身の部分がかなり減っちまったが、黒水守の支援で良い義体を用意してもらったから問題なく戦えてる。義体の調整は面倒だが健康診断程度で済んでいる。


 黒水守は殺されちまったが、あの人への借りはまだ返しきれてない。


 借りを返すためにも、自分自身の目的のためにもまだまだやることは多い。今回の作戦も切り抜けてみせる。全員、無事で。





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